機動戦史マヴラヴHardLuck   作:赤狼一号

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~ながいことクソッタレの化け物共とばかり戦争をやっていると、大事な事を忘れちまう。「戦争」てのは、本来、人間相手にやるもんだって事さ~

 名も無き衛士の言葉



第十七章 烈火 前編

―――2000年1月1日 ジオン・インダストリー本社

 

 ついに演習当日である。参加する部隊の中隊長以上の要員が参加するブリーフィングは緊張感と興奮がない交ぜになりながら、ヨアヒム・メルダースはその場にいた。

 

「大佐は、自分とロッテを組んでください」

 

 メルダースがそう告げると、ノリス大佐はしっかりと頷いた。

 

「うむ、名高い斬込隊の力、期待している」

 

 そう答えると、ノリス大佐は厳しい表情を少しだけ緩め、ビシッと敬礼を決めてみせた。流石の貫禄に押されて答礼を返すのが遅れてしまう。

 

「こ、光栄であります! 後武運を」

 

 慌てて勢いよく答礼すると、メルダースは早口でまくし立てた。

 

 

 

 

 

 演習開始の時刻が迫っている。自分の筐体に乗り込むと、直ぐに回線を開いた。

 

「本日、中佐は居ない。我々が、本当に『マ・クベ中佐の斬込隊』に相応しいか、それを見ておられるのだ」

 

 淡々と言って、そこで言葉を切った。しばらく間をおいて、意を決したメルダースが良く通る声で言った。

 

「あえて聞くぞ、戦友諸君! 俺たちはなんだ?」

 

≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪斬込中隊でありますっ!≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

 

 声を揃えた答えが返ってくる。どうやら昨日の中佐の激励はまだ聞いているらしい。

 

「中佐に恥をかかせるな。ノリス大佐もいらっしゃるんだ……俺たちの戦争を見せてやるんだ!!」

 

≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪了解!!≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

 

 ひとしきり士気を盛り上げる、メルダースはノリス大佐に繋いだ。

 

 

 

 

 

 

≪大佐、お待たせいたしました≫

 

 メルダース中尉が回線越しに、静かに言う。先ほどとは打って変わって冷静な態度であるのを見ると、なんとなし、本来の指揮官であるマ・クベ中佐に似ていると思わないでもない。良い部下ほど指揮官に似てくるというが、ノリスは心中でひそかに笑みを浮かべ。

 

「いや、いいさ。私も、ああいうのは嫌いじゃない。……そろそろ時間だな。全機起動!!」

 

 目の前に擬似的に構築された外の景色が浮かぶ。あたりを見回すと、基地警備隊の色の斑な中隊と、強襲用黒色迷彩に塗装された斬込隊と黒騎士中隊が続々と立ち上がる。

 核融合炉のうなりまでが、聞こえてくるようだ。

 薄紅色に単眼を光らせて、鋼鉄の巨人たちは、戦争が始まるのを待っているのだ。

 ノリスは大きく息を吸って、吐くと、腹の奥から声を絞り出した。

 

「自分は貴君らの奮戦が疑うべくもない事を、確信する」

 

 短く簡潔に思ったことを言えるのは良い。ノリスは高ぶりつつある自分の心を制しながら、彼らが待ち望んでいるであろう言葉を吐き出した。

 

「全部隊、状況開始!!」

 

 奇跡的なまでに一糸乱れぬ正確さで揃えられた「了解!」の返答と共に、部隊が動く。ノリス率いる斬込中隊と選抜中隊は、敵の鎮圧部隊を引き受ける。バウアー少佐の黒騎士中隊は別働隊だ。

 バウアー少佐専用の特徴的なアクトザクが腕を振り上げると、ザクの小隊がそれに続いた。さすがに一糸乱れぬ見事なもので、それだけでも歴戦の凄みを感じさせる。

 ザク部隊は両肩のシールドと両足のパイロンに3連装ミサイルポッドを着け、手にはグレネードランチャー付のMMP80マシンガン、腰には可能な限りの弾倉をつけている。

 その後ろに、さらに重厚な武装を施したケンプファーが続く。薄闇の中に溶け込んだ黒の一隊はバーニアの光を転々とさせながら配置へと向かった。

 

