機動戦史マヴラヴHardLuck   作:赤狼一号

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第十八章 烈火 中篇

 いかなる生物もいない絶対的な静寂をかき乱しながら、漆黒の一隊は燐光放つ回廊の中を駆け抜けた。ホバー走行と徒歩行軍を交互に併用しながら進む黒騎士中隊は、総勢16機の小勢ではあるが、どの機体も重厚に武装を施している。

 両肩のシールドに、3連装ミサイルポッドを2つ、両足に1ずつ計6基装備したザク改は、腰にヒートホークと90mmマシンガンの弾倉を付けられるだけ付けている。

 中隊の火力の大部分を受け持つケンプファーはといえば、ザクのミサイルポッドを二重にした6連装ミサイルポッドを、両肩から垂れ下がるように伸びる増加装甲パイロンに2つ、両足のパイロンに一つずつ、計六基の重武装である。それに加え、背中にはトレードマークともいえる2基のジャイアントバズ、腰にはチェーンマインを引っさげて、文字通り歩く武器庫のような状態になっている。

 

 薄明るい回廊を男達は黙々と進んだ。ノリス大佐率いる増強中隊その全てをおとりにしてまで、彼らに課せられた任務は、基地動力炉の破壊である。先だっての基地の工事の際に地下区画を担当したのは黒騎士の面々である。

 

「…見えた」

 

 バウアーの単眼が回廊の果てにさながに強い光を放つ光源を捕らえた。VRであるにも関わらず、それを見た瞬間に、背筋を電流が走りぬけた。

間違いない、これは敵だ。決して理屈ではない彼の感覚がそう訴えていた。

 

「全機増速! 前方に目標を確認。パンツァー・フォー(前進せよ)!!」

 

 バウアーのロッテを先頭にやじり状の隊形を組んだ11機のザク改と4機のケンプファーが一斉にバーニアを吹かす。

 

≪少佐! 先行します!!≫

 

 オットー・シュルツ中尉の声がレシーバーに響く特別に編成された4機のケンプファーによる打撃小隊である。燐光を放つ床を踏み砕きながら、4機のケンプファーが降着した。

 

≪目標ロック! 小隊射撃!!≫

 

シュルツ中尉の号令一下、ランチャーのバックブラストが、硝煙の外套を作り出す。一機36発、計144発の対艦徹甲弾頭が一直線に目標に向かう。

まるで吸い込まれるように着弾したミサイルは凄まじい爆炎を撒き散らしながら炸裂した。

 

≪まだまだぁっ!!≫

 

 空になったランチャーがパージされ、爆砕ボルトによって跳ね飛ばされた。ランチャーが光る地面に影を落とした。

4機のケンプファーが背部ラックに固定されていたジャイアントバズを両腕に構えた。

 

≪くたばれぇぇぇぇっ≫

 

360mmと言う旧世紀ならば戦艦の主砲に匹敵する大口径砲弾が、次々と打ち出される。

先のミサイルの硝煙を吹き飛ばし、バズーカの弾が着弾する。凄まじい爆発と轟音が、震動となってコクピット越しに伝わってきた。熱い硝煙に覆い包まれもはや目標を視認する事は不可能である。

 

≪やった!?≫

 

 クルツが感嘆の声を上げる。

立ち込めていた硝煙が薄らいだ瞬間に、バウアーは顔を顰めた。

 

≪……俺のケツをなめろ。クソッタレめっ!≫

 

 レシーバーから苦し紛れの悪態が聞こえる。息を呑む音が妙に生々しく聞こえた。驚くべき事に、目の前の目標はいまだにその妖しい光を放ち続けていたのである。

 桁外れの強度である。これは違う、地上の連中とも違う、もっと異質なものだ、バウアーのなかで、何かが叫んでいた。

 

不意にコクピット内に電子音が鳴り響く、誘導弾の射程に入っているのである。モニターを見れば「TARGET」の表示が出ている目標へ照準がロックされている。

思わず立ち尽くしてしまった自分に苦笑するとバウアーは、付き従う部下たちに命じた。

 

