見える世界が歪んでる   作:藤藍 三色

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第四章

 

 

 

 

 ホグワーツ特急に乗り込んだ後は、いつものように本を開いた。レグルスは興味深そうに窓の外を行きかう人を見ている。ときどき弦の膝にきて撫でてくれとせがんできた。

 出発時刻の三十分前にテリーが来た。そのすぐあとにマイケル、ぎりぎりになってアンソニーが合流する。

「乗り遅れるかと思ったよ」

「アンソニーが遅れそうになるのは珍しいね。何かあった?」

「家の書庫をぎりぎりまで漁って写してきたんだ」

 

 彼が取り出したのは家系図の模写だった。

「僕の家は親戚関係の記述が多く残ってたんだ。一族の何人かが魔法省で戸籍管理の仕事してたから。それで魔法族の相関図作ろうとした人がいてね。今も作り続けてる」

「気が遠くなりそうな話だな……」

「まったくだよ。だから僕はそっちをあたって、マイケルは過去の犯罪記録を探ったんだ。マイケルの家の書庫は過去の新聞とかずっと残してあるから」

 

「朝刊から夕刊までとってあったからこっちも埋もれて死ぬかと思ったぞ。情報誌もあったしな」

「お疲れさまです」

 苦労した様子の二人に紅茶を差し出す。二人とも満足気に受け取った。

「俺んとこはそこまで収穫なし。ただ俺の親父が同時期にホグワーツ通ってたからさ、アルバムあさってみた。で、これがでてきた」

 

 テリーが見せてきたのは一枚の写真だった。魔法がかけられているその中では人が動き回っている。グリフィンドールとレイブンクローのクディッチチームだろうか。一般生徒も一緒になっている。

「クディッチのグリフィンドールとレイブンクロー戦だな。このとき、グリフィンドールがスニッチをとったけど引き分けで終わったらしい。そのときに撮ったんだと」

「それは珍しい試合だね」

 

「だろ。これが親父。キーパーだったらしいぜ。それで、こっちのグリフィンドールのチーム見てみろ」

 指さされた場所を三人で覗き込む。そこには二人の少年が肩を組んで笑っていた。どちらもビーターの棍棒を持っている。その手前には背の低い少年と、顔に傷跡のある少年が笑っていた。

「これ、ブラックだろ。それにその隣の奴、ポッターにそっくりだ」

 選手の二人はテリーの言う通り片方はブラックに、もう片方はハリーに似ていた。

 

「俺の予想はこっちがポッターの父親。で、ブラックはその友達だった」

「はあ? だがブラックは闇の帝王の手下だったんだぞ?」

「このときはまだ違うかもしれないじゃん。手前の二人とも仲好さげだし、この四人組は絶対なんかあるって」

「うーん……ユヅルはどう思う?」

 

「……クディッチ選手だったならトロフィー室に記録があるかもしれない。テリー、頼んだ」

「了解」

「この二人が友人関係だったかは保留。情報が少なすぎる。とにかくブラックがなんでこんなに脅威だと思われているのか探ろう。危険がない程度に」

 それにしても友人関係か。ハリーに全部教えたら発狂しそうだ。よし、黙っていよう。

 

 昼時になって持参した弁当を広げ(四人で四当分した)、車内販売で買った大鍋ケーキをデザートに思い思いに過ごす。弦は読書、テリーとマイケルはチェス、アンソニーは日刊預言者新聞の購読だ。

 空模様は生憎の雨だ。風が吹いて雨粒を窓に叩きつけている。雨雲に光が遮られているせいか、暗くなるのが早い。コンパートメントの中と廊下に灯りがついた。

 

 雨の中も列車は快調に進んでいるかに思えた。しかし、ゆっくりと停止する。

「ん?」

「あれ?」

「まだ着いてないよな?」

「……到着時刻ではないよ」

 

 唐突に灯りが消える。一瞬で暗闇にその場で、低くレグルスが呻いた。威嚇のそれに弦は素早く杖を抜く。それから魔導式の小さい懐中電灯をつけた。これは魔法の影響を受けないために魔力を込めた魔石で動く機械だ。裏街で見つけた便利道具だ。ホグワーツでは魔法の影響で電気機械が使えないため使えるものを捜した結果見つけたものだ。これをつくる魔導技師はいろいろ面白い人だ。つくる者もつくられる物も。

 

