機動戦史マヴラヴHardLuck   作:赤狼一号

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外伝 凱歌は誰が為に 第一章 星降る夜に

―― 宇宙世紀0079 12月 ジャブロー

 

 

 

 白く刺すような月光が、暗い森をわずかに照らしている。その夜、欠けること無い月が赤く夜空に輝いている。夜の帳の下、鬱蒼とする木々の中で彼らは待っていた。

 木々の陰に垣間見える偽装された4機の巨影。「MS09gb改」リック・ドムの白兵戦闘仕様であるドム・グロウスヴァイル(大鉈)である。

 高い機動性と攻撃能力を持つその機体はフラナガン機関からの気前の良い復帰祝いであった。偽装シートの下で暗色の装甲が蠢く。その名の由来である背中に負った巨大なヒートソードのグリップが月光に照らされ、木々の中に異形の影を作る。

 特徴的なスカートアーマーや逞しい腕やがっしりとした脚部にいたっても重々しいダークグレイとマッドブラックの空間強襲用迷彩で塗装され、電磁波や熱による存在の発覚を防いでいる。擬装用のシートをもあいまって遠目から森を構成する一群の木々にしか見えない。

 十字スリットをモノアイが縦横に動き、油断無くあたりを探る。闇に身を潜めながら、男達は静かに時を待っていた。

 

 にわかに木々が震えだした。ざわめきのような振動が大地を揺らす。それこそ彼らが待ち続けたものだ。その震えを、月光の中に浮かぶ巨大なその影を・・・。

 

 流れ星を導く最初のかがり火を灯すために、彼らは待っていたのだ。

 

「時間だな、作戦を開始する」

 

 待機状態にしていた機関に灯を入れる。曹長は僚機に向けて低く言うと、ターゲットスコープ上の目標を睨んだ。夜戦用の光学照準機が巨大な影の全貌を捕らえる。

夜空に浮かぶペガサス級、それこそがこの作戦における最初の獲物だ。

 

≪隊長、全機照準完了しました≫

 

 小隊副官が冷静な声で告げる。

 

 作戦開始を知らせるアラームがなる。空を仰ぎ見れば輝きを増した星々が見える。その一つ一つが乾坤一擲の思いを掛けた男たちの魂の輝きなのだ。

 

「了解。全機、攻撃開始!」

 

 艦橋、メインエンジン、ミサイル発射管、分担された攻撃場所に狙いを付けた男たちは待ちに待った一撃を放った。

 ドムの腕に抱えられたラケーテンバズーカが一斉に火を噴く。880mmという途方も無い大口径砲弾が、木々の頭を通り越して白い尾を残す。

 矢の如く放たれたレーザー誘導式のロケット弾は正確に目標を捉えた。吸い込まれるように着弾したロケット弾がたちまち業火の塊へと変貌した。

 

≪着弾確認! 全弾命中!!≫

 

 モニター越しに火を噴く敵艦の姿を見ながら男は怒鳴った。

 

「全機続けっ! これよりジャブローに侵入するぞっ!!」

 

 熱核ジェットの噴流が大地を焦がす。木々の間をすり抜けて敵中へと切り込む4機の頭上には、星が降っていた。

 

 

 

 

――― 宇宙世紀0079 ジオン公国軍グラナダ基地

 

 執務室の窓からはグラナダの夜景が一望できる。この光景こそ、キシリアがこの部屋を執務室に選んだ理由であった。

指で軽く弾いた白磁の壷が澄んだ音色を奏でる。

 

「良い音色だな」

 

「でありましょう」

 

 キシリアの呼び出しによって執務室へと出頭したマ・クベが、シニカルな笑みを浮かべながら言った。

 

 男はじっとキシリアの事を見つめた。己がこの場に呼ばれた理由を計っているのであろう。一年戦争まえに行った密談のときのような彼女の権力に対しての構えは無い。

 やはり変ったな、そんな感想を抱きながら、キシリアは目の前の男に対して出来るだけ平坦に言った。

 

「マ・クベ、貴様の処遇が決まった」

 

「…お聞きしても?」

 

 唐突に切り出したキシリアの言葉に、目の前の男は繭一つ動かさず答えた。

 

「正式な判決は明日の略式法廷で通告されるが、貴様は4階級降格の上、中佐として再編される第600機動降下猟兵大隊へ転属させる。それに伴い、貴様がオデッサにて

直卒した部隊とその母艦として機動巡洋艦ザンジバルもそちらへ送られる」

 

 鉄面皮な表情が驚きに動くのをキシリアは見逃さなかった。

 

「驚いているようだな」

 

「閣下、一つお聞きしても?」

 

「なんだ?」

 

「閣下はこの戦争に勝つつもりはおありですか?」

 

「……愚問だな。無論だ」

 

 キシリアは唐突な質問の意図を掴みかねていると、目の前の男は、いささか困ったような顔で笑った。

 

「私が言っているのはギレン閣下との闘争のことではありませぬ。連邦…いや、アースノイドとの戦争に勝つ気はあるのかと、お聞きしているのです」

 

