デジモンアドベンチャー それぞれの物語(タケル編) 作:アキレス腱
目を開けると、涙を湛える初島ユウキと目があった。
「高石さん、お願い…私をっ…」
これ以上、大輔と賢を苦しめたくないと叫ぶ彼女の気持ちは痛いほどよく分かる。
けど、僕達は君を助けると決めた。
僕は首を横に振り、データの網を解き続ける大輔と賢の背に手を添える。
「タケル?」
「僕とヒカリが2人の受ける記憶を肩代わりする。だから、初島さんを助けて」
「そんな無茶な!」
賢が記憶の痛みに顔を歪ませながらも、僕の申し出に異を唱える。
大輔は対称的にニヤリと笑い、「やっとやる気になったか、頼むぜ!」とやる気満々だ。
僕は賢に「信じて」と短く告げ、頭の中のヒカリに呼びかけてリンクする。
次の瞬間、人やデジモンの記憶達が津波のように押し寄せてきた。
「うっ!?」
思わず呻き声が溢れるが、すぐに記憶の奔流が分かれてヒカリに流れていくのを感じた。
主にデジモン達の記憶がヒカリに流れ、人の記憶が僕に流れ込む。
次々と見えるビジョン、身体を駆け巡る痛みと衝撃、心を抉るような絶望と後悔の念。
辛い、苦しい、痛い、寂しい、悲しい。
そうだね、痛かったね、苦しかったね、悲しかったね…死ぬのは、とても怖いよね。
自分で選んだ人も、そうでない人も、生きていたい気持ちがあったから、彼女にしがみ付いてしまったんだ。
誰もが死を受け入れられるわけじゃなくて、こんなに切なくて悲しい気持ちがいっぱいあって、でも死んでしまったら誰にも伝えられなくて、帰ることもできなくて…。
『みんな、帰る場所を探していたのね…でも見つからなくて、拠り所を探して彼女に縋ってしまった。みんなの思いが寄り集まって、あの悲しい存在を引き寄せてしまったのね。転生の輪から外れて、絶望して、世界を恨んで…もうどこにも戻れないことを分かっていても、諦めきれない。消滅を恐れて、怯えて、泣いてるみたい…』
記憶の向こうに、一瞬何かが見えた気がした。
それは、僕が見た夢に似た空気を感じさせるものだった。
やがて、記憶の波が途切れた。
目を開けると、初島ユウキの四肢を捕らえていたデータの網の最後の一つが解け、彼女の体が崩れ落ちる瞬間だった。
大輔が初島ユウキ身体を受け止める。
安堵の息をつこうとしたのも束の間、解放された筈の初島ユウキの体から無数のデータチップが浮かび上がり、サラサラと巻き上げられ始めた。
「これは…」
「ユウキ、ユウキ!?」
腕の中の初島ユウキに呼びかける大輔。
しかし、彼女からの返事はなく、代わりに全く別の所から返事が降り注いだ。
「呼んだか?大輔クン」
それは、今まで聞いたことのない調子で発せられた初島ユウキの声だった。
僕、大輔、賢は一様に身を硬くして、声のした方を振り仰いだ。
そこには未だ残る無数のデータの網を背にして、フワフワと浮いている初島ユウキがいた。
大輔の腕の中の初島ユウキは、ピクリともしない。
あまりのことに言葉を失う僕達に、その初島ユウキはニッコリと笑った。
「お前達は、何一つ失わずに何かを救えると、本当に思っているのか?」
笑顔とは裏腹に、発せられた言葉は冷たい。
そして、初島ユウキらしからぬ物言いだった。
「ユウキ?」
「初島ユウキは我々の存在の基盤。抜け殻くらいはくれてやってもいいが、我々を繋ぐ記憶は渡さない」
「じゃあ、お前はもしかして…!?」
目の前に浮かぶ初島ユウキの正体気づいたのか、賢が表情を険しくする。
初島ユウキの姿をしたそれがデータの網に触れると、網はたちまち姿を変えて彼女の背に集まり、悪魔にも似た翼を形作った。
次に別の網を分解し、今度は巨大な鎌を作り出す。
まるで死神のようにも見えた。
