機動戦史マヴラヴHardLuck   作:赤狼一号

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第二十五章 結末

―――国連軍横浜基地地下 ジオン・インダストリー本社(旧アプサラス基地)

 

 

 

 

「それは何とも光栄な話だが、順を追って説明してくれんかね」

 

 我に返ったマ・クベは、勤めて冷静に喋りかけた。

そこからの話はなんとも壮大で、まずマ・クベ達が行方不明になってから、その情報は秘匿され、アプサラス開発基地のあった場所にできた大穴で篭城していると思われていた。

 その躍動を探るべく、調査に出されたのが木馬であったことを考えれば、マ・クベ達は当初の目的の一つであった陽動の任を果たしたことになる。

 

 それを好機として、異例のザビ家3兄弟共同による第二次ジャブロー攻略戦が発動。

 ユーリ・ケラーネ少将率いるジャブロー降下戦隊とジオン公国軍水中機動艦隊による三次元作戦が功を奏し、乾坤一擲の戦いに勝利したジオンは、ジャブローを制圧。

 本部のサーバーに納められていた連邦軍による連邦議会非常任理事区画への各種工作を全て暴露され、地球連邦は主要常任理事区画の不信任決議などで、大混乱に陥った。

 連邦議会はジオンに対し停戦を申し入れ、ジオン公国は正式に独立。地球連邦軍は宇宙から総撤退し、ジオン公国は宇宙の覇権を握った。

 さらには連邦議会から離脱した北アフリカ方面への駐屯を許可され、地球を監視する形となった。

 

 だが、問題となったのは戦後処理であった。名目上、勝利した形ではあるものの、実質的には引き分けに近い。

 戦争初期の中立コロニー制圧や、コロニーを戦略兵器へと改造したことによる大量の難民の発生はジオン国民に負担として重くのしかかった。

 ともすれば国民感情が反ザビ家へと傾きかねない状況のなかで、窮地を脱したのは総帥ギレン・ザビによるコロニー独立の英雄ジオン・ダイクンの忘れ形見への政権譲渡であった。

 ジオン公国軍においてエースパイロットとして活躍していた「赤い彗星」ことシャア・アズナブルがキャスバル・レム・ダイクンであったことを暴露し、ジオンは共和国へと生まれ変わった。

 無論、その政府首脳には「キャスバルを補佐する」という名目でギレンの名があり、軍にはキシリアとドズルがいる。

 そして、狡猾なザビ家はキャスバルに人気が集まりすぎるのを防ぐために、もう一つのカードを切ったのだった。

 

 そのカードに描かれているのは、地球文化を愛し、理解するがゆえに、地球へ和平交渉に赴いた粋人。

 その交渉が決裂した責任を負って、侵攻軍司令官として、最前線で指揮を執った軍人。

 連邦の物量に押され、劣勢に立たされてなお、「核による主要都市への攻撃を」という「部下の提言」を退け、不利な撤退戦を自らMSに乗り込み、陣頭指揮で戦った指揮官。

 彼は撤退する味方を逃がすために、直属部隊の兵士と共に最後まで戦い、生還した。

 敗戦の責を負い、4階級降格されてなお、特務部隊の一員として地球に降り立ち、ジオンの勝利の為に戦い続けた。

 英雄…。否、死してその男は、軍神と呼ばれるにふさわしい功績を残したのだ。

 

 そうした虚実に装飾されたカードに描かれた人物こそ、元地球侵攻軍司令官マ・クベ元中将、その人であった。

 

 大衆好みの逸話は全て、巧妙に真偽をいり混ぜられて強烈な幻影を作り出した。

 なにせ、死人に口無しである。なんとでも、夢を見れるのだ。

 その極め付けが降格処分解除の上での2階級特進による、ジオン初の元帥府列席であろう。

 最初の人間がザビ家の人間ではないと言う点でも、その茶番は大衆の心を打つには十分だった。

 