「それは諫言か?」

 

 キシリアが意外そうに返すと、目の前の男は黙って首を振った。さもあらん、そのように忠義立てをする男ではない。

 

「このまま、内部の争いに終始して勝ちとも負けとも着かぬ結末を迎えるのは、詰まらぬと申し上げているのです」

 

「……何?」

 

「閣下、戦いにあって頭領に立つものの責務は、赴くに値する死に場所を用意することです。私はそれをオデッサで学びました」

 

「私にもそれをせよと?」

 

 男は静かに頷いた。

 

「……」

 

「…………」

 

 キシリアは二の句を用意せずに黙り込んだ。閉ざした心中で彼女はマ・クベの言葉の意味を理解しようとしていた。死に場所をくれと言うものであるなら

それはいささか都合が悪い。もともと、使い難いが優秀な男である。それがさらに死地を越えたことで、絶対に味方にしておいたほうが良い存在に思えるようになった。

 ギレンと決着を付けるためには、彼自身と彼がギレンから受けた「命令」は絶対の武器になる。だが話はそう単純ではない。過日の彼との会見でそれは分かっている。

 

(足止めについている兵たちの事を言っているのか。しかしそれは総帥の策、私のでは……総帥と私?)

 

 全てがつながった瞬間、キシリアは一瞬、呆けたような顔になった。

 

「………………くっくっくっくっ、あーっはっはっはっ!」

 

 とめるまもなく笑いがこぼれ、堤をきったように、そのまましばらくキシリアは笑っていた。この男は初めから、一つのことしか聞いてなかったのだ。

 

(グラナダの戦力温存も全ては戦後を見越してのこと…)

 

 勝てと言うのだ。男は「この戦争に」勝って見せろと言っているのだ。先ほどの笑みの余韻か、キシリアは不敵な笑みを浮かべて答えた。

 

「面白い。いいだろうマ・クベ。貴様の望むとおりにしてやる」

 

 そこで一度言葉を切ると、キッとマ・クベのことを見据える。

 

「だがなマ・クベ。貴様はその先端となるのだ。あまた戦場を賭けその責務において部下を失おうとも必ず戻れっ! 私に見せてみるがいい。頭領に立つものの生き様を!」

 

先ほどより強い語調でキシリアは言った。マ・クベは伏し目がちに敬礼をすると、ぐっと上目に彼女の顔を見た。

 

「了解であります……閣下」

 

 明快に答えた男の目は、背筋がゾクゾクするほどの覇気に満ち溢れていた。

 

「…マ・クベ」

 

「はっ」

 

「最後に教えろ。なぜあの壺を私に」

 

「お目に触りましたか?」

 

「いいや、見てると落ち着く。良い品だ」

 

「文化とは良いものだ、それを閣下に知っておいて欲しかったのです」

 

 先ほどとは打って変わって、穏やかな声でマ・クベが言った。キシリアはふとはるか古に作られたと言う坪を見た。吸い込まれていきそうないい知れぬ何かがある。

何故か懐かしいような、不思議な魅力であった。

 

「確かに良いものだな…下がってよろしい」

 

「失礼します」

 

 来たときとさして換わらぬ平静の中に、様々な感情が見て取れた。それがなんとなく愛敬のように思えて、キシリアは5分ほど自分を見つめなおした。

 

 その後日、当初の予定を変更して再編途中の第600機動降下猟兵大隊に対して、地球に降下しラサの元秘密兵器開発基地を調査するように命令が出された。

 

 

 

 

 キシリアは再び壺を弾いた。変らぬ澄んだ音色が執務室に響く。どこか透き通るような色、つかみ所なくそれでいて底知れぬ深みを感じさせるその壺は

なんとなく、その贈り主を思わせた。誰かがキシリアの執務室の扉を叩く。

 

「入れ」

 

 入ってきたのは彼女の副官である若い士官だった。

 

「地球からの報告です」

 

 緊張した面持ちで、その青年は書類を差し出した。書類の中身を確認して、キシリアはわずかに眉をひそめた。

 

「これは……」

 

 そこに書かれていたのは地上に潜入させた工作員からの報告であった。何度もジオン公国に煮え湯を飲ませてきた相手、「第13独立任務部隊」通称木馬についての

情報である。不倶戴天の敵である彼らが、先に降下したジオン公国特殊部隊の迎撃を命ぜられたとの情報である。

 

「第600軌道降下猟兵大隊は、任務を果たしているようです」

 

「相変わらず連絡は無いのか?」

 

 若い士官は神妙にうなずいた。

 

「はい。地球に下りての隠密作戦であるため……」

 

「連絡を絶ったのは……ラサに降下してからだな」

 

 ラサ基地の突然の消失、その理由の調査が彼らの表向きの任務であった。

 

「フラナガンの連中はさぞ気を揉むだろうな」

 

「本当によろしかったのですか? ラサの調査も元々は彼らの我侭です」

 