「情け無用! ファイヤーーーー!!」

 

 先ほどのものよりも巨大な、外套の如きバックブラストを残して残りの全機が、ミサイルを発射する。

総数216発と言う膨大な量のミサイルは矢よりも早く目標へとぶち当たり、対艦攻撃用の弾頭がその破壊力の全てを開放した。凄まじい爆炎が目標を包みこんだ。

衝撃でモニターの像が歪み閉鎖空間に立ち込める硝煙が視界をさえぎっている。

だが、男はなんと無しにその後に見えるであろう光景が予見できていた。そしてそれは、まったくと言っていいほど、予想を裏切らなかった。

 煙が晴れて、圧倒的な火力にも拘らず、不敵な燐光はいまだにその輝きを保っていたのである。

 

≪なんてこった≫

 

≪……くそ≫

 

中隊の面々から弱気な声が漏れる。

 

「……硬ぇな」

 

≪…………≫

 

≪……少佐≫

 

 気まずい沈黙がその場を支配しようとした、まさにその時、バウアーはうっそりと口を開いた。

 

「硬ぇ、だが俺はもっと硬いものを知ってるぞ」

 

 重々しい口調でバウアーが言った。

 

≪……なんですか、少佐?≫

 

 混乱した様子で、クルツが尋ねる。途端に笑みの混じる口調でバウアーは答えた。

 

「そいつはな、マ・クベの面の皮だ」

 

≪…………ぷっ≫

 

 最初に噴出したのはクルツ少尉だった。そこから中隊全体が爆笑の渦に包まれる。

 

「そうだ、アレに比べりゃ、なんてことはねえ、残りの爆薬を全部仕掛けろ!!」

 

≪了解!≫

 

 隊員たちが元気を取り戻した瞬間、先行したケンプファーが緊迫した声が上がる。

 

≪!? 上空に反応! 敵部隊降下してきます!≫

 

 バウアーは一瞬、忌々しげに顔をゆがめると、通信機に向かって大声で怒鳴った。

 

「シュルツっ!!」

 

≪はい、少佐!≫

 

「この蛍の親玉の相手はしばらく中止だ。先に横槍をへし折るぞ!!」

 

≪≪≪≪≪≪了解!≫≫≫≫≫≫

 

 威勢のいい男達の答えを、耳にしてバウアーは満足そうに笑った。

 

「それじゃあ、教育してやるか」

 

 センサーに写る光点を見つめながら、男の瞳は獰猛に輝いていた。

 

 

 

 

――― 国連軍横浜基地地下機密区画 管制室

 

「…何か?」

 

 肩を震わせながら必死で笑いをこらえている夕呼をマ・クベが冷ややかに見る。どうやら、先ほどのバウアーのたわ言が相当お気に召したらしい。正直言ってこちらの旗色も良くない。

 

「……気に入らないわね」

 

 突然、先ほどまで笑っていた交渉相手が不機嫌そうな顔をした。

 

「その予定どうりって顔、本当に気に食わないわ。あんたたち、あんまりこっちを舐めない方が良いわよ」

 

 香月夕呼大佐は打って変わって冷徹な調子で言った。どうやら、こっちが本音らしい。マ・クベは無表情に言葉を聞きながら、一欠けらの感情も伴わぬ冷静さで答えた。

 

「全ては結果次第、そうでありましょう?」

 

 そう答えると、夕呼はぷいっとあさっての方を向いた。やにわに子供っぽい反応を見て、心中に苦笑をこぼしながら、少し面白そうにマ・クベは言った。

 

「……ですが。確かに、あまり心配はしておりませんな」

 

「なっ!?」

 

 我知らず好戦的な答えを返すマ・クベの顔は、いつの間にか獰猛な笑みを作っていた。その顔をまともに見た夕呼が思わず霞の方へ表情を向ける。

 少女は怯えたような顔で、こちらを見ている。マ・クベはまた無表情に戻ると、観戦ようの大型モニターの方へ視線を戻した。やはり、旗色は悪い。だが、彼には珍しく、先ほどの言葉はまったくの本音だった。