「世界に拒まれた我々は初島ユウキによって繫がれ、身を寄せ合った。世界は生者にのみ祝福を与え、我々には虚無に帰ることを強いた。この空間に追い込まれた以上、我々に待つのは消滅だけだ。今更抗おうとは思わない。ただ、もうこれ以上、我々から何も奪わせはしない。特に、世界から選ばれ、祝福され、失うことを知らないお前のような傲慢な存在には!」
巨大な鎌がギラリと鈍く光る。
細められた目の奥に殺気を感じた。
「危ない!?」
咄嗟に初島ユウキを抱いたままの大輔を庇う。
更にその前に賢が身を滑らせ、迫り来る大鎌を交わして初島ユウキの姿をしたものの腕を抑え込んだ。
鎌の刃が僕の眼前で動きを止める。
冷や汗がこめかみを伝った。
「生身の分際でよくやる」
寸前で攻撃を食い止めた賢に、そいつは感心したように呟く。
賢はゆっくりと大鎌を押し返しながらそいつに問いかけた。
「僕達にメールを送ってきたのはお前か?」
「メール?ああ、皮肉を込めたあのメッセージのことか。我々の一部が行ったものに違いない。が、それがどうした?」
軽く笑い、そいつは鎌を引いた。
鼻で笑い飛ばしたそいつにとっては、あのメッセージは大した意味を持たなかったようだ。
しかし、賢は続ける。
「この空間に来て間もなく、一度だけ通信が回復して京から完成文が届いた。完成文は『全ての生命に祝福を』これは、SOSだったんじゃないのか?」
「何を言うかと思えば…」
「お前達にとって世界からの祝福が生きることだとするなら、世界に対する願いだったんじゃないのか?」
先ほどそいつが口にしていた、「世界は生者にのに祝福を与えた」という文言から考えると、生に対する執着は相当なものだ。
祝福
この空間に引きずり込まれる前にも考えていた。
世界にとっての祝福は、僕達の考えるものとは違うのではないか。
生きることでも、選ばれることでも、誰もが羨むような力を手にすることでもなくて…。
賢の問いに、初島ユウキの姿をしたそいつは大鎌を担ぎ溜息を吐いた。
そして、崩れかけたデータの網に腰を下ろし、大鎌を脇に立て掛けると僕たちを見渡して言った。
「世界はそれほど優しくないのだと、我々の中にもまだ理解しないものがいる」
「そういうものの発したメッセージだと?」
殺気が消えたことで賢も構えを解き、乱れた髪を振り払う。
そいつは足を組み、頬杖を付くと、大輔の抱く初島ユウキを見つめた。
どこか諦めを匂わせる表情を浮かべた。
「そんな拙い願いは世界に届かない。我々がどれ程の時を虚無に抗い、叫び続けてきたか。初島ユウキが現れ、統合されて初めて、我々は消滅するしかない現実を受け入れ始めた」
「ユウキが?」
「初島ユウキはこれだけの記憶をその身に引き受け、自ら消滅することを願っていた」
「「「!?」」」
僕達の驚きが重なる。
そいつは構わず続けた。
「引き受けた悲しみとともに消えることで、悲しみを消そうとした」
「嘘だ!」
思わず叫んだのは大輔だった。
当たり前だ。
助けに来た恋人が、本当は消えることを願っていたなんて、信じたくないに決まっている。
でも、僕はそれを否定できないと思った。
家族を失い、おそらくはその死の記憶も背負い、他人やデジモンの悲しみと苦しみを一心に引き受けて、生きていく希望を見出せるとは考えにくい。
消えてしまいたいと思ったことがある身としては、そいつの言い分も分かってしまう。
「絶対信じねぇ、ユウキは俺と一緒にいるって約束したんだ、これからもずっと!」
大輔が抜け殻と称された初島ユウキを抱き締め、初島ユウキの姿をしたものを睨みつける。
そいつは目を伏せ、今までとは異なる声で小さく呟く。
「…大輔クン…」
「ユウキ!」
初島ユウキの声色で名前を呼ばれた大輔に動揺が走る。
すると、そいつはすぐに表情を一変させ、大鎌を残したまま立ち上がって大輔に近づくと、身を屈めて大輔の眼前に顔を突き出した。
