異分子兵士、提督となる   作:遊々自適

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今回ヤツが出てきます。
一応ですがご注意ください。


第九話 勝利する

「行きましょう金剛さん!!」

「ワタシはいいから二人だけで行って下サイ」

「何を言っているのでありますか!?」

 

 あきつ丸によってこじ開けられた金剛の入れられた牢の扉。拘束用の枷は無くすぐにでも逃げ出せるにもかかわらず金剛は牢から出ようとしない。

 

「いつまで卑屈になってるつもりなの!! 少なくともあきつ丸(この娘)が来てる以上今まで通りの酷い扱いをされることは無いに決まってるでしょう!?」

「そうであります、総督殿にご報告してこの鎮守府を善くしてもらえれば――――――」

「そうじゃアリマセン。大井には言いましたネ、もう駄目になったと」

「それが何? いいから行くわよ、あきつ丸!!」

「ハイであります!?」

「金剛さん引き摺ってでも逃げるわよ」

「了解であります」

「ちょ、チョット待つネ~!! ワタシはもう誰にも迷惑を掛けたくないんデス!!」

「だったら逃げるの!! あなたがずっと此処にいたら比叡さんたちも他の皆も心配するに決まってるでしょう!! それにね何回轟沈(しず)んだっていいじゃない。もちろん轟沈む気は無いけど何度だって北上さんの元に戻ってこれるなら、私は艦娘になってこの鎮守府に来れてよかったと思うわ!!」

 

 かつての戦争で先に逝った”大井”だからこそ、残した”北上”()の元にどんな形でも戻れることが嬉しいのだった。ここの提督と接触する機会の少なかった大井だからこそ、スレたりすることなくこうも真っ直ぐな言葉を発することが出来た。

 

「何より金剛さんにはアイツを告発する証人になって貰わなきゃならないのよ。さっさと追い出して新しい提督にでも来てもらえばいいじゃない」

「……新しい、テイトク」

「お二人とも!! これ以上ここにいては」

「行くわよ。それとも牢に入れられっぱなしで動けなくなったのかしら?」

 

 牢屋の入り口で外の状況を伺っているあきつ丸、大井は金剛に手を伸ばし待っている。

 ”金剛”は大戦時の艦の中で先輩であり特に長く戦った艦で、新設されたこの鎮守府でもかなり早い時期に着任した事も有り多くの艦娘に慕われている。大井にとっては先任艦娘の一人だが同じ鎮守府で戦う仲間として、そして個人的に金剛を助けたいとも思っていた。

 

「走れマスヨ……これでも高速戦艦デスから遅れちゃNOなんだからネ」

「私も高速艦の一人よ」

「そもそも今は自分が一番でありますよ」

 

 ほんの少しだけ。

 金剛は推進力(勇気)を取り戻した。

 

 

 

 

 苦戦すると漣たちは最初思っていた。もちろん数的不利を覆すことが簡単ではないと分かっていたから、牽制からの各個撃破を考えていた。しかし苦戦を強いられているのは敵艦隊の方だった。

 主として戦闘を行う漣たちの三人。従として砲撃による支援を長門たちの艦隊が行い、敵艦隊の攻撃も流れて分散されるからだ。

 特に今回の場合、長門たちの砲撃が支援艦隊としての役割を知らずに担っており、初撃時にロ級一体が轟沈とリ級が中破するという結果を生んだ。本来であれば緊急(E)作戦時や高難度の海域攻略時で、道中護衛の駆逐艦を必要とするものだが、鎮守府のすぐそばであり展開中の艦隊であったため可能となった。

 

「五十鈴さん! 今のうちに雷撃を!!」

 

 古鷹は重巡洋艦として現状一番の防御力を以てル級二隻の注意を一手に引き受けて戦っている。漣は敵艦隊を大きく回り込んで攻撃を鎮守府側から遠ざけるように動き、一手遅く戦闘に参加した五十鈴が酸素魚雷を発射してチ級を沈めた。

 

(あっ!! またです(*゚o゚*) ル級の砲撃の前に移動して全てが至近弾に変わってますね。まるで誰が狙われてるかを分かってるみたいですね~)

 

 五十鈴と古鷹は共に強化改装を二度受けた艦娘であり、”艦”としてのスペックから見れば漣よりも高い。一方漣は強化改装を受けたのは一度だが最古参の艦娘でもあり、練度以上に経験によって彼女たち二人よりも戦うのが巧い。

 漣は経験によって体得した方法で高い命中率と回避率を得ている。

 今支援をしている長門たちが知らず知らずにしている節約攻撃、節約回避は漣が行っているものと大差が無かった。

 

(でもちょっとショックだなー。私だって総督(ご主人様)の力になるために頑張って頑張ってやっとだったのに( ̄Д ̄;) )

 

 漣は最初期から戦ってきた艦娘で練度も頭打ち(99)になるまで頑張り伸び悩んで、とあるきっかけ(贈り物)から更なる高みへようやく昇り出した所でもあったのだ。

 

 

 

 

「赤城は右へ6回避! 扶桑は砲の角度そのまま右2後ろ17移動後に撃て」

 

 男の指示によって至近弾による微細な損傷以外のダメージは無く、射程ギリギリの難しい射撃であるにもかかわらず、時に命中し時に的確な援護として機能していた。

 

「聞いてもいいかしら?」

「何だ」

「どうして分かるの?」

「見て覚えた」

 

