ちゃんと読み物として成立してなきゃ嫌って場合はお勧めしない。
[成代/原作知識なし/友情:ドラコ]
大阪人の記憶を持ったまま、ビンセント・クラッブとして生まれ変わる。
前世の記憶が邪魔して、英語を覚えるのに一苦労。日本語基準で英語を詰め込んでいるものだから、聞くのも読むのも書くのも話すのもたどたどしくなる。
英語の語彙力がなく、簡単な単語ばかり使うものだから、頭が緩いと思われている。
よく黙り込み、険しい顔をする。高い背とガタイの良さが相まって、威圧感をだしては周りの人間を怖がらせているが、本人は英語理解に必死になっているだけで他意はない。
その実中身はおしゃべりな大阪人なため、言語に不自由する日々の生活はフラストレーションがたまる。誰もいないところで一人大阪弁をべらべら吐き出して解消しているとかなんとか。
ソースと粉もんが恋しい。地の文はそんなに大阪弁ではない。悪いことを悪いと分かってやるタイプ。気が強い。
■顔合わせ
今日は親父の知り合い、マルフォイさんちの息子に会いに行くらしい。俺と同い年らしいが、あわよくば下僕一号に据えてやろう。
そんなことを考えていたのがばれたのか、やたらめったら父親にふれんどふれんど言い含められた。はいはい、仲良くね、仲良く。お友達になってやりますよ。
マルフォイさんちの息子さんとやらは、ドラコという名前らしい。ラテン語でドラゴンの意味だとか。格好つけた名だ。
澄ました顔の父親にくっついて出てきたそいつは、ドラゴンなんて意味のかっちょいい名に似合わないナヨナヨのチビで、女みたいな顔をしていた。ドラげない。
知らない人間が怖いのか、不安そうな顔をしたまま父親のローブを離そうとしないそいつに、俺は話しかける。
「おい」
ドラコはびくりと肩を跳ねさせて父親の後ろに隠れてしまった。
親父が、俺の頭に置いた手に力を込める。そのまま砕かれるんじゃないかと思った。ああもう、分かってるさ。はいはい、ふれんどふれんど。
俺は大阪のおばちゃん仕込みの憎めない愛想笑いを浮かべて、握手の為に手を差し出す。父親の後ろに隠れてからは、暫く様子を見ていたドラコだったが、それが決め手になったのか、おずおずと一歩二歩こちらに近付いて、握手に応じた。一人の人間にとっては小さな一歩ですが、俺たちの友情にとっては大きな一歩です!
ドラコの手は、力をいれれば折れてしまうんじゃないかというくらい、ちっこくてふにゃふにゃだった。これ、本当に俺と同い年?
■ドラコといっしょ
大人達にとぅぎゃざーとぅぎゃざー言われて、彼らが難しい話をしている間、子供二人だけで遊ぶことになった。
「何して遊ぶの? 絵本読む? それともチェス?」とか言われておったまげた。何なの? この歳から引きこもりなの? だからナヨナヨしてんじゃねえの? 遊ぶなら外だろ外! せっかくお前んち庭も広いんだから!
俺はドラコを庭まで連れ出して、地面の柔らかい場所を探した。
「何をするの?」
「土遊び! トンネル作んぞ」
首を傾げたドラコは気にせず、俺は地面に座り込み、こっそり拝借していたティーカップをスコップ代わりにして地面を掘った。ある程度土を集めたところで、山型に形を整えて、あとで掘るときに崩れないように押し固めていく。
「ほら、ドラコも」
「えっ」
迷っていたドラコだったが、やがて、おそるおそる地に尻をつけた。
「ひんやりしてる」
「ここ、あの木で日陰になってるからな」
「ふうん」
地面に対して、そんな感想を漏らしたドラコは、それから、俺の真似をするように土山をぎゅっぎゅと押しはじめた。最初は戸惑い気味に、そのうち夢中になって熱心に。あちらこちらを力一杯押すものだから、固めているというより土山に両手で張り手しているみたいになっている。
「力、入れすぎ。崩したらだめだろ」
「ご、ごめん。こんなことするの、初めてで、よくわからなくて」
「初めて?」
「ああ。こんな遊び、したことない!」
ドラコの声には、興奮の色が滲んでいた。初めての土遊びはお気に召したらしい。白いカッターシャツをあっという間に茶色に染めて、土山と抱き合っている。真骨頂はこれからだというのに、すでにご満悦の様子だ。満足するにはまだ早いぞ。
「ドラコ、固めるのはおわり。そこから、こっちに掘る。俺はこっちからそっちに掘る。気をつけて、崩さないように」
「えっ、これを? もしかして、手で?」
「手なんて今更だろ」