 

 

 ともあれ凍りつくような覇気の応酬は、演習用のオペレータールームを、空調いらずにしてくれた事は言うまでも無く。

 傍らで繰り広げられる冷戦の気配を感じながら、CP将校であるイリーナ・ピアティフ中尉と涼宮遥少尉は振り向けよう筈が無かった。

 

((い、胃が痛い……))

 

 それが二人の偽らざる感想である。

 どうしてここで? 何故に今? 全ての問いには、高度に政治的、かつ戦略的な答えが控えている事は言うまでも無い。

 分かってはいるのだが、たまったものではないのだ。

 

 ピアティフは横目で部下の方を見た。

 

「大丈夫?」

 

 「ええ、大丈夫です」と涼宮少尉の目が答える。そんな一瞬の会話をよそに、後方では、交渉相手の男と香月大佐との間で、更なるプレッシャーを発生させていた。

 

 

 

 かつて主縦坑と呼ばれていた地の底まで通じる巨大な縦坑をいくつもの光が通り抜けた。

否、落ちていくと言ったほうが正しいかもしれない。

地獄まで続いているかと思われそうな、暗く、巨大な空洞を大隊規模の戦術機が駆け抜ける。一つ、また一つと彼らが通り過ぎる為に隔壁が閉まっていく。

 きっとこの先は、予想にたがわず地獄なのだろう。部隊を率いる鳴海孝之の脳裏に、そんな考えが浮かぶ。そう思ったとたんに不思議と、こみ上げてきたのは笑いだった。

 

(俺は、もう地獄を見ているじゃないか……)

 

 共に地獄を見て、帰れなかった友がいた……それを考えれば一体何ほどの恐怖があるというのだろうか? これは演習で、例え負けてもそれを糧にできるのである。

 そう考えるとなんとなく気が楽になった。

 

≪この、隔壁を抜けると反応炉です。孝之君、気をつけてね≫

 

 CPの遥が心配そうに言う。心なしか顔が青いのは、それほど彼の身を案じているからだろう。

 

≪ここからは、敵部隊と遭遇する可能性が非常に高くなります。十分警戒してください≫

 

そう言うピアティフ中尉も同じような顔色だったのはどういうわけだろう。そんな撮りとめも無い思考を頭の隅に追いやると、孝之は気を引き締めた。

 その時、もの凄い震動と爆音が縦坑を震わした。

 

「なんだ!?」

 

≪反応炉周辺で爆発音、敵が攻撃している模様です≫

 

 遥が緊迫した声で告げる。

 

「全機増速、一気にメインホールへ突っ込むぞ!! ホール突入後は散開! エレメントを絶対に崩すな。必ず二機以上で一機を狙え」

 

 言うが早いか自身の不知火を最大速力で地上に突っ込ます。引き起こしのタイミングをドジれば、そのまま地面か反応炉へぶち当たる。

ほの青く光る天蓋が見えた。

 

急制動と引き起こしをかけ、地上すれすれで周辺へと散開する。その瞬間、凄まじい衝撃が機体を振るわせた。大量の瓦礫が降ってくる。

 

「全機、退避!!」

 

 慌てて叫んだものの、時すでに遅く、後続の部隊が爆発に巻き込まれるか、瓦礫に押し潰されてかなり数を減らされてしまった。どうやら、敵はメインホールの入り口付近に爆薬を仕掛けていたらしい。衝撃と舞い上がった粉塵で視界が遮られ、センサーの効きも悪い。

 

「残存機は集合しろ!」

 

敵は待っていたのだ。こちらが来る事を計算して、アレだけ派手に隔壁を開け閉めしていれば、気づかれないはずが無い。そして、そこまで考えて、孝之はハッと気づいた。

敵はこちらの動きを読んでいる。待ったく目が効かなくなった状況で、こちらがどうするかも当然のことながら予測しているのではないだろうか?