 陸奥の少ない言葉に男も少ない言葉で答えた。

 だがこれで通じる。

 

「自分も造られた兵士だ。五感は常人より優れ、戦闘に特化した身だ」

「最初に敵艦隊に気付いたのもあなただったものね」

「長門前3右8!」

 

 男の指示によって向かってくる砲弾を回避した長門が移動後にお返しにル級を狙い撃つ。

 

「自分のいた世界の敵は初見で見切れなければほぼ殺されることが多かった。一度見た攻撃の特性、攻撃範囲限界の理解が追い付かなくても死んだ。陸奥右7」

 

 男は調整兵としてある意味では(・・・・・・)欠陥を抱えていた。

 未知の敵に恐怖して戦えなくなってはどうしようもない為、調整兵たちが造られる際に”恐怖”が意図的に取り除かれる。だが男にはそれが何故か存在していたのだ。

 ”恐怖”とは生存本能の一つの側面だ。ただの生命体が持つそれはアラートでしかない。

 しかしこの男が、調整兵がそれを持ったことで、強化された五感(センサー)がより速く察知し、教え込まれた戦闘知識(判断力)によって行動を決定し、限界まで引き上げられた身体能力によって行動する(生き残る)。結果、異常個体が生まれることとなったのだ。

 

「ル級轟沈を確認、索敵範囲内に敵影認められず」

「助かりました。お礼申し上げます」

 

 加賀の報告を受け赤城が男に礼を述べた。戻ってきた艦載機たちがそれぞれの飛行甲板に着艦し、光の粒子へ姿を変え矢筒の中へ矢となり格納されてゆくのを男は再び興味深そうに見ていた。

 前にいた長門と山城、後ろに下がっていた扶桑と陸奥も男の立つ浮島に寄り集まった。近距離で戦っていた漣たちもゆっくりと戻ってくる。

 

「漣殿おおぉぉぉ!!」

 

 並々ならぬ雰囲気漂う声に振り返れば、灰色の制服を着た艦娘あきつ丸がボロボロに泣き腫らしながら彼女の全速力でやってくる。そのまま男や長門たちの艦隊に目もくれずに漣に跳び付いた。

 

「ちょっ、キタナっΣ(゚口゚;!! あきつ丸さんどうしたのですか、ほら鼻水も拭いてヾ( ̄^ ̄*))

「自分ぼうダメでありばずぅ。見でじばっだのでありばずうううぅぅ!!」

 

 

 

 

 提督が走った先、それは艦隊司令室であった。

 この部屋は出撃させた艦隊の状況を艦娘の艤装に乗る守護妖精を通じて受け取り、艦隊の主な作戦行動や陣形その他の指揮を執るためのもので、その重要性からシェルター並みの強度と安全性の元設計された部屋でもあった。

 

「クソクソクソッ!! とんだ疫病神が!! あの男が現れてから全てが狂いっぱなしだ!!」

 

 彼の憤りの今一番の理由は鎮守府が直接襲撃されたことであった。理由を問わずこれは失態として非常に大きく、また彼は出世欲支配欲が強く経歴に傷がつくことを嫌う人間だった。水面下であらゆるパイプを作り、他者(邪魔者)を蹴落として手にした鎮守府最高責任者の地位を脅かすほどの失態だからだ。

 彼の前に佐世保鎮守府が襲撃を受け、被害こそ大きくなかったもののその時の提督が更迭されるという事件があり、現在の若い提督が着任するきっかけでもあった。

 

「査問会の連中を抱き込むのにどれほどの金がかかるか、っクソが!! よりによって大本営から使いが来てる、時に!? ……そうか大本営のあの艦娘どもだ!! 演習の邪魔をした深海棲艦、それを止めるべき責を怠ったと逆にこちらから行けば或いは。駄目でも責任は免れることができ、ともすれば総督を辞任させ上の席へ一つ進めるではないか!!」

 

 他者を陥れる策謀。その一点において極限優れた事によって、この者は指揮能力を始めとした全ての評価項目を誤魔化すことによって提督となった。

 今もなお手に入れた資材を闇ルートに流し、上の人間を引き摺り下ろすための準備を進めていた。艦娘たちはその巻き添えに補給を受けられず、交渉でのストレスを発散するために入渠できないまま出撃させられたりと酷い扱いを受けていたのだ。

 

「都合よくあの艦娘どもが戦っているはずだ。それを上手く利用――――――」

 

 指令室の扉を開き中に入った提督は”絶望”を目にし言葉を失った。この”絶望”を偵察のため先行していたあきつ丸も目撃してしまったのだった。

 

「嘘だ」

 

 虚ろになったその瞳は”絶望”と同時に提督の過去を、まるでこれで最期だと告げるように遡って映していた。

 

「嘘だ嘘だ」

『曰く、全てを台無しにするんだとか』

「嘘だ嘘だ嘘だ」

『出会ったが最期、逃れる術がねえだなんておっかねえよ全く』

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」

『たしか艦隊との通信が途切れると現れるって聞いたな』

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」

『ああ聞いたことあるぞ!! 上層部が深海棲艦以上に恐れてるって奴だろ』

 

 

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!!」

 

 

『なあお前さんら、”妖怪猫吊るし”って知ってるか?』

 

 

 彼は軍服と軍帽を残して姿を消した。

 

 

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