「お、なにそれ?」

「その名も魔導式懐中電灯。魔法の影響をうけない便利道具です。中の魔石がエネルギー切れになるまで明かりを保ちます。ヘッド部分をまわせば光量を調整できます」

 テリーの疑問に諳んじたのは商品説明の部分だ。あといくつか持っているのでテリー、それからマイケルとアンソニーにも渡しておく。

「一応、うちの国でつくられた輸出厳禁の商品だから大切にしてね。とくにウィーズリーズにはとられないように」

 

 とりあえず何が起きているのかわからないので弦たちは監督生がいる先頭車両まで行くことにした。全員が片手に杖、もう片方に懐中電灯を持っている。円筒型の直系三センチメートルだから握りやすい。長さは十センチメートルと小さ目だ。

 レグルスがくんくんと臭いをかぎながらあたりを警戒し続けている。先頭歩く姿は子犬ながらに勇ましい。いや、実際はもっともっと大きいけど。

 

「なんか寒いね……」

 アンソニーがそう言って腕をさする。窓を見れば水滴が凍結していた。

「気温が下がってる。何故?」

「魔法か?」

「わからない。でもこれは……」

 即座に第三の目を開眼させる。魔力の色が闇の中に浮かぶ。数多の輝きに意識が奪われそうになるが、それよりももっと気になる色を見つけた。

 

「……ああ゛?」

 思わず漏れた声は盛大に不機嫌なもので、びくりとテリーたちが肩をはねさせる。

「ゆ、ユヅル?」

『なんであんなのがここにいるんだ……』

 禍々しい魔の気配に無意識のうちに日本語となってしまう。こんなところにいるはずのないそれは、闇の住人なのだろう。分が悪い。非常に分が悪い。弦は退魔師でも祓魔師でもないのだから。

 

「予定変更」

「え?」

「交戦準備。ただし相手には近づかないほうが良い」

 近づいたら、きっと喰われてしまうから。

 杖を振る。

 

「エクスペクト・パトローナム」

 

 現れた白銀の大虎に「行け」と示す。駆けだした虎を追いかけるレグルスに続いて弦も走りだした。テリーたちも慌てて駆けだす。

「去年も見たけど、やっぱりユヅルの守護霊って迫力あるなあ」

「守ってる本人が強いからじゃないのか」

「聞こえてるよ、マイケル」

 

「ていうか俺達なんで最後尾らへんのコンパートメントとっちゃったんだろうな」

「確かに。おかげで全力疾走しても先頭まで五分かかる」

「しょうがないでしょ。誰かさんがいつも最後尾らへんにいるんだから」

「真ん中らへんよりは静かだからね」

 なんでこう、いつも緩いんだろう。私のせいか?

 

 通路の向こうになにか見える。大虎がそれに襲いかかった。レグスルはちゃんとわかっていたようでしっかり立ち止っている。盛大に威嚇しているけれど。

 虎はずたぼろの汚い布をかぶったそれに体当たりをしかけると、吹き飛ばされたそれにむかって吠えた。

「うわ、なにあのボロ布……つーか寒い!」

「あれが原因だな。『吸魂鬼(ディメンター)』がこの特急になんの用なんだか」

 

 脚にブレーキをかけて立ち止る。吸魂鬼は何かを襲っていたらしい。二人の男子生徒のようだ。その片方はマルフォイである。もう一人の生徒は顔に覚えがあった。確か、セオドール・ノットだったか。

「おい、マルフォイ。ノット。大丈夫か?」

「ええっと吸魂鬼に遭ったときは……」

「チョコレートが最適だ。あとはしっかり身体を温めてやればいい」

「さすがだね、ユヅル」

 

 チョコレートを取り出したアンソニーは容赦なく二人の口にそれをつっこんでいる。容赦ないな。

「それにしても、なんで吸魂鬼が?」

「吸魂鬼はアズカバンの監修だ。大方、ブラックを捜しにきたんだろう。魔法省の管理はどうなってるんだ」

 一般人が襲われるなんて本末転倒だろう。

 

 近くのコンパートメントからウィーズリーズともう一人グリフィンドールのクディッチ名解説者であるリー・ジョーダンが顔を覗かせていた。

「丁度いい。アンソニー。マイケル。ウィーズリーズのところをちょっと借りて二人の介抱してやって。とりあえず今はチョコレートをとらせることと、寒さを和らげることを優先的に頼む。あとは他の生徒にもチョコレートをとるように呼びかけてくれ。吸魂鬼は近くにいるだけで影響がある」

 

 現にテリーたちも少々調子が悪そうだ。気丈に振る舞ってはいるが、顔色が悪い。弦の場合は魔に対する耐性がある程度あるのでまだまだ平気だが、好んで近づこうとは思わない。

「テリーは私と……」

「ユヅル、後ろだ!」

 マイケルがそう叫んだのと同時に視界の端にボロ布が泳いだ。背後をとられたか!

