見える世界が歪んでる   作:藤藍 三色

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第七章

 

 

 

 十月に入ればクディッチの練習が本格的になった。テリーとマイケルはクディッチの競技場に行く回数が増え始め、その日の休日も二人は競技場で練習していた。そこへ差し入れということでアンソニーが弦を引きずって現れたのだ。

 

 二人はアンソニーと弦が用意した特性のスポーツドリンクと檸檬のはちみつ漬けをチーム全員に差し入れた。レシピはすべて弦考案である。

「うまー」

「ああ、身に染みる」

 

 レイブンクローのうりは編隊飛行だ。緻密な連携が強さの基盤で、夏季休暇の間にずれた息をあわようとなかなかにスパルタらしい。

「二人ともどう? うまくブラッジャーを操れてる?」

「んー、勘を取り戻すのにもうちょっとかかりそうだな」

 

「……ねえ」

「どうかしたか?」

「ブラッジャーって棍棒で打ったらそのまま真っ直ぐ飛ぶの?」

「力加減によるが、大体はそうだな」

「それがどうかしたのか?」

 

「ならお互いに打ち合うっていうのはルール違反か?」

「んん?」

「いや、だからさ」

 

 打ってまっすぐ飛ぶのなら、それをもう片方のビーターのほうへ打って、ブラッジャーを打ちあってコントロールすればいいのではないかと弦は言った。彼女が思浮かべたのはテニスである。いや、イギリス伝統競技じゃん、あれ。

 

「できるのか、それ」

「そもそも思いつかなかったからなあ。マイケル、おもしろそうだからやってみようぜ」

「……味方の打ったブラッジャーで負傷とか嫌だからな僕は」

 

 とりあえず言い出しっぺは弦だからと参加することになり、アンソニーもついでにと引っ張り込まれた。久しぶりの箒だ。感覚に十分なほど慣れてから、全員が棍棒を持ってとりあえずブラッジャーひとつだけでやってみる。

 

「そぉら!」

 向かって来たブラッジャーをテリーがマイケルの方に叩く。それをマイケルが打ち返した。テリーより右へずれているが、テリーがすぐさま追いついて打ち返す。

 

「おー、上手くいってるね」

「実際はもう一つブラッジャーがあるし、なにより選手が飛びまわってるからブラッジャーだけに気をとられているわけにはいかないみたいだけど」

「うん、でもいいと思うよ。奇策は相手の動揺を誘うし、何よりマイケルもテリーも楽しそうだ」

 

「……楽しそうって言うか、あれは素手で殴り合ってるのと変わらないだろう」

 笑っているが手に力がこもっている。あの二人のああいうところはいつまでたっても変わらなそうだ。

「ユヅル、パス!」

「うわ、こっち来た」

 

 マイケルから来たブラッジャーをテリーに返す。「巻き込まれた」と呟く弦にアンソニーはくすくすと笑っているが、そのアンソニーに向けてテリーはブラッジャーを打つ。

 

「なに一人で笑ってるんだよ!」

「そうだぞ!」

「僕関係なくない!?」

「高見の見物している人ほど引きずり下ろしたくなりたくなるよね」

 見下ろすのはいいけど見下げられるのは嫌だ。

 

「いろいろと理不尽だね!?」

 慌てつつもしっかり打ち返すところが彼らしい。この中で大人しくされるがままなんてことはないし。

 

 回数を重ねればブラッジャーが自ら機動を変える前に叩いてしまえるようになった。そうして遊んでいるとどこからかクアッフルが飛んでくる。どうやら練習を再開した先輩達のほうからのようだ。それがテリーの意識をほんの数秒奪った。それによって迫るブラッジャーに対する反応が遅れる。

 

「テリー!」

「うぉっ!?」

 間一髪、テリーは顔面に迫ったブラッジャーを叩き落とすことに成功したが、その方向がまずかった。シーカーの練習をしていた補欠選手チョウ・チャンのほうへいってしまったのだ。

 

「危ない!」

 アンソニーが注意を投げつけるが、チャンが動いてからでは遅すぎる。弦は迷わず箒の先を下に向けて急降下した。

「ユヅル!?」

 なるべく身体を箒と平行にして空気抵抗を少なくする。追いつけない。この箒は学校の予備備品だからそこまで性能はよくない。

 

 箒を蹴って自分だけ加速。ブラッジャーに追いついて横から叩きとばした。そのまま先回りしていた箒をしっかり掴み態勢を整える。

 自分でやってよく命があったものだと思った。

 

