機動戦史マヴラヴHardLuck   作:赤狼一号

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第六章 邂逅

 

 

―――ジオン公国軍 アプサラス開発基地 第一会議室

 

 

 それなりの広さのある室内でパイパーの声だけが響く。頑丈な大机をはさんでギニアス・サハリン少将とノリス・パッカード大佐が神妙な面持ちで彼の話を聞いている。

 

「…連邦の基地に捕虜収容所がありまして、どうやらオデッサや欧州撤退の際の捕虜を後送して収容していたようです。この捕虜は襲撃時に救出しました。今は艦隊に分乗させています。その後、基地跡へと降下、ノリス大佐からの救援要請を受信し、この基地へと展開したわけです」 

 

 話し終えると、パイパーは革張りの椅子に腰掛けた。合皮と頑丈な金属フレームで構成された椅子が僅かにきしむ。隣のマ・クベ中佐が僅かにこちらを見る。黙って話を聞いていたギニアス少将が、静かにため息を漏らす。

 

「なるほど、委細は承知した」

 

 線の細い男だが、目の奥に深い覚悟の光が見える。元の世界に居た時聞いた話とだいぶ印象が違うな、とパイパー大佐は少しだけ感心した。

 

「まず、大佐には救援の礼を言わねばならんな。ありがとう大佐」

 

「閣下!?」

 

 ギニアス少将が深々と頭を下げた。傍らのノリス大佐が驚いたような顔で少将を見る。

 

「自分は公国軍人としての義務を果たしたまでです。頭をお挙げください」

 

 あわてて、頭を上げるように促す。顔を上げたギニアスが柔和に笑った。どこか深みのある笑み、これはいよいよ面白い相手だ。

 

「では、今後のことについてだが…その前に一つ確認したいのだが」

 

 来たな、と内心で唸ってパイパーは表情を引き締める。ここで押されて部隊を統合されでもしたらたまらない。隣のマ・クベは黙って事の推移を見守っている。

 

「その、本当にマ・クベ中将は中佐になられたのですか?」

 

 ギニアスが複雑な表情で尋ねる。なんだか肩透かしを食らった気分だが、無理もあるまい。彼らの認識では今の今まで地球侵攻軍司令官で中将、つまり上官なのだ。お互いに同じ事を危惧していたことに気づいて、パイパーは腹の中で苦笑した。

 

「…事実です。マ・クベ中佐は私の部隊で中隊を指揮しております」

 

 ノリス大佐とギニアス少将がいっそう驚いた顔をする。将官から佐官への降格、それも4階級降格など前代未聞も良いところだ。

 そのうえ地球侵攻の拠点であったオデッサが陥落したことを突然聞かされたのだから、寝耳に水どころか浦島太郎の気分だろう。

 

「それでは本当にオデッサが陥落したのですね…」

 

 ギニアス少将の顔が暗くなった。

 

「マ・クベ中佐。欧州軍のユーリ・ケラーネ少将はどうなったかご存知ですか?」

 

 話をふられたマ・クベは静かにうなずいた。

 

「私に敬語は必要ありませんよ閣下。ケラーネ少将は閣下のご友人でしたね」

 

「!? 何故それを?」

 

「アプサラス開発基地が消失した際に、私のところへ救助隊を出す許可を求めてきたのがケラーネ少将です。合理思考の彼にしては珍しく少し感情的でした」

 

「……ケラーネが、ですか?」

 

「ええ、無論私は許可しませんでした。オデッサへの侵攻が予測され、予断許さぬ状況でしたから。その後、オデッサに対する連邦の侵攻が始まり、私の手抜かりで陥落まで追い込まれ後退戦の途中、欧州軍へ撤退命令をだしました。撤退には難儀したようですがケラーネ少将は無事にキャリフォルニアベースへ撤退したようです」

 

 マ・クベ淡々とオデッサ陥落を自分の責任と言うが、これに関してはパイパーには異論があった。連邦のオデッサ作戦を察知していながら、オデッサを見切ったのは上層部の判断だ。むしろ、残存部隊を率いた壮絶な後退戦は賞賛に値する。