 こうしてあらゆる手段を持ってマ・クベを軍神に仕立てあげることで、まんまとザビ家はキャスバル・レム・タイクンに亡霊を取り憑かせることに、成功したのである。

 哀れにもキャスバル・レム・タイクンは、問題だらけの国政の矢面に立たせられたばかりか、軍神と言う名の死霊にすら悩まされる羽目になったのである。

 

 「全く持って難儀な話だ」

 

 マ・クベにしては珍しく疲れた調子で言った。

 憤ることすら通り越して、なんともいえない疲労感が残った。

 何より頭が痛いのは、これが余人の話であれば同様の方策を採ったであろう事が分かりきっていることだ。

 

「だが、下せんな。その話の筋立てで、どうして貴公らがここにいることにつながるのだ?」

 

 そう間に入ったのはパイパー大佐だった。

 その言葉を受けて、画面の向こうのガトーの顔が苦いものになる。

 

「一年戦争の趨勢はお伝えしたとおりです。もはや、ジオンは、いえコロニーは地球連邦政府のくびきから脱しました。ですが、終戦から2年後。ギレン閣下の諜報網が、連邦が秘密裏に核搭載型ガンダムを開発したことを察知しました。奴らは、それを使ったサイド3強襲を狙っていたのです」

 

「なに・・・?」

 

 ピクリとマ・クベが肩眉を上げた。パイパー大佐はもっと正直に机を叩いた。

 

「なんだと!? どうしてそんな真似を、連邦の連中は気でも狂ったのか」

 

 ガトーは僅かに肩を落とすと苦いものを飲み下すように話し始めた。

 

「連邦も限界だったのです。いち早く連邦を脱した北アフリカを除いて、連邦議会の混乱は未曾有の経済的混乱をもたらしました。特にコロニー落としによる被害で穀倉地帯は壊滅状態であり、発生した大規模な食糧危機は致命的でした。コロニーからの搾取に頼りきっていた連邦経済は破綻し、完全に権威を失った連邦議会に変わって連邦軍内の過激分子を増徴させるには十分でした」

 

「レビルはどうしたのだ? あの男が自暴自棄の道に進んでいくのを傍観するとは思えん!!」

 

 パイパー大佐が珍しく我を忘れたように叫ぶ。

 ガトーは黙って首を横に振ると、右手を握り締めた。

 

「そのレビル将軍を筆頭に連邦軍によって連邦政府を纏めたのが、反宇宙移民派閥の急先鋒であり、コロニー再占領を唱える。やつらティターンズだったのです」

 

「ティターンズ・・・連邦軍内に根強く反コロニー論者がいるとは聞いていたが。あのレビルがそんな連中と組むとはな…」

 

 信じがたい、といわんばかりの顔でパイパー大佐が呟いた。

 

「そんな連中の旗頭になってでも、纏めねばならないほどに、地球連邦は瓦解寸前でした。そして、それをとめるためにはコロニー再占領しか道はない、それが踏み切らせたのでしょう」

 

 それだけではあるまい、とマ・クベは思った。

恐らく軍内部での派閥を一本化することで、軍自体が崩壊する事を防いだのだろう。

 連邦軍が崩壊すれば、それを皮切りに地球上のいたるところで内戦が勃発し、タダでさえ疲弊している経済や物資流通は壊滅する。そして戦火が北アフリカに及べばジオン介入の口実を与えることにもなるのだ。そうでなくても地球の食料生産は自給自足にはほど足りず。食糧生産を握るコロニー側に飼い殺しにされるか、最悪、地球圏の人類は絶滅する。

 ジオン公国はそれに対し、文字通り、高みの見物を決め込めば良い。

 向かっても死、座しても死ならば、答えは決まっている。

 死中に活を探るのみだ。

 

「火種がくすぶり続けているのを察知した我々は、ユーコン基地にて極秘裏に開発されていたガンダム2号機奪取を計画。私は実行部隊の長としてガンダムを奪取しました。潜水部隊によって北アフリカの駐屯地に到着した我々は、北アフリカ連合政府から地球連邦の犯罪を告発していくつもりでした」

 