「納得いかんか?」

 

「正直に言えばやはり、信じがたいことだと思います。ラサからのテレパシーによるSOSなど」

 

 多少、憤慨した口調で副官が言う。NTという存在を認めてはいるものの、研究者達の言うようなオカルトじみたものではないと考えているのだろう。

 

「真相がどうなのか私にも分からん。だが、フラナガンの連中はそのために随分と骨を折ってくれた」

 

「ガンダムに対抗するためにマグネット・コーティングを施したギャンですか。アクト・ザクの実働データがあるとはいえ、マ・クベ中佐に扱い切れるので…

いえ、失礼しました」

 

「…それだけではない」

 

 若い士官は気まずそうに口を噤む。キシリアは気にした風も無く、薄い笑いを浮かべた。

 

「はっ?」

 

「あの機体の真骨頂はマグネット・コーティングではない。あれはそのための下地に過ぎん」

 

「それは、一体どういう……」

 

「真実、あの機体はあの男のための機体だということだ」

 

 士官はわけが分からぬと言う顔をしていたが、キシリアはかまわず続けた。

 

「時に、貴様は奴が死んだと思うか?」

 

 唐突に切り替わった質問に、士官はしばし呆けたような顔で、その場に立ち尽くした。

 

「……ラサ襲撃から動きが無いところを見ると、そう考えて行動すべきかと」

 

 気まずそうに言葉を繋ぐ士官を尻目に、キシリアはやおら机の上におかれた壺を弾いた。透き通った音色が室内にこだまする。

 

「良い音色だろ?」

 

「……え、は、はい」

 

 ハッと我に帰った士官が賛同する。

 

「生きているさ。あの男は生きている。なんとなくだがな、私には分かる…」

 

「閣下……」

 

「予定通り作戦を開始する。ギレン総帥に連絡を取れ。鷲は再び舞い降りるのだ」

 

「はっ!」

 

 退室した部下の背中を見ながら、キシリアは再び窓から見える青い星を見つめた。

 

「マ・クベ、貴様の残した戦争…私がカタをつけてやる」

 

 

 

「グラナダ艦隊、動く」数日後にジャブローへと届けられたその報告は地球連邦政府を激震させた。

決しかけていた運命の水面を破る一石が投じられたのである。

 

 

 

 

 

 

 

――― 宇宙世紀0079 地球連邦軍総本部 ジャブロー

 

 

 鬱蒼と広がる密林と静かに流れるアマゾンの大河は、荒れ果てた大地に潤いをもたらす数少ない存在である。静かな夜の帳を引き裂くような光が行く筋も立ち上る。

多い茂る木々から鳥たちが一斉に飛び立つ。唐突に起きた大地の鳴動によって静かであった森に波紋のように喧騒が広がった。その鳴動の中心に行く筋もの光の柱が立つ。

 今宵、バビロンの扉が開かれるのだ。

 

≪ゲート内作業員は退避せよ! 繰り返す、ゲート内作業員は待機せよ≫

 

 ゲートの開く、地震を伴った駆動音と共に、その頭上に深い夜空が広がっていく。

地の底にてそれを待っているのは、機械仕掛けの天馬(ペガサス級)である。広大な地下空間に金属のきしむ音と巨大な開閉機構の駆動音が響き渡る。

 天蓋がそのまま落ちてしまうかと思えるほどやかましい。事実、ぱらぱらと天井からは石の欠片や埃がふってくる。

 

≪ゲート開放完了! 発進せよ!!≫

 

≪ミノフスキークラフト全開、浮上!!≫

 

 発信命令を受けて、ジャブローの工廠にて翼をやすめていた天馬は、ミノフスキードライブを猛らせながら、ゆっくりと地上へと向かっていく。頭上に広がる空へ向けて特徴的な白い船体がゆっくりと浮上していく。

 

 

 

 地下大空洞、ジャブローへのゲートから、無粋なサーチライトの光とともに浮き上がってくるのは、ペガサス級の4番艦。キャリフォルニア方面のジオン公国軍地上拠点を偵察すべく、その巣穴から飛び立とうとしていた。

 先ごろこの基地から大量の脱出船が軌道上へ飛び立ったと言う情報が届いたのだ。おそらくはもぬけの殻になってるであろう基地を一気に制圧する腹づもりである。

 

 白い船体がゆっくりと浮上していく様を見つめていた。オペレーターは珍しく地上の光学監視所からの電話が掛かってきていることに気づいた。

 

「…こちら、メインゲート管制所。どうかしたの?」

 

 提示報告にしてはえらく早い。どうせまた、今夜の北斗七星がどうのと言う話であろう。ここ最近ジオンは宇宙への撤退を始めている。おかげで基地の空は

平穏この上ないのである。

 それは言い換えれば暇であると言うことでもあった。いい加減、軍用回線の私的利用はよろしくないと、とっちめてやるべきか。

 そんなことを考えていた女性オペレーターの耳に信じられない言葉が飛び込んできた。

 

