異分子兵士、提督となる   作:遊々自適

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かなりの説明回になります。ご了承ください。


第十話 着任する

「我が索敵機から逃げられるとでも思ったか!」

「それ利根さんの台詞でしょ」

 

 現在漣と五十鈴で執務室のガサ入れの真っ最中である。

 あきつ丸から聞いた通り提督の消失という事態に、前倒しとなった鎮守府の実態調査の手始めに執務室で提督の隠してきた不正の証拠を探している所だ。

 ”漣”はそこまで索敵能力に優れた艦娘ではないが、この漣はことガサ入れ―――男がしている隠し事―――に関して類稀なる能力の高さを発揮する。そのせいで二度ほど泣き土下座をすることとなった組織最高階級者もいる。

 

「資源の横流しに政治家達からの賄賂と私兵の教育」

「まだまだありますよ~!! あちゃ~中将にもパイプ作ってある∑(-x-;)」

「全く、その能力を他に活かせばよかったでしょうに」

 

 五十鈴は漣が次々と見つけ出すあらゆる書類の整理に辟易してため息を零す。

 

「漣ちゃん、金剛さんと大井さんの聞き取り終わったよ」

「ありがとうございます!」

「大井さんは比較的疲労も軽かったけど、金剛さんは十一日も牢に入れられてたみたいで……」

「艤装が一つでもあればよかったんだけどね」

「間宮さんの着任を急がないといけませんね~( ̄ω ̄)」

「他の娘たちは鳳翔さんの頑張りのおかげでギリギリもってたみたいだから」

「流石は鳳翔さんね」

 

 古鷹が合流してから作業がペースアップされる。その連携は普段から事務方の仕事を多くこなしていることが伺える。

 ここにいないあきつ丸はというと、保護対象であった金剛と大井を放りだしてきた罰として一人で哨戒をさせられている。彼女の練度はそう高くはないが深海棲艦を発見すれば報告のみで戦闘はしなくていいと言ってあるので大きな問題はない。

 

「あとは提督の私室だけだけど」

「ここの艦娘(みなさん)をそのままにしておくこともできませんしね」

「じゃあ私が通信室に行って総督に連絡を入れるわ」

「お願いしますね五十鈴さん」

 

 五十鈴が総督と連絡を取って戻って来るまで小休止。備え付けられた少し豪華なソファーに対面で座った漣と古鷹。

 

「どうなるんでしょうねこの鎮守府」

「せっかくの鎮守府をなくしたりなんてしませんよ。でもきっと酷く叩かれますね(-_-)」

 

 深海棲艦の出現によって世界情勢が一変し、日本は島国であったため世界から切り離され危機的状況に陥った。そして”世界”がバランスを取るかのように”艦娘”が出現し深海棲艦との戦いが始まる。

 唯一の対抗手段である”艦娘”は非常にクセの強い存在で、”鎮守府”そして”提督”無くして活動することができないものだった。その為、海自から海軍へと戻ってあらゆる権力の集中が起きた。

 これに世論が過剰反応し騒動が起きた。貿易をできなくなり孤立したため文化レベルを後退させざるを得なくなったことも合わさり大変な時期が存在した。人は一度手にした平和(贅沢)をやすやすと手放し我慢することなどできないのだ。

 漣はこれを総督や現在の上層部や将校たちと共に乗り切った艦娘であるため、今再びこの鎮守府が世論の攻撃を受けるだろうと予想したのだ。

 

「早く新しい提督も見つけないといけませんね」

「陸奥さんも扶桑さんも平気だとは言ってくれてますけど入渠できるに越したことはないですからね」

 

 入渠や補給、装備の変更から建造開発に及ぶ鎮守府での活動は全て提督の承認書類が必要であり、消失した前提督はそれを逆手に取って独裁をし、大井の艤装解体処分などもこれによって拒否も抵抗もすることなく行われた。

 ”艦娘”にとっての”提督”とはこのように絶対の存在であるが、だからといって強権を振るうことは決して容認してよいものではない。

 

「お待たせ二人とも……」

「ああ五十鈴ちゃん、お帰りな……さ、い」

「あきつ丸さんに後で謝ろ(反´д`省人)」

 

 戻ってきた五十鈴は二人の少女の手を引いていた。明石は涙をすすりあげ、大淀は涙で顔がくしゃくしゃになっていた。彼女たち二人は鎮守府運営において欠かすことのできない艦娘であり、前提督から特に酷く扱われ行動を縛られていた。