 それらを見送って、ノリス大佐が貴下の2個中隊に回線を開いた。

 

「……征くぞ!」

 

 付き従う鋼鉄のサイクロプスたちが単眼を光らせた。

 

 

 

―――同 国連軍横浜基地

 

 新年の祝いをする暇もなく管制ユニットに待機中だった孝之に、警報が基地内に鳴り響く。テロ発生を示すコードである。

 横浜基地機密区画でにて新型兵器を奪取したテロリストを鎮圧すべく、第2種戦闘配置が発令。すぐさま第1種戦闘配置が発令された。

 

「演習って言っても、やっぱり緊張するな」

 

 コクピットの中で、鳴海孝之中尉がポツリと呟いた。

 

≪こら鳴海、無駄口を叩くな≫

 

 伊隅大尉から怒られた。どうやら、回線をオープンにしていたらしい。

 

「もうしわけありません」

 

《初恋の相手に会うわけじゃなしに、そう緊張するな》

 

 からかうように割り込んできたのは、碓氷中尉だ。碓氷中尉はいまや大隊規模にまで縮小してしまったA‐01連隊の中隊長の一人であり、果断で沈着冷静な先任である。

 

《鳴海中尉、あんたまさかとは思うけど、そういう趣味があるんじゃないでしょうね?》

 

「速瀬、からかうのか敬意をあらわすのかどちらかにしてくれ。というかお前にそういう呼びかたされると気味が悪い」

 

《孝之いぃぃぃぃぃっっ、あんた覚えておきなさいよ》

 

 いつもの反応に苦笑しながら、孝之はふと懐かしいやりとりだなと思った。

 あれはまだ訓練学校時代。無二の親友である平慎二と同じようなやり取りをして……、「デブジュー」などという不名誉なあだ名をつけて、そんな彼はもういないのだ。

 ふと目頭が熱くなって、孝之はぐっと上を向いて涙をこらえた。今やるべきことは泣くことであはない。

 

「男になるんだ……遥と水月のために」

 

≪た、孝之君?≫

 

≪あ、あ、あ、あんた、なに口走ってんのよ≫

 

 しまった、また口走ってしまった。思ったことを直ぐに口に出すのは、悪い癖だ。

 

≪鳴海、夫婦漫才もたいがいにしておけ≫

 

 伊隅大尉が呆れたように言う。

 

≪め、夫婦って……≫

 

≪大尉っ!!≫

 

 遥かと水月があたふたしながら大尉に抗議する。孝之もきっぱりと答えた。

 

「そうです大尉! 自分は二股をかけるつもりはありません!!」

 

≪……≫

 

 映像回線越しに伊隅大尉が、哀れむような目で孝之を見る。

 

「な、なんですか」

 

 なぜか、気まずい沈黙がしばらく続いた後、碓氷中尉が呆れた声で言った。

 

≪…………阿呆め≫

 

 

 

 その後のブリーフィングで大尉が告げた作戦計画はとてもシンプルなものだった。

 地上に直通するメインシャフトは閉鎖し、基地に駐留する戦術機甲部隊7個大隊とともに、機密区画の地下格納庫から敵が選挙している機密区画最下層へと侵攻、敵部隊を圧倒的な戦力で鎮圧する。まさに王道ともいえる作戦だ。  

 恐らく敵は白兵戦専門部隊による斬り込みで戦列のかく乱を狙ってくるはずだ。敵を遠距離から包囲し、攻撃して徐々に体力を削っていけば、なんとかなるだろう。なんともえげつない作戦だが、背に腹は代えられない。

 この時、俺たちはこれを「演習」だと考えていた。自動設定とはいえ基地駐屯の戦術機部隊7個大隊を投入した演習で少し浮かれていたのかもしれない。

 だが、その時、俺たちの前に立ちふさがった彼らは演習をやるつもりなど毛頭無かった。彼らは「戦争」をやりに来ていたのだ。

 

≪こちらホーネット…納庫へ……入した≫

 

 流石に地下と言う事もあって電波の入りも悪い地上のCP将校が、忙しく部隊の配置を告げる。何せ総数8個大隊も居るのだ。面倒この上ない。 

 A- 01が位置するのは後方だ。大型エレベーターのシャフトを通って全部隊が降下する。それは、丁度大隊がシャフトを降下しているときに、起こった。

 

