太陽に掲げた手のひらは、キラキラと……
「はぁ……はぁ、ちょっと、待ってくれ、蛍っ!」
「ん、陽慈じゃないか。どうかしたのか?」
急いでやってきたのだろう。太陽を背に走ってきた陽慈は荒い息を上げ、僕の前に立ち止まった。
額から流れ出る汗を、右腕で拭う。
「実は、俺、お前に言わないといけない事があるんだ」
「まだ、何かあったのか?」
「ああ」
陽慈がゴクリと唾を飲み込む――その音が僕の耳にまで届いた。
何を言いたいのか分からないけれど、陽慈の奴、滅茶苦茶、緊張しているみたいだ。
「俺……俺……」
陽慈は大きく息を吸い込んで――
「やっぱり、俺、お前の事が好きなんだー!」
告白してきた。
一瞬呆然。でも、身体に染みついた『突っ込み気質』が反応する。
「お前には恋人が居るだろ、恋人がっ!」
「あれは、偽装恋人なんだ。世間を誤魔化す為に、演じているにすぎない。俺の愛を受け取ってくれ、蛍っ!」
「いや、そう言われましても……ほら、僕には鈴音が居るし」
「それでも、蛍に恋人が居ようと、この気持ちには嘘を付きたくないんだ」
「頼むから嘘を付いてくれっ!」
何、この超展開。腐女子の方々とかなら、喜びそうだけど。
いくら友人でも同性からの告白なんて、全然嬉しくない。
僕はノーマルなのだ。
「陽慈、あのさぁ」
言ったら悪いかもしれないけど。
「ぶっちゃけ、気色悪いぞ」
「そんなのは、俺だって分かってる。何度も悩んだ。この気持ちは間違いじゃないかって」
「間違いなく、間違いだ」
「いいや、間違いじゃない。お前の事を夢に見るんだ。毎日、毎日……」
陽慈のところにまで出張してるなんて、夢の中の僕は活発的らしい。
出張費でも取らなければならないか。
「初恋、一目惚れ、俺にとってお前は、オンリーワン。ただ一人の、愛すべき人なんだっ!」
あーうん。
ここまで本気で言われると、こっちも茶化している場合じゃないよな。
「だけど、僕は陽慈の事を友達としか思ってないし」
「それでも構わない。俺と二人で、俺達の事を誰も知らない町で、アバンチュールな日々を送ろう。蛍が望むなら、お前は家で好きなだけゲームをやっていてくれても構わないから」
「く、くうっ! なんて魅力的な提案なんだ」
この程度で引かれてしまうのか、僕は。なんて一人突っ込み。
でも、それも止むえまい。鈴音と一緒に暮らすようになってから、ゲームは時間制限されるようになってしまった。
根っからのゲーマーなのに。
「蛍、ゲームばっかりやって、この、浮気者ぉ!」
「えー」
凄い剣幕だったもんなぁ。鈴音。
まあ、朝から晩まで一日中やっていたから、怒られるのも無理はないかもしれないけれど。
その時の事を思いだし、身震いする僕。
「それにな、蛍、今、成仏しちまって本当に良いのか? 来月には……」
「来月には?」
「蛍の大好きなメーカー、スクエア・エスニックから、新作のRPGが出るじゃないか」
「そうだったぁぁぁぁぁ」
すっかりと忘れていた。楽しみにしていた作品である。
「ナマコからだって、テールズの新作も発表されたばかりだろ?」
「くぅぅぅぅ!」
「スマフォゲーだって、ゾクゾクと新しいものが出て来てるし、消えてしまう場合じゃないだろっ!」
「なんて事だぁぁぁぁ」
しまった――色々と思い出してしまった。成仏している場合なんかじゃない事に。
だからといって、格好悪くて鈴音のところにだって戻れない。
僕に出されている選択肢は、一つしかなかった。
「分かったよ、陽慈。これからはお前のところにお世話になるよ」
生粋のゲーマー、式見蛍。
成仏、ゲーム三昧の日々の前に、敗北。
「あっ……基本的に姿は、ケイコさん……じゃなくて、鏡花の方で頼むな」
「陽慈が望むなら……」
僕は水月鏡花の姿へと変化させる。
「さあ、行こう。鏡花」
陽慈が僕……私の手を掴んでくる。私はその手を握りかえした。
「私で良ければ……」
私と陽慈の姿、陽慈の乗ってきた車の中へと消えていった。
かくして、私、水月鏡花は陽慈と誰も居ない地で、二人でゲーム三昧の日々を送り、幸せに暮らしたのでした。