 明石は資源管理を請け負い、遠征や出撃時に持ち帰ってくる資源の元(・・・・)を活用可能な弾薬や燃料の状態にすることができるという能力を持っていたため。この鎮守府から日本に供給される資源―――持ち帰った一部は鎮守府が保有できる―――を牛耳るために。

 大淀は深海棲艦の出現によって衛星に頼っていた情報面でも孤立し、衛星通信が使用できなくなった状態で―――妖精同士による鎮守府と艦娘の無線通信を除いて―――限定的であるが無線通信ができるという能力があり、大本営への虚偽報告をするために。

 彼女たちは大本営から鎮守府の始動とともに派遣される艦娘であり、秘匿されているが大本営で確実に建造(うみ)だすことができることと、艤装を持たない(・・・・・・・・)状態でこの能力を行使できるという特殊な存在でもあった。

 

「二人とも辛かったよねー(。・ω・)ノ(´Д`゜) もう大丈夫だよー」

 

 漣はこの明石と大淀の事も知っている。鎮守府設立に際して大本営から出向する二人を見送ったからだ。冷静に考えれば気づけたが、あきつ丸の報告からコレ幸いと鎮守府の調査を始めてしまった為、五十鈴が通信室の大淀を発見するまで二人は提督が消えた事や鎮守府に起こったことを知らなかった。

 

「早く次の提督見つけなきゃいけないんでしょうけど複雑よね」

「金剛さんは持ち前の明るさのおかげか、ギリギリ何とかなりそうだけど。他にも傷を抱えちゃった娘も居るかもしれないものね」

「提督アレルギーなんてシャレにならないわよ全く」

(私も総督(ご主人様)も目星は付けてるんですけど、果たしてどうでしょうか?)

「ああそれと、総督今こっちに向かってるって」

「mjd!?」

 

 

 

 

 総督が鎮守府に到着し漣たちによる現状報告がなされた。その後所属する艦娘全てが波止場前の広場に集められた。

 

「まず始めに、不適切な人員を鎮守府司令官の座に就かせたことを海軍総司令として謝罪する」

 

 総督が部下に当たる艦娘達に最敬礼を以て詫びる。これに彼女たちは動揺したのだった。この行動だけで彼が艦娘に対して友好的な人間であることは分かるが、そうとしても今までがあるため素直に受け入れられないのだった。

 

「さて、これからの事を話そう。現在この鎮守府は提督不在として機能停止に陥っている」

 

 ここまで総督が話し艦娘たちの顔色が一変した。次にくる言葉の予想がついたからだ。それが必要であることは彼女たちも兵士として理解はしているが、心を持ってしまった為に受け入れがたいものがあった。

 

「早急に新たな提督を着任させねばならないが、現在候補たる人材が見つかっておらん。そこで条件さえ合えば彼に任せたいと考えている」

 

 総督が視線を向けると、倣うように艦娘達も広場の端に立って流れを見守っていた男の方を向いた。その視線は驚きや疑惑など様々で、少数であるが妥当の意も含まれていた。

 

「自分がか? 確かに自分は兵士ではある。しかし上官になったことは一度もない、先刻のモノは付け焼刃に過ぎない。軽々に任せてよいモノでもないはずだ」

「勿論だとも」

「それとは別にして軍帽(これ)は預からせてもらう」

 

 男が見せた物は、前提督が被っていたもので指令室に残されていたものだ。

 

「これが命令に従わせるカギなのだろう。演習中、特に赤城と加賀だな。彼女たちが躊躇った命令後、軍帽(これ)を目にしてから僅かに不自然だった。正確にはこの紋章か」

「よく気づいたものだ」

「彼女たちの視線を追えば普通気付く。それに今認めたな」

 

 男は”普通”と言っているがこれは調整兵として戦い抜きその中で彼が知らず得た技能だ。こちらの世界に来る前に彼は友軍の調整兵たちの視線から敵の存在、攻撃を察知し死角からの攻撃を躱すことで生き残ることが出来たのだった。

 その微細な瞳の向きを理解することができる理由は向こうの研究者たちにも終ぞできなかったことだ。

 

軍帽(これ)は無くすことはできんのだよ。その紋章は菊花紋章といい護国の象徴でもある。それに彼らとの契約に用いたもので変えることもできないからのう」

「彼ら?」

 

 総督が彼らと呼んで向けた視線の先には漣たち大本営の艦娘達がいた。その艤装へ向けられた視線を追い男は言葉にした。

 

「装備に乗っている小人たちのことを言っているのか?」

 

