召喚術の世界に憑依したけれども、魔法を使っていく 作:クーネル・アソーブ
ぼちぼちやっています。色々今まで勝手が違うけどエンディングまで頑張ります。
KAORI@マークさん、誤字報告ありがとうございました。
内容は3にはいりました。目次で分けたいけどやり方がわからないなぁ…。
トリスは激怒した。必ずや、かの師匠に抗議せねばならないと。
トリスに師匠の事情は分からない。けれども、拾われてから衣食住を与えられ、知識を授けられて5年の月日で師匠の力量の高さは知っている。そんな師匠が失敗したのなら何かしら事情があったのだろう。
それでも今回の外への冒険はお互いに話し合い、条件を付け、ようやくもぎり取ってきたものである。今の状況はゲキオコモノである。
トリスは体の奥からマグマのように沸いてくる激情に身を任せ歩き出した。場所がわからないのなら歩くしかなかった。激情に支配されている脳は魔法を使うことを考え付かなかった。
トリスが歩いて、ようやくその考えを思いつく程度に頭が冷えた時には辺りは森に囲まれ、現在位置がわからなくなっていた。つまり
「ここ、どこよ……」
迷子である。
落ち着いた時には既に辺りは暗く、森で囲まれていた。水や食料も町で買おうと思っていたのでそれほど持っていなかったのが痛い。
「とりあえず、今夜寝れそうな所を探すかな……」
「『飛行』」と唱え、体を宙に浮かせる。だいたい周囲を見渡せる高さまで上がり、周囲を見渡すと四つの色の光が見える。
「赤、青、緑に紫…かな?色合い的に四つの世界でも表しているのか?」
だとしたらここは実験場か何かなのか?
「取りあえず一番近い緑色の光にいくかな」
緑色の光が考えた通りならメイトルパであるはず。メイトルパは幻獣たちの世界で魔法に対する知識が一部のモノしかない。魔法で忍び込むことができるはず。それに、
「メイトルパなら果物とかも採れるはずだしね」
メイトルパを象徴しているなら当然、作物もあるはず。ここがどこかわからない現状、むやみに現地人と接触するのはマズイ。
「少しだけ作物分けてもらいますかね」
無断でも対価としてお金を置いて行けばいいよね?
緑の光に近くまで寄ったところで地上に降りて、認識阻害の魔法をかけることにする。さらにコートのフードを深くかぶり、魔法を見破られても問題ないようにする。
「……よし!」
それでは潜入するとしよう。気分は蛇のBOSSだ。
侵入してみるとそれほど人通りは多くはない。メイトルパは自然の世界、早寝早起きが基本なのだろう。日が落ちた今の時間帯は家に帰っているのだろう。そのおかげで難なく果物を手に入れることができた。使えるかどうかわからないが貰った硬貨を幾つかおいていく。
「これで勘弁してね…」
使えるかどうかもわからない硬貨を置いて、黙って持っていくことに罪悪感を持ちながらも、果物を『拡張』の魔法がかかっているカバンに入れてその場を去ろうと、足を森の方へ向けようとすると轟音が近くから聞こえてきた。
何事かと思っていると辺りが騒がしくなってくる。これ以上はここにいられないので足早に歩き出す。ただし、行先は先ほどとは違い音がしたほうである。
「果物貰っちゃったからね、きちんと対価は払った方がいいしね」
野次馬根性は否定できないので誰に言うわけでもなく言い訳をしながら音がした方に足を進めた。
音がした場所にたどり着くと、どうやら二つの勢力が争っているようだった。
片方はメイトルパの召喚獣らしい男とまとまりのない人たちの一団。
片方は同じ服を着たどこかに所属しているらしい一団。
どうやら勝っているのはまとまりがない方である。
「これは別に手を出さなくてもいいかな?」
そんな風に考えながら見ていると統一感のある服装の連中の中で、若干服装が変わっている刺青を入れた男が何かを引きずりながら前に出てくるのが見えた。
「てめえら、動くんじゃねぇーー!!動いたらこいつがケガするぜぇ!!」
そういって掲げた腕にはメイトルパの子供が捕まっていた。争っていたまとまりがない方からは非難の声が刺青に浴びせられるが、刺青は心地よさそうにその声を聴いている。
