あたしの名前は、院婆須莉奈『いんばあす、りな』。
美少女天才魔導師……ではなくて、近所の高校に通う女子高生だ。
今日はブログを書くにあたって、先日起こった不思議な出来事を振り返ってみようと思う。
駅で電車を待っているときの事だ。
一通のメールがあたしへの携帯に届いたのは。
『今、県外にいます』
「いや、誰だか知らないけれど報告しなくても良いから。しかも遠いから」
携帯に突っ込みを入れるあたし。
これだけだったら、間違いメールだったということで済まされるところなんだけど。
そのメールは、一通だけでは終わらなかった。
『今、県内にいます』
『今、市内にいます』
『今、町内にいます』
徐々に近づいてくる不気味なメール。
『今、あなたの背後にいます』
寒くなる背筋。後ろを見ても誰もいなくて……ほっとしたところでメールの着信音が鳴る。
次に届いたメールを見て、あたしは愕然とした。
『今、我はお前の中に居る』
――唾液と共に息を飲み込んで。
あたしは自らのお腹を眺めながら、メールの送り主の名称を口にした。
「まさか、あなたはお昼に食べたハンバーグっ!?」
『いやいやいや、違うだろ、そうじゃないだろ』
メールではなく、頭の中に直接響く声。
それに驚きはするものの、相手が身体の中に居るのならそれもありなんだろうと、細かい事は気にしない事に。
ハンバーグでないとすれば――そうかっ!
「えっと、だったらご飯。それともハンバーグの付け合わせにあったニンジン?」
『頼むから、食べ物から離れてくれ』
食べ物じゃないので、体内に居る奴だとすれば……あれか。あれなのか……
「食べ物じゃないなら……うわ、駄目じゃん。あたし」
『ふっ、ようやく我の恐ろしさが分かってきたようだな』
「蟯虫が体内にいたなんて……その上、蟯虫と会話できるなんて……」
『蟯虫違うわっ!』
あー、これは失礼なことを言ってしまったと後悔する。
悪い奴だとばかり、頭ごなしに決めていた。
「もしかしてビフィズス菌さんでしたか?」
『それも違うっ!』
「まさか、内蔵の一部が意志を持って話しかけてきたとか?」
『気持ち悪いだろうが、そんなことがあったらっ!』
「いや、意外に便利かも。ほら、癌になったとしても、臓器が初期状態で、『オレ、ナイゾウ。オマエ、ショキノガン』とか教えてくれたら、手遅れになることも減るだろうし」
『物凄く怖い内蔵だっ! それにそれも違うっ!』
「もう、だったら何よ? とっとと吐きなさい。帰ってアニメ見ないといけないんだから、あんたみたいな謎の生命体とまどろっこしいやりとりなんてやってる時間なんてないの」
『ふっふっふ……よくぞ聞いてくれた』
どうやら、あたしが尋ねるのを待っていたらしい。
『我は、現代の怪奇。少しずつ近づいてくるのを携帯電話で知らせ、恐怖感を煽りながら、最終的には人間に取り憑いて飛び降り自殺する。とても恐ろしい悪霊なのだ』
なんか、似たようなのを聞いたことがある。
「つまりは、メリーさんのパクリみたいなもん?」
『パクリ言うなっ! メリーさんは別に取り憑いたりしないだろうがっ!』
「えー、でもさ、メリーさんの行動ぷらすαみたいなもんでしょ?」
『いや、それは……だな』
「それは?」
『……っ』
あたしが促すと、押し黙る悪霊。ついには逆ギレ。
『ええーい、黙れ。珍しく温情を出して、優しくしてやったのが間違いだった。貴様など、即刻あの世に送ってくれる』
「勝手にやってみれば」
『後で死にたくないと後悔しても知らんぞ』
「しないから、絶対に」
『ならば、殺してくれよう』
あたしの意識は――乗っ取られたりなんてしない。身体の自由も奪われない。
もぞもぞと、身体の中で何か動いているような気がするが、注意しなければ気になるほどでもない。
『……う、動かん。何故だ?』
後悔しない――その理由は単純明快だ。
「ごめんね。あたし、超霊能力者だから。悪霊とかに無効化出来る体質みたいなの」
『くっ、こうなれば脱出……すら、出来ん。何故だ?』
「あたし、悪霊ホイホイなんて異名もあって、一度取り憑いたら最後、絶対に逃がさない霊能力者だから」
『そ、そうなのか?』
「うん。しかも、消化していくからいつかは消えちゃうみたいだし。自分でも消そうと思えば消せるけど」
昔から、幽霊を吸収して力にしてしまうと言う、変な力を持っている。この力のせいで異常事態に巻き込まれた事が、過去に何度もあって……ちょっとぐらい強い悪霊でも、屁でもない。
『おまっ! 待て、こんな事で我が、我がーーー』
「いや~、ごめんっ! 本当にすみません。運が悪かったのね」
『この化け物めっ!』
「てれてれっ……悪霊に褒められるなんて、光栄です」
『誰が褒めたっ! 褒めてねーよっ!』
余裕がなくなってきたのか、悪霊の言葉が荒々しくなっている。
「まあ、人生、色々あると言うことで」
『くそぉ、ナイスバディーに負けるならまだしも、こんな貧乳に負けるなんて――』
あたしが気にしていることを、容赦なく言い切るとは良い度胸。
「死んじゃえっ♪」
『ごはああああああああああっ!』
あたしの中に居る何か……悪霊が霧散する。
かくして、あたし、院婆須莉奈の手によって、世界は平和に一歩近づいたりするのだった。
「……」
文章に書き起こしてみたが、なんかノリがライトノベルっぽい。
ブログに書くような内容じゃないわね。
「あっ~、止め止め」
気が乗らなくなったあたしは、グリコマイルドカフェオレを飲みながら、一休みすることにした。
ブログなんて、書きたい時に書けばいい。無理に書く必要なんてないわよね。
にしても、ちょっと勿体ない。一応、悪霊っぽいのをやっつけたのに。世間で言う正義の味方みたいなのに。
「武勇伝武勇伝、でんでんででんでん」
何となく口にして、あたしは沈黙した。
もしかしたら、あたしはネタキャラなのだろうか。
ブログよりも、深刻な悩みだった。