異分子兵士、提督となる 作:遊々自適
*通信会議室*
「ふむ、巨岩の出現により敵艦隊が全沈。同じくどこからともなく現れた男、か」
「はい閣下、提出した画像をご覧いただければ分かります通り
小部屋の出入り口を除く三面に多くのモニターが取り付けられている。その正面、メインモニターであろうひときわ大きなそれに映るは老輩ながらも今だ現役を感じさせる風格を纏った姿。
対して室内のデスクに座るは軍服に飾られた勲章が目に痛いほどに輝き、表情の端からは傲慢さをにじみだしたような男だった。
「拷問はちょっと早計やろ、敵さんは味方撃ちが一切ないくらいに優秀や。百歩譲って繋がりあっても自分とこの艦隊潰す理由が無いわ」
「舞鶴!!」
口を挟んできたのはメインの周り、四つある内の一つ。舞鶴鎮守府で提督をしている男であり、新設されたこの鎮守府の提督である男と何かとぶつかることが多い一人だ。
「舞鶴さんの言う通りかもしれませんねぇ。深海棲艦で確認されてる人型はいずれも女性体ばかり。それも全て艤装を纏っている以上、生身の彼が繋がってるとも思えませんしぃ」
「だが不可解さはある。拘束の前に誰何を問うておくべきであったな」
「いっそ私たちで尋ねますか?」
順に横須賀、呉、佐世保の提督たち。
横須賀はこの中で唯一の女性提督、男勝りな海軍女性の中でも異質で常にゆったりと構えた人物。その反面、作戦艦隊指揮は苛烈な大火力戦を得意とする。
呉は最も多くの艦娘を保有し、独自のローテーションで昼夜を問わず出撃任務をこなす、そのバイタリティだけで言えば海軍一と言われている。
佐世保はこの中で一番若輩であるが遠征を初めとした資源回収に長け、彼の着任以降日本が潤いはじめた事も有り他の将校に席を明け渡すことはない。
「一理あり。状況が膠着して久しい中起きた異変。男の召喚を命ずる」
「畏まりました。しばしお待ちを」
男の退室に合わせ、照明が落ちる。しかしながらモニターの電力は生きており提督達、そして総督は会話を続ける。
「皆はどう考える」
「そうですねぇ、敵だとか悪い人だとは思いませんょ」
「目つきとかはどことなしに呉に似とるかな。戦闘を身近に置いとったモンの目をしとる」
「なら私はちょっと苦手なタイプかも知れません」
「言われとるで〜」
「必要な作戦時につつがない協力態勢が取れればよい」
「でもそれだと彼は問題ねぇ」
「もしや総督、今回を理由に踏み込み調査とか考えたはります?」
「然り。要領を得ん報告書。異様な撃破数」
「先月には横須賀さんを抜くまでに至りましたからね」
「私は舞鶴ちゃんが先だと思ってたんですよぉ」
「舞鶴は少数精鋭、撃破数ではなく海域突破が主任務であろう。横須賀よ」
「舞鶴さんのお陰でもうすぐヨーロッパの方まで行けそうですからね。ウチの8なんか特に嬉しそうですよ‼︎」
「そいつはよかったわ」
「話が逸れていますよぉ」
「ならば件のモノが何らかの問題、或いはそれに準じ視察を要すると判断する何かを持っている事を期待せねばな」
「ちょい賭けてみいひん?」
「みんな同じ方に賭けたら成立しないんじゃ……」
「では今より支度をしておかねばのう」
流石は日本防衛組織の長達と言ったところ。先へ先へと会話が跳び、言わずとも互いの言いたいことを補い話が進んで行く。
*
「電! 無事でよかったわ!!」
「はわ!?」
最初に男を拾い上げ助けた少女、電は自室に戻ってすぐに別の少女の抱擁を受けた。
この少女の着るセーラー服も電と同じもの。彼女は電の姉妹艦で一番艦に当たる暁。
「心配してたのよ、もう! 響も雷も通信で物凄く心配してたし」
「ごめんなさいなのです」
