見える世界が歪んでる   作:藤藍 三色

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第十五章

 

 

 

「いいえ、結構です」

 弦が声を発するのと同時に、レグルスがその身体を一番大きくした。それは成人男性であるスネイプの身長よりも大きい。その口がスネイプの後頭部に位置する姿勢のまま、レグルスは動かない。

「指一本でも動かしたら、頭と胴体がおさらばしてしまうのでお気を付け下さい」

 

 弦が室内に踏み込めば、そこは混とんとしていた。ロンは怪我をしているし、それをかばうようにハーマイオニーが傍にひかえている。ハリーはスネイプと対峙していたし、ルーピンは縄で縛られていた。そしてシリウス・ブラックもまた縛られ床に転がされていた。

「はい、失礼」

 テリーがスネイプの手にある彼の杖をとった。

 

「ブート、貴様……!」

「睨まないでくださいよ。今、先生に動かれると都合が悪いだけですって」

 スネイプの地を這うような声も射殺さんばかりの睨みもテリーには訊かない。その杖をもったまま、テリーはスネイプから身を引いた。そして自分の杖でルーピンを縛る縄をほどく。

 

 その間に弦はロンたちの傍に寄った。脚の怪我を見るためにズボンを膝までまくり上げ、光をあてて傷口を観察した。

「ユヅル、私達、あの」

「いいよ。だいたい状況はわかってる。まずはロンの治療が先だ」

 獣に噛まれたような傷口をまず綺麗に洗い、細菌を殺す薬をかけてから止血用の塗り薬を塗る。布をあてて包帯を巻き、ロンに丸薬と水の入ったコップを渡した。

 

「痛み止めだ。丸飲みしろ」

「これを?」

「なんだ。苦い魔法薬を飲むのは嫌だろう?」

「わ、わかった」

 

 黒い丸薬を飲み干すところを見届けてから振り向くと、テリーが椅子にスネイプをくっつけているところだった。辛うじて両腕は動くようだが、杖はテリーにとられたままだし、何より傍にはレグルスが備えている。

 

「テリー……何してんの」

「いや、いつまでも立たせとくのもあれじゃん。レグルスも疲れるだろうし、ならいっそのこと椅子とくっつけて動けなくさせたほうがさ」

「やるなら保険に縄も巻き付けなきゃ駄目だろう」

「そっち!?」

 

 ハリーの声を無視して弦は杖を動かしてスネイプの胴体と椅子を一緒に縛った。

 さて、と弦はロンが丸薬を飲むためにハーマイオニーの手の中に移動したスキャバーズを見る。鼠は必死にもがいており逃げ出そうとしているようだ。その手の指が一本欠けているのを見て、弦はハーマイオニーに笑いかけた。

 

「ハーマイオニー。ここに丁度いい籠があるからスキャバーズをいれておくといい」

 彼女は素直に従った。網目の細かい籠の蓋を開けるとその中にスキャバーズをいれた。素早く蓋を閉めて弦は言う。

「ピーター・ペティグリュー、捕まえた」

 

 その瞬間、籠を封印術が覆い尽くした。これで蓋は弦が良いというまで外れず、さらに中では魔法はいっさい使えなくなっている。それすなわち、ペティグリューは外に出れないということだ。

 籠を持った弦をテリー以外の全員が驚きの目で凝視する。弦はそれに気が付いて「とりあえず」と口を開いた。

「ゆっくりお茶しながら話すか」

 

 

 

 

 

 

 

 テリーが汚い床を魔法で少しばかり綺麗にし、やはり魔法でまっさらに近く綺麗にされた絨毯を弦が広げた。その中央につくった軽食と缶詰クッキー、そして人数分の紅茶を並べる。スネイプは椅子に座っているのでテリーがテーブルをその横におき、その上にクッキーと紅茶の入ったカップをおいた。

 

「それで、どこまで聞いたんだ?」

 弦の問いかけにハリーたちは答えあぐねている。上手く説明できるまで待っておこうと思ってすぐ、ルーピンがチョコチップクッキーに手を伸ばすのが見えた。

「ルーピン先生ストップ」

「え?」

「先生はこれ飲んでからじゃないと紅茶にもお菓子にも手をつけないでください」

 

 鞄の中から瓶を取り出してルーピンの傍に置いた。テリーも思い出したのか「あ、それ」と言う。

「それは?」

 ハリーが首を傾げるので弦はさらりと答えた。

「脱狼薬。先生の部屋に置きっぱなしにされてたからもってきた」

 それはさらなる衝撃を生んだようだった。

 