≪こちらフレイム隊! 敵部隊の攻撃を受けたっ! 畜生! 奴ら…まで来てやがった≫

 

≪ギャンブル4応…しろ! ギ……ブル4! 畜生!! …っちは多目的装甲…だぞ!!≫

 

≪トマホーク1より各機、陣形を崩すな!!≫

 

≪クソッ! この盾、抜けるぞ! ぎゃ…ぁぁ≫

 

≪グリズリーより全機! 散開しろ!! 密集してるとやられるぞ!!≫

 

 無線機から聞こえる見方の悲鳴が徐々に鮮明になる。

 

≪なに…これ、なんで≫

 

「CP! 状況を知らせろ!!」

 

≪ホーネット隊全滅! ギャンブル隊応答無し、損害が≫

 

 眼前に広がる光景は煙を噴き上げてやられた味方の機体がそこかしこに堕ちている。それまさに阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

 

「攻めてきたのか!? 圧倒的に不利なはずなのに」

 

 それが大きな勘違いだった。不利だったのはこちらであって、決して彼らではありえなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

≪獲物が見えたぞっ!≫

 

 無線越しにノリス中佐が雄たけびを上げる。シャフトから出てきた敵のMS――いや「戦術機」はどこかこちらの機体よりも洗練されて見える。

だが、同時に華奢な印象を受ける。兵器とは、武人の蛮用に耐えてこそ、だ。大佐のグフカスタムが、しっかりと盾を構えると、先頭に立つ。その傍らにつけると、メルダースは命令が下されるのを待った。

 

≪……進め≫

 

 先陣を切って突入するノリス大佐、それに負けじと、陣形をパンツァーカイル(突撃隊形)に切り替えた斬込中隊の機体が続く。

 

 密集隊形、盾で壁を作り、悠然と進んでいくが、やはり僅かに動きが固い。密集陣形もいささか密度が足りない。

 マ・クベ中佐がいる時の一体感は無いものの、それでもまるで複雑な歯車を組み合わせた懐中時計のように統制が取れているのは、ノリス大佐の指揮の賜物であろう。

敵との距離1200、こちらに気づいた敵からのまばらな、火線が装甲やシールドに当って火花を散らした。敵との距離は……まだ、遠い

 

≪いくぞガーデルマン!≫

 

≪はい少尉殿!!≫

 

 威勢の良い声と共に、彼らの頭を超えて延びた火線が、敵の前衛を吹き飛ばす。敵の持っていた盾を貫通してその後ろの機体を吹き飛ばし、射線上に重なった2機が火を吹いた。

 さらに伸びた火線が、容赦なく敵集団を吹き飛ばしていく。

 

 後方に配置した基地選抜中隊のザクキャノン小隊が放ったスモーク弾が、濃密な煙幕を発生させる。密閉空間である事がそれに拍車をかけ、空間内に充満する煙が視界をとざしていく。

 

 支援部隊の精確な射撃に感嘆しながら、メルダースは、ノリス大佐のグフカスタムがシールドを上げるのに気づいた。

即座にそれに習って左手のシールドを上げ、右手で保持する。

 グフ用のシールドにすえつけられた銃先は敵部隊を睨み、傍らを征く中隊の全ての機体が同じように銃先を揃えた。

 

≪射撃開始≫

 

 大佐の冷静な一言で、回転銃身が火を噴いた。弾幕を保たせるために最低速に設定されているものの、シート越しに伝わる射撃振動はどこか不気味である。

 とどまることなく回り続ける残弾カウンターは、適度な散布界を持った銃弾が嵐のような弾幕を形成していることを物語っていた。

 曳光弾の低伸弾道が濃密な煙幕を切り裂き、敵部隊に降り注ぐ。敵にとって1発が致命的な威力を持つ75mmの高速徹甲弾が、敵前面を蹂躙した。

 

≪ヴィットマン、貴様の中隊は阻止線を形成しろ!≫

 

≪了解≫

 