「ユヅル!」

「大丈夫、無事だ」

 弦が「心配かけて悪かった」と言えばアンソニーは「無事ならいいよ」と笑った。マイケルとテリーはブラッジャーをあしらいながら寄ってくる。

 

「まったく。ひやひやさせる」

「フォローありがとな」

 マイケルの呆れ顔とテリーの苦笑に弦は頷いて返した。テリーはチャンに謝りに行き、弦とアンソニーは観客に戻る。ブラッジャーを使った打ち合い作戦は取り入れられることになったそうだ。凶悪な作戦だとテリーもマイケルも笑っていた。

 

 

 

 

 

 クディッチ選手に勧誘されること以外はおおむねいつも通りに日々は進んだ。薬草学ではピンクの鞘のなかから艶々の花咲か豆の収穫をしたし、防衛術はまね妖怪に続き赤帽鬼(レッド・キャップ)をやった。

 

 赤帽鬼。イギリスのイングランドやスコットランドの伝承で、国境地帯に多く伝わっている。長く薄気味悪い髪に燃えるような赤目、突き出た歯と鋭い鉤爪を持った醜悪で背の低い老人の姿をしている。赤い帽子をかぶり、鉄製の長靴を履き、そして杖を持っているそうだ。

 

 その性格はひどく残忍で、獲物としている斧で人間を襲い惨殺すると言う。その人間の血で帽子は赤く染まっているのだ。それが名前の由来だろう。弱点は十字架。捕まった時に聖書の文句を言えばいなくなるとも言われている。

 

 彼らは人が殺された場所に住み着く。主に廃墟。国境付近に伝わっているのは、国境は絶えず戦争のあった場所だからだ。

 邪悪な妖精と言われているが鉄製の靴を履いている時点で妖精ではない。ゴブリンやオーガなどの類いだろう。言うならば悪鬼か。

 

 ちなみに加虐性の強い妖精や悪鬼のことを「アンシーリー・コート(Unseelie Court)」という。逆に慈愛溢れる聖なる妖精や天使のことを「祝福された者」という意味の「シーリー・コート(Seelie Court)」というそうだ。

 

 どの授業も弦にとってはさしたる問題ではなく、課題だって難なくこなせる程度の量だ。おおむね順調だった。

 そして十月三十一日がきた。ハロウィーンの朝。いつも通りに起きてテリーたちと朝食へ行く。今日はホグズミードへ行ける日だからか、ハロウィーンであるということ以上に生徒達は笑顔を絶やさないでいた。

 

「ユヅル、お土産何が言い?」

「私が食べれるお菓子」

「了解」

「ついでにインクも買ってきてやるよ。変わったヤツ」

「羊皮紙もおもしろいのを捜してくる」

「頼むから悪戯グッズだけは止めてくれ」

 

 玄関先でマクゴナガルとフィルチが許可証と名簿を確認している。ロンとハーマイオニーの二人も確認されていた。しかしハリーがいない。そういえばもらえなかったと言っていた。もらえていたとしてもブラックがうろついているならすんなり許可が下りたかどうかは謎だが。

 ハリーはどこかと周りを見回し見つけた。ロンとハーマイオニーの見送りか端の方に立っている。

 

「今日はハリーと一緒にいる」

「わかった」

 テリーたちと別れ、ハリーのもとへ向かう。

「居残りか、ポッター?」

 マルフォイが厭味ったらしくそう言うのが聞こえ、弦はまたかとため息をついた。また彼が何かを言うまえにハリーに声をかける。

 

「ハリー。私も行かないんだ。せっかくだし一緒に過ごそう」

「ユヅル! え、本当に?」

「ああ」

 ちらりとマルフォイをみれば目が合った途端そそくさと言ってしまう。根性無しめ。

「でも、どうして?」

「サインをもらってないんだ」

 大理石の階段を上りながらそう答えた。

 

「叔父さんからもらえなかったの?」

「いいや、頼んでない。今年はホグズミードには行かないつもりだ」

「ええっ、どうして?」

 心底信じられないと言う顔をするハリーに弦は笑った。そんなに衝撃的だろうか。

 

「私の母、今年の夏に亡くなったんだ」

「え……」

 ハリーの表情から感情がごちゃまぜになっていることがうかがい知れる。

 

「喪に伏すってわけじゃないけど、母もこのホグワーツにいたし、ホグズミードに行って母のことを思い出して暗くなるよりかは城に残った方がいいと思った。行くなら母のことを気にせず楽しめるようになってからの方がずっといい」

 だがそれにはもう少し時間がかかる。だから今年は行かない。

 