粉塵が収まりセンサーが復旧してくる。敵の光点が一つづつ浮かび上がってくる。孝之の部隊は完全に包囲されていた。

円陣を組んだ彼の部隊と敵を遮っているのは、頼りない多目的装甲の壁だけである。

 

≪て、敵が発光信号で降伏を勧告しています≫

 

 中隊の部下の一人が悲鳴のように叫ぶ。見ると、指揮官らしき機体が

 

「…………」

 

≪隊長っ!!≫

 

「……すまん、皆、俺に付き合ってくれないか」

 

 そう言うと、孝之は自身の不知火を抜刀させた。

 

≪……隊長≫

 

 それに答えるように周りを囲む戦術機が、兵装、担架から長刀を抜き放つ。

 

「全機吶喊っ!!」

 

 目指すは前へ、ただひたすらに前へ、自動設定の機体郡がまるで彼らを護るように前へ出る。たちまち数機が、大口径銃弾の前に無残に蹴散らされる。

 

「……すまん」

 

 ただのプログラムに過ぎないそれらが、まるで自分たちに全てを託そうとするかのように感じられて、孝之は思わず目頭が熱くなった。一機、また一機と目の前で落とされていく戦友たちを見つめながら、目の前に展開した最後の一機が落ちた瞬間に、モニターに大きく移る敵機の姿を捉えた。ついに包囲陣の一角へとたぢり着いたのだ。

 最高速まで加速した不知火が手にした長刀を叩きつける。ものすごい衝撃と共に、長刀は敵機の胴を半ばまで断ち割った。やはり、硬い。刃筋が相当上手く立たねば加速していない状態では斬る事すら難しいだろう。

 

「各機動きを止めるなっ! 切って切って切りまくれ!!」

 

 通信機にむかって、怒鳴りながら孝之は不知火を縦横に躍らせた。切る事は無理でも叩けばバランスは崩せる。動きを止めずに縦横無尽に飛び回りながら、崩れたところを頭部や関節に切っ先を突っ込む。

 敵の機体とて全てが完全に装甲されているわけではない。関節やカメラ周辺、背後などの装甲が薄くなっているのは機動兵器の常である。

単眼を貫かれた機体が、がっくりと崩れ落ちる。

 勝てるかもしれない、僅かな手ごたえを感じ、孝之が回りを見回した瞬間驚くべき光景が目に入ってきた。

 

「なっ!?」

 

 立っているのは孝之の機体だけだった。いくら、白兵戦が強力とはいえ、この僅かな時間でA01の精鋭を、自らに倍する敵を片付けられるものなのだろうか。

否、彼らには出来るのだ。目の前の光景がそれを語っている。

 

気づけば、赤く光る斧を持った敵機が、孝之の目の前に立っていた。

僅かにであるが、どの機体とも異なる形をしている。誰が乗っているのかは容易に想像がついた。

 

不知火が長刀を構えると、他の機体は手を出してこなかった。どうやら、最後の望みは叶えさせてくれるらしい。

心臓の鼓動がうるさいほどに、高鳴っている。もはや、彼をこの場に立たせているのはただの意地だ。

 

「……勝負!」

 

 跳躍ユニットを吹かして一気に突進する。必殺の横薙ぎが敵機を捕らえた。

敵の機体が、僅かに沈み込む、肩が僅かに前に出るのが見えた。

長刀は肩から延びる敵機の装甲に阻まれ、物打ちから折れ飛んだ。

 

「しまった!」

 

 偶然ではない。敵はこれを狙っていたのだ。彼自身が倒してきた敵は、彼の長刀に致命的な負荷を与えていたらしい。そして、相手はその事を読んでいたのだ。

 目の前の敵機が赤く光る斧を振り上げる。

 

「……かなわないな。くそっ」

 

 最後の悪態をついた瞬間に、彼の視界は途切れた。

 

 

 

 

「食われたのは何機だ?」

 

 死屍累々たる戦場で、バウアーは呟くように尋ねた。

 

≪はっ、一個小隊ほどやられました。内一機は、ケンプファーです≫

 

