デジモンアドベンチャー それぞれの物語(タケル編) 作:アキレス腱
皆は、それこそ真剣に僕の本当の言葉に耳を傾けてくれた。
幼い頃の両親の離婚から、母を奪ってしまったために抱いた兄への罪悪感、あの夏の冒険で一度失ってしまったかけがえのないパートナーのこと。
そして、パートナーの死を受け止められず、その責を全て闇の力に転換して闇を憎んだこと。
以来、その闇を憎むことで自分を正当化しようとしてきたこと。
本当は認めなくてはならなかった弱さから目を逸らし、周囲に気付かれることを恐れて誰にも心の内を打ち明けられなかったこと。
話す間、何度も声が震えそうになった。
裸で冬の海に入るような心許なさと、本当のことを話して拒絶されたら、今更だと言われたらと思うと恐かった。
けど、今やっと、足下で膝を抱える“寂しがり屋”、泣いている小学2年生の僕の隣に座って、マコトの言った同じ目線で過去と向き合うことが出来ている気がして、何としても後には引けなかった。
そうすることで、背中の“寂しがり屋”も、同じ目線に降りてきてくれるようで、ずっとずっとできなかった何かができそうで…不安に震えながら、一縷の希望に心が騒ぐのもまた感じていた。
『苦しかったんだよね、ずっと』
『辛かったね、ずっと一人で』
『ずっと、頑張ってきたんだね』
話しながら、マコトの言葉が浮かんでいた。
そう、僕はずっと苦しかったんだ。
ずっと辛かったんだ。
一人で抱えて、悩んで。
でも弱音を吐いてはいけないと思っていた。
いつまでも泣いてばかりの子供ではいけないと思っていた。
だから…背伸びをして、大人ぶって、自分に嘘をついてきたんだ。
本当は寂しくて、誰かに頼りたくて、子供でいたかった自分を見て見ぬフリをしてきてしまったせいで、この歳になるまで気付くことができなかった。
けど…
『その“寂しがり屋”の隣で、同じ目線になって蹲ってみて、その子の顔をよぉく見て…そしたら、もしかしたら…』
そう、もしかしたら…だ。
次々こぼれる本音が、どうか仲間に届いているように祈る。
蘇る記憶に涙を浮かべることもあったけれど、そんな時、何故か僕の側にいる“寂しがり屋”が心強かった。
次第に背中の“寂しがり屋”も隣に降りてきて、心がスッと軽くなるのを感じることができた時、途端に理解した。
足下で泣いていた小2の僕。、そしていつも背中に貼り付いていた小5の僕。
本当に彼等を置いていってしまったのは、家族でも仲間でも彼女でもない、他ならぬ僕自身だったんだ。
『もしかしたら…自分を好きになれるかもしれないよ?』
ホントだね…マコト。
話し終えた時、僕は早くも今年一年分の精神力を使い果たしたかのような疲労感に見舞われた。
でも同時に、今までにないほどの期待と希望に満たされていた。
ただ一つ不安なのは、皆の反応だったが…
深呼吸をして、恐る恐る皆の顔を伺った。
すると、そこには恐れていたような拒絶や今更という色も空気もなく、涙ぐんだ素直な感情や、励ますような優しい面差しや、申し訳なさそうにけれど誠実な凛々しい表情や、ちょっと怒ったような、でも温かく強い笑顔があった。
「ずっと一人で悩んでたんだ、ごめんね、気付けなくって。何ていうか、あの頃からそんなに色々考えて苦しんでたなんて、アタシ自分の脳天気っぷりが恥ずかしいわ」
苦しんでいたと分かってくれる。
「何かあるのは分かっても、こっちからは何もできなくて、すまない。長い間、辛い思いを抱えていたんだな。でもタケルが自分から話してくれたっていうのが、すごく嬉しい。ありがとう」
辛かったことを受け止めてくれる。
「僕…ヤマトさんから聞いて何となくは知っていたんです。でも、何もできなくて、タケルさんを1人にしてしまって、すみませんでした。話してくれて、ありがとうございます」
ずっと一人でいたことを、心配してくれていた。
「タケル、お前もうこんだけ頑張ったんだから、これからは一人で悩むなよな!お前一人で頑張り過ぎて、何だよ。俺たちはそんなに頼りねーかよ。辛いなら辛いって言えよ、解決はできなくても、皆でその辛さを背負うくらいはできるだろーが!」
頑張ったんだと、認めてくれる人がいる。
ほら、だからもう…
僕の隣にいる“寂しがり屋”達の手を握り、それぞれの顔を見た。
ずっと置き去りにしててごめん。
見て見ぬフリしててごめん。
もう1人で泣かなくていいし、もう1人で頑張らなくていい。
寂しい時には誰かに頼っていい。
弱い自分を責めるんじゃなくて、何かの所為にするのでもなくて、受け止めて一緒に歩こう。
誰のせいでもなくできてしまう綻びや傷があるのは仕方がないけど、それをひた隠す必要なんて無い。