 ノリス大佐の鋭い声が通信機に入る。側面に展開したヴィットマン大尉とヴォル少尉の小隊が銃撃をかけて敵の両翼を威圧した。後方から上がってきたザクキャノンの小隊とそれを援護するトップ小隊のザクⅠが、第2線を形成した。

 ガトリング砲の残弾カウンターが0を回りガトリングの回転が止まり始める。メルダースは即座にガトリングを切り離す。同じように弾の切れた機体が、一斉にガトリングを盾から切り離した。

敵との距離が500を切る。あと、もう少し、もう少しで「射程」に入る。

 

「斬込隊! 全機抜刀!!」

 

 イフリートが盾を正面に構えヒートサーベルを抜く。それに追随するように黒備えのグフとイフリートが一斉にヒートサーベルを抜く。

 メルダースは自機をノリス大佐のグフカスタムに並ぶような位置につけた。

 盾を壁のように構えると、バーニアを吹かして、低空で地面を舐めるように接近する。正面に構えた盾が敵部隊の必死の銃撃をことごとくはじき返す。

 後方からの制圧射撃が敵部隊の注意を逸らす。 

 距離300にして、「斬込隊」は真の「有効射程」に敵を捕らえた。

 刹那、鼓膜を突き破らんばかりの蛮声を上げ、斬込中隊総勢12機は燃え立つ剣と闘志をもって敵中へと突入した。

 

 見渡すばかり総て敵という光景は、メルダースにとってわずかに懐かしさを感じさせるものだった。

 彼の、彼らの心の中に染み付いて離れないのは、彼らが生まれた戦場である。殿部隊としてはじめて編成された斬込隊。その壮絶な戦で散っていった戦友達である。

 だが、メルダース自身の心中にあったのは、ただ一人の男であり、彼の貫き通した生き様(戦争)である。それがあるから負けぬと誓ったのだ。それがあるから、生半な場所では倒れられぬのだ。

 猛り狂う心を鉄の理性に押し込め、メルダースは、まずは手始めの獲物へ赤熱した刃を叩き込んだ。灼熱の刃は抵抗なく、敵機の胴を断ち割った。

 

 

 

 

 黒備えの中に混じる青い機体が、ヒートロッドで捕獲した敵を引きずり倒し、ヒートソードでコクピットを貫く。

 本来の機体色そのままのグフカスタムは、隊長機であるノリス大佐のものである。鬼神のごとき様相で、次々と敵を屠る様は、まさに斬込隊の名に相応しいものであった。

 バーニアのによって加速された重厚な鋼鉄の塊が、軽合金と炭素繊維素材で形成された機体を弾き飛ばす。赤く燃える刀身が盾ごと敵の機体を貫いた。

 

「怯えろぉぉっ! 竦めぇぇっ! 機体の性能を引き出ぬまま、死んでゆけぇ!!」

 

 振り向きざまに後ろの機体に打ち込んだヒートロッドが、凄まじい高圧電流を走らせる。

不導体である装甲をもってしても防ぎきれぬ(「不導体」とは電気を通しにくいものであって、完璧に遮断できるわけではない)高出力の電撃が機体の制御系を焼き切った。

 煙を上げながらへたり込んだ機体を、そのまま背負い投げるように、別の機体に叩きつけると、後方の機体も巻き込んで爆発した。

 その破片を盾で受けながら、ノリスは一息ついた。

 

「……メルダース中尉! 中隊の損害知らせっ!!」

 

ノリスが背中合わせに戦うイフリートに向かって怒鳴る。

 

≪喪失2、戦闘に支障無し≫

 

 帰ってきた簡潔な答えに、ノリスは莞爾と笑みを浮かべた。

 

「見事!」

 

 言いながら敵のマシンガンを、盾で受ける。そのままバーニアで接近すると、敵機が慌てて抜刀した。

 

「甘いわ!」

 

 グフカスタムがヒートソードを敵機の長刀へ袈裟掛けに叩き付ける。赤熱した刃が敵の長刀へと徐々に食い込んでいく。

 

≪うわぁ、くそっ、誰かぁぁ≫

 