 シュルツが冷静に答える。

 

「敵ながら良い判断だった。包囲状態から部隊を全て突っ込んで攻撃に回ったんだからな。流石に連中、足が速い」

 

≪どうしますか隊長≫

 

「破損した機体の中で、核融合炉が生きている機体を探せ」

 

 バウアーはニヤリと笑うと、不愉快に光り続ける目標を見上げた。

 

「ちょっとした花火を上げてやろう」

 

 

 

 

地下大格納庫では、全部隊を巻き込んだ壮絶な乱戦が行われていた。

ザクⅠの頑丈なショルダーアーマーが、目の前の敵機を跳ね飛ばした。

 

「たく、これで何機めだか」

 

 コクピットの中、うんざりしたような表情で、トップは僅かにため息をついた。周りを見れば、集団の只中、白兵戦であるため、手に手に長刀を構えた敵機の群れが周りを取り囲んでいる。

 正面から大上段に斬りかかって来た相手の柄尻を片手で押さえ、空いた手で素早く貫手を入れる。

1機が後背にまわり込むが、振り向きざまの後ろ蹴りを喰らって吹っ飛ぶ。

 下ろそうとした長刀を交差した鋼の腕で止めると、そのまま横に逸らしてショルダータックルを叩き込む。

 それでも、彼女を囲んでいる敵の量は減っていないように感じた。死角から攻撃されずにすんでいるのは、小隊の機体が必死で援護をしているからだろう。

 他の小隊のザクⅡも、まるで旧世紀のヴィーキングの末裔にでもなったかのように、凄まじい白兵戦を繰り広げている。

 

≪トップあと20秒で敵の増援だ≫

 

 ヴィットマン大尉から簡潔かつ最悪な情報がもたらされる。小声で悪態をつきながら機体を立て直そうとした瞬間、トップのザクⅠは敵の波に飲まれた。

 

「クソッ」

 

 もはやこれまでか、トップが観念しようとしたまさに、その瞬間に通信機から、ヴィットマンの怒号が響いた。

 

≪伏せてろ!≫

 

凄まじい閃光が一瞬あたりを照らすと、ザクⅠの横に2機のドムが滑り込んで来た。アイスダンス顔負けの、流れるような動きで、互いの手を繋ぎ、その場で駒のように回転する。手にしたヒートサーベルが周りの全てをなぎ払った。

 

「…………」

 

 唖然としているトップの耳に通信機から慌てた声が響く。

 

≪こいつら、ちょこまかと! クソっ!!≫

 

 無線機に入ってきた悪態と共に、小隊員のマーカーが消えた。見れば4機づつに両腕を押さえつけられたザクⅠが至近距離から弾を打ち込まれている。多勢に無勢だ。

 

「えぐい真似をしてくれる」

 

 トップは吐き捨てるように言った。後方からの砲撃で8機の敵部隊が吹き飛ばされる。トップは破壊された敵の背中から銃をもぎ取った。2丁の突撃砲を構えてモノアイが舐めるように戦場を見回した。

 

「わざわざ配達してもらったんだ。せいぜい使わせてもらおうじゃないか!」

 

 ふと、隣を見れば、ザクキャノン小隊が同じように敵の銃を拾って使っている。どうやら、渡した武器はとっくの昔に弾切れしたらしい。

 

 一機が沈み込むように敵機の斬撃を交わしながら、トンファー宜しくビックガンで敵の戦術機を打っ飛ばした。

 

≪まったく何匹、撃ってもへりゃしない≫

 

 いささかうんざりしたような声が聞こえてきて、トップは急におかしくなった。

 

「ぼやくなフォーゲル1、我々が援護する」

 

 そう言って、トップは残りの小隊をフォーゲル小隊に合流させた。

 

≪少尉≫

 

「なんだ『少尉』」

 

≪……トップ少尉、このまま予定どうりに良くと思うか?……くそっ36mmだな? 豆鉄砲め!≫

 

