ダンジョンに道化がいるのは、恐らく間違っている。 作:猫パン
初回投稿から1年。
お久しぶりです。
蒼白コントラストが思い付かないから、久しぶりに書いてみました。
マジで五巻って何かけば良いのよ。
「ベルくん、君は武器を持った方が良いと思うんだ。」
質問攻めに遭ってはや一週間経ち、冒険者家業も軌道に乗ってきた頃。
ベルは部屋でヘスティアにそう言われた。
「どうしたんです?ヘスティア様。頭でも打ちました?」
「違うよ!?僕は至って正常だからね!?」
開口一番そう言われ、ベルがまず口にしたのはヘスティアの容態だった。
解せぬ。
「ンッン。ベルくん、君は冒険者だ。だけど武器を持ってないよね?」
「はい、僕の左腕自体が武器ですから。」
「でも、だ。発動していないときに武器を持ってないと、素手でダンジョンに行く無謀者と思われるんだよ。」
そこまで聞いてベルは少しだけ思考を巡らせる。
「つまり使う使わないは別として、カモフラージュの為に持っておけと。」
「そういうこと、持っておけばいくらでも誤魔化しが効くだろう?」
「そういうことならわかりました。なら早速行ってきます。」
そう言うと、ベルは割りと早足で部屋を出ていった。
「あれ? ベルくんって武具屋の場所知ってるのかな?」
ーーーー△ーーーー
そしてベルは
その中でベルはとある店の前で立ち止まっていた。
ヘファイストス直々に鍛えられた、まさしく神造兵装というものが飾ってあった。
「うわ、0多いな。」
そう、高いのだ。
それもそのはず、鍛冶神ヘファイストスが作り出した武具。
そんな武具には数える気になるとは到底思えない程の値が付けられていた。
そんな数ある神造兵装には目もくれず、ベルは脇に置いてあった手頃な値段の武具に注目する。
両刃の大剣や刀、杖や槍 弓や薙刀等々。
様々な武器があったがどれも手に馴染む物ではなかった。
いや、正確に言えば大剣だけが手には馴染んだが……物足りなかった。
「足りない……」
ベルの手に馴染んだ大剣すらも、ベルには軽すぎたのだ。
ベルの
だがヘスティアに言われたのはカモフラージュの為の武器、そこまで考えなくても良い筈である。
この時点でベルが考えていたのはコンバートしていない左腕と大剣の二刀流であった。
「ここにある武器だと、満足出来ないのかしら?」
そこまで思考を巡らせていたベルの前に現れたのは、右目に黒の眼帯をつけた赤髪の女性。
ロキやヘスティア等と同じ神聖属性を纏うこの人物こそが……
「……ヘファイストス様ですね。」
「へぇ、私の事を知っているのね。」
ヘファイストスは若干驚いた様な顔でそう言った。
「あ、いえ。そう言うわけでは……ただ纏っている物がそう教えてくれました。」
ベルが一目で正体がわかったのは、ヘスティアやロキと同様神の纏う雰囲気や神秘性を感じ取ったからである。
実際神とほぼ同質の物を宿しているベルにとって、簡単にわかることだった。
「……所で、さっきの質問なんだけど。」
「ああ、違いますよ。確かに回りの神造兵装とは違いますが質は凄く高いです。ですが……僕にとっては軽すぎるんです。」
嘘ではない。
実際ベルが右手一本で振り回す
まあそもそも、ここまで重い武器など存在する筈もない。
まして有ったとしても、振れる人間が居ないのだ。
そして割りと小柄なベルからそんな言葉が出て、若干驚いていたヘファイストス。
「そうね、ここにある武器が合わないならもうないかしらね。でも一つ提案が有るのだけれど……」
今まで間を開けて立っていた双方が少し距離を詰める。
「私が君の手に馴染む武器を作って上げましょうか?」
驚愕。
この言葉に尽きる。
当たり前であることだが鍛冶神が自ら、それも初対面の相手に対し武器を作るなど。
まして契約も何も結んでいない、Lv.1の冒険者に投げ掛ける提案ではない。
故に、ベル自身も驚きを隠せなかった。
「ああ、でもタダと言うわけにはいかないわよ?私が君の為に武器を打つ代わりに、君には武器の素材を採ってきて貰うわ。」
ベルにとって、これほど魅力的な話は無かった。
故にこう思うのが普通である。
「何が目的です?」
常人なら確実に喜びで我を忘れ、速攻承諾するような話。
だがベルは初手から疑いに掛かる。
「別に何もないわよ?強いて言うなら、ヘスティアが言っていた力以外も見てみたいっていう事かしらね。」
そう言われた途端、一瞬で頭を下げた。
「家の駄神が、本当にすいません。」
ベルはファミリアに入る前から既に知っていたのだ。
ヘスティアが鍛冶神に養ってもらっているニートだとか、怠け者。
穀潰しで、尚且つ借金まみれ。