 敵機からの悲鳴が無線に入ってくる。そこに情けをかけるほど、ノリスは若くない。グフカスタムの両手がヒートサーベルの柄を掴むと、長刀ごと敵機を切り伏せた。

 刀身とともに溶断された敵機の上半身が滑り落ちる。目の前の敵を下し、ノリスは僚機に目をやった。負けず劣らずに奮戦しているようだ。

 

≪うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!≫

 

 凄まじい咆哮と共にメルダースのイフリートが、鍔迫り合いになった敵機を壁に叩きつける。灼熱の刃に当てられて、敵の長刀も紅く染まっていく。

 

≪いや、だれか、だれかぁぁぁ≫

 

 半狂乱になって叫ぶ敵のパイロットの声が無線越しに聞こえてくる。それに気づいた敵機の一つが長刀を構えて背後から突っ込んだ。

 

≪このやろぉぉぉぉぉぉ!!≫

 

「メルダース!」

 

 ノリスが叫んだ瞬間に、イフリートが振り向きざまに敵の切っ先を交わす。本来の目標を外した剣先が、味方の機体を貫いた。

 

≪そんなっ≫

 

 そのまま敵の胴に当てられたイフリートのヒートサーベルが、押し切るように溶断した。

 

≪助かりました大佐≫

 

 メルダースが冷静に礼を言ってくる。だが、ノリスの目にはメルダースが背後の敵に「気づいていた」ように見えた。

 

(まさか噂に聞くNT? ……今は、それを考えている暇ではないか)

 

 頭に差し掛かった疑問を振り払って、ひとまずは僚機とともに次の敵を追うことにした。また、新たな殺戮の嵐を生み出す為に。

 

 

 

 

《くそっ弾が効かない》

 

《120mmを使えっ!!》

 

《もうとっくに弾切れだっ! やめろ、来るな。うわぁぁぁぁっ!!》

 

「……回線を切れ」

 

 無線越しに響き渡った悲鳴に顔をしかめながら、伊隅は冷静に言った。敵の強襲からまだ一時間もしないというのに、もう1個大隊以上やられている。

 そんな敵部隊を前にして、今だ彼女の大隊が一機の損害も出していないのは、彼女が後方で戦力を温存し続けたからに過ぎない。

 敵機の常識外れの装甲、白兵戦闘能力そういったものをつぶさに観察してきた。それもこれも味方が自動制御の機械だからなせるわざだ。  

 もっとも、自動設定の機械人形でなければ、とっくに恐慌状態に陥って壊乱していた事であろう。ともあれ、犠牲の分の情報は手に入れた。敵は未知の怪物などではない。倒すべき敵なのだ。

 

「皆、聞け! 連中、皮は硬いが、足は遅い。奴らを迂回して後方部隊を叩くぞ」

 

≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪了解!≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫

 

伊隅率いるA01大隊ともに周辺の2個大隊が追随する。

 

「一対一では相手をするな、白兵戦闘を避けて関節か背中に120mmを撃ち込んでやれ」

 

 A01は左翼、基地の部隊は右翼へと向かった。

 

 突如、腕から出した太いワイヤーを頭上で鞭のようにを振り回した一つ目が、正面に立ちふさがった撃震の頭部を叩き潰す。

 エレメントを組んでいると見える一機が、赤く光る長刀で陽炎の管制ユニットを串刺しにした。

 シールドで叩き伏せ、転がった敵を強烈に踏みしだき、光る長刀を振るいながら、さながら神話に描かれる巨人族のように、彼らは敵対する全てを蹂躙した。

 背後を合わせ、二刀を構えた単眼が群がる敵を、蹴散らし、なで斬りにしていく。

 だが、完全な乱戦状態となったに戦場にあって、互いの距離を保つのは難しい。敵を追うのに熱中した一機が突出し、こちらに気づいた。

 

≪隊長、前方の敵機、こちらで排除します≫

 

 突然、押し殺したような鳴海中尉の声が無線に入ってくる。

 

「待て、鳴海!」

 

 伊隅の静止もまもなく鳴海機が速度を上げて突っ込んだ。

 

≪孝之!?≫

 

≪孝之君!!≫

 

 36mmを連射しながら距離をつめるが、銃弾は強固なシールドに阻まれて火花を散らすだけだ。

 敵機が横なぎに長刀を振る。

 しかし、灼熱の刃はむなしく空を切った。無意味だったはずの射撃は、敵の視界を限定する為だったのである。

 