「ユヅル。その……」

「気にするな。それより何をする? そのへんぶらぶらするか?」

「……うん、そうだね。少し散歩しよう」

 歩く中で、ハリーからハーマイオニーとロンが最近喧嘩することが多いと聞いた。

 

「ハーマイオニーのペットのクルックシャンクスが、ロンのスキャバーズを追うんだ。しつこく何度も」

「だが猫の習性だろう」

「うん。でもロンはずっと怒ってる。なんだかんだでスキャバーズのこと大切にしてるみたいだから」

「……スキャバーズがぐったりしてるなら、連れ歩かないでいたほうがいいだろう。これから寒くなるし、一か所に留めてしっかり休ませてやったほうがいい。籠に猫避けの呪文をかけてその中で療養させたらどうだ?」

 

「猫避けの呪文! そっか、そうだね。言ってみる」

「そうしてやれ。動物の本能は人間が言ってもどうこうなるもんじゃないからなぁ。クルックシャンクスに言い聞かせることも大切だけど、スキャバーズがしっかり休める環境を作ることも飼い主の役目だ。にしても、随分長生きなんだろう? ぐったりしてるのは寿命もあるんじゃないか?」

 

「ああ、だよね。もう何歳なんだろう、スキャバーズ」

「魔法生物のネズミだったとしてもかなりの長生きのはずだ。ロンもそろそろ覚悟を決めないといけないかもな」

 

 そこまで話したところで少しの沈黙が続いた。どちらが話すと言うわけでもなく、ただ廊下を進む。そしてとある部屋からルーピンが顔をだし、二人の存在に気が付いた。

「やあ、ハリー。ユヅル。何をしているんだい?」

「ルーピン先生」

 ルーピンの部屋の近くだったのか。

 

「珍しい組み合わせだね」

 その言葉に顔を見合わせる。そうだろうか。

「先生。ユヅルはロンやハーマイオニーと同じくらい、僕の親友なんです。寮は違うけど。いっつも助けてくれます」

「そうだったのか。寮を超えた友情とは素晴らしい。二人とも、少し私のところに寄って行かないか? ちょうど次の授業ようにグリンデローが届いたところだ」

 

 グリンデローという言葉に聞き覚えがないのか、ハリーが首を傾げた。

「何ですって?」

「グリンデロー。水魔だよ」

 弦はそう言いつつお言葉に甘えて部屋に入る。ハリーも慌てて追って来た。

 

 部屋の隅に置いてある大きな水槽の中にそいつはいた。藻の影に見えたのは薄い緑色の身体を持つ水魔だ。小さな歯と角、そして細長い手足を持っている。

「これがグリンデロー?」

「そう。藻が繁茂する湖の底に住んでるんだと。ホグワーツの湖にもいる魔法生物だな。子供を水の中に引きずり込んで捕食する」

 

「えっ」

「掴まれた指をいかに解いて脱出するかが鍵だな。異常に長くて強いけど、脆いみたいだ」

「正解。ユヅルはさすがだね。これはそこまで難しくないよ。河童の後だし」

 ルーピンはそう言って笑った。

 

 水魔(グリンデロー)はイギリス北部のペグ・バウラーに近い妖怪だ。伝承や民話に登場する。河童にも近いと言われるがそれは日本出身の弦にとっては嘘である。

 

「こっちの人の河童の認識はどうなってるんだ……」

「ユヅル。どうかしたの?」

「いいや、別に。ただこっちの河童についての記述は嘘ばかりだなって」

「えっ!?」

 さすがのルーピンも驚いたようだ。

 

「そうなの?」

「私も聞きたいな。詳しく話してもらっていいかい?」

「かまいませんよ」

 ルーピンは紅茶を出してくれたので、弦は鞄の中から茶うけになりそうなものを出した。厨房で作った大学芋である。秋の味覚、薩摩芋の定番お八つだ。ハリーもルーピンも気に入ってくれた。特にルーピンは甘いものが大好物だそうだ。

 

「私の国では河童って鬼や天狗と並んで有名なんですよ」

 別名「河太郎」。他にもいろんな呼び方がある。そして彼らの存在にはいくつかの説があった。

「国の西側では中国から渡ってきた妖怪という説が、東側ではもともと国にいた妖怪と言う説があります。真偽はわかりませんが。ただ河童は水の神として崇められている部分もあるんです」

 河童は水神の依代、はたまた仮の姿と言われているくらいだ。神社や墓も存在する。

 