 振り向く回転を利用して上段回し蹴りを放つ。手ごたえはあった。

 

「……思ったより軽いな」

 

「吸魂鬼蹴った感想がそれ!? 脚はなんともないよな!?」

「大丈夫。それより逃げられた。あれを列車の外に追い出さないと次の被害者が出る」

 それに列車に侵入したのはあれだけとは限らない。大虎はすでに後を追っている。

 

「テリー、ついてきて。二人とも、あとは頼んだ」

「わかった」

「怪我はするなよ」

「ああ、もう。すぐこうなる!」

 吸魂鬼は侵入してきたところから出ていったようだが、まだ列車の中には同じ気配がしていた。大虎もそれを感じているのか弦たちが追いついたところですぐに駆け出してしまう。

 

「まだいるのかよ!」

「もしかしたら数体でチームを組んで捜索していたのかもしれない。あれは人の感情を好むから大人数の人間の気配に引き寄せられたのかも」

「魔法省ロクなことしねぇな」

「同感」

 魔法省の株は大暴落である。もともとそんな高くないけど。

 

 

「……いた!」

 通路の向こうにコンパートメントに入り込もうとしている吸魂鬼がいた。それに大虎が襲い掛かりはじき出す。吸魂鬼はそれで逃げていき虎は追ったが、弦たちは立ち止った。コンパートメントの中から「ハリー!」という叫び声がしたからだ。

 

 中を覗き込むと、そこにはハリーとロン、ハーマイオニー、ジニー、ネビル、そして知らない男性がいた。えらく大状態だ。

「おい、どうした!?」

「ユヅル!」

「ハリーが急に倒れたんだ!」

「はぁ!?」

 

 弦はすぐに膝をついてハリーの目を確認した。瞼を押し上げライトを当てる。わかる範囲での異常は見受けられない。脈は少々早いが、体温は低い。

「吸魂鬼にやられたな。ただの気絶だ。椅子に寝かせてなにか上にかけたほうがいい。体温が下がってる」

「ハリーは無事なの?」

「接触時間が短かったのが良かった。吸魂鬼は見境がないから、たとえ一般人でも襲い掛かる危険性がある。チョコレートはあるか? 遭遇した時はそれが一番薬になる」

「ああ、それなら私が持っているよ」

 

 チョコレートを取り出したのは男性だった。この列車に乗っていると言うことはホグワーツの関係者だろう。新しい教師だとしたら闇の魔術に対する防衛術のはずだ。

 男性の身なりは決して上等とは言えなかった。継ぎはぎのローブとくたびれたような雰囲気がとくにそうだ。しかし悪い人ではないのはなんとなくわかる。彼の中の魔力は綺麗な色をしているのだから。

 

「ありがとうございます。ほら、みんなも食べたほうがいい。気分は最悪だろ?」

「そうだね……当分、楽しいことは考えられそうにないよ」

「今日の宴のことでも考えておけばいい。さっきも一体いたんだ。早いとこ全員にチョコレートを食べさせないといけない」

 もう一体という言葉にハーマイオニーが「まだいたの!?」と悲鳴をあげた。

 

「列車の外に出たのは確かだ」

「そうそう。それにユヅルが蹴っ飛ばしてたから」

「蹴っ飛ばした!?」

「思ったより軽かった」

「感想なんて聞いてないよ!?」

 

 ロンの叫びにテリーが笑い声をあげる。それに疑念を持ちながら、弦はもらったチョコレートをかじる。そこへ大虎が戻ってきた。どこか不機嫌そうでもある。

「ああ、逃げたんだ。お疲れ様。もういいよ」

 鼻筋をかいてやれば満足そうに消えていく虎を見送る。仕留め損ねたことで不機嫌になるなんて、誰に似たのだろうか。

 