 これによって連邦軍の権威の失墜をはかり、同時にジオンに対して反抗的なコロニーを連邦と言う仮想敵を見出すことで、纏める目的もあったのだろう。

 だが、連邦にとってそれは喉元に短剣を突き入れられるに等しい。その後に続いたガトー少佐の話は予想通りの反応だった。

 

「しかし、我々が基地に着いていくらもしないうちに、連邦軍は・・・・・あろう事か小惑星迎撃用の核衛星を落としてきたのです」

 

そう、攻撃が出来ないのなら「事故」を起こしてしまえばいいのだ。まして、戦争中とはいえ、故意にコロニーを落としたジオンがそれを攻めたところで、効果は薄い。

 

 それが彼らがココに来た理由だろう。ガトーは時折拳を握り締めながら、天井を見上げた。あるはずのない故郷の方向を眺めているのだろうか。

 その顔には憂いが混ざっている。

 

「・・・我々が目を覚ましたのはこの世界のエルサレムでした。おりしもBETAに襲撃されつつあったその街の防衛をノイエンビッター少将が命じられました」

 

「!? ノイエンビッター准将も来ているのか?」

 

 割り込んできたのはパイパー大佐だった。ガトーは落ち着き払って、パイパーに頷いた。

 

「閣下は混乱しそうになる我々を一喝し、怪物に襲われている無辜の民をそのままにしておいてはいけないと・・・・元帥閣下」

 

 そう言ってガトー少佐はマ・クベの方へ振り返った。

 

「呼ばれたぞマ・クベ」

 

 パイパーがからかうように言う。そちらには一瞥もくれずにマ・クベはじっとガトー少佐を見た。

 

「元帥閣下に少将閣下からのご伝言を預かって参りました」

 

 そう言って、懐からディスクを取り出した。

 

 

 

 ノイエンビッターのことはよく覚えている。彼は地球侵攻軍時代の部下でありアフリカ方面を担当する辣腕の指揮官だった。どうやら、戦争が終わった後はそのまま北アフリカの駐屯地司令になったようだ。

 

「ウラガン、少佐をお連れしろ」

 

 唐突なマ・クベの言葉にウラガンがぎょっとした顔をする。

 

「通してもよろしいので・・・?」

 

「言葉に気をつけろ。この異界において、めぐり合えた数少ない同胞だ」

 

 マ・クベが神妙な顔でたしなめると、ウラガンは直立不動になって敬礼をした。

 

「はっ! 失礼いたしました」

 

「いや、気にしないでくれ。警戒するのは当然のことだ」

 

 いささか当惑したような顔で、ガトーが言った。

 

「それで、コウヅキ大佐からの見返りは何だ?」

 

 当然のようにたずねたマ・クベにウラガンがあたふたしながら答えた。

 

「はっ、あの、それが・・・・・・貸しにしとくわ、だそうです」

 

「……そうか」

 

 ガトーの心はあの霞と言う少女に読まれているだろうから、ガトー達の正体は知れたと考えておいた方が良いだろう。

 エルサレムのジオン軍の規模がどれほどのものかは分からないが、最前線である以上、合流は不可能だろう。政治的に不利になりうる要因にもなる。詳しい事は「伝言」とやらを見てからになるだろう。

 

 

 

 

 

――― 機密区画直通エレベーター

 

 中型エレベーターという微妙な距離感の空間で、ガトーはいずらそうにしているウラガン大尉を気の毒に思った。

 

「あの、よかったのでありますか?」

 

 おずおずとウラガン大尉が尋ねてくる。

 

「なにがだ?」

 

 怪訝な顔でガトーが答えると、ウラガン大尉は言いにくそうな顔で言った。

 

「その、護衛の方々を置いてきてしまって」

 

「かまわんさ。味方の基地に行くのに護衛は必要あるまい」

 

 そう答えると、ウラガン大尉は関心したような顔をした。サイクロプス隊には申し訳ないが、これは味方であるという意思表示をするためでも重要なことだ。矜持でもある。

 それにしても、意外なほどあっさりと基地に入れてしまった。異邦人でありながらも、マ・クベの名前を出しただけで、こうして面会もかないそうな状況になっている。

 