「なんですって!!」

 

 突如、大声をだした彼女に同僚たちが怪訝な顔を向ける。

 

「軌道上からの落下物!? 10、いや100以上!?」

 

 周りの同僚たちも、次第に青ざめていく。

 

「……軌道防衛艦隊は昼寝でもしてたわけっ!? とにかく警報を出してッ!」

 

≪…4時の方向より高速熱源? くそっ! よけろっ!!≫

 

 重力に逆らう数万トンの巨体にそれは無理な要求であった。飛来したロケット砲弾が、モニターに移るペガサス級の艦橋、メインエンジン、その他主要部分を正確に噛み砕いた。浮力をなくし、指揮も定まらぬ艦体は、よろめきながら、もと居た地下へと落下していく。

 

「…が落ちる」

 

≪艦橋、応答しろ!≫

 

≪無理だ! 直撃している。ゲートを閉めろ!!≫

 

≪……間に合わない! 落ちるぞっ!!≫

 

 炎上する船体が地面にたたき付けれる。警告を出すまもなく爆発炎上した艦が、轟々と縛円を吹き上げ、頭上のゲートを舐める。半開きになったゲートの開口部から火が吹き続けていた。

 これは一体ナンなのだろうか、目の前に広がる光景を呆然と眺めながら彼女は思った。爆発し、燃え盛る船体の前にたたずむ人型の影。人にしては大きすぎるその影が、立ち込める煙の中で鬼火のように、単眼を光らせた。

 

「ジオンのMS…なんで、ジャブローに」

 

 だれが鳴らしたのか、気づけば緊急事態を知らせる警報が、鳴り響いている。

うるさい、大変なのは先刻承知だ。炎に照らされ、鈍く光る黒い装甲、重厚な体躯と特徴的なスカートアーマー。ジオン公国の高機動重MSドム、

アーマーの形状が若干異なるところを見ると、その改良型のドム・トローペンのように見える。腰にはバズーカの予備マガジン、胸にはナイフが

マウントされ、背に負った身の丈ほどの一物が鈍く光る。

 

「あれは…鉈?」

 

 その異様に戸惑いながら、彼女は呟いた。鉈のようなその武器は、黒い装甲の背にあって、なんとも威圧的な雰囲気をまとっている。

 

(アレは…やばい。なんだか分からないけど、アレはあたし達を、殺すものだ)

 

「空間強襲用の黒色迷彩…………と、特殊部隊専用機っ!」

 

 同じものを見た傍らの同僚が震えながら言う。

 

「ヒートサーベルのぶっちがいに、ビームサーベル…オデッサの斬込隊だ」

 

 誰かが言った言葉に、その場の全員が息を飲んだ。それが容易ならざる相手と言うのはいやと言うほど分かる。逃げなくちゃ、そう考えた瞬間、彼女はドムの構えたバズーカと目が合った。

 

(撃たれるっ!)

 

そう思った瞬間に、バズーカを構えたドムを横合いから別のドムが静止する。接触回線で

何かを話しているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

「無駄弾を使うな……先は長い」

 

≪了解≫

 

 接触回線で部下をたしなめるとコウ・フナサカ軍曹は、自らの機体にヒートナイフを装備させた。接触回線から膨大なエネルギーが小さな刃に流れ込む。

瞬く間に白熱化したナイフを持って、ドムは管制所を睨むと、思い切り跳躍した。バーニアと脚力を併用した跳躍はその巨体を容易に浮き上がらせた。

 管制所からは、その場より消失したかに見えたであろう。一瞬で管制所の頭上に飛びこんだドムが、逆手に振り上げたナイフを慣性のままに突き立てる。

上部の管制ブリッジ内に侵入した灼熱の刃によって、内部の人間は一瞬で蒸発し、衝撃でフレームが歪み、内部の各種ケーブルがちぎれる。一撃で管制所は

その責務を全うできなくなっていた。

 

「…行くぞ」

 

 コクピットの中の男は、良心の呵責などまったく感じていないようだった。

 

「それじゃあ、張り切って…戦争といこうじゃないかっ!!」

 

 真一文字に引き締めた口をかすかに歪め、どこか楽しげに男は言った。

 

 地下へと侵入し、メインゲートの管制所を破壊したそのドムは味方部隊に傍受させるために、一通の平文を打電した。

 

≪我、ジャブロー強襲二成功セリ≫

 

後世、宇宙世紀のパールハーバー、一年戦争の天王山と呼ばれる戦いの火蓋が、ここに切られたのであった。

 

 グラナダの執務室、その大モニターの前に立ちながらキシリア・ザビはその顔に僅かな嘲弄を浮かべた。珍しく、髪を下ろして後ろで束ねている。

最近はこれが気に入りなのだ。

 

『キシリア、冗談は止せ』

 

「兄上も意外とお甘いようで」

 

 あいも変らずに癇に障る薄笑いを浮かべる兄の顔が僅かに引きつるのを見て、キシリアは内心で笑みを浮かべた。あの野心家で策略家の兄が、こちらの意図をまったく

持って読みきれて居ないと言う状況は、彼女にとってことさらに痛快であった。

 