「ユヅル、気付いてたの!?」

「ハーマイオニーだけだと思ってたのに!」

「ハーマイオニーも気付いたのか」

「ええ。私はスネイプ先生が人狼のレポートを課題に出し時とからだけど、あなたは?」

「スネイプ先生がルーピン先生に薬を持ってきた時だな。あれはハロウィーンのときか。臭いで分かった」

「君の鼻どうなってるの……」

「薬に関しては判別がつくくらいには優秀なつもりだ」

 

 これにはスネイプも驚いたようだ。

「別に言いふらす気はなかった。ただ今回の一連のことを考えるに当たってテリーたちには話したけど」

「先生が人狼じゃなかったら説明がつかないことがいくつかあったもんな」

 人狼と聞いても怯えた様子のない二人にロンが「君達、怖くないの!?」と言った。テリーはクッキーを手に取る。

 

「べーつーにー。俺らに被害があるわけじゃないし。ただ生き抜くいだろうなぁとは思った」

「ルーピン先生は早くその薬飲んでくれませんか。今日は満月ですよ」

 満月と言う言葉にルーピンは素早く瓶の中身を煽った。全て飲み干したあとその味に顔をしかめている。口直しに今度こそチョコチップクッキーを手に取った。

 

「満月って、危ないんじゃ……」

「最終手段は考えてるから大丈夫だ」

「それってルーピン先生をどうにかするってことじゃないよね……?」

 ハリーの怖々とした物言いに弦は「失礼な」と眉をよせる。

 

「雨を降らせるんだよ。空を雲で覆ってしまえば満月を見ることはないだろう」

「できるの?」

「なんなら嵐を呼んでやろうか? 言っとくけど制御が難しいからかなりひどいの呼ぶ自信あるぞ」

 天候を操るのはひどく難しいのだ。雨の度合いを細かく制御することはまだできない。

 

「とにかく、三人ともルーピン先生が人狼であることは聞いたわけだ」

「あ、そうだった」

 ハリーたちは落ち着いたようで、ハリーが代表して何があったか話してくれた。

 

 ハグリッドの元へいったあと、三人はハグリッドの家にいたスキャバーズをつれて城に戻ろうとした。しかしそこでスキャバーズはロンの手から脱走。再び捕まえたところに黒い大きな犬が襲いかかかってきた。犬はロンの足を噛んでいずこかへ引きずっていく。それを追いかけたハリーとハーマイオニーは暴れ柳に苦戦しつつもこの叫びの屋敷に辿り着いた。そこでその犬がブラックだということを知り、さらにルーピンが追いついてきてブラックの味方だということを知る。そこへスネイプが乱入したと言う事だった。

 

「成程」

「うわ、俺らの推理もしかして大当たり?」

「そうなったな」

「推理?」

 ハリーたちが首を傾げるので、簡潔に弦は軽食を食べている痩せ細ったシリウス・ブラックを示した。

 

「私達、その人が冤罪だと推理したんだ」

「はあ!?」

 揃って声をあげる三人と驚く大人たち。弦は続ける。

「順を追って話す。夏休みの時にハリーが漏れ鍋に保護されていただろう」

「う、うん」

 

「そのときにただの魔法使いの家出にしてはハリーの待遇が良すぎると思ったんだ。私には魔法省が法律を曲げてまでハリーをホグワーツに戻したいように見えた。そこでシリウス・ブラック脱獄の話を聞いて、納得した。ブラック家は純血主義で有名だからな。そのときは闇側の人間が脱獄したんだろうと思った。闇側の魔法使いは言うならば闇の帝王の配下だ。アズカバンを脱獄するくらいだから、ハリーを狙うだろうと考えた」

 

 だがそれにしてはハリーの扱いがおかしい。マグルの家にいてもブラックがその居場所を知るはずないのに、わざわざ漏れ鍋にいるのだ。

 

「なぜそこまでブラックに対して魔法省が警戒しているのかわからなかった。だから調べてみたんだ。それにテリーたちも協力してくれた。マイケルとアンソニーは純血の家の出だからブラック家そのものについて調べ、テリーはシリウス・ブラック個人について調べた。私は脱獄方法に使えそうなものを調べた。それでまずわかったのが、シリウス・ブラックとハリーのお父さんであるジェームズ・ポッターが交友関係にあったんじゃないかと言う事だ」