「ひひっ、幾らでもいうがいいさ。それよりもさっさと武器を捨てやがれ!出ないとこのガキが……」
反対の手に持っている刃物を捕らわれている子に突き付けられるのを見て、魔法の詠唱を始める。ちょうど果物分にはなるだろう。
「『銀の鎧』発動」
魔法発動とともに捕まっている子供に光の玉が飛んで行き、子供は銀色の鎧に包まれ、捕まえていた男ははじかれるように吹き飛ばされた。いきなりのことに両方とも驚いているようだがすぐに我に返ったメイトルパの獣人が突撃したことで天秤は一気に傾いたようだ。少し後に子供も戦場に突っ込んでいき、憑かせた『銀の鎧』が猛威を振るっている。果物分は働いたと思うので最後まで見ることなく私はその場を後にした。それにしても
「ここはどこなんだろうなぁ」
カバンから取り出した果物を食べながらその場を後にした。
◇◇◇
しくじった、とヤッファは思った。
今日は千客万来である。昼には船を直したいので手伝ってほしいという者たちが来た。こいつらはいい。こちらを召喚獣だからと上から目線を向けはせず、お互いに不干渉を決め込むこともできた。早々に出て行ってもらうために多少の協力はしなくてはならないがそれほどの労力ではない。赤毛の二人だけは食い下がってきたのが気になるが。
問題は目の前で人質を取っている連中だ。こいつらは帝国軍を名乗り、いきなり襲い掛かってきた。幸いにも避難はできたと思って、音を聞きつけてやってきた昼間の連中も巻き込んで争うことにできたが見逃してしまった子供が捕まってしまったようである。どうするかとヤッファが思案に暮れている傍らで昼間の奴らが刺青の男に非難を浴びせているが効果はない様だ。
(最悪は見捨てることも考えるか?)
人情としては助け出してやりたいがヤッファは護人。時には冷酷な方法にも手を出さなければならない立場だ。もしもの時の覚悟を決める必要があるのだ。例えそれが望んでいることでなくても。
(んっ?)
「ひひっ、幾らでもいうがいいさ。それよりもさっさと武器を捨てやがれ!出ないとこのガキが……」
刺青の男がこちらに武器を捨てるように言いかけると森の方から光の玉が捕まっている子供に飛んでいく。どうやら刺青の男には見えないようだ。光の玉はそのまま子供に入り込んでしまう。
「ギャッッッ!!」
「ビジュ隊長っ!?」
突然、子供から刺青の男(名前はビジュ、というらしい)が吹き飛ばされる。何事かと思い、子供の方を見たものは全員が驚いた。そこにいたのは銀色の鎧だった。子供は巨人の上半身の中に入っているのが見える。
「しめた!!」
いきなりの状況の変化に驚いていたが人質がいなくなったことを理解することができた。ヤッファはおそらく子供を守っているのであろう、巨大な銀の鎧が消える前にケリをつけようと敵に突撃した。
「俺たちも行くぞ!!」
それに続いて金髪の大柄の男が仲間たちに号令をかけ、突撃した。帝国側も慌ててはいるものの正規の訓練を受けた軍人である。そう、やすやすとは攻め切らせてくれない。
(何かもうひと押しがあれば……!)
ヤッファが押し切れないことに歯噛みしているのを捕まっていた少年・バウナス族のパナシェは後ろで葛藤とともに見ていた。最初は銀の鎧に包まれたことに混乱していた彼だが、こちらに害を及ぼすものでないことを理解してからは意識を戦場へと向けていた。彼は怖がりで気弱な性格の少年だが、その身に流れる血筋は誇り高き一族のモノであった。そんな彼は悩んでいた。このままでいいのか?と
(でも、僕には何もできない。僕は、僕は無力だ……!)
俯いて歯を食いしばる彼だが温かいものを感じ、顔を上げる。そこには自分を守ってくれた銀の鎧がこちらに兜を向けていた。
「な、なんだよ…」
向けられる視線にたじろぎながらも声をかけると、銀の鎧は右手に剣を、左手に盾を作って、地面にたたきならしている。もしかして、
「僕に戦えというの…?」
恐る恐る尋ねると鎧は首を横に振るう。ならば、何なのかと思うと鎧から言葉が伝わってくる。
(君は戦わなくてもいい。ただ、勇気を示せばいい)
「ゆ、勇気を?そんなの無理だよ。だって、僕は弱いし、臆病だし……」
(でも、このままでいいのか?って、考えただろう?)
