ダンジョンに道化がいるのは、恐らく間違っている。 作:猫パン
道化ノ装備開発
「はい、リリルカさん。今日の分です。」
「えっ…あ、はい。」
ダンジョンを出たベルは、ゴライアス以外の全ての魔石を換金。
その半分をリリルカへと手渡した。
「って!こんなに貰えませんよ!?何ですかこの量は!サポーターがたった1回の同行で貰える額の10倍も…」
「別に良いですよ?リリルカさんが居てくれたおかげで助かった面も有りますし、何よりーー」
口止め料も兼ねていますから。
そう小声で言われてしまっては、流石のリリルカも了承するほか無かった。
ベルが初対面の相手に対し、最も隠したかった秘密を知ってしまったのだ。
口封じされないだけありがたいことなのだから。
「ではリリルカさん、僕はこれで。またお金に困るようであれば、声を掛けてくださいね。十七階層まででしたら、連れて行く事は出来ますので。」
「あ、はい。」
そう言って去っていくベルの背中を見ながら、リリルカはこう思った。
絶対に敵に回してはいけない、と。
ーーーー△ーーーー
「ヘファイストス様、ゴライアスの魔石持ってきました。」
既に時刻は夕方、日も暮れ夜になろうとしていた。
ベルは朝に来たヘファイストスファミリアの工房の内の一軒、神造兵装を売っている店へと訪れていた。
「君は、私が思っていた以上に規格外だったようね。」
「ん?どう言うことですか?」
「ああ、いや何でも無いわよ。」
ため息を漏らしながらそう答えるヘファイストス。
それもその筈、ベルが最初にここを訪れたのは朝である。
頼んだ素材的に、かなりの日数を掛けて取ってくると予想したのだ。
実際階層主であるゴライアスの魔石等、初心者が取る様な物では無い。
故に、最悪年単位で時間が掛かると踏んでいた。
それを、まさかその日の内に持ってくるとは誰が思うだろうか。
事実ヘファイストス自身も思っていなかった。
その為…
「ちょっと想定外だわ…
今から取り掛かるけど、重くすれば良いのよね?」
「はい。後は鋭くもお願いします。」
「分かったわ、全身全霊を持って打ち上げる。日取りで1週間後には完成させるわ。」
そう言うヘファイストスはベルから魔石を受け取り、傍のカウンターへと置く。
そしてふと、思い出したかのように口を開く。
「あ、そうそう。近々
「怪物祭……何ですか?それ。」
「あら?
ヘファイストスは片付けをしながらそう言った。喋りながらにも関わらず止まらないその手に、ベルは若干視線を送る。
「怪物祭は年に1度、【ガネーシャ・ファミリア】が主催する催し物よ。闘技場を1日貸し切って、モンスターを
「調教…ですか。」
「ええ。本来調教なんてしても意味ないんだけどね、一種の娯楽よ。闘技場でモンスターと戦って自らを格上だと示し、大人しくさせて調教する。簡単に言えばサーカスね。」
なるほどっと、ベルは頷く。
調教と言うことは、モンスターを飼い慣らす必要がある。つまり不殺と言うことだ。
その戦い方を見れば、何か学ぶ事も出来るだろう。そう思った。
「ありがとうございます、暇があれば行ってみたいと思います。」
「ええ。ではまた1週間後に会いましょう。」
そう言ってヘファイストスは去って行った。
その後ろ姿を最後まで見ずに、ベルも店を後にした。
ーーーー△ーーーー
完全に闇に閉ざされ、されど明るいその塔。
その塔の足元に、象の頭を持った巨人が胡座をかいている像がそこに座っている。
30Mはあるだろうその像は、見晒せと言わんばかりに威風堂々と立ち、見た者に変わった感情を喚起させることで有名であった。
こんな像であるがれっきとした建物であり、入り口が股間であった。
何をとち狂ったのか、神ガネーシャがファミリアの全財産を叩いて建てた巨大施設『アイアム・ガネーシャ』である。
構成員の間ではもっぱら不評であるが、自身のトップが決めたことなので逆らえるはずも無く。泣く泣く出入りしている。
そんな股間へと、貴族然とした正装を身に纏った美丈夫達が通っていく。
彼等全員が神であり、今宵ガネーシャ主催で開かれる『神の宴』の来賓だ。
神の宴とは、下界に降り立った神が顔を合わせる会合だ。