 

 テリーがそこで一枚の写真を出した。例のクィディッチ選手が集まったものだ。

 

「これ、うちの親父のアルバムにあったヤツ。ここにブラックとポッターにそっくりな男子生徒が肩組んでるだろ。で、その手前にルーピン先生がいる。その横の奴がペティグリューな」

「この写真を見てまずは固有関係を疑った。そしてホグワーツにルーピン先生がきたことで、先生もそうだったんじゃないかと考えたんだ。ただ、ペティグリューに関してはそのときはまだわからなくて、もう一人仲が良い男子生徒がいたという認識だった。あ、ついでにスネイプ先生とハリーのお父さんが仲悪かったって聞いたことあったから、ルーピン先生たちも敵視されてるんだろうなとも思った」

 

 そしてブラックとハリーの父親が同じクディッチ選手であったことはトロフィー室のトロフィーで知ることができ、そこから親友だったという線は濃厚になった。

 

「だからそこで、シリウス・ブラックの人格について考え始めた。ブラック家はかなり強い純血主義をかかげている。マグル排斥派だな。この家に生まれたらホグワーツに入る前からそれなりの思想教育は受けているはずだ。けれどグリフィンドール生だった。このことは家に対する強い反発心の現れじゃないかと思った。だからここで、シリウス・ブラックは純血主義ではないかもしれないと予想をたてた」

 

 そのためジェームズ・ポッターとも友達になれた。

 

「ブラックの経歴を調べるうちに彼が家を勘当されていることや闇払いに勤めていたことがわかった。だけどクリスマス休暇にハリーから話を聞くまで友達であるという確証が得られなかった。さらにいえばなんで闇側についていたのかも。一つ奇妙だったのは、ホグワーツ生だったのにハロウィーンの日にグリフィンドール寮に侵入したことだな。夜の宴会があって生徒はいつもより寮に戻るのが遅いと知っていてもおかしくはない。なのに侵入しようとしたことがひっかかった。日付の感覚がおかしくなっていることや考えなく侵入したことも考えたけれど、もしそうじゃないなら狙いはハリーじゃなくて別の何かじゃないかって」

 

 そして推理を進めていくうちに、十二年前の事件で死んだピーター・ペティグリューという魔法使いのことも気になった。

 

「彼と、写真のもう一人の男子生徒について調べたんだ。そのときはまだこの二人が同一人物だとは思わなかった。死んだピーター・ペティグリューの写真があれば気付いただろうな。でもクリスマス休暇にハリーが教えてくれた話でこの二人が同一人物であることも、ハリーのお父さんと親友であったこともわかった。シリウス・ブラックが『秘密の守り人』だったことも」

 

 その裏切りを知ってハリーはブラックを憎んだ。しかし真実はそうじゃない。

「ハリーのお父さんが親友であるシリウス・ブラックに『秘密の守り人』を定めるのは不自然じゃない。だからこそ、おかしいと思ったんだ」

「え?」

「私が敵なら考えるよ。ポッター家の隠れ家をシリウス・ブラックなら絶対に知っているはずだ。なにせ彼はジェームズ・ポッターの唯一無二の親友なのだから」

 さらにいえばシリウス・ブラックは家に勘当されるくらい闇側に反発心を持っているのだ。

 

「あの当時、『秘密の守り人』という存在はとても重要なものだったはずだ。その人が口を割らなければずっと秘密は守られる。ブラックは狙われただろう。そして敵の意表をつくために『秘密の守り人』にならなかったとしたら? 私たちは本当はそれがピーター・ペティグリューだったんじゃないかと考えた。落ちこぼれだと言われていた彼が大事な守り人だなんて誰も考えない」

 

「そんな……でもそれは全てユヅルたちの勝手な推理だろ!?」

 

「そうだよ。ここでルーピン先生じゃなくペティグリューじゃないかと思ったのはわけがある。一つは彼が動物もどきかもしれないと思いたったからだ。きっかけはルーピン先生が人狼だったことと、アズカバンからの脱獄方法だな。杖が取り上げられている状態で、どうやって脱獄したのか本当に謎だった。でも動物もどきなら杖が無くても変身できるし、魔法省に未登録なら誰もシリウス・ブラックが動物もどきだなんて思わない。そして動物もどきを習得した理由はあった。ルーピン先生だ」

 

 彼が人狼だからこそ、シリウス・ブラックは動物もどきとなった。

 