「体格は子供くらいで、色は緑か赤です。頭頂部には皿がのってきて、これは乾いたり割れたりすると力が失われて最悪の場合で死に至ります。口には短いくちばしが合って、背中には亀のような甲羅、手足には水かきがついています。外見的な特徴は教科書に載ってるので間違いないです。ちなみに河童の両腕は甲羅の中で一本の紐のように繋がっていて、片方を引っ張るともう片方も引っ張られて抜けることもあるそうです」

 

「そうなの!?」

「うん。私は見たことないけど、河童たちが笑って話してたの聞いた」

 ルーピン先生、紅茶いれるの上手いな。

 

「……ねえ、ユヅル」

「なに」

「今の話だと、君が河童と会って、なおかつ言葉がわかることになるんだけど」

「会ったし、言葉わかるよ。彼ら、人間の言葉を話すから」

 そりゃ鳴き声で鳴かれたらさっぱりだが日本語を話してくれるのでわかるのだ。

 

「日本の妖怪の多くは人語を介せます。だから理性的に話すことも可能です。河童はどちらかというと義理堅い種族なので話は通じやすいですね」

 むやみやたらと人を襲うことない。ちょっと悪戯好きなだけだ。悪意はこれっぽっちも持っていないらしい。

 

 そこで扉がノックされた。ルーピンが返事をすれば扉が開く。入ってきたのはスネイプだ。彼を見てハリーは「げっ」という顔をした。

「ああ、セブルス。どうもありがとう。このデスクに置いていってくれないか」

 スネイプが持っていたのは煙をあげるゴブレッドだ。魔法薬の臭いが部屋に広がる。それを嗅いで、弦はちらりとゴブレッドを見た。ふむ、なるほど。

 

 スネイプはそそくさと行ってしまい、ルーピンも気にした様子はない。ただ魔法薬に砂糖はどうかと思います。いくら甘党だからって良薬は口に苦い物なんだから。

 ルーピンは最近調子が悪いらしい。けれども利く薬はただ一つ。そしてその薬をつくれるのはスネイプほど優秀でなければならないらしい。残念ながら服用者であるルーピンは魔法薬が大の苦手なのだそうだ。

 先生にも仕事があるだろうからと弦はハリーと共に退室した。

 

 薬を渡しに来たスネイプも、少しだけ薬のことについて話したルーピンも悪いわけじゃない。ただそこに弦が居合わせたことは主にルーピンにとっては不幸な事だろう。病気について言葉を濁していたのだからなおさら。

 

 弦が臭いだけで薬の判別がつく少女でなければ、きっと気付かなかった。幼いころから薬草を育て、薬に親しんできた彼女だからこそ持つ一種の才能。積み重ねた努力の証。魔法薬の臭いを嗅いで、弦はそれがどんな薬であるかを見抜いてしまった。

 

 まあ、言いふらすようなことはしないけれども。

 

 

 

 

 

 夕方になってテリーたちが戻ってきた。悪戯グッズは買っていないが、それでも魔法界らしい商品ばかりだ。文字が躍る便箋に、色が変わっていくインク。紙の上に置いたときだけ重くなる文鎮。花の香りがする青紫色の封蝋用の蝋。思い浮かべた模様をそのまま刻み込んでくれる印璽(ただし一回使うと模様はそれで固定される)。きらきらと光の入る角度によって色の変わるガラスのペン。

 

 よく手紙を書いているのを見てこれだけのものを集めてくれたのだろう。うん、いいね。

「ありがとう」

「ユヅル、今年は結構手紙書いてるからさ」

「まあ便箋とインクはジョークグッズだけど」

「封蝋と印璽とペンはいいだろう?」

「ふふ、そうだね。便箋とインクは叔父家族にでも使うよ」

 

 さて広間に行こうかとなったところで、弦は声をかけられた。見ればノットが立っている。テリーたちは怪訝な顔を隠しもせず、弦はただその真意を見定めるために黙ったまま。そんな四人の目の前、正確に言えば弦の目の前で膝をついた。まるで騎士のように。

 

「特急で助けてもらったのに、しっかりと礼が言えなかった。すまない。そしてありがとう。あのとき、俺は君に救われた」

 すっと差し出されたのは正方形の箱だった。綺麗に包装され青紫のリボンで飾り付けられている。その色は弦と、そして目の前の少年の目と同じ色だ。

「確かに命を助けられた。君には俺を従える権利がある」

 

 俺の忠誠を君に捧げよう。

 

 すっと胸に手をあてて頭を垂れたノット。すごく様になっている。様になってはいるが、されている方はたまったもんじゃない。

 弦の表情が死んでいることに気が付いたのか、テリーがノットの頭を叩いた。マイケルが彼を立たせ、アンソニーが弦の肩を抱いて広間の方へ押し出す。

 

