異分子兵士、提督となる   作:遊々自適

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気が付いたら評価バーに色がついてて、お気に入りがビックリするほど増えてて。

本作を気に入って下さりありがとうございます。
毎話ごとにお礼を申し上げるのも何だか変な感じがしますので今回だけですがこのような形を取らせていただきました。


第八話 指示する

「将校殿から、あぁいえ総督殿でしたか。まだ海軍式には慣れませんね。総督殿から直々に命じられた任務、必ずや成功させます!」

 

 鎮守府の廊下を警戒しながら進む一人の艦娘の姿がある。

 灰色の制服姿に同色の帽子、肩口で切りそろえられている黒髪とは対照的な、色白という表現よりなお白い肌をしている。

 彼女は過剰と見える警戒でもしも見つかれば不審者認定を避けられないほどに挙動が怪しい。

 

「総督殿が仰っていた通り鎮守府内の構造が提出されている地図と異なるのであります。もう少し調べたいところですが優先目標を達成してからでありますから後程に致しましょう」

 

 特命を受けて鎮守府に潜入している彼女、あきつ丸だが今彼女がいる本部棟はには現在他の艦娘たちはいない。それぞれが宿舎等の自室待機を命じられており―――天龍たちのように別室まで移動している例外も居るには居るが―――曲がり角ごとに気配を探る必要などないがそれを彼女は知らない。

 

「ありました!!」

 

 地下へと続く階段を見つけたあきつ丸は段飛ばしで駆け下りて、一本道で隠れようのない暗い廊下を突き進む。

 途中にあった倉庫の扉をすべて無視し、一番奥にある地下牢の覗き窓のついた扉の前に立つ。

 

「あとはこの中に捕らわれている金剛さんを救出すれば優先任務が完了でありますな」

 

 扉のノブに手を掛け力を入れる。ゴゴガと重い扉の錠が中の機構でぶつかる音がする。冷や汗を流すあきつ丸、焦りから両手でノブをガダガダと揺するがそれで扉が開く訳でもない。

 

「誰!?」

 

 牢の中からの声にあきつ丸は手を放して覗き窓から中を見る。

 

「自分は大本営に籍を置くあきつ丸であります!! 金剛さんの救出を命じられてきました!!」

「ちょっと金剛さんだけじゃなくて私の事も助けなさいよ!!」

「あれ? 済みませんがあなたは?」

「球磨型軽巡洋艦4番艦の大井よ。艤装が解体されちゃってるけどね」

 

 あきつ丸は潜入に際してこの鎮守府の情報を出来うる限り記憶するように命じられており、その記憶の中で”大井が解体された”という記録がなかったことを思い出す。昨日起こったイレギュラーによって本部へ報告が遅れていたと考えることはない。何故なら男を連れ帰った第二艦隊の出撃報告書、及び補給記録の書類が未明に届けられているからだ。

 

「大井さんにも色々と聞かなければならないようであります! 確認しますがそこに金剛さんもおられるのでありますか?」

「斜向かいの牢にいるわ」

「了解であります。直ぐにお二人を救出いたしますね!」

「待ちなさいよ直ぐってあなたっ!?」

 

 この時大井は覗き窓から漏れこんだ光の粒子、扉の向こうであきつ丸が艤装を展開したことを理解して猛烈に嫌な予感に襲われた。

 

「っ金剛さん目を閉じて耳塞いで!!」

「ホワィ?」

 

 一番奥の牢にいる金剛は扉に近い壁にもたれており、あきつ丸の行動に気付いていなかった。

 自分の牢の鉄格子、通路を挟んで金剛の牢の鉄格子、大井にはどうしようもできないため忠告はしたと自分の防御を始めた時だ。

 副砲規模の砲撃音と扉に着弾した爆音、扉が歪んだ金属音が牢屋内を反響した。

 

「あぁあっ!」

 

 防御態勢の整っていなかった金剛が悲鳴を上げ、続くようにガンガンと金属の扉を蹴りつける音がして、くの字に曲がった扉が内側に倒れ一たび大きな音を立てた。

 扉を踏み越えてはいってきたあきつ丸は小破程の損傷を負っている。

 

「この脳筋馬鹿!! もっとまともなやり方があるでしょ!! 警報も鳴りだしたし救出も何も反乱扱いされて攻撃されたらお終いじゃない!?」

「ご心配なく。如何なる艦娘でもこのあきつ丸と陸戦で戦えるものはおりません!」

「だから馬鹿だってのよ!! 私たちはどうする気よ!!」

「……あ」

 

 ”あきつ丸”は特殊な艦娘である。揚陸艦という特性上、他の艦娘達が海上で戦うための能力を陸上で発揮できる。他の艦娘たちは陸上でも艤装展開し、戦うことはできるのだが海上よりも能力が割合で減少する。海上基準での性能で言えば”あきつ丸”は他の艦娘達に後れを取ってしまうことが多いものの、陸上であればそれが逆転する。

 だがそれは”あきつ丸”に限ったことだ。大井と金剛は今艤装の展開ができない。艤装の展開をしていない時の艦娘は人間の少女と変わらないレベルの身体能力となる。これが大井が牢を自力で脱出できなかった理由でもある。