 だからこそ、この男を直属部隊ごと貰い受けたのだ。バウアーに泣きつかれたのが最初とは言え良い買い物だったと思っている。

 

「そうです…いや、そうか」

 

 ギニアスがほっとしたような顔になる。すぐに表情を引き締めてこちらに向き直った。

 

「それで、大佐。今後のことだが…」

 

「初めに断っておきますが我々は特殊部隊です。性質上、任務遂行を最優先せねばなりません。したがって、指揮下に入ることは出来かねます」

 

 出来るだけ穏やかな調子で先手を打つ。

すると、相手は以外にあっさりとうなずいた。

 

「理解している。それに、当基地では君たちに命令できる階級のものは居ないから安心していい」

 

 ギニアスは少将という階級であるが「技術将校」である。つまり、整備や補給など直接戦闘に関わらない者達には指揮権があるが、MS部隊や歩兵部隊など直接戦闘に関わる部隊には、直接的な指揮権は無い。

 アプサラス開発基地での戦闘の責任者はノリス大佐であり、もし第600機動降下猟兵大隊が基地に派遣された部隊なら、先任のノリスに指揮権が無いことも無いが、それでも難しい(特殊部隊はその性格上、指揮系統が作戦司令部直属である)。それ以前に彼らの任務は「基地のあった場所の調査と確保」であり、基地に派遣されているわけではない。

 かと言って、補給などを依存する以上、無下に扱うわけにも行かない。非常に微妙な立場なのである。そこをギニアスは譲歩しくれるつもりらしい。

 

(いかんな、仲間同士で腹の探りあいのようなマネをするのは……)

 

 いつの間にか、謀略じみたやり取りをしようとしていた自分を恥じた。特殊部隊の隊長などをやってると、政治も考えざるを得ないのが嫌なところだ。特殊部隊は蛮勇と機知、相反する双方を要求されるのである。

 

「我が部隊はこの基地を拠点として活動することになります。確保も部隊の任務に入っているので、そこに関してはお力になれるかと」

 

 こちらの条件を提示すると、ギニアスは鷹揚に受け入れてくれた。

 

「それで十分だ、大佐。それで我が基地の方なんだが、現在進行中のアプサラス計画を一次凍結する。補給がいつあるか分らない以上、資源は大切に使いたい。MSの補給と修理、改修に全力を注ぐつもりだ。いつあの化け物どもがまた現れるか分らないからな」

 

「ギニアス様!?」

 

ノリス大佐が驚いたような声を上げる。

 

「ノリス。今はアプサラスよりもこの世界でどう生き残るかを考えねばならない。それくらいは私も分っているさ」

 

 穏やかに笑う。ノリス大佐が誇らしげにギニアスを見る。まるで息子を見る父親のような目だ。

 特殊部隊の指揮官でなければ、俺もすぐさま指揮下に入ったろうな、とパイパーは胸のうちで苦笑した。

 

「ところでギニアス閣下、一つお願いがあるのですが」

 

「何でしょうか?」

 

「先ほどお話した我が軍の兵士ですが、この基地で引き取っていただけないでしょうか?」

 

 ギニアス少将が難しい顔になる。仕方が無い。資源が限られている以上、安請け合いは出来ない話だ。

 

「数はどのくらいか?」

 

「失礼しました。約120名ほどです」

 

「120名? かなりの規模のように思っていたが、意外に少ないな」

 

 救出した捕虜の姿を思い出し、パイパーは少し顔をしかめた。

 

「相当、劣悪な環境だったようです。食糧事情は悪く、衛生状態は最悪。虐待が横行しゲリラが頻繁に捕虜を撃ちに来ていたようです。裏では引渡しもあったとか。救出した者たちも新たに送られてきた連中がほとんどです」

 

 南極条約には捕虜取り扱いに関しても一応条約はある。しかし、連邦側がそれを守ることは稀だった。一般捕虜(将官以下の下士官や兵)に対する虐待や殺害などは枚挙に暇が無い。尋問と称して拷問を行うことも日常茶飯事だった。