「初島ユウキの記憶は我々とともにある。そして、我々がわざわざ偽りを告げる理由は無い。お前達を謀ったところで、何の得も無いからだ。信じる信じないは勝手だが、初島ユウキの消滅への願いが、我々に無への帰還を指し示したことは変えようのない事実だ」
初島ユウキと同じ顔で、言葉を選ばずに突きつけられる現実は、少なからず大輔の心を傷付けただろう。
そいつは身を起こし、左右の僕と賢を交互に見やった。
「お前達は喪失と引き換えに得るものがあると知っているというのに、何故その方法を取らない?」
そいつの言葉に、賢がポケットに収めたシートプログラムに手を添える。
僕もまた、実行に移せなかったことに唇を噛んだ。
「本宮大輔、厄介な存在だ。初島ユウキにとっても、お前達にとっても、下手な希望を持たせることにつけては天下一品だな」
「何だとっ…」
「奇跡か…だが、その奇跡も世界の理を覆すことまではできない。我々が生まれ、消えることも世界には定められていたに違いない。途方もない時間、抗い続けることさえも…」
寂しげにさえ見えたそいつの横顔は、とても人間臭さを感じさせた。
踵を返して大鎌のもとに戻ったそいつは、細い腕で軽々と鎌を持ち上げ、僕達に向き直った。
「君達は…消えることを受け入れたって言ってたけど、それで何でヒカリを道連れにする?」
「ヒカリ?ああ、進化の光を宿した者か…あれをここに引き止めているのも、我々の一部に過ぎない。我々は統合されたと言っても、完全に一個の個体になったわけではない。我々の内部では未だ様々な意思が入り混じり、混沌としている」
「解放してはもらえないか?」
「ならば一乗寺賢の持っているプログラムで我々のデリート順を早めればいい。我々が先に消えれば、八神ヒカリを捕らえる楔は消え、お前達が脱出する時間も稼げるだろう。そして…」
「初島さんは消える?」
そいつは当たり前のように頷いた。
「不満か?初島ユウキと我々が消えることで、お前達の命と八神ヒカリの命、この世界の安定が得られるというのに、傲慢の極みだな。どうしても我々から初島ユウキの記憶を奪うというのなら、容赦はしない」
大鎌を僕達に向けて構えたそいつは、先に見せた人間臭さを取り払い、無機質な表情を浮かべていた。
それを見て、僕は初島ユウキの姿をしたこの存在は、酷く不安定なものだと感じた。
そもそも、ホメオスタシスが語ったように、彼等一つ一つのデータは単なるバグでしかなく、初島ユウキの記憶という繋ぎによって意思を宿したというのなら、それはつい先刻のことだ。
この空間の時間の流れがどうなっているのかは分からないが、さっき彼等自身が言ったように内部は混沌としていて纏まりに欠ける。
それでも消滅を受け入れてその時を待っているという。
無秩序だった彼等を理のもとに導く存在として、初島ユウキは彼等の中核なんだ。
失ってしまえば、漸く定めた消滅への道に再び抗い始める者達も出てくるだろう。
今目の前にいる初島ユウキの姿をした存在も失われる。
そうしたら、アポカリモンのような存在がいくつも出来上がるのではないだろうか。
それは恐ろしいことだった。
暫しの沈黙の後、大輔が初島ユウキの身体を横たえて立ち上がった。
そして、初島ユウキの姿をした存在が構える大鎌の刃の前に進み出た。
「何か言いたげだな、本宮大輔」
「そりゃあな」
「何を言おうが初島ユウキを返すわけにはいかない。我々は統合を維持したまま消滅を待たなければならない」
「消えなきゃダメか?」
「何?」
大輔の唐突な質問に、そいつは怪訝そうに眉を寄せる。
「お前らは消えなきゃダメなのかって聞いてんだよ。ってか、何で消えたいんだ?」
「何故?」
「そう、何で?」
こんな時だというのに、大輔の声の調子は普段とさして変わりないものだった。
あれだけの記憶の波に晒され、初島ユウキの本意を聞かされた後で、尚も目の前の存在に真正面からぶつかれるなんて、驚きを通り越してもはや尊敬に値する。