 

「こうなった以上仕方ないわ。とりあえず私と金剛さんの牢の錠を壊して」

「はい!」

 

 大井が牢の端まで下がりあきつ丸が錠部分を叩き壊して扉を開く。続けてあきつ丸は金剛の牢も同じように叩き壊した。

 

 

 

 

 あらゆる偶然が重なった。

 大本営、各鎮守府、普段であればどこかしらが哨戒出撃任務をしていたはずのこの時間に海に出ている艦娘は演習の為の6人のみだった事。

 大本営からやってきた漣たちは中立であるために艤装展開せずに波止場の上にいた事。

 演習の為に装備変更されて長門たちに基本艤装としての電探しかなかった上に、対する男に全意識を集中していた事。

 警報を聞いた大本営の漣たちを含めた艦娘達も提督も、鎮守府の本部棟の異常を知り視線を送った事。

 男はそれが鎮守府内の異常に対する警報だと知らなかったが故にただ一人水平線に目をやった事。

 

「総員防御姿勢回避行動!!」

 

 ”其れら”が害成す存在であると男は一目で感づき叫んだ。瞬間的に動けたのは漣たち三人と艦載機を出し尽くしていた空母の二人だけだった。

 

「きゃぁぁぁ!?」

「ば、爆発なんてしないんだから…もう」

 

 ”其れら”に僅かに近い位置だったため標的とされた扶桑と陸奥が被弾した。

 男が技を解き長門たちが被弾した二人の元に寄る。

 

「よりによって今か!? 大丈夫か陸奥」

「ええなんとか、でも砲が二門やられちゃったわね」

「私も一門、でもまだ大丈夫だから心配しないで山城」

「よかったわ、今艦載機を向かわせて編成が分かりました。戦艦ル級2、重巡リ級1、雷巡チ級1、駆逐ロ級2です」

「今の自分は邪魔だろう、空砲があるなら向こうまで吹き飛ばしてくれればいい」

「空砲以前にあなたと戦ったせいで通常弾も少ないのよ!」

 

 山城だけでなく他の者たちも弾切れ間際だった。

 不利を覚悟で戦おうとした時、彼女たちの横を2つの影が通り過ぎた。

 

「私たちが牽制しておくから早く補給を済ませて来てちょうだい!!」

「待ってくれ!! その時間君たちだけでどうにかできるとは思えない!!」

 

 先行して漣と古鷹が砲撃で敵艦隊の注意を反らしている。その間に五十鈴が六人と男の退避を指示してきた。しかし長門たちは艦種の差と2倍の数相手に戦えないと否定する。

 

「アイツはどうした」

「知らないわよ。波止場に飛んできた砲弾にビビッてどっか行っちゃったんだから!!」

「そんな……っ!」

「指揮を受けられないあなた達よりもまだまし、それにうちの漣(秘書艦筆頭)は伊達じゃないんだから」

 

 それだけを言い残して五十鈴も戦闘に向かった。残された彼女たちは一様に暗くただ三人の戦闘を見守るだけだった。

 

「先ほどまでの気概はどうした、何故戦わない?」

艦娘(我々)提督(指揮する者)がいなければ力を十全に発揮できんのだ」

「それにちゃんとした戦闘をするための燃料を補給されてません」

「だから回避できずにこの様よ」

「敵の攻撃を食らう前に倒す、その指示があればいい。条件は以上だな」

「は?」

 

 今も長門の艤装にしがみつく男が言った言葉に彼女たちは理解が追い付かなかった。

 

「山城だったな、被弾の無い君と長門の二人で砲撃を、先行する彼女たちに当たらぬようにまずは初弾を撃て。赤城加賀の両名は放ってある飛行機で援護しつつ砲弾及び敵の位置を四人に報告。陸奥と扶桑は後方に下がり報告された位置の敵を残った砲で狙撃。質問はあるか?」

「弾着観測射撃をそんな方法でやる気か!?」

「類似戦略があったのか、まあいい。敵の砲弾、攻撃は自分が前後左右で回避を伝える」

「どうして」

「自分はできるなら死にたくはない。それにまだ礼をちゃんとしていない者たちが居て、あの男に貰った一発分をまだ返していないからな」

 

 言葉にして今気づいたことだが、男が今まででまともに喰らったのは提督に殴らせた一発だけだった。焚き付けるためとはいえ男にとってそれは気に入らない事だった。

 

「今はそれが最善ですね、やりましょう長門さん」

 

 赤城が賛成し加賀が頷き、扶桑が静かに下がりそれに山城が砲を動かしことで同意する。

 

「そこじゃあ長門の邪魔でしょう」

 

 陸奥が先の砲撃で近づいていた浮島の破片をそばまで運んできてくれた。それにすぐさま飛び移り頭を下げる。

 

「感謝する」

「いいわよ。長門」

「ああ」

 

 陸奥が扶桑に合わせて下がったのを確認した長門は砲を構えた。

 鎮守府防衛の反撃が開始された。

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