『本気かねキシリア』

 

 執務室の巨大モニター、その半分を占める兄の顔に動揺の色が混じるのを、彼女は見逃さなかった。どうやら、ギレンは彼女の意図を測りかねているらしい。

 正直に言ってしまえば、意図もくそも無く、そのままを伝えたのだが、それを額面どおりに受け取れるほど健全な兄弟関係は気づいてこなかった。と言うよりは「まだそこまで追い詰められては居ない」という認識なのだろう。

 確かに今までの関係を考えれば、キシリアの「提案」は、一歩たりとも後の無い状況にならねば、冗句にも上げぬであろう内容である。

 依然としてグラナダは独自の戦力を維持しており、宇宙でのジオンの覇権は連邦に劣らぬものがある。

 しかし、だからこそのタイミングでなのだ。相手の意表を突き、弱いところを叩きのめすのが戦場の鉄則である。戦略などと言うものは、とどのつまり、相手を「驚かせる」類の悪戯をどれほど効果的に行うかに尽きるのだ。

 

 それはそれとして、まったく持って面白い、と言うのが現段階でのこの会合に対するキシリアの感想であった。裏表無く行動していると言うのに、必死に裏を探ろうとする相手のなんとこっけいなことだろう。

 おもわず、こぼした笑みは「何らかの意図がある」とギレンに錯覚させるには十分なようだった。こちらの反応を探ろうとしていることが手に取るように分かる。ともすれば、意外と兄は単純な人間らしい。

 

「兄上、兄弟げんかは戦争の後に」

 

 思案顔のギレンに向かって、キシリアが畳み掛けるように言った。そこへ、意外な方面から援護射撃が入る。同意を示して、冷静に諭したのは以外にも熱しやすい弟であった。

 

『そうだぜ、兄貴。このままじゃどの道ジリ貧になるのは目に見えてる』

 

 頬に向こう傷を走らせたいかつい男はキシリアの、そしてギレンの弟でもあるドズル・ザビ中将である。この熱血漢で単純明快な人物であるはずの弟が

強力な味方になっているという状況も奇妙と言えば、奇妙である

 

『姉貴がやるってんなら、俺に依存はねぇ。ガルマの仇、取れるってもんだ』

 

 ガルマを失いザビ家の末弟となってしまったドズルは、以外にも冷静な調子であった。いつもならば、真っ先に熱狂して感情論に走っていた弟が今度ばかりは理路整然と兄を諭そうとしている。

 どうやら、僅かながら成長しているらしかった。

 

(妙なものだな。今までならきっと気づかなかったろうに)

 

 いつのことからだろうか、血を分けた兄弟を政敵の一人としてしか認識できなくなったのは・・・。

 2対1の構図となった会議の中で心あらずキシリアはそんなことを思っていた。疑心暗鬼は文字通り人の目を曇らせる。無論、兄弟なのだから、信じあい助け合うべきだ、などという戯けたお題目をいまさら言う気はない。単純に、そうやって目が曇れば、何かを見落とすと言う単純な理屈に気づいただけだ。得てしてそれが致命的になるというところまで気づけたと言うのは、彼女にとって大きな収穫であった。

 そして、それをキシリアに気づかせた男が始めた戦争を、彼女たちが「始めさせた」戦争の片を今付けようとしている。

 当然と言えば、当然での話ではあるがなんとも因果な展開である。つまるところこの戦争は私闘であった。それが、様々な因果の末に積み重ねられた憎悪と不条理の発露であるとはいえ、往々にして戦争などと言うものは私的な思惑によって呼び起こされ、私的な思惑によって終息するものなのだ。

 

 ほどなくして、今回の議題であったザビ家三兄弟による共同作戦は、最終的に三者三様の思惑を抱えたまま合意に達した。

 

 そして、それこそが、決まりかけていた歴史の流れを覆す新たな潮流に他ならなかったのである。

 

 

 

―――  静止衛星軌道上

 

 青、眼下に果てしなく広がる深い青は、その下の海の色を写しているのだろう。

 ただ太陽の光を受けて、輝いているだけだと言うのに・・・・。それがこんなにも美しく見える。自分が住んでいる場所をそうやって見ることが出来たなら、人はそこに住んでいる幸せと言うものをかみ締めることが出来るのではないだろうか。もっと自分の立っている場所を大切に出来るのではないか。

 HLVの艦橋から、これから向かう戦場を見ていたユーリ・ケラーネ少将は、柄にも無くそんなことを思った。

 

「やはり、地球は青かったか。第1次降下作戦の折にも見たが、何度も見てもすごいものだな」

 

 衛星軌道上から見る地球と言う奴は、見るもの全てに「やはり地球は青かった」と思わせるだけのなんとも味わい深いものがある。その母なる大地の重力から開放されたその場所に浮かんでいるのは、数十分前にキャリフォルニアベースから打ち出されたHLV群である。

