異分子兵士、提督となる 作:遊々自適
「お呼びみたいよ金剛さん」
名を呼ばれた相手のいる牢から衣擦れの音が聞こえる。
男のいる牢からは壁二枚挟んでいるため確認できないが、金剛もまた彼女たちと同じ兵士であることが男には予想できた。
「騒がしくして済まない。しかし自分は君たちの事や、この世界の事。他にも知りたいことが溢れている。よければ君も話し相手になってくれないか」
「……」
「あなたみたいなのが来たからひょっとしたらと思ったけど。彼女ずっと黙り込んだままよ」
「君はよく話してくれるのだな」
「やることがないからよ。何もなければ真っ暗で時間がどれだけ経ったかも分からない。気が滅入るし嫌なことばかり考えちゃう。だから少し感謝してるわ、金剛さんに話しかけても返事もしてくれなかったから」
「そうか、金剛と言ったな。返事くらいはした方がいい。君たちがここに入れられている理由は知らないが、いくら罰を受けるにしてもそれほど自らを責めることはない」
「……ワタシは」
弱弱しく幽かではあったが新たな声が、つまり金剛の声が聞こえた。
「もう駄目になってマス……」
「どういうことだ?」
「…………」
「ふむ。どういうことだ?」
金剛からの返答がなくなったため尋ねる相手を変えた。
「私だって知らないわよ。この鎮守府では新入りだし
「ここでの?」
「本当に何も知らないのね。時間つぶしにはちょうどいいし教えてあげるわ、私達”艦娘”について」
「”艦娘”」
「元々私たちはかつての戦争で戦った軍艦だったの」
「グンカン、とは何だ?」
「あぁ、そうね。……海の上を進む移動要塞とでも言いかえればいいのかしら?」
「なるほど、おおよそ理解した」
「ずいぶんあっさりと信じるのね」
「君も自分が別世界の生まれだと信じてくれたから説明してくれているのだろう」
「・・・」
彼女としてはそんなつもりではなかった。だが男に指摘され始めて彼女自身それを受け入れていることに気が付いた。
「かつて戦っていたと言ったが、今生まれ変わって何と戦っているのだ?」
「昔は人同士で軍艦同士で戦っていたわ。でも今は違う、”深海棲艦”という人類の敵よ」
「人類の敵、”深海棲艦”」
男は内心で驚き、酷い皮肉に心を痛めた。
自分が元居た世界で戦っていたのも人類の敵。自分が世界を渡ったチカラも人類の敵のモノ。そしてたどり着いた世界でも人類の敵との戦争。
「そして私達はここみたいな鎮守府、要するに基地に所属してそれと戦っているの。ここ以外にも複数あるわ」
「さっき『ここでの』と言ったのは他の鎮守府から君が来たからか」
「いいえ。”私”はこの鎮守府の
「すまない、分からない」
「それはそうよ、”艦娘”にしか分からない感覚だもの。”私”なら大元の軍艦”大井”の
「つまり大元から分かれた別の”君”や”金剛”が他の鎮守府には居ると」
「確実に居るわけじゃないわ。そして造まれる前からある程度の事を知っているのよ。同僚の”艦娘”達の事や北上さんがどんな容姿をしているか、どんな魅力的か。とかね」
「なるほど漸く理解できた。大元となる部分では同じだが鎮守府に所属して以降、どのように変わっていくかはそれぞれ次第でここの金剛についてはどう変化したかを知らないというわけだな」
「ずいぶん理解が速いわね」
「自分にも似たような経験がある」
男もまた調整兵として
「
「金剛」
「”ワタシタチ”は所属する鎮守府に縛られマス」
「縛られる?」
「轟沈、戦って死んでも”ワタシ”が再びこの鎮守府の金剛に成りマス」
「……っ!!」
異常に似通った世界の構造に、反吐が出るほどふざけた皮肉の利いた運命に、男は苛立った。
「君は、金剛は、…………
「ちょっとそれっ!!」
「8回目デス」
笑ったように金剛が答えた。
「
「もういいっ!! 言わなくても大丈夫だっ!!」
「限界が来てしまったんデス。戦うのが……轟沈むのが、怖……クテ」
「お姉さまが誰よりも頑張ってくれたからこの鎮守府があるんです」
別の少女の声が牢に響き、扉が開かれた。
入ってきた少女は一番奥の金剛のいる牢の前まで進んで。
「待っててくださいお姉さま、比叡が何とか致します!! だからそれまで」
「そんなことできるわけないでしょう!! 私がアイツに逆らって艤装解体されたの比叡さんも知ってるでしょ!!」
「確かに提督の命令は鎮守府において絶対です。それでも……」
「いいんデス比叡。ワタシの事は気にせず自分を大切にスルノデス」
悔しそうな比叡の表情が男の目に映った。
・・・・・・自分とは、自分たちとは違う・・・・・・
・・・・・・彼女たちには意志がある、操り人形だった
・・・・・・そんな彼女たちに枷などあっていいはずがない、そうだろう・・・・・・
「比叡、だったな。君はこのように罰房に来ても良かったのか、何か理由があって来たんじゃないのか?」
「そうでした。お姉さま、今日は運が良かったです」
比叡は袖に隠しておいただろう握り飯を小さくしたものを二つと、細い竹筒を金剛に渡した。
それが何を意味するかを男も大井も理解したが、口出ししなかった。
「本当にもういいでデスヨ比叡。アナタの分デショウ?」
「気にしないでください。私はそこにいる男を連れて行かなければならないので」
「自分を? なるほどわかった」
男は自分の頭をガンガンと鉄格子にぶつけはじめた。
「ちょっと何してるのよ!? あんた!!」
「えぇ!?」
「時間稼ぎだ」
頭を打ちつける音が止んだ。代わりにヒタヒタと血液が流れ落ちる音がする。
「『連行する際に抵抗され殴った』時間がかかった
「っす、……ありがとうございます」
比叡は謝罪の言葉を飲み込んで礼を述べた。
男は姉妹が話をする時間を作り、待つ間に自分の袖で出血部を押さえておく。
「優しいのね」
「頑丈な体というのもやっかいだな、分かりやすい傷など負ったことがなくて加減が分からなかった」
「どうしてそこまでするの?」
「自分の我が儘だ。それと海で死にかけた私を救ってくれた礼だ」
「そうなの? でも」
「君たちに対する礼だ。それに我が儘だと言っただろう」
「ならついでに今の提督何とかしなさいよ」
「そのつもりでいる」
「……期待しないで待っておくわ」
・・・・・・もう一度、機会が与えられた・・・・・・
・・・・・・ならばやってみせよう、今度こそ・・・・・・