≪うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!≫

 

 咆哮と共に、すべるように敵機の横をすり抜けた鳴海中尉の不知火が、振り返りざまに両手の突撃砲を連射する。

 凄まじい射撃によろめきながら、がっくりと膝を着いた。至近距離から連射された36mmと120mmの射撃には、いかに強固な装甲といえど、ひとたまりも無かったようだ。

 あれほど屈強だった。一つ目の戦術機が、初めて地面に倒れ伏した。

 皆は唖然としてその光景を見ていた。無線機から、荒い息をした鳴海中尉の声。

 

≪排除完了。進みましょう≫

 

 今は気遣っている暇など無い。

 

「ご苦労。全隊、前進!!」

 

 冷静に答えると、伊隅は部隊を匍匐飛行で前進させた。去り際、今の機体の僚機と見られる機体が5機がかりで襲われているのが、一瞬見えた。

 どうやら、この自動人形どもはそんなに頭が悪くないらしい。

 管制ユニットのなかで一人苦笑して、伊隅は大きく息を吸った。

 

「目標、敵左翼! 吶喊ッ!!」

 

 伊隅の号令一過、砲火をかいくぐり精鋭A01大隊の不知火達が、敵の片翼に襲い掛かった。

 圧倒的に優勢な機動力でおとりを買って出て、自分のエレメントに撃たせるものや、それを部隊単位でやるもの、中でも先ほどの鳴海の真似をしてのけるものも居たが、長刀を持ったまま駒のように大回転した小隊長らしき機体になぎ払われた。

 二番煎じの通じるような甘い相手ではないのだ。

 敵もさるもので、後方部隊からの射撃援護をもらいつつ、潮が引くように速やかに撤退した。

 

あえて追わなかったのは、敵部隊が踏みとどまって、こちらの損害が増えた挙句に、後方部隊から狙い撃ちにあうのを避けるためである。

 両翼共に引いたのか、しばらくして、右翼に回った味方の2個大隊が上がってきた。

ここで戦力を結集し、後方部隊を叩き潰すのだ。

 

「行くぞッ!!」

 

 激しい銃火の中、奇しくも連隊規模となったA01部隊は、突撃した。傍らの僚機が火を噴き、落ちようとも、ただひたすらに敵へと迫り、光学センサーが敵部隊の姿を捉えた。

 

≪隊長! 大変です≫

 

「どうした鳴海?」

 

≪敵が足りません!!≫

 

「どういうことだ、今はふざけている場合では……」

 

 怒鳴りかけて、伊隅は思い直した。鳴海は、この状況で冗談を言うような男ではない。

 

≪自分を助けてくれたMS部隊、彼らが参加しているはずなのに、居ないんです≫

 

 すぐに「別働隊」の文字が脳裏をよぎる。舌打ちしたいのをこらえながら、伊隅は冷静に確かめた。

 

「見間違いではないか?」

 

≪命の恩人です≫

 

 間違えるはずはない、と言いたいのは伝わってきた。もとより確認は希望でしかない。

 

「……反応炉か」

 

≪恐らくは≫

 

 僅かな間をおいて、伊隅は答えた。

 

「鳴海中尉、貴様の中隊は後ろに下がれ」

 

《大尉?》

 

 鳴海中尉が怪訝そうな顔をする。

 

「人形を一個大隊連れて行け 任せたぞ」

 

 意味を察したのか、明るい顔になった鳴海中尉が、すばやく敬礼した。

 

 鳴海中尉の中隊が下がったのに合わせて、陣形を広くする。翼を広げるような滑らかな陣形転換はプログラムゆえであろう。勝てるか否かを心配する暇など無い。目の前の敵機は待ってはくれないのだ

 

「ヴァルキリーズ! 全機突貫!!