そいつにとっても、多分大輔のこの質問は予想の範囲を超えていただろう。
大鎌を振り上げて大輔の眼前に切っ先を合わせ、その真意を図っているようだった。
随分長いことそうしていたように感じるほど、2人の間には緊迫した空気が流れた。
そしてその終わりに、初島ユウキの姿をした存在は乾いた笑いを零した。
「…理由、か…理由は…消滅を選んだ、理由…は」
語尾が不規則に途切れる。
大鎌を持つ手が震えていることに僕が気づいた時、大輔はもっと別のことに気付いていた。
目の前の存在が揺らいでいることに。
身の丈に迫る刃をくぐり、大輔は初島ユウキの姿をした存在に歩み寄る。
そいつは身動きせず、近づいてくる大輔をただ見つめていた。
やがて、大輔とそいつの距離が人1人分まで縮まると、大輔が口を開いた。
「ユウキ、そこにいるんだろ?」
「!?」
小さく息を飲み込む音がした。
同時に大鎌が振り上げられる。
「「大輔!」」
賢と僕が叫んで駆け出そうとしたが、いつの間にかデータの網に足を絡め取られ、動けなくなっていた。
巨大な鎌が振り下ろされる。
賢がポケットからシートプログラムを取り出そうとするが、どう考えても間に合わない。
こんなことで、大輔を失うわけにはいかないのに。
僕の頭の中でもヒカリが悲鳴を上げるのが聞こえた。
大鎌の刃が大輔の身体を貫く瞬間は、いつまでたってもやってこなかった。
振り下ろされたように見えた大鎌は大輔の体のすぐ横をすり抜け、ガランと大きな音を立てて地面に転がった。
大鎌を手放した細い腕が震えて徐々に力を失い、ハラハラと翼を構成していたデータが分解されていく。
呆然とする僕達前で、大輔は初島ユウキの姿をした存在を「ユウキ」と呼び、その身体を抱き締めた。
「本当に、消えたいのか?」
「わ、私…は…」
彼等の一人称が変化した。それは、初島ユウキの記憶が表面化したことを示していた。
「ユウキの本当の気持ちが聞きたい」
「…大輔、くん…」
声が、初島ユウキものへと完全に戻った。
そして、彼女の心が溢れ出す。
「私が一緒に消えなきゃ、この子たちはいつまでも悲しいまま、誰かを傷つけながら消えていくか彷徨うかしかない。だからっ」
「そうじゃなくて、お前はどうなんだよ!?」
どこまでも人のことばかり。
それは大輔もそう思っていたのだろう。
自分の願いはいつも後回しで、決して口に出さない。
彼女の肩を掴み、大輔は強く問い掛ける。
初島ユウキは泣いていた。
「ユウキ、お前いつもそうやって自分のためには何も選んで来なかっただろ?言えよ、本当はどうしたい?」
「あ、わ…私、私は…」
「どんなことだっていい、何にも縛られないで言ってくれ」
「うぅ…あ…あぁあああああぁぁぁああ!」
絹を裂くような叫び声がこだまする。
初島ユウキが両手で頭を抱えると、周囲のデータの網がグニャリと歪んで形を変え、まるでデビモンを思わせる巨大な手が現れた。
そして、巨大な手は初島ユウキを大輔から引き剥がしてその手中に収めてしまった。
「ユウキ!」
『渡すわけにはいかいかないと言った筈だ』
どこからかノイズ混じりの機械音声が聞こえてきた。
恐らく彼等だ。
僕は足に絡みつくデータの糸を強引に振り払うと、賢の手からシートプログラムをひったくった。
「タケル!?」
「奴と初島さんが分離している今ならっ」
シートプログラムを起動させ、奴の目の前で始動ボタンに手を掛けたが、頭の中でヒカリがストップを掛けた。
『まだダメ、初島さんを引き離して!』
「くっ、大輔、賢、初島さんを!」
僕の声に弾かれたように大輔と賢が巨大な手に囚われた初島ユウキへ駆け寄り、助け出そうと試みる。
しかし、そう簡単に手の中の彼女を引き出せる訳もなかった。
もう一つの巨大な手が大輔達に向かって伸ばされる。