 もっともジオン側においても事情は対して変わらなかった。反乱の防止のため、基本的には抑止される傾向にあったが、地球連邦政府に散々煮え湯を飲まされた記憶はぬぐい難いものがあるのだろう。

 互いに、相手の人権を軽視する。本来が殺し合い、相食んで生きていく生き物の性を考えれば、仕方のない事のようにも思える。もっとも連邦側においては宇宙移民に対する差別意識がそれを加速させていたことは疑いようの無い事実だった。

 

「話には聞いたが、それ程とは……」

 

 ノリス大佐が唖然とした表情でこぼした。ギニアス少将は黙って目を伏せている。

 

「……パイパー大佐、要請は承諾した。彼らのことは我が基地で面倒を見る。医者が必要なものはいるかね」

 

「衰弱しているものもおりますが、伝染病等は大丈夫です。閣下よろしくお願いします」

 

 パイパー大佐は深く頭を下げた。ギニアスの穏やかな笑みが、今は何よりも温かかった。

 

「それで、これからのことですが…マ・クベ中佐」

 

 マ・クベに目配せする。マ・クベは黙って頷くと、静かに立ち上がった。

 

 

 

 

 

 出来るだけ丁寧にマ・クベはこれまでの経緯を説明した。この基地に来るまでの事、彼らの任務。そして、この基地の人間が戦時行方不明と判定されていることなどである。

 

「尋問によって得た情報を総合しますと、我々は現在、BETAと呼ばれる敵性生物の巣である地下茎構造物内に居るようです。現在これを国連軍・米軍・日本帝国軍が攻略中であり…」

 

「中佐、一つ確認してよろしいか」

 

 ノリス大佐が話をさえぎる。

 

「何でしょうか?」

 

「自分の記憶違いかも知れんが、我々の世界では1945年に第二次世界大戦が終結してから、『帝国』はなくなったはずだが?」

 

「ええ、ごもっともな疑問です。つまり、この世界は我々の世界とは微妙に異なる平行世界と考えた方が良いでしょう」

 

 意外なことにノリス大佐は興味深そうな顔をした。

本当に使い古されたSF小説のような話だが、あの化け物や戦術機とか言うMSもどきを見た以上、ある意味疑問の余地の無い結論である。

だが、小説よりも奇なる現実を突きつけられては、大概の人間はそれを受け入れにくいものだ。

 

「なるほど、了解した。話を続けてくれ」

 

 これで納得したふりをしているのなら、そうとう狸だな、とマ・クベは思った。だが、当の本人は見るからに実直そうな人間である(これは駆け引きを知らないほど、単純だと言う意味ではない)。

 

「では続けます。多少の違いはあるものの、資本主義陣営と共産主義陣営の対立や一部覇権国家による国連の形骸化などの問題は変わらないようです。ここで問題になるのは敵側の戦力です。戦術機なる相手側のMSは機動性こそ脅威ですが、総合性能ではザクにも劣ります。戦い方さえ間違えなければ、脅威にはならないはずです」

 

 そこで、いったん言葉を切ると、マ・クベは資料をめくるように促した。

 

「……ですが、彼らにはG弾と呼ばれる戦略兵器があります。これは5次元効果爆弾と呼ばれ、最近、実用化されたばかりの兵器のようですが……効果範囲内の破壊力は核など問題になりません」

 

「つまり、最大の脅威は米国と言うわけだな」

 

「その通りです」

 

 『アメリカ合衆国』こちらの世界においても地球連邦の主体となった国家である。南米ジャブローに連邦軍の本部があるのも宇宙世紀の公用語が英語なのも、このあたりに理由があるのだろう。つまり、何処に行っても嫌な奴は嫌なままというわけだ。

 

「ですが、最大の脅威は我々が敵地にあると言うことです。BETAに加え、この世界の人類と二正面作戦を強いられれば、補給のあてのない我々に勝ち目はありません。ですから、彼らとは政治的に渡りをつける必要があります」

 