明確なルール等決まっておらず、誰が主催し何時開催するかなど全くもって決まっていない。
神の、その時々の感情によって主催者も来賓も変わるのだ。
『皆の者!本日は良く集まってくれた!俺がガネーシャである。同郷の者にこれだけ集まって貰えるとは、ガネーシャ超感激!!愛してるぜおまえら!!積もる話もあるが今は置いておこう。今年も例年通り3日後に開催する怪物祭に、皆のファミリアにも助力して貰いたいとーー』
建物の外見とは違い、内装はしっかりと落ち着いた雰囲気だった。
設けられたステージには、建物の外観と全く同じ服装をしたガネーシャが、馬鹿でかい肉声で宴の音頭を取っていた。
周囲の神達は挨拶等、お約束とばかりに聞き流し談笑している。
会場は立ち食パーティー形式で、純白のテーブルクロスが掛けられ元卓には色とりどりの料理が所狭しと置かれている。
そんな会場には、オラリオのほとんどの神が集っていた。
神の宴は主催者側動員力によって、配られる招待状の数が決まる。
【ガネーシャ・ファミリア】はオラリオ屈指の実力と構成員の為、この迷宮都市に居を構えているファミリアには殆どお呼びがかかるのだ。
ヘスティアもその1人であるのだが…
「むっ!届かない……そこな給仕君!踏み台を持ってきてくれ、早く!」
「は、はい!」
がやがやとざわめく中、【ガネーシャ・ファミリア】の構成員が務めるウエイターにそう言い、多様な料理と格闘していた。
ウエイターが持ってきた踏み台へと登り、届かなかった料理を持参したタッパーと口へと放り込んでいく。
彼女はタダ飯と言うことで、遠慮する気など毛頭無い。【ヘスティア・ファミリア】はここに居るどんなファミリアよりも極貧なのだ。
ヘスティア自身、負担を減らすためならば対面など気にせずにどんな節約もする気だった。
その割に着ている衣装は、割と豪華なのだが。
ヘスティア自身はフォーラムな感じに誤魔化した普段着を着て拠点を出ようとしたのだ、だが神の宴に行くとベルに言った瞬間待ったが掛かった。
色々な神が集まる会合に、普段着なんて何事だと。ベルがヘスティアを引っ張って無理矢理に服屋へと連れて行ったのだ。
そして着せられたのは純白のドレス。
割と高級な部類の物だったのだが、買わないと行かせないと言われて仕方なく着ていると言っても良いだろう。正直そんなお金なんて無かったのだが、いつの間にかベルが払っていた。
曰くダンジョンの成果らしい。
だがいくら高級なドレスを纏っていても、行動が全てを台無しにしていた。
タッパー片手に箸で口に、タッパーに、食べ物を運んでいるのは異様に目立った。
服だけ頑張った、そんな感じの貧乏人にしか見えないのだ。
その容姿と共に、そんな行動をしていれば当然目立つ。
誰とも話に興じず、料理を貪り続けているのだから。
他の神達の目にとまるのも、当然だった。
「はぁ……何やってんのよ、あんたは。」
「むぐ!……むむむっ!!」
脱力したような声が、ヘスティアの傍から響く。そこに居たのは焔のような髪をなびかせ、深紅のドレスに身を包んだ女性。
線が細く有りながら、鋭角的なその顔は秘めたるその意志の強さを示していた。
耳に付けた貴金属のイヤリングは、その焔のような髪の美貌に力負けしている。
その美貌の中に目を引くのは、顔半分を隠している黒い布だ。
右眼に大きな眼帯をした麗人が、呆れ顔でヘスティアを見下ろしていた。
「ヘファイストス!!!」
「ええ、久しぶりねヘスティア。元気そうで何よりだけど…貴女の眷族を少しでも見習ってくれたら、私ももう少し嬉しかったんだけど。」
ため息を漏らしながら、天井を見上げる。
魔石灯に照らされたその焔のような髪を、ヘファイストスは手でたなびかせた。
「べ、ベル君に会ったのかい?」
「ええ、今朝私の店に武器を見に来ていたわ。でもしっくり来るのが無かったみたいで、私が造る事になったけれど。」
「ええ!?君が造るのかい!?」
ヘファイストスの言葉に、ヘスティアはかなり驚いた。
正直言っても、ベルはまだ
そんな神が造った武器であるならば、人間が作ったそれを容易に上回る。