大丈夫だよ、僕はもう僕を許せる。
だから、一緒に行こう。
迎えに来たんだ。
小2の僕は、僕の手を握り締めて思いっきり泣いた。
…辛かったね、苦しかったね、もう置いていかないから。
小5の僕は、僕を見て無理のない子供らしい笑顔で笑った。
…ちゃんと歳相応に笑えるじゃないか、それでいいんだよ。
そうだよ、僕達はまだ子供なんだ。
これからゆっくり大人になろう。
「あー、やばい、涙腺崩壊してるよ、これ」
拭っても拭っても涙が溢れてきて止まらない。
初めてさらけ出した剥き身の心に、仲間の言葉は温かくて、擽ったくて、じわりと降り積もった寂しさの塊が溶けて流れ出す。
たちまち皆に囲まれ、ここぞとばかりに弄り倒された。
そんなじゃれ合いすらも、僕の心を温かくさせる。
ただ、その輪の中に彼女は、ヒカリはいなかった。
けれどこの時の僕は、それに気付くことはなかった。
そこからの仲間との会話(質問攻め)は楽しかったけれど、疲労感もまた結構なものだった。
やがて帰りの時間がやって来た時、やっと解放されると少しホッとしたのだが、それも束の間。
何と大輔が泊まらせろと言ってきたのだ。
すると、何故か賢までそれに便乗する。
そうなると京も黙ってはいないのだが、流石に女子は無しという圧倒的な男子陣の意見が採用された。
伊織は急な外泊は親にも申し訳が無いと律儀に辞退。
ヒカリの反応は薄かったが、京の泊まりが無くなった時点であり得なかったため、それ程気に留めなかった。
そうして女子2人と伊織を見送ろうとした時、事件は起こった。
浮かれて立ち上がった大輔がチェストにぶつかり、天板に乗せてあった写真立てが落下した。
幸いフレームにもガラスにも傷はなく、京に文句を垂れられながら大輔は写真立てをチェストに戻したのだが、そこで見つけてしまったのだ。
マコトが忘れていったあのネックレスを。
「あー!」
僕の本音暴露からこっち、テンションがおかしい大輔の絶叫が響き渡る。
「何よ、うるさいわねー」
一番近くでその叫びをくらってしまい、耳を抑えて悪態をつく京。
その横で、目を瞬かせる伊織。
同じように驚いた反応を見せる賢とヒカリの側で、僕は即座に状況を推理して青ざめた。
よりにもよって大輔に見つかった。
それもまだヒカリがいるタイミングで。
最悪の状況だけは避けたくて、予想される大輔の言動の先手を打とうと口を開くも…
「だいす」
「おいタケルー、これ彼女のかぁ?」
「!?」
失敗した。女物のネックレスを手にからかう気満々の大輔を、激しく殴りたいと思った。
ああ、皆に要らぬ誤解を与えてくれやがって、このミラクル天然トラブルメーカーが!などと僕が怒り心頭であることを知らないこの場の面々は、当然ながらこの大輔の発見に様々な反応を見せる。
「なになにー、タケル君彼女いたのー?」
目をキラキラさせて聞いてくるのはミーハーハッカー。
「大輔さん、人のプライベートに土足で立ち入るのは如何なものかと思いますが」
悪ノリな雰囲気のガキ大将を冷静にたしなめる出来た後輩。
「大輔、人の物を勝手に触るのは良くないよ。ましてやそれがタケルの物じゃないなら尚更」
ここにも冷静なツッコミを入れる牛若丸がいた。
残るヒカリは…何故か無表情で大輔を見ていた。
それはそれで、どう思われたのかが分からずに恐い所だ。
僕はヒカリの反応に気を配りながら、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる大輔に詰め寄った。
「違うよ、友達の。この間部屋に来た時に忘れていったんだよ」
これは嘘じゃない。
「えー、だってこれ女物じゃん」
「女友達くらいいるよ」
納得いかないらしい大輔からネックレスを取り返し、チェストの上に戻す。
「だって部屋に呼ぶんだろ?それってさぁ」
「だ、だから、そういうんじゃないってば!」
一瞬、先日のマコトとのことが浮かんでカッと顔が熱くなるが、慌てて頭を振って否定した。
これ以上余計なことを言ってくれるな、と内心で罵倒する。ヒカリの視線が気になって仕様がないが、直視できるほど神経は図太くない。
結局、京や大輔の尋問紛いな質問に辟易する僕を見かねて、賢と伊織が止めてくれた。
まあ、どうせ夜になったら大輔にまたしつこく聞かれるんだろうけど。
ただ、終始ヒカリが無言だったことが気にかかる。何かあったのだろうか。
ドタバタな別れ際では違和感の正体を確認する暇はなく、男3人で京とヒカリ、伊織を見送った。
漸く浮上しました。
次話は男だらけのお泊まり会です。
読んで頂き、ありがとうございました。