 その場に緊迫した空気が流れる。ギニアス少将が問いを発した。

 

「もし、彼らが我々との交渉を望まなければどうする」

 

「現状から鑑みるに、その可能性は薄いものと思われます。無尽蔵の物量、突出した威力のある兵器も無く、被害ばかりが大きくなっていく。人類に兵なし、という現状で我々ほどの戦力を無碍にするとは思えません」

 

 だが、それゆえに使い潰される可能性はある。だからこそ、交渉と恫喝を駆使しでも彼らを守り抜かねばならない。

 

「……けだし耳の痛い話だな」

 

 傍らに座っていたパイパー大佐が、ぼそりと呟いた。恐らく、この場にいる誰もが、同じ感想をもったことだろう。ジオンが直面している現状は、さして変わらないものだった。

 

「彼らは追い詰められています。である以上、常識外れの技術力を持つ我々を地下空洞ごと吹き飛ばすほど愚かではないでしょう」

 

「もし、彼らが力ずくで我々の技術や資材を奪いに来たらどうする」

 

 ノリス大佐が厳しい顔で言う。

 

「ええ、その可能性は十分にあります。我々の戦力がいかに優れていようと物量で押し切ることも可能でしょう…」

 

 そこまで言って、一度言葉を切った。その場に居る者達は、皆一様に深刻な表情をしている。

 

「ですが、我々はそこまで神の子羊(お人好し)になる必要がありますかな?」

 

「どういう意味だね中佐?」

 

 ギニアス少将が怪訝そうな顔をする。

 

「あちらには兵器があり、こちらには『優れた』兵器がある。要はあちらの出かた次第ということです」

 

 怜悧な顔に浮かぶのは鋭い笑み。

この日、マ・クベ中佐はアプサラス開発基地外交アドバイザーとして任命された。ジオン最強の策士と謳われた男がその牙を剥いたのである。

 「横浜の女狐」と呼ばれた香月夕呼が生涯、ただ一人の好敵手(ライバル)とした男。後に「横浜の毒蛇」と呼ばれるその男はその日、静かにとぐろを巻いた。

 

 

 

 

 

 

――― 1999年8月 横浜ハイブ第4中央区画

 

一機の旧ザクがコンテナから取り出した岩を設置した。岩に擬装した熱探知センサーで、音響探知機もかねている。

頭部のブレードアンテナが、そのザクが指揮官機であることを表していた。

 

「設置完了。デル、そっちはどうだ?」

 

 小隊長であるトップ少尉が部下に向けて、回線を開いた。

 

《こちらもソナー設置と擬装を終わらせました》

 

 正式にアプサラス開発基地防衛隊へと編入されたトップの小隊は敵の侵攻を察知する為の警戒線を構築していた。

 

「アス! あんたの方は終わったかい」

 

《そんなに大声出さなくても聞こえますよ、トップ隊長殿》

 

不貞腐れたような声が返ってくる。トップは通信を切ると、浅くため息をついた。デルとアスは欧州軍時代からの部下だ。特にデルとは付き合いが長く、ベテラン軍人で頼れる部下だ。郷里に妻子を残しているらしい。

問題はアスの方だ、まだ未熟なわりに何かと反抗的で、女だてらに小隊長をやっている自分が気に入らないらしい。

 

《たく、何で俺がこんな旧式に…》

 

ぼやきが無線から入ってくる。まったく、せめて回線を閉じろ、とトップは顔をしかめた。

 

「アス、愚痴をこぼすのはそれぐらいにしときな。あたしらは居候なんだ。贅沢は言えないだろ」

 

 もっとも、旧ザクを好んで使っていたトップからすれば、不満を持つ理由が良くわからなかった。腕の悪いものほど良い機体を欲しがると言うが…。欧州からの撤退中に連邦に捕獲され、極東収容所で死に掛けていたところを救出された上に、MSまで与えられたのだ。文句など言える立場ではない。

 

《ザクⅠはいい機体だぞ。機動が素直で扱いやすい》

 

 中隊長機のドムが通信に割り込んでくる。

 