「むしろ、私の事を信用しすぎる気もするが」

 

「ジオンの名を騙ってですか? 私見ですが、少佐殿がそういったことを好まれるようには見えません」

 

 不思議そうな顔をするウラガンを見て、ガトーは内心驚いていた。自分は分かりやすい類の人間だと言う自覚はあったが、それでも会って十数分も経っていないはずなのにこうも自信たっぷりに言えるだろうか。

 凡庸そのものと言う顔つきをしているが、侮れない相手である。

 

「それに、少佐殿が仮に何かをたくらんでいたとしても、マ・クベ様とパイパー大佐が好きにさせるとは思えません」

 

「随分と信頼しているんだな」

 

 ガトーはウラガンに対してマ・クベの副官であると言う程度の印象しかもっていなかったが、同時にどこか姑息な男だとも思っていた。だが、マ・クベの事を話すウラガンの目は単なる腰ぎんちゃくのものではない。自分と同じ目だ。己の全てを賭して他者に仕えようとする者の目。

 

「オデッサでは活躍されたそうだな、良ければ話してくれないか?」

 

「……お話しきることは出来ないかもしれませんよ」

 

 なんとも挑戦的な笑みを浮かべながら、ウラガン大尉は答えた。退屈な道すがらになると思っていたが、にわかに興味が出てきた。

 狡猾な指揮官と勇猛な戦士二つの面を持つ男のルーツはやはりそこにある気がした。

 

「頼む」

 

「わかりました……」

 

 

 

 

 

――― 横浜基地 機密区画 ザンジバル級機動巡洋艦「モンテクリスト」

 

 第600軌道降下猟兵大隊の旗艦であるこの艦の会議室に会したのは、アプサラス開発基地基地司令ギニアス・サハリン少将。警備隊司令ノリス大佐と第600軌道降下猟兵大隊指揮官ヨアヒム・パイパー大佐そして外交担当のマ・クベ中佐である。

 

「しかし、マ・クベ中佐が元帥とは……」

 

 ノリス大佐がうなるように言った。ギニアス少将も驚いているようだ。

 その現況であるマ・クベは泰然とした表情で告げた。

 

「戦死した場合の特進です。考慮する必要はないと思います」

 

「だが、中佐。君の降格処分は撤回されている。中将という階級に復帰するに当たっては問題はないはずだ」

 

 そう言ったのは、ギニアス少将であった。意外な伏兵の出現にマ・クベの表情が僅かに動く。

 

「それは、そうですが……」

 

 ノリス大佐が言いよどむ。ギニアスは決然とした表情で続けた。

 

「私は自分の指導力がこの現状を乗り越えるに値するものであるとは思ってない」

 

「ギニアス様・・・」

 

「無責任のそしりは甘んじて受けよう。私はこの難局を乗り切るにはマ・クベ中将閣下に指揮をとって頂くのが上策と考えている」

 

「し、しかし」

 

 マ・クベの額にうっすらと汗が浮く。ノリス大佐の方を見ると、主君の覚悟に準じるような顔をしている。

 

「少将閣下、失礼ながらそれは素人判断と言う奴です」

 

「パイパー大佐!?」

 

 ノリスが驚きの声を上げる。パイパーは構わず、話を続けた。

 

「中佐の斬込隊を見てください。あれはマ・クベが中将であろうと中佐であろうと、奴に従うでしょう。仮に私がマ・クベを粛清しようとしても、彼らは大隊の全てを敵に回したとしても反抗するでしょう。忠誠というものは、そういった性質のあるものです」

 

 そこまで言って、マ・クベの方をむくと毅然とした口調で尋ねた。

 

「マ・クベ、現時点で不足している権限はあるか?」

 

「いえ、特には」

 

 さらりと答えを返したマ・クベに満足そうな笑みを向けると、パイパーは再びギニアスの方を見た。

 