 

 

 頑強な体躯、袖を切り取って半袖にした軍服を着ているその男こそ、ジャブロー襲撃の総指揮を任されたユーリ・ケラーネ少将その人である。

 

「そろそろ始めるとするか…」

 

 男は再び眼下に広がる青い空を見据えた。これから彼らが降りる場所であり、祖国の命運を決する戦場がその先にあるのだ。

 

(しかし、空に「降りる」とはな…言いえて妙だな)

 

 一人、胸のうちで笑いながら、ケラーネは湧き上がる興奮を必死に押しとどめた。彼らは地球から脱出した敗残の軍ではない。降りるのだ。友の消えた星、スペースノイドにとっては羨望と憎悪、そしてわずかな望郷の対象であるその場所へ、再び降り立つのだ。

 

(ギニアス、俺は戻るぞ。貴様の無念を果たして、再びこの宇宙(そら)へっ!)

 

 ジャブローに対する軌道降下強襲作戦、前回のキャリフォルニアベースからの空挺作戦など比較にならない規模の大戦力による攻撃作戦である。

 些細な腐れ縁であったが、それでもギニアス・サハリンは友人だった。その友の果たせなかったジャブロー攻略に、今、挑まんとしている。ともすれば、それは一種の敵討ちであった。

 

 刹那に生じた凄まじい振動がケラーネの思索を打ち切った。

 

「何があった!」

 

 ケラーネの怒鳴り声と共にけたたましい警報が艇内に響き渡る。オペレーターの一人が、緊張した声で答えた。

 

「456号艇被弾! 爆沈したようです! ……10時方向より敵艦隊!?」

 

「何だと!? 外周軌道のパトロール艦隊か…まずいな、取りこぼしがあったのか…俺たちでは反撃できんぞ!」

 

 大モニターに索敵結果が表示される。敵を示す光点の数は決して多くないが、この座標から動くことの出来ないHLV群にとってはかなりの脅威である。

おそらくは連邦軍が宇宙での反抗作戦に備えて打上げていた艦隊であろう。

 

「このままではいい的ではないか。降下体制に入れ!」

 

「だめですっ! 現在の座標では落着地点が大幅にずれます」

 

「なんだと……」

 

 今回の作戦の肝はジャブローへの直接降下である。それが失敗すれば作戦自体が瓦解する。それはすなわちジオン公国の敗北を決すると言うことだ。

 

「だが、このままでは全員犬死だ……」

 

 ケラーネの背を冷たいものが流れ落ちる。心臓を掴まれたような不快な緊張感が全身を硬直させる。決断せねばならない。だが、それはどちらを選んでも

選択の余地が無いものである。

 

「35号艇、19号艇、126号艇、236号艇沈没、12号艇と203号艇が降下不能」

 

 彼を追い立てるように、被害報告が続けられる。

 

「敵艦隊後方よりさらに増援っ!」

 

 別のオペレーターが叫ぶ。もはやケラーネに考える時間は残されていなかった。

 

「やむをえん。このまま降下…」

 

 そう言おうとした瞬間、モニター上の敵艦がいきなり爆発した。HLVの間を飛んでいたGMやボールが次々と爆発していく。

その爆炎を突っ切って、ケラーネの目に焼きついた姿は見慣れないMSの姿であった。

 

「アレは…新型か?」

 

「IFF確認、後方の艦隊は味方ですっ!!」

 

 モニターに移った灰白色のMSが手にしていたバズーカを投げ捨てた。

 

『またせたな、ひよっこ共っ!』

 

 通信回線に割り込みで響いた声は、ケラーネにとってはどこか懐かしさを感じる声音であった。

 とさかの様な通信アンテナに、中世の甲冑の「犬面」を思わせる特異な頭部、立体的な胸部装甲、ジオニック系MSの特色を色濃く出したその機体こそ

最新鋭機「MS-11ゲルググ」である。

 

 リックドムの編隊が、灰白色の機体を囲むように展開する。統率の取れた編隊機動はある種の几帳面さすら感じさせた。この几帳面なまでの編隊機動には覚えがあった。

 

『カスペン戦闘大隊指揮官、ヘルベルト・フォン・カスペン大佐である! 遅ればせながら助太刀に参った』

 

 手にしたビームナギナタが、あたかも指揮棒代わりにおろされた瞬間に、雁行隊形を組んでいた大隊が、小隊ごとに散会し、状況の変化に戸惑う連邦軍MS部隊に

餓狼の如く襲い掛かる。

 HLVを叩くために散会していたGM部隊は、次々とその餌食となった。自身もビームナギナタを縦横に振り回し先頭に立ってGMを切り捨てながら、

ヘルベルト・フォン・カスペン大佐率いるカスペン戦闘大隊は、突然の強襲に浮き足立つ敵部隊を容赦なく蹂躙した。

 

 

 

 

「か、カスペン教官殿? こいつはとんだ再会だぜ」

 