裏からつつけば、それはもう出るわ出るわの悪評の数々。
ヘファイストスの言葉により、鍛冶神=ヘファイストスという式が完成し速攻頭を下げたのである。
「それは良いのよ、借金については君が謝る事じゃないわ。全ては働きもせずに食べ続けたあいつが悪いのだから。」
若干の苦笑いが浮かんだ顔を横に降りながら受け答える。
「さて、
ーーーー△ーーーー
ベルは摩天楼から出て、ある露店を眺めていた。
「うーん……バター醤油味、味噌も捨てがたいなぁ。……ハッ!? これは期間限定の初恋ジュース味!? これは試さずにいられない! すいませーん!! 初恋ジュース味全部ください!!!」
……ベルはダンジョンに持ち込む食料の買い出し、携帯食料ではなくジャガ丸くんを買い込んでいた。
そしてどこぞのヴァレン某も買わないような、酔狂な味を買い占めてホクホク顔で歩き始めた。
ベルがこれから向かうのはダンジョン、その下層に居るとあるモンスターの討伐である。
それがヘファイストスに出された武器製作の為の素材。
そのモンスターとは……
「そこのお兄さん、そこのお兄さん。」
思考の泥沼化。それが起きようとしたところで後ろから少女の声がし、ベルは振り返った。
「……君は誰だい?」
ボロボロのコートを身に付け、体躯の倍以上のリュックを背負った少女がいた。
見たことも、まして会ったこともない。
そう思ったベルだが、何処かで会っているかもしれないと記憶を廻らせる。
「そんなことよりです。お兄さん今、サポーターを探していませんか?」
「サポーターねぇ……正直僕みたいな新米より上級者の人に着いていった方が良いんじゃないの?」
文字通り、サポーターとは冒険者の補助をし、冒険者が狩ったモンスターに対する報酬の一部を貰う事を生業としている。
新米に着いていくと、行けるところが限られてしまうので確実にベテラン冒険者に着いていく方が稼ぎになる。
「私もまだまだ駆け出しですので、ベテランの冒険者様の足を引っ張ってしまいます。ですから、お兄さんのような成り立ての冒険者に声を掛けるのです。」
へぇ、と感心したように頷くベル。
だが心の中では全く別の事を考えていた。
ベル自身、ダンジョン探索でサポーターが必要等と考えたことすらも無かった。
魔石の回収が面倒ならベルトで吸着して取れば良い、荷物が持ちきれないならマントでくるめば良い。
それに戦いかたの都合上、一人の方が楽なのだ。
それにサポーターを雇うと費用がかかり、ダンジョン探索がしづらくなってしまうだろう。
何よりも、ベルがこれから行くところは新参者が行くところではないのだ。
故に本来なら断るベルだが、今回は違っていた。
要求された素材は十七階層の
新参者は精々が行けて五階層。
パーティーを組んでも六階層が精々である。
十七階層など、中級冒険者がパーティーを組んで行く階層だ。初心者がソロで行くような所では無いのだ。
だがベルが十七階層まで行く道中、どれだけの魔石とドロップアイテムが出て来るだろう。
それを全て拾うとなると、ベルが持つ鞄では持ちきれない。だが全て拾えば、かなりの稼ぎとなるのだ。
団員がたった1人の極小ファミリアであるヘスティアファミリアにとって、それ程の稼ぎはどうしても欲しいところだった。
故に…
「じゃあこれから僕が行く所に、有無を言わずに付いて来れるかい?」
「はい!これでも足には自信があるんです!」
ベルは謎のサポーターの少女を連れて行くことにした。
ーーーー△ーーーー
「はぁっ!!」
ザシュっと、左手が魔石の脇を貫き、苦痛の悲鳴をあげる。
そして、ベルは無理やりにその魔石を引き千切って抜き取った。
ただそれだけで、首を掴まれていたライガーファングは息絶えた。
現在ベルは
雇い連れて来たサポーター…『リリルカ・アーデ』が居るため、自身本来の武装は明かせない。その為ベルは、手刀とヘファイストスファミリアで適当に買ったただ頑丈なだけのナイフを手にここまで来ていた。
だがその光景は、少しばかりリリルカには信じられなかったようだ。
最初の内はまだ良かったのだ。
一階層、二階層と、順当に進んでいった。
三階層目に来た当たりでベルが苦戦すらしていないのを見て、今回は稼げると内心大喜びした。
だが、次々下層へと降りていく内に目の前の光景が段々と信じられないものへと変わっていった。
初心者が引き返すであろうターニングポイント、五階層を攻略したのはまだ良い。
六階層も危なげなくクリアできる範囲だ。
だがベルが七階層への階段を降りようとして、リリルカは全力で止めたのだが…
『僕の目指してる階層は、まだまだ先だよ?』