「少将閣下、現時点では彼の降格処分解除も我々の特進も全ては口伝えによる不確定な情報であり、上級司令部からの正式な辞令が存在するわけではありません。それを根拠に指揮権を移譲するのは時期尚早かと思われます。なにより閣下、兵達が混乱します」

 

 いささか、疲れたようにギニアスは座席に腰をかけた。

 

「そうか……ノリス、私の判断は性急だったか?」

 

「失礼を承知で言わせていただければ、そうかと」

 

「そうか……」

 

 僅かにため息を付くギニアスに、マ・クベは冷静にそして穏やかに言った。

 

「ギニアス閣下。アプサラス基地の兵隊はあなたのものです。彼らが忠誠を誓っているのはジオンの旗であり、そしてその旗を掲げるあなた自身なのです。それを自覚してやらねば、兵が可愛そうです」

 

「しかし、私には……」

 

 そう続けようとしたギニアスの後をパイパー大佐が強引に引き取った。

 

「あと10年経って、まだそう思われるようなら、もう一度、議論しましょう」

 

 にやりと笑いながら片目を瞑るのを見て、ギニアスは観念したように笑った。

 

「わかった。もう少し、精進するとしよう」

 

「そう願います。失礼ながら、少将閣下は見込みのあるほうですからな」

 

 パイパー大佐がわざとらしい咳払いとともに付け加えた。

 

「パイパー大佐、マ・クベ中佐。感謝します」

 

 ノリスが厳かに頭を下げた。マ・クベとパイパーは黙って敬礼を返した。その場はそれで収まったが、マ・クベはギニアスの弱気の理由が彼の体調にあるのでは、と密かに思っていた。そして、それはこの場の全員にとって、致命的な痛手となりうることであった。

 

《大佐、ウラガン大尉が到着しました。国連軍の士官も一緒です》

 

 簡潔な報告が基地の検問所から入る。

 

「分かった。通せ」

 

 数分後、執務室のドアがノックされた。

 

「ウラガン大尉です。ガトー少佐をお連れしました」

 

「ご苦労。入れ」

 

 パイパー大佐が短く答えた。扉が開き、ウラガンに伴われて、長い銀髪を束ねた男が入ってきた。男の長髪は目を引くものではあったが、男の待つ歴戦の戦士の雰囲気は、外見の洒脱さを打ち消して余りあるものだった。

 

「失礼します。ジオン公国軍エルサレム駐屯軍所属、ガトー少佐であります」

 

 すぐに直立不動になって敬礼をする。一部のすきも無い見事な敬礼だ。

 

「我々の顔はどうやら知っておるようだから、紹介を省こう。本題に入ってくれたまえ」

 

 マ・クベが何事も無かったように議事を進行する。

 ガトーは懐から一枚のディスクを取り出すと、マ・クベに手渡した。

 

「これがノイエンビッター閣下からのメッセージです」

 

 ディスプレイにセットすると恰幅のいい男が画面に現れた。

 

「こちらのディスクが再生されていると言うことは、私の予測が当たったようです。

 司令官閣下・・・いえ、今では元帥閣下とお呼びした方がよろしいですかな。

もっとも閣下は嫌がられるでしょうが・・・・・・。

 1年戦争の趨勢についてはガトー少佐がご説明したものと思われます。我々は連邦軍による軌道落下攻撃の後に、地下墳墓で目覚めました。この世界での西暦1997年、おりしもBETAの大群が押し寄せる中でした。我々は直ちにこれを迎撃。現地の民とも協力して戦いました。

 以降、我々はエルサレムに隠れながら、かの地を防衛し続けているのです。補給の当てもなく、文字通り根無し草となった状況で、将兵はよく戦ってくれました。

 閣下、わが軍団は機動部隊、潜水艦隊を初めとした多大な戦力を有しておりますが、それを維持するのは限界に近い状況になっております。我々の駐屯するエルサレムが持つ意味を閣下は理解しておられる物のと思いますが、BETAという防壁がなければ、我々はとうに他の勢力の介入を受けているものと思われます。中東連合の一部の国々と協調関係にある我々ですが、そのバランスもいつ崩れるか分かりません」