 モニター上に移る光景に唖然としながら、ユーリ・ケラーネは奇妙な縁に苦笑を浮かべた。ヘルベルト・フォン・カスペン大佐、ケラーネが士官候補生だったころにたっぷり絞ってくれた恩人(怨人とも書ける)である。

 士官学校で教鞭をふるっていたおりに(これが比喩でなく本当に振るわれるのだから、恐ろしい)、ギニアスやケラーネに士官としてのいろはをたっぷり叩き込んでくれた人物でもある。

 一年戦争の開戦とともに大隊指揮官として戦場に送られたという話は聞いていたが、まさかこんなところで再開しようとは、まったく、予想していなかった。

 そこへ、唐突にオープン回線に女性の声が入ってきた。

 

『いくら急いでるからって、おいてかないでおくれよ大佐。どうやら間に合ったようだね』

 

声と共に、混乱から覚めやらぬ艦隊に、先ほどとは別のゲルググ部隊が襲い掛かる。マシンガンとザクのシールドを改造したスパイクシールドに

刻まれたエンブレムは海兵隊のものである。巧みな連携で艦橋をつぶして、エンジンブロックを破壊する。見事な手際である。カスペンの灰白色のゲルググの後ろ続いた

もう一機のゲルググがどうやら指揮官機のようだ。カーキ系のパーソナルカラーに彩られたその機体は俊敏な機動でカスペン機に追随した。

 通信ウィンドウにパイロットスーツ姿の女性が写る。

 

『海兵隊のシーマ少佐だ。あたしらがお守りしてやるから、安心して暴れてきな』

 

 ノーマルスーツのせいで顔は良く見えないが、口調から察するにどうやら相当な女傑らしい。

 

「すまない。感謝する」

 

『おや、少将閣下直々とは光栄さね。仕事ですから、気にされないことですわ閣下』

 

 上官相手に物怖じしない態度を見て、ようやく思い出した。シーマ・ガラハウ少佐、荒くれ者ぞろいのジオン公国海兵隊で数少ない女性指揮官である。

 キシリア貴下でいろいろと後ろ暗い事をしていると悪評も目立つものの、逆に言えばそれだけ重用されるほど有能だと言うことである。

 女だてらに札付き揃いの海兵隊を束ねているところを鑑みても並大抵の手腕ではあるまい。

 

「噂は聞いている。頼もしい限りだ」

 

『時に、閣下は大佐の生徒だったとか』

 

「ああ」

 

『……』

 

「心中、お察しする」

 

 なんとなく、通じ合ってしまうところが悲しい。どこか疲れたような顔に見えるのはきっと気のせいではないのだろう。

 一見、杓子定規でお堅い軍人に見えるカスペン大佐だが、破天荒な行動力を持つかなりのマイペース人間である。

 ありていに言えば、周りの人間を縦横無尽に振り回すタイプなのだ。それでも部下を見捨てることは無いし、勇猛かつ有能な指揮官であるのだ。

 それゆえに人望が無いではないのが、ある意味腹立たしい部分だった。

 

『何をやっておるシーマ少佐。さっさと片付けるぞっ!』

 

『やれやれ、本当に人使いが荒いお人だよ。まったく』

 

 そういいながら、シーマは自分の隊をまとめて、カスペンの部隊に追随する。なんだかんだ言ってなかなか息は合っているようだ。

 

「閣下! 作戦ポイントに到達しましたっ!」

 

「良し!! 全機降下だっ!」

 

「了解……閣下」

 

「なんだ?」

 

 ケラーネが怪訝そうな顔で振り返ると、オペレーターが言った。

 

「カスペン大佐より発光信号、ブウンヲイノル、だそうです」

 

 ケラーネはため息混じりに笑みを浮かべた。

 

「まったく、最後までありがたいお人だぜ…さあ行くぞっ!!」

 

 艦橋から格納庫へと降りたケラーネは全てのHLVに向かって号令を発した。

 

「全HLV逆噴射! 降下開始!!」

 

 無重力の船内が揺さぶられる。徐々に強まっていく転落感が、巨大な腕にとらわれたかのように錯覚された。いや、捕らわれたのか。

 地球の重力に引かれるのを感じながらそれでも、魂までは惹かれることは無いだろうと、男は思った。見てしまったのだ。あの美しい光景を、それは地上にへばりついていては、決して見ることの出来ない光景である。それゆえに、彼は再び宇宙(そら)に帰ることを決意していた。ともすれば、彼らは宇宙の子なのだ。

 

 

 

――― ジャブロー襲撃より一週間前 大西洋 ドライゼ艦隊

 

 深く蒼い水中を巨大な影が横切る。水流ジェット推進によって、海中を進むのは、過日解散したマッドアングラー隊を吸収して、戦力を増強した

特務潜水艦隊ことドライゼ艦隊である。

 

 黒い艦体に書かれた「U-801」の文字は、この艦体の旗艦を勤めるユーコン級の艦名である。潜水母艦であるマッドアングラー級を差し置いて

この艦が旗艦を勤めるのは、司令官の座乗艦であるからに他ならない。

 