ドラコは一度自分の土だらけの手を見つめてから、土山を慎重に削り彫りはじめた。
……なんだか、育ちのいい無垢なお坊ちゃんを、いけない道に誘うようで悪い。いや、土遊びは別に悪くないんだけど。
肘まで埋まるくらいに掘り進めた頃、指先で触れている土がもぞりと動いたのが分かった。すぐそこに互いの手があるのだろう。その感覚がなれないのか、ドラコは擽ったそうに声を漏らして笑った。
そうして、互いの指が触れ合った。
「開通!」
「わああ!」
ドラコが声を上げて喜ぶ。俺はニコニコしながら、トンネルの中のドラコの指先を擽ってやった。途端悲鳴みたいな笑い声をドラコが出して、トンネルから手を引っ込めた。
「もうっ!」
むっすりと口を結んで、ドラコが睨みつけてくる。俺は笑って謝りながら、トンネルに肩まで腕を突っ込んだ。向こうの穴からは俺の指先が出てくる。その光景の何が面白かったのか、ドラコはぷっと吹き出した。訳もわかんないのになんか面白い時ってあるよな、俺も今そんな感じだわ。
「仲直りの握手は、いかが?」
指先をチロチロ動かして問えば、ドラコはクスクス笑いながら、その俺の指先に自分の指先を引っ掛けた。指先だけの握手だ。
腕を抜けば、ドラコがトンネルを覗き込む。俺もトンネルを覗く。トンネルの向こうのドラコと目があった。ドラコが、耐え切れないとでもいうように、顔を勢いよく上げて笑いだす。
「ああ! 楽しい!」
先ほどトンネルを覗き込んだ時に、顔についたらしい土を気にも留めないで、ドラコは「ぷれじゃーぶる!」と繰り返した。
戻ってきた俺とドラコが土まみれなのを見て、親父が目を吊り上げる。ドラコは土遊びが楽しかったということを、父親に興奮気味に語っていた。正直、土遊びにドラコを巻き込んだことを叱られるかと思っていたが、ドラコの父親は楽しそうなドラコを見て、むしろにこにこ機嫌よくしていた。ドラコを心底可愛がっているのが見てとれる。この姿勢、親父に見習ってほしい。
その後皆でティータイムとなったが、俺がこっそり元の場所に戻していた、池の水で洗ったティーカップが親父に当たっていた。ざまあみろ。
■怪我
俺がまたしてもドラコを外に連れ出し遊んでいる時に、ドラコがすっ転んだ。
膝を擦りむいただけで大袈裟なと思うのだが、親父はドラコとドラコの父親に、めっちゃくちゃへこへこ謝っていた。俺の頭まで無理やり押さえ込んで下げさせようとするので、俺はぶすくれ抵抗していたのだが、大の大人の力に敵うはずもなく頭を垂れる羽目になった。それでも、謝ることなくだんまりを決め込んでいたら、その日の食事を抜かれた。
後日親父に、ドラコの部屋まで見舞いに連れてこられた。ドラコはアンティークみたいな馬鹿でかいふかふかのベッドに寝ていた。
お前、膝擦りむいたのに何で重病患者の扱い受けてんだよ。傷なんてもう塞がってるだろ。
そこまで考えて、こいつはそんな怪我すらしたことがなかったのだと気付いた。彼は超がつくほどの箱入りなのだ。ドラコの両親は、一人息子がそれだけ可愛いんだろう。どこかの家とは大違いだ。
ドラコは俺が近付くと、初めて会った頃のように怯えて布団に潜ってしまった。布団の中からは「ごめんね」と、くぐもった言葉が聞こえる。
「僕、だめだった。ビンセントみたいにうまくできなくって、転んじゃって」
あほちゃうん、と喉元まで出かかった。何で怪我して謝ってんねやこいつ。
「転んだって笑ったら勝ちだぞ、遊びなんだから」
俺がそう言うと、ドラコは布団から顔を半分のぞかせて、不安そうに言った。
「また遊んでくれる?」
「おう」
俺の答えに、ドラコはまた布団の中に引っ込む。膨らんだ布団の中から、えへへと笑い声が聞こえた。
なんや可愛いやないですかドラコさん。
■チェス
ドラコが復活、とはいえ先日の一件で庭には暫く出入り禁止が言い渡されたので、俺たちはおとなしく室内遊戯にいそしむことになった。
「そのポーンはそっちに動かしちゃだめ!」
「なんでとったナイトをまた盤面に乗せるの、しかもそれ、僕サイドの色だし!」
「同じ色で挟めばその駒の色が反転するって、そんなルールはないよ!」
「もう!メチャクチャじゃないか!」
以上が、初チェス対戦したときのドラコの言葉である。ぶっちゃけ、チェスのルールを知らんかったんや。
「ビンセントにも、知らないことがあるんだ」
ドラコはそんなことを言って驚く。まるで大阪人は全員面白い人間だと思っている奴のようなことを言いやがって。お前は俺をなんだと思ってるんだ。