 

 そこで一旦言葉を切るとノイエン・ビッターは居住まいを正した。

 

「我々は3年待ちました。再びジオンの旗の下に集う日を……。そして、それこそが今なのです。

マ・クベ閣下、わがエルサレム駐屯軍は現時点を持って、閣下の指揮下に入ります」

 

「なんと……」

 

「・・・・・・・・・」

 

 ガトーは瞠目した。ノイエン・ビッターともあろう人間が、己と自身に従う将兵を委ねられる将器とは一体何なのだろうか。

 目の前の男は無言で何かを考えているようだった。ともすれば重責の前に声も出ないようにも見える。先ほどの無防備に驚く姿を見ていなければ、ガトーとてそう感じていたであろう。

 

 だが、その実は違った。マ・クベは「閣下」と呼ばれうる人間にふさわしい笑みを浮かべた。細い体躯にみなぎる巌のような覇気をガトーは眼にした。

 

「ノイエン・ビッター少将もやってくれる」

 

 僅かにうれしげな響きを持ったその声に、ガトーは一瞬、怪訝な顔をした。

 

「は、はあ」

 

「これで断れば、私は自分の怠惰ゆえに重責から逃げ出した臆病者となるな。良いだろう。これで貴君らは我々の庇護下におかれることになる」

 

「はっ、感謝いたします」

 

「ガトー少佐。これで貴君らもジオン公業社員と言うわけだ。ノイエン・ビッター『支社長』に伝えてくれ。物資は必ず融通するとな」

 

 ガトーは直立不動になって敬礼をすると、目の前の人物に眼を凝らした。

 大きいな、口の中で呟いて、それを心地よく感じている自分に驚いた。その細みな体躯にそぐわぬほど、彼の眼にはマ・クベという男は大きく写ってみえた。

 オデッサの戦場で伝説を気づいた男達の気持ちがなんとなく分かるような気がするガトーだった。

 

「ウラガン、少佐を地上までお送りしろ。ついでにコウヅキ大佐に、話がある、と伝えてくれ」

 

「はっ」

 

 待てましたとばかりにウラガン大尉が、笑みを浮かべる。

 マ・クベは去り際にガトーを呼び止めると、思い出したように付け加えた。

 

「少佐、ノイエン・ビッター少将に、貴君が合流できないことを、心から残念に思うと伝えてくれ」

 

「了解しました!」

 

 敬礼をしながら、ガトーはこの人物と共に地球に下りていればどうなったのだろうか、とふと考えた。

 

「ふっ、馬鹿なことを……」

 

 オデッサで戦っていたであろう己の姿に苦笑しながら、それでも僅かな羨望を覚えずにはいられないガトーであった。

 

 

 

 こうして不意打ちだらけの一日の終わりにマ・クベが訪れたのはアプサラス基地の医療ブロックだった。

 

「……あっ」

 

 マ・クベの顔を見た瞬間に、ベッドの上にいた少女は身を硬くした。伏目がちに、伺うような眼差しで、彼の方を見る。

 

「……」

 

 マ・クベは黙ってベッドの横の椅子に腰をかけると、小さくため息を付いた。

 

「体の調子は?」

 

 少女は消え入りそうな声で「大丈夫です……」と呟いた。

 

「カガミ上等兵、君には一度実戦部隊を離れてもらう」

 

「…………あの、もっとがんばります! あたし、次はこんなこと」

 

「次に死ぬのは君だけではない。それを分かった上で言っているのかね?」

 

 そう言うと、スミカは黙って俯いた。無論、彼女に分かっていないはずはない。それが分からぬほど自覚のない鍛え方はしていない。

 

「君はハイヴから生還した唯一の人間だ。地上に帰ってもおそらくは真っ当な人生は送れないだろう」

 

 俯いたままの少女にマ・クベは静かに告げた。少女の頭がこくりとうなづく。

 