「さて。車内販売の人は先頭車両にいるはずだったか。チョコレートを全員に配ってもらえるか相談してきたほうがいいな」

「それなら私が行こう。車掌にも話があるからね」

 申し出てくれた先生(仮)に頷き、ロンたちを見る。

「そうですか。なら私たちは戻ります。ここに来るまでに襲われそうになった生徒もいますし……ハリーが起きたらチョコレートをゆっくり食べさせてやって」

「うん」

 

「それと吸魂鬼は嫌な記憶を呼び覚ます。もしかしたら本人も忘れている辛い記憶を呼び起こしたかもしれないから、できるだけ傍にいたほうがいい。傍に誰かがいるだけでも十分、助けになる」

「わかったわ」

「よし。テリー、戻ろう。マイケルたちが気になる」

「おう。じゃあ、お大事に」

 

 今まで走ってきた廊下を小走りで戻る。目的のコンパートメントのドアは全開だった。

「あ、ユヅル。お帰り」

「無事だったか」

 ほっとした顔をする二人に頷き、吸魂鬼がもう一体いてどちらも列車の外に出たことを話した。

 

「すぐに列車は復旧するだろう。車内販売のチョコレートをわけてもらえるよう、教授がかけあってくれるって」

「教授? 誰か乗ってたのか?」

「新任の教授だと思うよ。防衛術の。車掌とも話すってさ。とにかくそこの二人はどう?」

「体温は平常に戻ったよ。チョコレートもとらせたし」

「そう」

 

 念のため二人の脈を診る。あまりにもショックが強かったのか大人しい二人にこれ幸いと眼球の動きも見せてもらった。問題はないように見受けられる。

「ホグワーツについたら一応、マダム・ポンフリーに診てもらったほうがいいな」

「どうする? 付き添うか?」

「スリザリンの生徒に頼んだほうが面倒がない」

「違いないな。俺とアンソニーが送ってくる。パーキンソン当たりに頼めば喜んで付き添ってくれるだろうよ」

 

「頼んだ。パーキンソンとは馬が合わん」

「あいつ、ユヅルに物凄い敵対心持ってるもんな。持つだけ無駄なのに」

「結局こてんぱんにやられちゃうのにね」

「ユヅルに勝てるわけないだろう」

「さすがの私も怒るぞ」

 

 好き放題言いやがって。思わず杖を手に持てば三人はそろって両手をあげた。冗談だってと弁解してくるけれど、この三人は絶対にまたこんなことを言うのだ。主に弦をからかうために。気の置けない連中だ。自分もそこに含まれるのは重々承知している。

 

 ともかくウィーズリーズとジョーダンにはチョコレートを食べるよう列車内を行進してもらった。ついでに暗い雰囲気を吹き飛ばす騒ぎをいくつか起こしたようで、列車がホグワーツに到着するころには生徒達は喧騒を取り戻していた。

 マイケルとアンソニーはマルフォイ達を、パーキンソンをはじめとした同年のスリザリン生にまかせてさっさと戻ってきた。喜んで引き受けてくれたと言う。

 

「なんだかんだいっても学校に来る前から顔を合わせてきたからな」

「純血だってことで彼らの態度もいくらか柔らかいしね」

 だが、この二人は完全に仲間意識をもたれているわけではない。半純血のテリーや、未だマグルーマルと思われている弦と常に行動を共にしているのだ。あの人達のお門違いな不満は留まるところをしらない。

 

「これで弦があのアクロイド家の血筋だって知ったらどうなるんだろうな、スリザリンの連中」

「さらに悪化するに一票」

「それ本人が言っちゃうの?」

「ま、どっちにしろユヅルが眼鏡とったことで騒ぐ連中は多いだろうなあ」

「あー……」

「そうだな……」

 なんでそんな疲れた顔をされるのかがわからない。弦が「何?」と言えば三人は首を振って「何でもない」と声を揃える。何なんだ。

 着替えを済ませる頃になって、ようやく列車は駅に到着した。

 

 

 

 

 

 馬車乗り場まで来ると百台にも及ぶ馬車に生徒達は迎え入れられる。馬がいないとされるこの馬車は乗り込んで扉を閉めれば独りでに動いて城まで運んでくれるのだ。生徒達は馬がいないと受け入れているが、馬はちゃんといる。セストラルと呼ばれる天馬だ。死を見たことある者だけに視認できる魔法生物で、骨ばった体にドラゴンのような翼を持っている。生徒のほとんどはセストラルを視認できないため、馬がいない馬車などと言っているのだ。

 