「人狼は満月の夜に変身し、理性を失って人間に攻撃的になる。それは脱狼薬で少しは抑えられるけど、苦しみは残ってしまう。自分自身をひっかいたりして傷つけてしまうほどの苦しみだ。ただ、変身した人狼は人間でないなら攻撃的にはならない。だから先生の親友であるシリウス・ブラックとハリーのお父さん、そしてピーター・ペティグリューの三人は動物もどきを習得したと考えた。満月の夜に先生と一緒にいても大丈夫なように」

 

 そしてそれが事実なら、あの事件の不可解な点も説明がつく。

 

「私は十二年前のあの事件がとても不自然だった。シリウス・ブラックは裏切り、それをピーター・ペティグリューが追いつめた。しかし彼は小指一本を残して消し飛ばされ、その爆発はマグル十二人を巻き込んだ。おかしいと思わないか? 何故、マグルの通りでそんな大騒ぎを起こしたんだ。死の呪文を使えば、落ちこぼれのペティグリューなんて一発で殺せるのに。ブラックは一番に疑われたから逃げなければならなかった。逃亡中に身を隠すでもなくそんな騒ぎを起こすのはあまりにも不自然だ。そして、ペティグリューが小指一本遺して死んだことも不自然だった。マグルが十二人も殺された爆発だぞ。ペティグリューの身体が粉々になったとして、残された血痕が少なすぎる。逆に言えば、小指といくばくかの血を残して消し飛んだなら周りへの被害が小さすぎる」

 

 もっと大参事になっても良かったのに、それはあまりにもおかしかった。

 

「小指も小指と判別できるくらいに綺麗に残っていたんだろう? 身体の他の部位は全て消し飛ぶくらいの爆発だったのに、あまりにも不自然だ。だから小指だけ切り落として、動物もどきとなって逃げ、ブラックに全ての罪をかぶせたと考える方がとてもしっくりきたんだ。ブラックは冤罪で捕まり、ペティグリューは動物もどきの姿のままウィーズリー家で十二年の間を過ごした。姿を現さなかったのは、現せなかったんだ。ポッター家を襲撃した闇の帝王は倒れ、闇の勢力は衰退した。その原因はペティグリューがポッター家の場所を教えたことだと言われればその命を闇側の連中から狙われる。だから全て死んだことにして自分はいないことになれば、誰にも狙われない。全ての真実を知るシリウス・ブラックがアズカバンでそのまま死んでいれば、ペティグリューは誰にも害されない日々を送ってただろうな」

 

 けれどブラックは脱獄した。

 

「―――というわけだ。最後まで謎だったのはブラックがどうして十二年経った今、脱獄したことだな。最初からペティグリューを狙っていたのなら、居場所がわかったのは何故か、それだけがわからなかった」

「新聞だ」

 弦の疑問に答えたのはブラック本人だった。

 

「日刊預言者新聞でペティグリューが映っているのが見えた。指のかけた鼠がな。アズカバンにきたファッジが持ってきていた新聞をもらったんだ」

「あっ、エジプト旅行の時の!」

 ロンがそう声をあげた。なんでもウィーズリー家は宝くじがあたってその賞金で長男がいるエジプトに旅行に行ったらしい。そのときの家族写真が日刊預言者新聞に掲載されたそうだ。ロンの腕の中にはスキャバーズがいた。

 

「成程。これで繋がった。以上、私たちの推理は終わり」

 紅茶で喉を潤す弦に、ブラックは心底感心したというふうな声色で言った。

「君達の推理はあたっている。十二年前、『秘密の守り人』はピーターだった。私がジェームズにそうするよう言ったんだ。リーマスと私は当時、お互いのことを敵のスパイなのではないかと疑っていた。ピーターしかいないと思ったんだ。しかし奴は裏切った」

 そしてあのマグルの往来で、彼はことを起こした。

 

「全て正解だ。あの日、追いつめたのは私の方だ。しかしピーターは姑息にも小指を切り落として逃げた」

 彼によれば、このホグワーツで犬の姿のブラックを最初に見つけたのがクルックシャンクスだという。彼女は賢く、ブラックの話を聞いてくれた。そしてブラックのために執拗にペティグリューが変身した姿のスキャバーズを追い回し、なんとかブラックのところにつれていこうとしてくれていたらしい。

 

