異分子兵士、提督となる 作:遊々自適
「この世界の者は、兵士を兵器として消耗品の如く扱うのか!! ならば自分は貴君らの敵となるつもりだ!!」
男の宣言に会議室が締まりかえる。画面越しの提督たちもすぐ隣にいるもう一人もあまりに急に敵対の意志を示され言葉を失った。事前報告で自ら牢へ向かったということを聞いていたためだ。
「敵となり、何とする」
その中でも一人、総督だけはこの男を量るかのように問いかけた。
「彼女たちを自由のため戦う。私を助けたのは貴君らこの世界の
「いやいやいや、待ちぃや君。話が跳び過ぎて流石に意味が分からんで」
「牢で話した金剛という者、彼女を七度も戦死させるほど酷使させた事だ。他にもあるだろう!!」
男はなりを潜めさせていた本性を露わにしたかのように、隣にいる提督の襟を掴み締め上げた。少しずつ蒼くなっていく提督の抵抗も腕のリーチの差で―――届いたとしても男にはダメージも無い―――無駄なあがきだった。
「貴様!! ……今すぐ、放さんか……!!」
「まずはその手を放すのだ。そのまま君の言葉を受け取る訳にもゆかぬのでな」
「そうねぇ、
横須賀の提督が問いかけた言葉に男は得体の知れないものを感じ取り、手を放して一足で後ろの扉の所まで飛び退いた。問われた提督の方は自由になったはずが凍りついたように身動き一つ、言葉の一音すら発せなくなった。
「お~い佐世保~、怖くないから出てこいや~」
「自重しろ横須賀」
「あらいけない、ごめんなさいねぇ。ほらほら優しい優しいお姉さんですよぉぉ」
「それで、如何なのだ」
無理やりに戻された空気感の中、警戒を解かぬまま男は佇まいを直し、提督も立ち上がり姿勢を正した。
「全くもって真実と異なる言いがかりです」
男にはこれが嘘であることを知っている。だがそれを握りつぶすことができるのだろう事も予想される。何とかして事実を明らかにしなければならなかった。
「貴君はどうやってそれを彼らに証明する気だ?」
「黙れ貴様!! 尋問をするのはこちらだ!!」
「そう言うけどな、この告発無視はできひんさかいあんたにも答えてもらわなあかんで」
「舞鶴! 貴様今が何をすべきか分かっておらんのか!?」
「そう吠えんなや」
男はこういった舌戦が苦手であった。殺すか殺されるかの白兵戦ばかりだった男には圧倒的に経験値が足りていなかったからだ。ならば得意分野に来てもらうしかなかった。
情報検索端末の中におまけのように付いていた物語。その中から似通った内容のものを思い出して台詞を引用する。
「要するに自分は部下をみすみす戦死させる無能な貴君が気に入らない」
「何だと貴様!?」
「この者の更迭を自分は要求する」
「艦娘の解放ではなく、か」
総督の言葉に男は牢からの道で比叡と話していたことを思い出した。
*
「なぜそこまでして君たちは、その提督に従う」
「逆らえませんから。”提督”と”艦娘”はそういう関係なんです」
「だが大井は逆らって牢に入れられたのではなかったか?」
「ええ、私たちも不思議に思ってるんです。でも戦うことが嫌な訳じゃありません。私たち”艦娘”は人々に変わって戦うための存在、人々を守るために戦うことは誇りなんです!!」
「そうか」
男にはこの言葉が深く心に沁みた。自らも害敵から人々の暮らしを守るために生み出された存在、その戦いを誇れる彼女たちが羨ましかった。
「かつての
*
「それを望むかは彼女達次第だ。自分が望むのは無能なこの者からの、という意味だ」
「一度ならず二度までも!! 貴様私が無能だと!? 私はこの鎮守府ができてからいったいどれだけの戦果を挙げたのか知らんからそんなことが言えるのだ!!」
「彼女たちを犠牲にして戦果を掠め取った、の間違いだろう。大方喚くことを指揮と勘違いでもしていたのであろう?」
「だったら見せてやろうじゃないか私の艦隊指揮を!!」
「ならばその自慢の艦隊指揮とやらで自分を葬ってみるのだな!!」
「双方それまで!!」
通信会議室で額を突きあわせヒートアップする二人を総督が一喝し制する。画面越しに、黙りはしたものの依然睨み合う二人を見て提督達、特に横須賀と舞鶴の二人は深くため息をついた。
(いくらなんでも酷過ぎる……傷一つで決壊てお前はダムか)
(この来訪者さんの挑発もお粗末なのよねぇ……)
(これならば早々に強硬手段に出ておればよかったやも知れん)
「一つ宜しいでしょうか?」
横須賀の威圧からモニターに顔すら見せなくなっていた佐世保から質問の声があがった。
「申してみよ」
「あなたは艦隊とどう戦う気でいたんですか?」
「まぁ!!」
「ふむ」
「あなたが彼を無能だと言っても艦娘達の攻撃は別次元のものですよ? 一撃でそれこそ葬られてしまうのですが……?」
(ぅわちゃ~、出よったで
「なるほど攻撃力は凄まじいと、なら全て躱せばよい訳だ」
「自らの力に余程自信があると見えるが些か過信気味であるな。過信は慢心へと繋がり敗北へと繋がるぞ?」
「慢心はダメよねぇ」
「なおさら丁度よいではないか、慢心した兵士一人倒せねば無能な指揮官だとこれ以上ないほどの証明となる。場もそちらに利を差し上げる。足場さえ用意してもらえれば海での戦いで構わない」
ポーカーで言えばこれはあからさまなレイズ。だが
「だがそうだな、一つ謙虚にハンデを戴きたい。彼女達”艦娘”の主兵装は砲だな、それを数発対戦の直前に見せてもらいたい」
「ふん、いいだろう。その条件で受けて立とうじゃないか!!」
(残念やなあ)
(悪手だ)
(もったいないわねぇ)
(夾叉を知らないんですね……)
その後、総督の決定の元で演習という形をとり翌日の一四〇〇開始とし、男は牢に戻り待機し提督には足場となる浮島を工廠妖精に創らせるように指示が出された。
言い争った二人は互いに自分の勝利を疑っていない。他の鎮守府の提督達も、指揮能力に関わらず”艦娘”という人類に光明をもたらした特記戦力の力を疑っていなかった。興味の湧く男であったが仕方ない、聞き取りが荒れる前で目的としていた調査の大義名分を得ることができただけで善しとした。
しかし彼らは男に聞き取りをしておくべきであった。
*
(しかし艦娘の航行速度に―――低速艦に合わせていたとは言え―――ロープにつかまり続けた、か。……万が一)
「待たせたな、漣。業務時間外となったが必要な仕事が生まれた」
「気にしないで下さい