異分子兵士、提督となる   作:遊々自適

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一章  着任編
第一話 溺れる


その男は人類の敵と戦っていた。物心ついて教えられたことは作戦の伝達に必要な最低限の言葉と、武器の扱い方。

少年兵ではない。調整兵。人類の存続の為に生産された兵士だった。

男は強かった。数多の敵を屠り、勝利して(生き残って)きた。

 

男を研究して量産すれば、人類の勝利に繋がると学者が叫ぶ。人類連邦政府の承認もあって男の調査が行われたが結果は好ましいものではなかった。

分からなかったのである。

敵であれば解剖して調べ尽くせばよいが、男が最も戦果を挙げた兵士であったが故に、解剖を求める派閥と兵士として戦場に戻そうとする派閥、別の切り口から調査を求める派閥がぶつかり合った。

調査派が解剖派を条件付きで丸めこみ、男は研究施設で過ごすこととなった。

 

施設で男は多くのことを教えられた。戦闘の知識しか持たなかった男から聞き取りをしようにも出来なかったためだ。

調整兵特有の学習能力の高さから、男はすぐに順応してゆき、その結果更に研究者たちを困らせていった。

最も問題だったのは男に欲、特に幼子に見られるような"知りたがる欲"が生まれたことが挙げられた。調査の為になにかを聞いても、新しい語句を聞けば、「それは何か」と質問されて一向に進まなくなるのだ。

 

我慢しかねた研究者が過ちを冒した。

男に情報検索端末を与え、自ら調べる許可を与えてしまった。

男はありとあらゆる知識を蓄え、そして自分という存在を知った。

ただの調整兵として敵を屠っていた時の男であればよかったが、今は知識を蓄え倫理を知り、己がどの様な命令を受けて戦ってきたかを理解した。

 

男は獅子身中の虫となった。

人類は敵を新たに生み出してしまった。

 

男は研究施設から脱走して調整兵の解放を考えた。しかし男と違い調整兵たちが従うのは上官のみ。

男が逃がそうにも、「現在、待機を命じられている」と返すだけでしかなかった。

 

男の脱走を知って研究者たち、政府も男を捕らえて解剖する流れが生まれた。

男はそれを理解しており人類と、その敵を相手に戦い続けた。

 

食料の補給もままならない一人の兵士を人類は殺すこともできず、人類連邦政府は男の排除(・・)を決定し、異世界から来る敵を解剖して手にした技術から創り上げた転移兵器を使用した。

 

回避という概念の枠から外れたその力に、男を中心とした直径500mがその世界から旅立った。

その世界は果ての見えない泥沼の戦いをいまだ続けている。

 

 

***

 

 

 

(自分はまだ生きたい……)

 転移の奔流の中、男は願った。何処とも知れぬ地でも生きることを。

 

 

 

***

 

 

 

男が感じたのは自由落下。自分と共に転移させられた大地の一部と落ちている。その端から見える蒼色に目を奪われていた。

数瞬の後、大地が蒼に海に着水。大波を生み出して沈んでいった。その沈みゆく大地に引きずり込まれるように男も海の中へ。

 

 男は必死にもがいた。男の生まれた世界では体験しえなかった、”真に死に迫る恐怖”が今まさに男を襲う。身体能力に物を言わせて何とか海面にまでは来られたものの男の拙い泳ぎでは、傍から見れば溺れる者のそれでは沈み死ぬのは時間の問題だった。

 

「速く掴まるのです!!」

 

 声に従って男は腕を伸ばした。男の手が触れた時に向こうからも力強くつかみ返され、男が海上に引き上げられた。より正しくは臍までしか海上には出なかったが。

 

 少女だった。

 

 男の手を掴み引き上げた相手は男よりも小さな、男の知識で中学校に通うくらいの少女だった。

 男の頭の中は問いに溢れ、言葉の山が我先にと押し寄せる。君は、この水の塊は、何故立てる、この世界は、どこに自分を引き上げた力が。その全てを押しとどめて男は一言。

 

「ありがとう」

 

 助けられた礼を述べた。

 

「電! 無事にゃ!?」

「多摩さん、実は……」

 

 徐々に鎮まってゆく大波を越え別の少女が現れた。後ろにも他に4人の少女が続いている。

 

「どうしたのよその人!?」

「さっきの岩と一緒に落ちてくるのが見えて、助けなきゃと思って」

「伊勢、どうしようかしら?」

 

 黒髪で巻物を手にした少女が一番の重装備をした少女に尋ねる。尋ねられた少女は何処かと交信をしているようで僅かに声が聞こえてきた。

 

『異常事態により――――――――――全艦轟沈です。―――――――――――――――――はい。では一緒に――――――了解、帰投します』

 

 男を助け上げた少女が不安そうな顔を一転させ綻ばせた。

 

「よかったわね、助けられたじゃない!」

「はいなのです!!」

 

 茶髪で紫の服の少女に撫でられくすぐったそうな少女。

 

「でもどうやって連れ帰る気なのさ~」

「牽引用のロープならあるけれど……」

 

 少女たちの視線が男に集まる。男自身も感じていることだが身体能力に違いがある。それを想っての事だろう。

 

「気にせず引きずってくれて構わない。どれだけの時間であろうと縄を掴み続けるくらい訳ない」

「ホントに大丈夫なの、おニイさん?」

「このような水場でなければ自分は何日も戦い続けられる兵士だ。問題ない」

 

 男の言葉に従って少女たちは機関の準備に移った。通信をしていた少女と紫の服の少女、二人の装備にロープの両端を結び男が掴まった。

 先頭をおさげ髪の少女と短パンで語尾の独特な少女。次に男を引き上げてくれた少女と巻物を背にした少女。最後尾に男を牽引する二人の少女と言う並びだ。

 

「救助感謝する。詫びとして何でもする所存だ」

 

 男が思いのまま口にした。

 

「…………なら私たちを助けてよ」

「止めるにゃ北上」

 

 先頭の少女たちの声は航行音にかき消され、男の耳には届かなかった。

 

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