「いいわよもう。あなたが深海棲艦でも助けたいっていつも言ってるのは知ってるし」
「お姉ちゃん」
心配をかけた姉、暁の理解に電は瞳が潤んでゆくのを感じる。
「邪魔するぜお前ら!!」
「ふぇ!?」
「天龍さん!?」
二人が抱き合ったまま話しているところに、勢いよく扉が開かれ長身の左目に眼帯をした少女が無遠慮に入ってきた。後ろにもう一人、落ち着きを持った少女が続き扉を閉める。
「もう天龍ちゃんったら~」
「悪いな。電、お前が連れ帰った男について聞こうと思って来たんだよ」
「龍田さんもなのです?」
「そうね、せっかくだから聞いておこうかしら」
彼女たちを部屋の奥へ案内し、席代わりに二つある二段ベッドの片方に座ってもらう。
「早速だがどんな奴だ」
入室時の快活な笑みを消し、真剣で鋭い表情で天龍が尋ねる。
「不思議な、でも怖くなかったのです。帰ってくるまでにいろいろ聞かれたのですが、伊勢さんに通信で答えるのを控えろって言われたので答えてないのですけど、変な感じがしたのです」
「変な感じ?」
「はい。海の事を『この水場は何だ?』って聞いて来たり、『君たちは何故走るでもなく水の上を進めるんだ?』とか。まるで
「記憶喪失とかかしら」
「そう言った雰囲気じゃなかったのです」
「変ねえ、いくら海軍が情報封鎖をしてるにしても艦娘も深海棲艦の事も知られてるはずよね~」
龍田と呼ばれた少女が頬に手を添え考え込むようなしぐさを取った。隣に座る天龍は瞑目したまましばらく黙って聞いていたが再び口を開いた。
「お前はそいつを敵だと思うか」
「天龍ちゃん?」
「あのオッサンが何を考えてそいつを拘束するように言ったかは知らねえ。だがそいつが俺たちに害を成すかは見極めなきゃならねえ。暁が心配してたのもそこが大元だろ」
「あうぅ……」
天龍に照れくさいことを掘り返されて真っ赤になって暁はうつむいた。
「船着き場で」
唐突に電が口を開いた。正しくは天竜の問いに対する答えを。
「あの人は出撃した第二艦隊の六人を庇って、自ら拘束されるように言いだしてくれました。だから、だから電はあの人が悪い人だと敵だとは思わないのです!」
普段は姉妹艦のなかで最も控え目な彼女だが、芯の通ったことにはとても強い意志を以て行動する。今がまさにそれに当たる。
電の真っ直ぐな眼差しを天龍は受け、ニヤリと口角を上げ犬歯をむき出しにして。
「お前がそこまで言い切るなら俺様もそいつを信じることにする!」
「とか言って天龍ちゃん、『面白そうな奴が来てくれたもんだぜ!』とか思っただけじゃないの~?」
「うるせえっ!! 何でもいいんだよ!」
「でも信じたからってどうなるのよ!?」
「俺様の勘が言ってる。これから
*
「貴様には我々の尋問を受け、尋ねることに正直に答えるように」
通信会議室に連れてこられた男は、デスクの隣に立たされモニターに映る人物たちを見やった。
「まずはじめに、君は何者だね?」
「嘘ではないが信じてもらえないとは思う。自分は此処とは異なる世界で生まれた者だ。名を持たぬ一兵士だった」
男の言葉に動揺が走る。信じがたく鵜呑みには出来ぬが状況として説明がつかぬ現れ方をした以上、頭ごなしに否定するわけにもいかなかったからだ。ただ一人そうでないものがいたが。
「馬鹿にするな貴様!!」
頬を拳で打たれた。
「信じなくてもいい。自白剤でも投与すればいい事だ。他の問いに答える前に自分から聞いておきたいことがある」
「貴様自分の立場を理解して―――」
「よい。して聞いておきたいこととは」
総督の許可によって機会を得た男は怒気を籠めて尋ねた。
「この世界の者は、兵士を兵器として消耗品の如く扱うのか!! ならば自分は貴君らの敵となるつもりだ!!」