 しかし弦は始めから見えていた。去年もそうだ。しかし今年はセストラルをより強く感じているような気がする。

 レティシャの死体を見たからだろうか。

 

「ユヅル、乗らないのか」

「……いや、乗るよ。城まで歩くのは面倒くさい」

 天馬から視線を外して馬車に乗り込んだ。馬車は城の門をくぐって玄関の前に運んでくれた。馬車を降り立ったところでハリーたちを見かける。良かった、ハリーは平気そうだ。ちゃんと自分の足で立っている。

 

 そのことにほっとしてすぐ、弦は顔をしかめた。マルフォイがどこで聞きつけたのかハリーの気絶をからかったのだ。ロンまで気絶したのか煽る彼にテリーが後ろから声をかけた。

「お前も人のこと言えないだろうが、マルフォイ」

 呆れを全面に押し出したその声にマルフォイがぎくりと身体を揺らした。

 

「何もできてなくてユヅルに助けられたのはお前だろ。さっさと医務室いってマダム・ポンフリーに診てもらえよ」

「なっ……!」

 ぐっと言葉につまったマルフォイはちらりと弦を見てから足早に去った。

 

「一言は文句言われるかと思ったんだけど。意外だ」

「さすがに助けられたってところは認めてるんだよ」

「本当、どうしようもないな」

「マルフォイがどうしようもないのは今に始まったことじゃないだろ。それよりポッター、平気か? あんな不気味な奴に襲われたんだ。早く医務室行けって」

 

 テリーの言葉にハリーは強がっていたがハーマイオニーと一緒にマクゴナガルに呼ばれてしまった。二人が行ったあとで「なんであの二人だけ?」とロンが言ったのを弦が「ハリーは医務室。ハーマイオニーは授業のことじゃないか? 全科目履修するって聞いてるけど」と返した。それにロンも納得する。

 

 広間は毎年のように光り輝いていた。一年生は吸魂鬼のせいで盛大にケチがついたみたいだが、この広間とあとから出てくる御馳走に元気になるだろう。

「しょっぱなから散々だなー」

 テーブルに顎を乗せて愚痴るテリーはその姿勢のまま弦を見た。

 

「それにしてもユヅルの守護霊、前見た時よりも強そうに見えたんだけど、練習したのか?」

「いいや? 夏休みはいっさい魔法が使えないからまったくしてない。呪文と言うより私自身が成長してるからじゃないか? 力の大元がレベルアップすれば必然的に呪文もレベルアップするさ」

「前々から気になってたんだけど、ユヅルってどういう夏休み送ってるの?」

「……普通?」

「それは絶対普通じゃない」

 なんてことだ。聞いてもいないのに否定された。

 

 組分けが終わり、ダンブルドアが立ち上がって挨拶を始めた。そこで列車に吸魂鬼が出た理由が語られる。ようはブラック対策だ。厳粛な空気の中で彼らの危険性がしっかり説明され、監督生と首席は他の生徒に目を配るよう言い渡された。監督生は面倒臭そうだ。

 

 その話が終わると一転して楽しげな口調で校長は新任の先生を紹介しはじめた。列車の中のあの先生はやはり闇の魔術に対する防衛術の担当だ。リーマス・ルーピン。魔法薬学のスネイプが射殺さんばかりの視線で見ていた。

 

「先生、写真の手前の男子生徒じゃない?」

 弦の言葉に三人はそういえばという顔をする。

 

「随分スネイプに敵視されてるな」

「ハリーから聞いた話だけど、ハリーの父親とスネイプは同学年だったらしい。険悪の仲だったって。あの先生が仮にハリーの父親と友人関係にあったならスネイプとも関わりがあったんじゃないか?」

「そこで何かしてスネイプの恨みを買った、と。それはご愁傷様だな」

「ずっと根に持ってそうだよね。それこそ死ぬまで」

「違いない」

 

 防衛術と同様に魔法生物飼育学の教授も変わった。前任のケルトバーン教授は手足が一本でも残っている間に余生を楽しみたいのだそうだ。その理由に弦はどういうことだと首を傾げた。物騒すぎないか。

 新たな教授にはハグリッドが就任した。そのことで一番湧きったのはグリフィンドール生だ。盛大な拍手が沸き起こる。一方で弦たちは「不安だ……」と拍手をしつつも心境は微妙なものである。

 それ以上の注意ごとも祝い事もなく宴会はいつものように終わった。

 

 

 

 


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