「び、ヴィットマン大尉!? し、失礼しました」

 

《良いさ。それより、お客さんだ。高速接近中の熱源多数。こりゃ大隊規模だな》

 

 熱センサーに多数の光点が映し出される。これが、特殊部隊の連中が遭遇したという謎のMSか、トップの手にじわじわと汗がにじむ。ヴィットマンの部隊は中隊程度の頭数しかない。これはまったく不利だ。

 

「どうしますか? 大尉」

 

《あせるなよ、お嬢さん。一度、単坑に後退しよう》

 

「り、了解…」

 

 ヴィットマンが軽い調子で言う。数倍の戦力で侵攻されているというのにまったく動じてないようだ。

 お嬢さん呼ばわりなどされると、いつもは馬鹿にする気かと身構えるのだが、ヴィットマンに言われると不思議と不快には感じない。

 

《ヴォル、本部へ伝令。通信可能域まで無線封止》

 

《了解しました》

 

 バルタザール・ヴォル少尉はヴィットマン中隊の中隊副官であり、先の基地防衛戦で戦闘不能に陥るも、ドムの重装甲によって命拾いした男である。基地では「不死身のヴォル」のあだ名で呼ばれている。

 

 ヴォルのドムが踵を返す。熱核ジェットとバーニアを使用しているので、敵に発見されたかもしれない。

だからどうした、とトップは表情を引き締める。連邦に貰った借りを奴らに返してやれば良い。

 

「デル! アス! 先に行け」

 

 アス機はわき目も振らず、単坑へ飛び込んでいく。

 

《隊長はどうするので?》

 

デル機から通信が入る。トップは鷹揚に笑みを浮かべた。

 

「私はお前らの後だ」

 

《了解です》

 

 デルの旧ザクが、アスの後を追う。

 

「よし、行ったな…」

 

トップの旧ザクが素早くマシンガンをつかむ。坑道に向き直ると、一機のドムが傍らに立っている。ドムの右手がこちらの肩に乗る。接触回線だ。

 

《ヴィットマン大尉だ。他の連中もちゃんと引いたな。トップ少尉、俺とロッテ(二機編隊)だ。退くぞ》

 

「了解しました! …光栄です」

 

ヴィットマンと共に早足で単坑内に飛び込む。トップの硬い表情が少しだけ和らいだ。

 

 

 

 

 

「ヴァルキリー1よりCP! F層中枢区画に到達」

 

《了解…そのまま会敵ポイント…進んでくださ……》

 

 頻繁に砂嵐の混じる通信機に、伊隅みちるは心の中で舌を打った。

広大な地下空間へと展開したA01部隊。その隊長たる彼女は緊張とプレッシャーで押しつぶされそうになっていた。ハイブ内の戦闘はほぼ収束しており、BETAはほとんど佐渡島方面へ撤退したはずだ。

 

ならば先行した部隊を壊滅させた「鬼」とは一体何なのだ……?

 

 そんな疑問が彼女の頭から離れなかった。ふと、青白い光の柱が目に入る。みちるはわざと指向索敵の範囲から外した。最後の通信が事実ならあそこには脳だけになった人間が納められているはずだ。そんなものに目を奪われていては、謎の敵とやらに遅れを取る。

 色々と自分を偽っては見ても、とどのつまり見たくないだけだった。人間が人間であることを否定されるような風景は誰だって好きではない。

 

《前方約3000に感あり、単坑に入りました》

 

「よし、追うぞ! 全員NOEで追尾!!」

 

 網膜投影で敵影が表示される。不知火のジャンプユニットに点火、高速巡航で敵影を追う。

 

罠かも知れない…。

 

 暗い不安が彼女の心の中に広がる。大隊規模の不知火なら不測の事態にも対処できる。いや、して見せる。自分の頬を軽く叩いて気合を入れなおした。

 

「全員油断するな! 何が待ち受けているか分らんぞ!」

 

暗い単坑を一筋の光を追って、駆け抜ける。CPからの通信が途切れ途切れになった。

 ながい単坑が途切れると、目の前に広大な空間が広がる。

 