「それに、我々としても君というカードをタダで向こうに返す気はない」

 

 マ・クベはそこで一度、言葉を切ると居住まいを正した。

 

「カガミ上等兵」

 

「は、はい!」

 

 唐突に呼ばれたスミカは、思わず大声で返事をしてしまった。

 

 

「君に新しい任務を与える。来期から地上で本格的に活動する国連軍横浜基地衛士訓練校に入学し、そこで情報収集活動に当たってもらう」

 

「情報…収集ですか」

 

「その訓練はリトヴァク少佐にあたってもらう」

 

「分かりました」

 

 言いながら、肩を落とす少女に向かってマ・クベは穏やかに言った。

 

「……そこでもう一度、考えるといい。それでもなお戦う事を選ぶなら、己が命を捧げるに足る理由を」

 

 それだけ言うと、マ・クベは少女の病室を出た。

 部屋を出て、数歩歩いたところで、隻眼の男が壁に寄りかかっていた。

 

「言ってきたのか?」

 

 男が片方だけの眼をこちらに向ける。

 

「ああ言うべき事はな…」

 

 二人は肩を並べて黙って歩きだした。一言も喋らずに黙々と歩く。廊下を抜け、医療ブロックを抜けるて、MSが駐機されている中庭に出た。

 

「しけた顔してやがるな」

 

 唐突に眼帯の男が口を開いた。

 

「お互い様だ…」

 

 言いながら懐から細巻きを取り出し、口にくわえる。

 

「そうかい」

 

 そう言って、バウアーも細巻きを取り出すと、くいっくいっ、と指を動かして、マ・クベに近づくように促した。

 

「我ながら、詭弁ばかり言ったよ」

 

 そう言いながら、マ・クベはバウアーのタバコに自分のそれを近づける。

 バウアーはなれた手つきでマッチをすると、その小さな炎で二人分のタバコに火をつけた。

 

「でも、真実だったんだろ?」

 

「ああ、気に入らんがな」

 

 二人の男は淡く光る天蓋に向かって、紫煙を吐き出した。

 

 

 






リディア「3」
リディア「2」
リディア「1」
パイパー「状況開始」
リディア「HARDLUCKラジオは~じま~るよ~……てかなんであたしが1人でやっているんですか? これ」
パイパー「カガミは考えることが多くて忙しいのだろう」
リディア「そりゃそうかもしれませんけど…あたしだって愚痴りたいこといっぱい会ったのに(ボソっ」
パイパー「そりゃ逆だろうが、上官たるもの部下の相談に乗ってやらんでどうする」
リディア「いえ、あの、なんだか最近はそういう流れだったのでつい」
パイパー「何をわけの分からんことを」
リディア「しかし、また随分とあきましたね」
パイパー「今に始まった話ではないが。能無しの作者には二年目の実習科は堪えたらしい」
リディア「研究所に残れたのは由とすべきでは」
パイパー「精神をギリギリまで破壊されるまで病みかけるらしいからな。たった一個の科目で」
リディア「単純にその先生のこと嫌いなだけなのでは…」
パイパー「相性というのは重要だと思うぞ」
リディア「それは、そうですが」
パイパー「結局は忠誠の問題だ。習っている相手をどこまで信じて忠誠を尽くすことが出来るかに尽きる」
リディア「なんだか、ゆがんでいるような気が…・・・」
パイパー「そういうこと言ってると、また出番がなくなるぞ?」
リディア「あたしは何も悪くないはずなのに、何故、理不尽はあたしの前に立ちふさがるのかしら」
パイパー「それにしても、作者がいない間に励ましてくれた読者の諸兄には感謝してもし足りないな」
リディア「うちに来て妹をと言うわけには行かないから、今晩、夢の中にでもお邪魔するわ」
パイパー「お礼になるかは甚だ疑問だが、ここいらで分かれるとしよう。
忠勇なる読者諸兄に永久の栄光あらんことを・・・・」
パイパー・リディア「ジーク・ジオン!!」」
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