「ユヅル。とにかくちょっと座ろうか。そんなこの世の終わりみたいな顔しなくていいから」

「おいノット。うちの主席の頭をパーンさせるんじゃねーよ」

「そうだぞ。ショックのあまり引きこもったらどうするんだ。引きこもったら二度と出てこないぞ、あいつは」

「何かおかしなことを言ったか?」

「駄目だこいつ天然だ!」

「……ちょっとお前もこい。落ち着いて話せばわかる。きっと」

 

 レイブンクローのテーブルに座った途端、鞄の中から調剤道具を取り出して無心に何かをすりつぶし始める弦。ただただ無表情でゴリゴリとしている。そしてそれにいくつか加えると、水と何かの薬草が入った瓶の中に粉をいれて蓋をし振る。しっかり混ざったことを確認したら、蓋を取り換えた。いくつか穴があいているものだ。その上から薄手の布をかぶせて紐で縛る。

 

 ほわんと心地の良い臭いが弦たちを包み込んだ。嗅いでいるだけでリラックスできる香りだ。

「ユヅル、これは?」

「……鎮静作用のある薬草に、リラックス作用のある木の実と臭いのバランスをとってくれる花を乾燥させたものを混ぜた。中にそのままいれた植物は水を浄化し続けてくれる水草だから汚れとかを取り除いて効果期間を伸ばしてくれる。即席リラックスフレグランス」

 状況を受け止める前に自分の心を落ち着けさせた弦は道具を片付け、ちゃっかり隣に座っているノットを見る。

 

「それで、あなたは何がしたいの?」

「ユヅルの傍にいたい」

「……」

「ユヅルが黙るのって珍しいよね」

「あれは黙るだろう」

「おい、ユヅル。しっかりしろ」

 ノットの言葉に嘘はないのだろう。目に揺らぎはない。

 

「さっき行ってた忠誠っていうのはいらない」

「なら友達で」

「切り替え早っ!」

「最初からそう言えばいいだろう……」

「無理難題を押し付ければ次の条件は受け入れやすいかと思って」

「うわあ……こういうところスリザリン生って感じだね」

 一気に脱力した様子の弦たちにノットは首を傾げた。そんな彼にテリーが言う。

 

「というか、お前いいのか? 俺らと一緒に居ても」

 ノットといえば純血一家。しかも「聖28一族」に連なる家だ。マイケルやアンソニーはまだしも、テリーは半純血だし、弦にいたってはマグルーマル扱いされている。

「かまわない。俺は純血主義じゃないし」

「そうなの?」

「口だけならなんとでも言えるだろ」

 マイケル手厳しいな。しかしノットは別段気にした様子はなかった。

 

「優秀な奴は優秀だし、そうでない奴はそうでない。個人の資質に純血だからとかマグルーマルだからとか関係ないだろう。現に生粋のマグルーマルであるグレンジャーは優秀だ」

 あまりにもスリザリンでは奇特な考えにマイケルたちは驚いているが、弦はそうでもなかった。弦にとってスリザリンの考えこそ嫌悪するべきものであって、ノットの考えは当たり前だと思っていることだ。

 

「俺は思想や歴史を学ぶのは好きだけど差別が好きなわけじゃない。認めるべきところを認めておかないと愚かな人間になるから」

「……」

「だから俺はユヅルの傍にいたい。君は賢いし強いし、何よりその考え方が素晴らしい」

 

「……純粋に友情目的、か?」

「……天然の考えることは恐ろしいな」

「……ユヅルってこういう人達ホイホイ釣り上げそうだよね」

「同感」

 声を揃えるな。

 

「まあ、友達なら……」

「! そうか……よかった」

 ぎゅっと両手を握って微笑するノットは是非ともセオドールと呼んでくれというのでそう呼ぶことにした。あと「ユヅルの友達ならそう呼んでくれてかまわない」と言ったのでテリーたちも名前を呼び合う関係になった。

 

 繋がれた手はテリーが解放し、セオドールはハロウィーンの宴が終わるまで弦の隣にいた。スリザリンでも彼はかなり特殊な立ち位置のようで、スリザリン生は視線を向けてくるものの連れ戻そうとしている者はいなかった。あのマルフォイでさえも。

 スキンシップ過多なのがたまに傷だが、悪い少年ではない。

 

「そういえば」

「?」

「ユヅルと俺は従姉弟関係になるんだけど、知ってた?」

「……はあっ!?」

 衝撃な事実をさらりと落とされ、見事に弦たちは振り回されるのだった。

 

 

 

 

 

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