「な、な、な、な、なんなのよぉぉぉぉぉ!!」

 

《ヴァルキリー1…どうしま…た…応答してください!!》

 

彼女はその光景を後になってこう語ったと言う。

 

「トンネルを抜ければ、そこは異郷の基地でした」

 

 

 

 

目の前に広がる広大な空間、青白い燐光の中ライトアップされた施設が見える。

 

「そんな、ありえない!? ハイブの中に基地なんて!!」

 

《こちらCP…状況…報告……》

 

凄まじい砂嵐で通信が途絶える。どうやら強力なジャミングがけられているらしい。

見慣れない戦術機の一団が近づいてくる。先頭を行くのは青い機体。不気味な単眼に、肩のアーマーには太いスパイク、左腕の盾には巨大な機関砲が据えられている。

 青い機体の単眼が一定の速度で明滅する。

 

「これは……モールス信号? わ、れ、は、敵、に、あ、ら、じ? 味方、なのか…!?」

 

 青い機体が一機だけ突出して止まると、右手を差し出した。握手を求めているようにも見える。

 

《隊長、どうしますか?》

 

「皆、絶対に手を出すなよ」

 

 覚悟を決めて、自分の不知火を前に出す。青い機体の差し出した手を握った。

通信機から、妙ななまりのある英語が聞こえてくる。

 

《こちらは、基地防衛隊司令のノリス・パッカード大佐である。そちらの司令官と話しがしたい》

 

「私は、国連軍の伊隅みちる大尉です。そちらの所属を教えて戴けますか?」

 

《現時点では、それは出来ない。だが、我々は敵ではない。これはその証拠だ》

 

 一台のトラックがこちらに進んでくる。トラックから人影が駆け下りる。光学センサーを望遠にした伊隅は、自分の目を疑った。

 

「鳴海少尉!? 生きていたのか!!」

 

 数日前にMIA判定されていたはずだ。まったくもって信じられない。自分の声が震えていることに気づいた。

 

「我々より先に突入した部隊がいたはずですが」

 

《双方の不幸な勘違いから戦闘に至ったが、彼らは皆生きている。我々の要求を受け入れてもらえるかな?》

 

「こ、CPと連絡とりたいのですが、そのジャミングを…」

 

《失礼した。どうやら、我々の通信波は強力すぎるらしい》

 

ジャミングが止まった。通信機の出力を最大にしてCPへと繋ぐ。

 

《…ちらCP。…なにがあったんですか? 状況を……》

 

「香月博士に繋いでくれ! 大至急だ!!」

 

 CPをさえぎりながら、さてどのように報告したものかと、伊隅はため息をついた。

 

 

 

 




あとがき

軍人さん紹介

バルタザール・ヴォル少尉
ドイツ軍の元SSのお兄さん。ミハイル・ヴィットマンの砲手をやっていた。ヴィレル・ボカージュの戦いではヴィットマンと共にタイガーエースとなった。本作ではヴィットマンのドム部隊の生き残りで中隊副官です。


 トップ小隊長出しちゃいましたw ああ、物を投げないでください! 08の新のヒロインはトップだ! って思っている私からすると、非常に不遇だと言うこともあり、トップ小隊の方々にも出演していただきました。
基本的に作者の書いてるキャラは小林源文先生の漫画から出しています。資料用で買ったらさらにはまりましたw 小林先生は実はガンダムとも無関係ではなく、ガンダム作品で挿絵だかキャラデザを請け負ったこともあります。ちなみに原作の黒騎士中隊が所属していたという連隊のエンブレムは何気にジオンのものだったりします。
さてさて今回ですが、伊隅大尉しか出てきません。宗像が速瀬や涼宮遥に敬語だったことから、宗像・風間よりも速瀬・涼宮のほうが先任だったはずです。と言うことは……オルタに出てくるA01のメンバーは他に誰も居ないじゃんw 書いてる途中に気づきました。ええ、私は馬鹿です。愚か者です。こんな阿呆ですが、これかも本作品をよろしくお願いします。
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