 バリバリと両手でマシンガンを連射しながら、ルーデルが言った。この珍妙な形のマシンガンは上部と下部に二本の銃身があり上部は120mm、下部は36mmの銃弾を使っているらしいのだが、こちらの機体からでは、その切り替えが出来ない事になっている。

口では悪態をついているものの、発射された銃弾はしっかりと敵を倒しているあたり、選抜中隊の一員に選ばれただけの事はある。

 とはいえ、多勢に無勢で旗色の悪いことは事実だった。

 

≪トップ少尉!≫

 

 通信機にヴィットマン大尉のドラ声が入ってきた。

 

「大尉!?」

 

 カメラに移る大尉のドムが、彼女の機体の肩を掴んでいる。どうやら、接触回線だったらしい。驚いてセンサーを確認すると、味方を表す光点が彼女の部隊を(正確に言えば、小隊の生き残りとフォーゲル隊を)囲むように布陣していた。

 

≪時間は十分に稼いだ! これ以上の損害は出すな≫

 

「はっ、ルーデル少尉!」

 

≪なんだっ!≫ 

 

 通信ウィンドウにルーデルが写る。

 

「そろそろ時間だ!」

 

≪!!……了解した。死ぬなよ戦友≫

 

「……貴様もな」 

 

 ウィンドウが全て消えて、トップはため息をついた。

 

「……まったく、精鋭部隊も楽じゃない」

 

 その時、突然激しい震動が地下空間を揺らす。その瞬間、全ての照明が一気に消えた。それともに、通信も一部途切れる。

 

≪反撃開始だ! ……教育してやる≫

 

 無線に響いた声と共に、暗闇の中を傍らにいたドムが加速していく。トップは熱センサーに切り替えると、通信機に向かって怒鳴った。

 

「作戦成功だ! 熱センサーに切り替えろ!!」

 

≪了解≫

 

カメラ越しに見える敵兵は、暗闇の理由が分からず、右往左往している。

この混乱から立ち直る前に敵を全滅させねばならない。ありがたいことに、弾は山とある。

両手のマシンガンを連射しながら、トップは部下と共に突撃を敢行した。

 

 

 

「トップに遅れるなっ!! 撃って、撃って、撃ちまくれ!!」

 

 復旧した回線で激を飛ばしたのはハンス・ウルリッヒ・ルーデル少尉である。いつ奪い取ったのか、今度は長銃身の狙撃仕様のマシンガンを2丁抱えて、部下と共にトップのあとを追いかけた。

 ザクキャノンは元来が支援部隊で前線向きではないと思われがちだが、篭城戦の柱であるザクキャノン部隊は元々少数精鋭のところを文字通り精鋭中の精鋭を見繕ったのがフォーゲル小隊である。

両手のロングバレルが、次々と敵機に風穴を開けていく。副官のガーデルマンが横でマシンガンから榴弾を発射しているのが見える。どうやら当たり(120mm)を引いたらしい。

 

熱センサー上の敵は、炎上した機体が多くなって来たので、見極めがつきにくくなる。

通常モードに切り替えると、良い具合にかがり火になっている。

 

「なんて、ザマだ」

 

 立っている機体などほとんどなかった。予備電源によってついた赤い電灯はまさにその光景を修飾せんとしているように見える。文字どおり死屍累々と呼ぶばかりの惨状は、ほとんど味方でなく敵であり、その上を赤い血のような照明が静かに照らしていた。

 

ふと、ノリス大佐率いる斬込中隊が戦っていた場所を見てみる。

 

「なんてこった」

 

 数こそは少なくなったが、確かに彼らは生きていた。黒備えのMSに混じる蒼い機体。

ノリス大佐のグフカスタムだ。

 

「あれが、オデッサ帰りか」

 

 後ろに続く機体たちは、手に手に灼熱の刃を携えて、まるで地獄の悪魔のように見えた。さながら、覇気と言うか殺気のようなものを感じて、ルーデルは息を呑んだ。

 

「心底、連中が味方でよかったぜ」

 

≪隊長に言われるとは、相当ですね≫

 

 半ば感嘆したような声でガーデルマンが言った。どうやら口に出ていたらしい。

 