 この瞬間男は提督になる適性を満たした。総督は頷くことで男の問いを肯定する。

 男の言う小人とはもちろん妖精の事である。これは艦娘達には軍帽の件を含め基本的に教えられていないことであり、”妖精の認識”が提督となる必要条件であった。言いかえれば妖精に干渉する能力であり、これが無ければいくら提督に任命し指示を出そうとも効力が無いのだ。

 ”提督”が意志決定し、”艦娘”が戦い、”妖精”が補佐する。これが”鎮守府”の仕組みだ。

 

「それがこの世界での仕組みだというのなら自分はこれ以上言うことはない。再びハズレと言える上官がやってくるくらいなら自分が彼女たちを守る方がいいか……」

「やってくれるかね」

「彼女たちの賛同が得られるのならば」

「どうかね諸君?」

 

 誰も声をあげる者はいなかった。肯定でも否定でもない。前提督の不遇から解放されるきっかけになった男に対して感謝の念はある。それでも様々な思いが彼女たちの胸中に渦巻いていた。

 

「自分はこの世界の常識も何も知らない。そんな者に自分の命を預けなければならないことに不安を覚えるのは当然だ。だが君たちは兵士でもあるのだろう、ならば自らの命は自らで守らねばならないと自分は考える。もう一度言うが自分はこの世界について常識も何も知らない。君たちに教えてもらい助けてもらわねば何もできないと言ってもいいだろう。つまりだ、自分は君たちにとって望む形の上官となりうるということだ」

 

 この男の発言に誰もが驚きを露わにした。

 特にこの鎮守府の艦娘たちにとってこの言葉は劇薬(・・)だった。

 自由を奪われ、不遇に泣き、辛きを耐え忍んでいた彼女達に許された娯楽は、”理想の提督”を夢想する事だけだった。それが今現実になると、夢が叶うと言われたのだ。

 ある者は希望の艦隊編成を。ある者は正当な評価を。ある者は望む限りの夜戦許可を。ある者はとある水上機(瑞雲)を。ある者はレディとしてのエスコートを。着任こそしていないが戦艦になることを望む者もいただろう。

 だがそれ以上に乙女として生まれ変わった彼女たちは皆、等しく夢見たことがあった。そして”艦娘”として望むことがあった。ざわつく中で赤城が代表して尋ねた。

 

「それは”秘書艦”業を認めてくださるということでしょうか?」

「勿論認める気でいるが先にそれが何なのかを教えてくれるとありがたい」

 

 歓声と共に男は認められた。騒がしくなる広場、それを総督は申し訳なくも嬉しそうに眺めキリよきところで口を開いた。

 

「では略式となるが君を少佐の階級と共にこの鎮守府の提督に任命しようと思う。して本当に君は名が無いのかね?」

「部隊認識の為に”第六次羅刹(だいろくじらせつ)排除先兵(はいじょせんぺい)390部隊”との呼称があったが名と呼べるものではないだろう。せっかくだ、良ければ君たちで名を付けてはくれないだろうか」

「はいはいはいはいはいはいはいはい!!!」

 

 勢いよく挙手したのは先ほどから目を血走らせていた漣だった。

 

「漣、お前はこの鎮守府の所属ではなかろう」

「いや私たちも名を求められても簡単には思いつかない。よければ案を聞かせてくれないか」

 

 長門に促されて漣は発言権を得る。

 

「その呼称からとって390 六羅先(サクマ ムラサキ)というのはどうでしょう?」

「存外まともだな」

総督(ご主人様)私を何だと思ってるんですか失礼です(◣_◢)!!」

(総督の認識は間違ってないんだけどなあ)

(でも表面上まともだしいいんじゃないかしら)

「他に案が無ければ自分はそう名乗ろうと思うが」

 

 彼女たちは穏やかに、あるいは嬉しそうな表情を向けるだけで異論は無さそうだった。

 

「ではサクマ ムラサキ少佐。只今よりこの地にて艦娘を指揮し、深海棲艦の脅威を取り除くべく全力を尽くせ」

「っは!!」 

 

 男は総督に倣い、海軍式の敬礼を以て応じた。

 

「提督が鎮守府に着任しました!! これより艦隊の指揮に入ります!! 総員敬礼!!」

 

 

 

 




おまけ

「提督を調ky、ゲフンゲッフン指導して理想の提督に! ってそれなんて源氏の君ですか!! 全く以てけしから羨ましい!!」
「やっぱりあんたはそうよねえ」
「あはは」








次回もほぼ間違いなく説明回になります。
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