と言われてしまい、流石のリリルカも唖然としてしまった。
そうしている内に、あれよあれよと下層へと降りていき、何時しかもう十七階層へと来てしまっていた。
道中出て来た敵は、全てベルが魔石を引き抜いて殺している為にそれ程時間が掛かっていない。
本来であればかなりの時間が掛かるはずが、半分以下の時間で到着してしまったのだ。
これを驚かずになんとする。
「うーん…そろそろの筈なんだけどなぁ。」
「つ、付かぬ事を聞きますが…ベル様は何をお探しなのですか?」
「ん?ゴライアスだよ。」
「………え?」
今度こそ本当に、リリルカの頭は情報を処理仕切れなくなった。
だが無常にも、そんなリリルカなどお構いなしにベルは進んでいく。
ベルの言うもう少しの通り、ライガーファングを殺して以降モンスターと遭遇しないのだ。
気配は感じるのに姿は見えない。
まるで何かに隠れているかのように。
まるで何かを
そんなことはお構いなしに、ベルは巨大な通路を普通に進んでいく。
脇目も振らず、ただ真っ直ぐと。
おっかなびっくり着いてくるリリルカも、ゆっくりではあるがベルの後ろへと着く。
そしてようやく辿り着いた。
否。
リリルカにとっては、辿り着いてしまった。
広大な。
入り口から端まで二〇〇Mはあるであろう、本当に広大な空間。
壁の一部は人工物のように平らになっており、視界いっぱいに埋め尽くす。
「な、『嘆きの大壁』…」
「はぁ、やっとついたぁ!!」
リリルカは来てしまった事への不安、ベルは代わり映えしない作業と化していたモンスター討伐の終了。
思うことは違う。
そんななか…
バキリっ
聳え立つその大壁に、稲妻のような亀裂が走っていた。
「な!?べ、ベル様!」
「丁度良いタイミングで来れたみたいだね、運が良かった。」
「そんな事言っている場合じゃ無いですよ!!あ、あれは階層主ですよ!?そんな落ち着いていられる相手じゃーー」
そこまで言っていたリリルカの口が止まる。
はて、この少年は先ほどなんと言っていたか。
自分が探しているのはゴライアスだと、確かにベルは言った。
そしてゴライアスとは十七階層と十八階層の通路を守護する階層主。
次第に晴れていくその煙の間から、存在感溢れるその体躯が姿を現す。
「おぉぉおぉぉぉぉぉぉぉおおぉおっ!!!」
ゴライアスはけたたましい咆哮をあげながら、ベルへと突撃する。
だがその巨体による突撃は……
「
左腕から生じたマントを、リリルカごと被った事で無傷であった。
神ノ道化を発動時に自動的に左腕から出て来るそのマントは、身に纏う事で防御力を大幅に向上させることが出来る。
形状がマントの為に、自身の周囲数名なら同時に覆うことも出来る。
そして十七階層の階層主であるゴライアスの攻撃を喰らって無傷と言うことは、十七階層までの全ての敵の攻撃は無効化出来るようなものだ。
それにベルは未だLevel1。
異様にステータスは高いが、まだ伸びる。
つまり、今後はもっと防御力も上がると言うことでもある。
「リリルカさん。今から僕がやることは、くれぐれも言わないように。」
「…ふぇ?」
もう既に何が起きてるか許容量オーバーで目を回しているリリルカ、そこにベルは注意を促す。
流石のベルも、ゴライアスを素手で倒せるとは思っていない。
まして今は
故に隠し通す事無く、普通に神ノ道化を発動させた。
そして発動した左腕を、右腕で持った。
「残念だけど、速攻で終わらせる。」
右腕で、右手で。その左腕を引き抜いていく。
徐々に引き抜かれる左手は柄になり、左腕は刀身となり、肩は鋒となる。
引き抜かれたそれは、一振りの大剣であった。
攻魔ノ剣。
実体や概念、魔法。全てを切り裂き、自然治癒と回復効果を無効化する呪いが掛かっている魔剣。
市場に出回っている魔法剣などでは無く、正真正銘の魔剣…呪いの魔剣である。
何もかもを切り裂くじゃじゃ馬な為、ベル自身もあまり使いたがらない。
だが速攻で終わらせると決めた以上、そんな物は些細なこと。
ベルが斬るモノを選べてしまうそれは、まさしく呪いであった。
飛び上がったベルは、その刀身を魔石があるであろう胸の位置に突き刺した。
生物は皆生という概念と、いずれ来る死という概念を持っている。
ならば生という概念が無くなった場合、その生物はどうなるのだろうか。
もがき苦しむ事も無く。
ただただ一瞬に。
ゴライアスはその命を散らしたのだった。
「うそ……」
後に残ったのは魔石が落ちて床に響く音と、リリルカが有り得ないモノを見たかのように挙げた声だけだった。
久々なので一万文字行っていないのは許してください。