「どういう意味だガーデルマン?」

 

≪そのままの意味です≫

 

 通信ウィンドウの中で、呆れ顔をするガーデルマンをルーデルは不思議そうに見つめ返した。

 

「ま、グダグダ無駄口を叩くでもねぇだろう。行くぞガーデルマン。突撃だ!!」

 

≪ひっ! 了解しました!!≫

 

 ルーデルは愛機に持たせた二丁の銃を構えなおした。何せ残弾はたっぷりあるのだ。こいつを全て敵に叩き込むのが俺たちのしごとだ、そう心の中で呟いた。

レーダーに映る無数の影を見ながら、ルーデルは凶暴な笑みを浮かべた。

 

 

 

≪クソっどういうことだ!≫ 

 

≪ちくしょぉ! どこだ! ぎゃぁぁぁぁ≫

 

 無線機に半狂乱の叫びが入ってくる。いきなり真っ暗闇に、放り込まれたと思ったら、敵が猛然と反撃を開始したのだから、たまったものではない。

 

「みんな落ち着け! どうやら、反応炉がやられたらしい。暗視に…」

 

 凄まじい爆発音が言葉を遮る。衝撃で不知火が僅かによろけた。

 

「……その必要は、無いようだな」

 

 残してきた前線部隊の方を振り返ると、重い口調で伊隅が呟いた。

赤々と燃える戦術機の残骸が、さながら。赤い絨毯のように広がっていた。

 

その炎の揺らめきに照らされ妙にユックリと歩いてくる「何か」の影。

 それは、影ではなく巨人であった。燃え立つ剣を携えて、鬼火のように単眼を燃やしながら、妙に緩慢な動作でそれらは歩いてきた。そのあまりの光景に戦場自体が動きを止めたようだった。

 

「馬鹿な……全滅させたのか!?」

 

 その緩慢な行進こそが答えのようでもある。炎が照らす漆黒の装甲、その中に混じる深い蒼。

 あれこそ敵の突撃前衛(ストームバンガード)である

 

(……美しい)

 

 その光景を図らずも、伊隅はそう思ってしまった。この地獄のような戦場にあって、世迷言以外の何者でもない。

しかし、そう思ってしまったのだ。

 

≪隊長っ! しっかりしてください≫

 

 部下である速瀬少尉の必死な呼びかけで、伊隅は、はっとわれに返った。

気づけば乱戦の真っ只中である。

 

 敵の戦術機が、光る斧や頑丈な機体によって壮絶な格闘戦をくりひろげていた。

弾が切れたのか、奪った突撃砲を乱射しているものも居る。

 

(くそっ 重量があるだけによく当ててくれる。…腕も良いのか)

 

 銃撃によって瞬く間に味方が打ち落とされたのを見て。伊隅は心のうちで悪態をついた。

 

「貴様ら! 我らが隊規を思い出せ!!」

 

 自分の愛機の長刀を抜く。「仲間のために命を懸けろ、決して犬死するな」それは散るならば、相応の散りざまを残さねばならぬという事だ。 

 

≪…ちら、CP、反応路付近で超高出力磁場帯の発生を確認……突入部隊の反応、全機ロストしました≫

 

≪そんな! 孝之達がやられたの!?≫

 

「落ち着け、速瀬。今は確認している余裕はない。目の前の敵に集中しろ!」

 

 凄まじいノイズ交じりだがCPが復旧したようだ。同時に非常電源の赤色電灯がついて、一面を赤く染める。一瞬、本当の地獄にでも落ちたような気がして、背中が冷たくなった。

 

 そして、それは単なる勘違いではなかった。

 

≪主縦穴方面より、不明機……隔壁を破壊して登ってきたようです≫

 

「こんなに早く……皆、覚悟を決めろ。こうなれば最後の意地を見せてやるんだ!!」

 

 力の限り叫ぶ。どれほど不利であろうと、絶望的であろうと、価値の無い死を遂げる事など許されないのだ。

 

 

 

 

 

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