異分子兵士、提督となる   作:遊々自適

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第七話 叱る

 演習を見ていた全ての者が評価を男に対する評価を改めさせられた。

 四人の戦艦娘から放たれた砲弾の数は100を超え、度重なる艦載機からの攻撃すらことごとく男は躱してみせた。

 全ての艦載機を発艦させることになった赤城、加賀は基本的に装備する事のない機銃をこの時ほど求めたことがなかった。何一つできることがなくなった今、中破以上のダメージを受けた時のような―――一部で置物と揶揄される―――居心地の悪さを感じていた。彼女たちに一切の被弾が無いことがまたそれを増長させていた。

 倍ほどだが自分の身体よりも大きな浮島を、男はもはや武器()として扱っていた。たった一発のみ陸奥から発射された主砲の砲弾を浮島の角に器用に被弾させ威力の確認をして以降、本当に苦しいときの艦載機の機銃掃射以外浮島にも被弾がないというほどだった。

 今戦っている彼女たちは不遇な扱いを受けているとは言え、鎮守府内での練度は上位の者たちで誇りもあった。それが今ガラガラと音を立てて崩れ去っている。

 

(さて、困った)

 

 一方回避を続ける男の方はと言えば、身体にやや熱を帯び頬が僅かに上気しているくらいでまだまだ余裕があることが見て取れる。しかしこの男も予想外の事に困っていたのだ。

 

(明らかに見た目の体積以上の砲弾が撃たれている。向こうとは異なる点での技術が発達しているというわけか)

 

 男は弾切れまで回避に専念し格闘戦に移行させて、一人ずつ無力化する作戦を立てていた。それが予想外に砲撃が続くため接近戦ができる最低限の距離に近づいて来てくれない。

 この膠着状態がある者たちには非常に好ましいものとなっていた。

 

(まさかこれ全部を読んでたとは思えないけど、時間が稼げるならいいでしょう( ̄ー ̄) あとは彼女がうまくやってくれれば……)

 

 漣は総督の目的を教えられている。この演習に立ち会うと同時に見張りでもあるのだ。

 

「ぇえい!! いつまで遊んでいる気だ!? 奴を中心に四方から囲んで攻めろ迫撃だ!!」

 

 痺れを切らした提督が指示を出す。四人の戦艦娘が振り向いてこの指示に従い、扶桑、山城の二人が距離を詰め浮島の奥に回り込んだ。合わせて対になるように長門、陸奥が進む。

彼女たちの表情には陰りがあった。本来であれば夜戦時やどうしようもない状況下以外でこれ程の接近をして砲撃を行うことなど無いからだ。戦艦とはそもそも長距離より大火力を以て敵を制圧するものなのだから。

 

「全艦砲撃用意!! っ!?」

 

 長門の発射号令よりも先に男が跳んだ、照準を合わせられるよりも早く。全力跳躍によって浮島が跳ねあがり長門の対角、山城からは浮島が目隠しの形となってとっさの砲撃を当てることができない。

 苦し紛れに長門が発射した砲弾も砲塔を向けきる前に撃ったことにより―――更なる至近距離とは言え―――回避も肘をたたむだけですり抜けられてしまい、男が長門の艤装に取りついた。

 

「放れろお前!!」

「それはできないだろう―――」

「今だ島を爆撃してしまえ!!」

 

 状況が変化しこれを好機と見た提督が浮島の破壊を命じた。空で攻撃の機会を伺っていた艦載機が殺到し、残されていた全てがばら撒かれ浮島が消し飛んだ。

 

「こういうわけだ、諦めてくれ」

「捕まえろ!!」

 

 提督の言葉に長門は無意識に手を伸ばして艤装に乗る左足を掴んでみせた。

 

「よしいいぞ!! そのまま動くなよ(・・・・・・・・)?」

「それじゃ長門さんが!!」

「命を懸け敵を足止めせよ!!」

 

 扶桑の言葉に耳を傾けることなく提督は攻撃指示を出す。しかし彼女たちはこれに戸惑いを見せ。

 

「すまん!! やれ陸奥!!」

「ごめん」

 

 被害覚悟の長門が攻撃を促す。艦種に由来する基礎的な火力では陸奥よりも扶桑たちの方が低く長門自身が受けるダメージを抑えることができる。だが長門は勝利の為に好機を逃してはならぬと、姉妹艦として長門の選択を即座に理解できる陸奥を指名した。一方は轟沈覚悟の極至近弾を、一方は姉を撃つという傷を受け入れて。

 

「馬鹿者!!」

 

 男には”甘さ”と呼べる部分が存在した。

 男は自分を捕らえに、そして亡き者にしようと差し向けられる調整兵たち(自分)を返り討ちにすることができなかった。その戦闘の中で男は無力化に効果的な締め技や固め技を独学で身に着けていった。

 長門に掴まれている左足その足首を回して腕を絡め取り、右足を組んで彼女の肘を固定し締め上げ半身を艤装の上から投げ出す。瞬間的な痛みと重心のブレに長門の身体も揺らいで姿勢が崩れた。

 

「ッヒィ」

 

 長門の口から悲鳴が漏れ出た。崩れた姿勢を踏んばって立て直そうとしたその時に、傾いた身体の自分の耳の真横を陸奥の撃った砲弾が通過したのだから。その位置は確かに男がいた場所と寸分違わなかった。

 

「仲間への攻撃命令など聞くな!! するな馬鹿者!! 仲間を大切にできるお前たちがすることじゃない!!」

 

 悔しさと怒りが男の胸の内に渦巻いていた。前日、鎮守府についてすぐに彼女たちが帰投した仲間に砲を向けながら苦しんでいたこと。浮島を囲み迫撃を仕様とした時、それぞれが少しずつズレて完全な対角線ではなくして回避されても反対側の仲間に当たらぬように気を配っていたこと。

 

「ならどうしろというのだ!!?」

「強くなれ!!」

 

 肝を冷やして蒼くなった長門が絞り出した叫びに男が応えた。たった一言が彼女達の心に響いた。

 それは何も知らなかった頃から男が抱えていたモノに対する男なりの解答でもあった。同じ戦場で次々死んで逝く仲間を見て、知って尚仲間たちに何もできなかった自分の無力に対しての。

 ”兵士”にとっての”其れ”は力不足以外の何物でもない。より力の無きものは”其れ”すら感じずに倒れることとなる。

 至極真っ当で尚且つ最も無茶な言葉だ。だがその言葉は彼女たちを認めてのものであることが理解できた。艦娘は女性であるが同時に兵士なのだ、提督の発する理不尽な言葉とは根幹に宿っているものが違う。男は彼女たちをちゃんと見て(・・・・・・)叱責している。

 

「その通りだ……ならばこそ勝たせて貰うぞ!!」

 

 長門の(機関)に火が入り、締められた腕ごと男の身体が持ち上げられる。男と比べるまでもない馬力を艦娘である彼女たちは有している。固められているはずの肘も僅かに曲がった。

 

「私にもビッグセブンとしての誇りがある。次は当たって貰う!!」

 

 上半身と肩を動かすことで男の身体を自身の艤装、その砲塔の前に無理やり持って来た長門。躱すには締めを解くしかないが、その瞬間に自由を得た長門の逆の拳が振るわれるだろう。

 提督は勝利を確信した。

 男が視線だけを砲塔の方へ向け、砲身の中から覗く砲弾を見たその時だった。

 

 異常事態を知らせる警報がけたたましく鳴り響いた。

 

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