(それにしても、あわただしいことだ)

 

 この急造の特殊攻撃部隊を率いることになったドライゼ中佐はことの成り行きをそう評することにした。水中用MS部隊を搭載した潜水艦隊は

開封された命令書によって始めてその任務を明かされ、この集結ポイントへと集まったのである。

 

「中佐、作戦開始時刻です」

 

 副官の若い中尉が緊張した面持ちで言う。

 

「MS部隊出撃用意!」

 

 ドライゼの号令が下るや、格納庫に注水が始まり、MSが収納されている部分に海水が満たされていく。

 

「格納庫注水完了! 耐圧扉開きます!」

 

「MS部隊発信準備完了!」

 

『こちらはいつでも出れるぞ!』

 

 癖のある声で言ってきたのは今回の作戦で先導を勤めるMS特殊部隊の隊長、ハーディー・シュタイナー大尉である。

 

「……幸運を祈る」

 

 ドライゼは自分と同年代の男が写るモニターに向かって敬礼をした。

 

 

 

 

 

「感謝する」

 

 モニターごしの相手に敬礼を返して、シュタイナー大尉はすぐにてきぱきと指示を出した。

 格納庫の中が海水で満たされていく。像の歪む水の中で、MSの単眼に灯が灯った。鋼のきしむ音を立てながら、格納庫の扉が開放された。

 

(おそらく、今回のような作戦が可能なのも今回限り……亡国の民にはなりたくないものだな)

 

「サイクロプス隊! 出るぞ」

 

 隊長機であるズゴッグEを筆頭に3機のハイゴッグが、次々と海中へと放出された。艦隊を構成する他の潜水艦群からも次々とMSが放出される。

 まるで魚が卵を放つように放出された水中用MSは新旧の機体が混合した寄せ集めのようにも見えるが、歴戦の水中用MS乗りをかき集めてきたのである。

特に搭載能力に優れたマッドアングラー級は運用限界ぎりぎりのMS一個中隊は(16機)を搭載してきている。

 センサー上に見える光点を見ながら、シュタイナー少佐は僅かに微笑んだ。

 

「なかなかに壮観だな。フロッグメン部隊とはよく言ってくれたものだ」

 

『将軍にでもなった気分になりますね、隊長』

 

 陽気に軽口を叩くのはガルシア軍曹だ。そういえばガルシア軍曹の祖先はこのあたりに住んでいたらしい。最近、MSの写真をコクピットに貼るように

なったことをミーシャにからかわれていた。

 

『おいおい、愛しのアッガイちゃんが見れるからって、気張るんじゃねぇよ、ガルシア』

 

 途中から割り込みで聞こえてくるのはミハイル・カミンスキー中尉である。

 

『だって中尉、可愛いじゃないですか』

 

 ミーシャのからかいにガルシア軍曹が抗議の声を上げる。抗議するところが間違っているような気がしなくも無いが、そこはあえて口に出さない。

 

『まったく、アンディ何とかいってやれよ』

 

 呆れたように、ミーシャが話を振ると、アンディ少尉はしばらく考え込んでぼそりとつぶやいた。

 

『何を考えてあんなに愛らしく設計したんですかね。あのMSは』

 

「いい加減に無駄口を叩くのはやめておけ、そろそろ目標地点だぞ」

 

 シュタイナーは苦笑を浮かべながら部下たちをたしなめた。

 

「それからミーシャ。体を温めるのもいいが、ほどほどにな」

 

 そう釘を刺しておくのも忘れない。しょうもない会話をしているようだが、それが彼らなりの緊張のほぐし方なのだ。今回の任務がとてつもない重責を担っていることは、誰もが理解している。だが、それゆえに過度な緊張で反応が遅れれば、それが命取りにもなりかねない。

 濁った水の中を密かに進みながら、それこそ大河の中を蛙のようにむのだ。アマゾンには小さくとも強力な毒をもつ蛙が居ると言う。極彩色の美しい体色を持つ彼らは森の宝石と呼ばれているそうだ。潜入任務であるため彼らの機体は目立たぬ色で塗装されている(前回の襲撃作戦では潜入部隊のくせに目立つパーソナルカラーの機体に乗っていた挙句、部隊を壊滅させた愚か者が隊を率いていたらしい)。

 優美さなど欠片も無く、ただ泥水の中を泳ぐ彼らこそが連邦と言う名の巨象を屠る毒となるのだ。

 

 

 




あとがき
 皆様、大変お待たせいたしました。外伝、第1章やっとこさっとこ完成しました。
 今回、登場した新キャラ「コウ・フナサカ」は帝国陸軍が誇る人間兵器こと船坂弘(ふなさかひろし)氏がモデルになっています。
 コウはコウでも連邦のコウとは一味違う曹長どのの勇姿をご堪能いただければ幸いです。次回あたりでサイクロプス隊も出す予定です。
 今回じつは以前投稿した際の話を2話分統合しています。
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