 

 彼女の号令に合わせて一気に増速した味方部隊が、包みこむように敵と接触する。あわせて距離をつめてきた敵部隊との間に壮絶な白兵戦が勃発した。

 

「鳴海、行けぇぇぇぇっ!」

 

 返答する間も惜しいと見えて、後方から飛び出した鳴海中隊と追随する基地防衛隊の第6大隊が

敵部隊を迂回してスタブへと向かう。

 

「……頼んだぞ」

 

 一言つぶやくと、目の前の敵に取り掛かった。

 

 

 

 

 

《フォーゲル1より、子守、聞こえるか?》

 

 通信機に魂に響くような低い声が入ってくる。《フォーゲル》はザクキャノン小隊のコードネームだ。「子守」とはキャノン部隊の直援であるトップの小隊を揶揄したものだ。

斬込中隊に攻撃が集中させている敵を、フォーゲル小隊が狙い撃つという、大胆かつ危険な戦術を彼らは驚くほど精確にこなしていた。

 そんな、彼らを狙ってくる連中を排除するのがトップ達の役目だった。

 

「なにか?」

 

《さっきから景気よくぶっ放してたおかげで、残弾が心もとない。180mmはまだあるがビッグガン(連装擲弾砲)は弾切れだ》

 

 もろいとはいえ、敵は軽くこちらの10倍はいるし、その上、機体が軽いのもあってか機動性はかなりのものだ。当然、弾幕を張って牽制せねばならないし、そうなれば残弾も減ってくる、ヒートホークを持たずに、持てるだけ弾倉を持ってきたトップでさえ、慎重に撃たざるを得ないほどの量だ。

 

「後退するか?」

 

《あほ抜かせ、おとりくらいはできるさ》

 

 小隊長が威勢よく言う。トップのザクⅠが、小隊長のザクキャノンに自分のマシンガンを手渡した。

 

「…使え」

 

 短くトップが言うと、小隊長がマシンガンを受け取りながら、少しだけ困惑した調子で答えた。

 

《銃無しでどうするんだ?》

 

 にやりと不適な笑みを浮かべながら、彼女は答えた。

 

「銃? 銃なら連中が持ってきてくれるじゃないか……」

 

《くくくくくっ、そいつは違いない》

 

 相手の隊長が心底愉快そうな声を上げる。

 

《なかなか、言うじゃないか少尉》

 

回線に割り込んできたのはヴィットマン大尉だ。損耗した小隊を連れて、後退してきたのだ。

 

《両翼がもたん。奴ら中隊規模で一機を狙ってきやがる。死角に気をつけろ。連中のひょうろく弾でも、至近距離からコクピットや関節を狙われたらひとたまりもないぞ》

 

 見れば、両小隊共一、二機かけている。ヴィットマンのドムが自分のマシンガンを《フォーゲル》に手渡した。

 

《ヴォル、貴様のも渡せ》

 

《了解》

 

 ヴォル少尉が快活に答える。ヴィットマンとヴォルの両小隊のMSが残弾の残っているバズーカなどをガシャガシャと置いていく。

 

≪すみません大尉≫

 

≪……気にするな≫

 

 しごく簡潔なやり取りで武器の再配分を終えると、小隊のザクがヒートホークを抜く。接触回線からエネルギーを供給され、斧頭の刃が熱い光を帯びる。ヴィットマンとヴォルのドムもヒートサーベルを抜いた。

 

≪自分たちの銃も渡しますか?≫

 

 小隊員の一人がいささか興奮気味に言う。トップの小隊は、同じ収容所に入れられて基地に編入されたいわゆる「編入組」から選抜した者たちで、彼らの中には、当然オデッサで捕虜となった者もいる。斬込中隊の壮絶な戦いを目にして、気が高ぶっているのだろう。臆病風に吹かれるよりはよっぽどましだ。

 

 

「いいや、貴様らは私を援護しろ」

 

 そう答えながら、トップのザクⅠが肩を前にして構えた。ザク独特の突撃姿勢である。

 

「……地上(アースノイド)の坊やたちに、ガデム式を教えてやる!」

 

 『ガデム式機甲格闘術』それは、格闘戦の草分け、教導機動大隊のガデム少佐によって編纂された、宇宙世紀初のMSによる近接格闘術である。

 鈍く光るショルダーアーマーが、迫り来る敵を映した。

 

 

 




あとがき

 MS格闘戦はガデム少佐が編纂したという設定にしています。キックやタックルなど武装を交換せずに行える白兵戦闘技術というものは非常に有用だと思いますので。
 
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