ちっぽけな僕達にできることなどあまりに少なかった。
「やめて!」
捕らわれた初島ユウキが制止を叫ぶが、もはや間に合わない。
そう思った時、賢が自らのデジヴァイスを翳した。
すると、デジヴァイスから光が発せられ、大輔と賢を包み込んで巨大な手を弾き返した。
驚いたのは僕と大輔、そして当の本人である賢も目を丸くする。
「効いた!?」
「嘘、確証なかったの?」
「いや、京にプロテクトかけてもらってあったんだけど、まさか効くとは…」
「あいつってすげぇのな」
まさかの京の功績に一瞬緊張が緩むが、状況は何ら変わっていない。
捕らわれたままの初島ユウキは、僕達に向かって叫んだ。
「お願い、私ごと消して!このままじゃ…みんなっ」
しかし、大輔はそれを許さない。
「んなことできねぇって言ってるだろ!」
初島ユウキを捕らえる手の指をこじ開けながら大輔が語気を荒くして言った。
だがこのままでは間違いなく僕達方が先に消されてしまう。
一体どうすれば…。
シートプログラムと初島ユウキを交互に見て、それからあることに気付いて僕は横たえられた初島ユウキの身体を振り返った。
あの初島ユウキは彼女の記憶。
だとすれば、本体に触れれば身体に戻すことが出来るかもしれない。
思いたつが早いか、僕は初島ユウキの身体に駆け寄って抱き起こす。
その身体は驚くほど軽かった。
「大輔、賢!」
初島ユウキを抱き抱え、僕は囚われている初島ユウキへと走った。
だが、それを彼等が許す筈がなく、その場にたどり着く前に大きな手がそれを阻もうと襲い掛かってきた。
鋭い爪が眼前に迫る。
が、その爪は僕に届くことはなかった。
先ほど賢が発動させたプロテクトと同様の現象が僕の周りにも出現し、彼等の攻撃を弾いたのだ。
恐らく、ホメオスタシスが僕にかけたプロテクトが発動したのだろう。
彼等が怯んだ所で手の下をすり抜け、大輔達の所に急いだ。
「タケル、お前も京にかけてもらってたのか?」
「僕のは別口。それより、急いで初島さんの記憶を身体に戻せるかやってみよう。初島さん、今は僕達を信じて」
抱きかかえた初島ユウキを大輔に受け渡し、捕らわれている記憶の方の彼女にそう告げる。
初島ユウキは何かを堪えるように頷いた。
賢は次の攻撃に備えてプロテクトを展開してくれていた。
僕もそのサポートに回る。
大輔が初島ユウキの手を彼女の記憶に触れさせると、眩い光とともに彼女の記憶はデータチップとなって身体に吸い込まれていった。
「これで!」
僕がシートプログラムを起動させようとしたその時、プロテクトを貫くほどの閃光が巨大な手の伸びる更に奥から放たれ、僕達は派手に吹き飛ばされた。
そしてあろうことか、その攻撃によってシートプログラムは破壊され、砕け散っしまった。
「っ、やべぇな、こりゃ…」
初島ユウキを庇って倒れた大輔が身を起こしながら呟いた。
初島ユウキは今の衝撃で気絶したのか、大輔の腕の下で動く気配はない。
僕は手の中に残ったプログラムの破片を見下ろして落胆した。
これで僕達が彼等に対抗できる手段はなくなってしまった。
あとはもう…。
『タケル、みんなとここに戻って!』
頭にヒカリの声が響いた。
僕は痛みに悲鳴を上げる身体にムチを打って立ち上がり、倒れている賢を助け起こして大輔に叫んだ。
「ヒカリのところに行こう!この空間から出るんだ!」
そうして僕達は走り出した。
直後、背後で地鳴りとも悲鳴ともつかない叫び声のようなものが聞こえたけれど、今はとにかく逃げるしかなかった。
必死でヒカリが呼ぶ方向へ走り続ける。
僕達は既にボロボロで、ただ気力だけがその身を突き動かしていた。
だから、気付かなかった。
大輔の抱える初島ユウキの身体から、少しずつデータチップが溢れていたことを…。
諦めることと受け入れることの違い。
読んで頂き、ありがとうございました。