 憎々しげにペティグリューの入った籠を睨むブラックの横で、ルーピンが弦に言った。

「よく、そこまで考えたね。君の推理力には恐れ入ったよ」

「ハリーが狙われているなら他人事はすみませんから。いつも巻き込まれてこっちの命が危なくなる」

 その言葉にハリーは「僕のせいじゃないのに」とこぼすので、弦も「知ってる」と返す。

 

「私は大人の都合に子供が振り回されているのが馬鹿げてると思っただけだ。闇の帝王たった一人の影響でハリーはずっと嫌な目にあう。子供が大人のために命を落とすなんて愚かなことはあってはいけないんだよ。たとえそれが親子でもね。子供のために親が死ぬことは愛かもしれないけれど、親より先に死ぬ子供はただの親不孝ものだ。そして大人のために子供が死ぬような社会は正しいとは言えない」

 

 子供が笑って、健やかに大人になれるまでの環境を人は素晴らしい社会と言うのだ。

 ふとハーマイオニーが疑問を漏らした。

「でも、どうしてペティグリューは寮の部屋でハリーと三年間も一緒だったのに、ハリーを傷つけなかったのかしら?」

 

「さっきも言ったけど、闇側に狙われるからだろうな。闇の帝王が力のない今、闇側についても命が危ないだけだ。自分の居場所がばれるくらいなら、ペティグリューは沈黙を守って自分の命を守ったんだろう。そして闇の帝王が復活したら、真っ先にハリーを殺してそれを手柄に闇側に戻るつもりだった」

 それは当たっているだろう。人の腰巾着ばかりのこの男の考えそうなことである。

 

「ただ、そうしても闇の帝王に殺されるだろうな。去年のトム・リドルの様子をみるにそれで間違いない。ハリーは自分の手で殺したいと考えるような奴だ。ペティグリューが戻ったとしても、もう用済みだと言われて始末されそうだ。いつ裏切るかわかったものじゃないし」

 結局のところ、ペティグリューに安息の日など来ないだろう。死ぬその直前まで、強大な力に怯えて生きる。

 

「積み重ねた業が深すぎる。断言しても良い。ピーター・ペティグリューはろくな死に方をしないだろう。巡り巡って、全部自分に返ってくる」

 愚かで可哀そうな人だ。こんな生き方しかできないなんて。

 そう言ってとんとんと弦は籠を指で叩いた。

 

「これは私がペティグリューの名前をフルネームで言って『解放する』と言うまで開かない。それにすべての魔法が無効化されているから、動物もどきの姿も解けているだろう。ダンブルドアの前で出したら、冤罪もとけて真犯人のこいつはアズカバン行きだな」

 その言葉にハリーも頷いた。

 

「うん。真相は白日のもとにさらさないと。僕の両親が殺される原因をつくったのがこの人なら、魔法省につきだしてアズカバンに行ってもらう。僕はそれがいい」

 ハリーの言葉に、ブラックは「本当にそれでいいのか?」と何度も問いかけた。けれども絶対にそこは譲らないと言うハリーに折れて、ブラックもそれに同意する。

「ユヅル。これでいいんだよね?」

 確かめるようなハリーの問いかけに、弦はしっかり頷いて見せた。

 

「君は正しい。十分だ。よく頑張った」

「うん……」

 涙をにじませるハリーの頭を軽くぽんぽんと叩き、それから「そういえば」と言った。

 

「バックピーク、処刑されてないぞ」

「えっ!?」

「本当!?」

「どうやって!?」

 途端に食いついた三人にテリーと二人で笑った。

 

「君らがハグリッドの小屋を出てすぐに逃がしたんだ。私とテリー、マイケル、アンソニー、そしてセオドールとマルフォイの六人で協力して。体毛の色をかえて放牧場の群れの中にまぎれこませてる。叔父に頼んで、あともう一頭と一緒に譲ってもらうつもりだ。そのまま日本に送って、そこで面倒を見てくれる人に渡す。稀少な魔法生物たちを集めて絶滅しないよう世話をしている人だから安心してまかせられる。ちょうどペティグリュー捕縛に一役買ってるし、ダンブルドアも了承してくれるだろう」

 

「やった!」

 喜んで手を叩きあう三人。他の四人にお礼を言わなくちゃとはしゃぐ彼らに「内密にしろよ」と言っておいた。

 

 

 

 

 






 誤字報告がありました。ありがとうございます。
×ジェームズ・ブラック
○ジェームズ・ポッター
 失礼しました。
 これからもよろしくお願いします。

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