否定の言葉に返ってきた内容にハッとさせられた。そうだ、自分は何かできないかと思っていたはずだ。
(敵は私が倒す。攻撃はすべてはじく。指示は出す。それでも、戦うと、戦場に飛び込むのは君の勇気が必要だ。君の選択があの人たちを救うカギになるかもしれない。後は君が選ぶだけだ)
それだけ伝えると、銀の鎧は武器を両手に持って直立になる。その姿は王の命令をまつ騎士のそれであった。
「ぼ、ぼくは……」
パナシェは勇敢な一族の、鬼の友人の姿を思い浮かべた。彼らは自分よりもはるかに勇敢で、強い人たちだ。パナシェは彼らのようになりたかった。彼らのようになって、その横に立ちたかったのだ。胸を張れる漢になりたいのだ。その思いがパナシェに腹をくくらせた。
パナシェは震える両手を思いっきり握りこみ、戦場を睨みつけた。
「う、うわあぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁ!!!」
ヤッファが攻めあぐねていると、後ろから叫び声を挙げながらパナシェが突撃してきた。
「バッカ野郎!!早くにげない……!」
(緊張に耐え切れなかったのか…!)
此方に向かってくる子供に声を挙げることでできたスキを、ビジュは見逃しはしなかった。
「死ねえぇぇ!」
ビジュがヤッファに剣を突き刺してきた。気が付いた時にはよけることができないほどに近づかれていたのでヤッファは攻撃を受けて、相手の動きを止めようと思い、来る衝撃に歯を食いしばった。しかし、その必要はなかった
「僕だって…、僕だってバウナス族の男だぁーーーーーー!!!」
パナシェは勢いを弱めず、むしろ強めながら突っ込んでいった。ますます距離は短くなり、銀の鎧が剣を持つ方の腕を振り上げた。
「チッ!!」
危険だと感じたビジュは、舌打ちすると突き刺そうとした剣を戻して後ろ斜めに飛んだ。攻撃を中断されたことに不満を持ったビジュだが、その判断は彼の命を救うことになった。
ドゴォォォォン!!!!
轟音とともに地面が揺れた。離れたところで戦っていた者たちも注意を音がした方向に向けて、驚愕した。明らかに剣の長さよりも長い裂け目が地面に続いていたのだ。その裂け目はビジュの少し横まで続いている。
「て、てめぇら!撤退だ!急げ!」
何かが少しでも違っていたら起きていたかもしれない惨状に顔を青くしたビジュは自分の部隊に撤退命令を出して一目散に逃げていった。その後ろを慌てながら部下たちが続いていく。
「や、やっキャン!?」
敵が全員逃げたことに喜びの声を挙げようとしたパナシェは、頭に響いた衝撃に悲鳴を上げて蹲った。ジンジンする場所を抑えながら見上げると、ヤッファが怖い顔で見下ろしていた。そのことに「ヒッ!」と悲鳴を上げる。
「今のは危険なことをした罰だ。んで……」
ヤッファは腕をパナシェの頭に近づける。またたたかれるのかと思い、目を強くつむると頭を撫でられる感触がして目を開く。
「これはお前の勇気に対してだ。ありがとよ」
「ハッ、ハイ!!!!」
憧れの護人から伝えられる感謝の言葉に思わず尻尾がぶんぶんと揺れる。
スウウゥゥゥゥゥ。
パナシェを守っていた銀の鎧が空気に溶けていく。そのことに気づいたパナシェは銀の鎧に顔を向けて見送る。
(ありがとう)
パナシェは黙ったまま見送り、完全に見えなくなったところで頭を下げた。守ってくれたことと、臆病な自分にも勇気があることを教えてくれたことに。
その光景を後ろで見ながらヤッファは色々なことを考えていた。後ろから近づいてくる漂流者の連中のこと。帝国軍を名乗る連中からの攻撃。他の護人との相談すべきこと。銀の鎧のこと。
「あの不審な魔力も調べなくちゃなんねぇな…」
メンドクセェ、そう呟いて上を向くと月だけがいつもと変わらず光を照らしていた。