それを自身の眷族であるベルが持つと考え、驚愕を露わにした。
「あ、そうそう。彼って凄いのね。ゴライアスの最短討伐記録を、簡単に塗り替えていたわよ。」
「…え?」
いくら神で有ろうとも、許容できずに固まってしまったヘスティア。
まだ1週間。いくら異様に高いステータスだとしても、ベルはLevel1なのだ。
それに比べゴライアスは、Level2~3の冒険者がパーティー、もしくはレベル5が単独か。
初心者ならばパーティーを組んでようやく倒せる物だ。
Level1で倒せる敵では断じてない。
「貴女もそう言うところを見習って、早く借金を返して欲しいのだけれど…」
「うぐ。い、痛いところを突いてきたね…っていうかベル君は関係ないと思うけど。」
「あの子今日頼んだ素材を、今日の内に届けに来てくれたのよ?貴女にもそれ位の誠実さ位有っても良い筈だけど。」
ぐっと、言葉に詰まるヘスティア。
ベルと出会う前。
ほんの1週間前まで居候していた先が、【ヘファイストス・ファミリア】なのだ。
親友…神友共言えるこの2人だが、ヘスティアが
来る日も来る日もヘファイストスの臑をかじっていただけだった。
堪忍袋の緒が切れ、ヘスティアを追い出した後もヘファイストスの苦労は続いた。
元々面倒見が良い彼女は、度々来るヘスティアの世話を焼いてしまうのだ。
お金が足りないから生活できない、から始まり。仕事が無い、住むところが無い、寒い。等々。
その面倒見の良さと、ヘスティアの容姿も相まって、放り出した手前知らぬ顔は出来なかったのだ。
結局ヘファイストスはヘスティアに対し、現在の住居である教会地下とバイトを紹介したのだ。
唯一独力で行った事と言えば、ベルを眷族にしたことであろう。
その時は喜んだのだが、今のヘスティアを見る限りあまり変わっていないと思ったのだ。
ベルの前では大人の振る舞いをしてはいるが、実際は1人では何も出来ない神の筆頭であった。
実情をベルが知った為、近いうちに変わるとは思うが。
「むぅ。確かにヘファイストスにはお世話になったし、借金もあるけど…お陰で何とかやって行けてる!僕の何処が不誠実なんだい?」
「そうね。現在進行形でタダ飯を食い漁っているところかしらね。」
「ぐっ…いや、これは…どうせ残るんだし、仕方ないから僕が有効活用してやろうと…」
「随分立派ね、そのケチ臭い精神。お陰で私は、感激して涙が止まらないわよ。」
「ふぐぅ…!」
ハンッと鼻を鳴らして笑うヘファイストスに、ヘスティアは頬を膨らませて唸る。
その容姿も相まって、周囲の視線はヘスティアに向いた。
そんな中…
「相変わらず、仲が良いのね。」
「ふ、フレイヤ…」
フレイヤと呼ばれた彼女は、他の神とは一線を期していた。
新雪を思わせるそのきめ細やかな白皙の肌に、細長い肢体は宙を踊るだけで見る者を魅了する色香を漂わせている。
柔い臀部に乗るくびれた腰は、直視する視線を釘付けにする。
金の刺繍が入ったそのドレスは胸元が開いており、その豊満な胸を納めている。
その谷間は桃色に染まっており、他の神すらも魅了してしまう程だ。美を司る神だけある。
ヘスティアが関わりたくない神№2であった。
「ファーイたーん、フレイヤー、ドチビー!」
「まあ、君なんかより嫌いなやつが、僕には居るんだけどね。」
「あら、穏やかじゃ無いわね。」
微笑むフレイヤから視線を外すと、大きく手を振りながら大股で歩み寄ってくる女神が居た。
神の中でヘスティアが最も嫌うその朱色の髪。
その性格も、着ている物も正反対の彼女。
女神ロキである。
「何しに来たんだよ、君は…」
「なんや、理由がなきゃ来ちゃあかんってのか?今夜は宴なんやで、理由を探す方が無粋っちゅうやつや。もうちっと空気を読まなあかんで?ドチビ。」
「ーーーー!!!!ーー!!」
「ヘスティア、貴女顔が凄いわよ。」
ヘファイストスの後ろに隠れロキを睨み付けるヘスティアだが、ロキのにやけ面に形容しがたい顔をする。
「それにしても、ロキがドレスなんて珍しいわね。いつもは男物なのに。」
「それはアレやファイたん。どこかのドチビが慌ただしくパーティーの準備をしてるってきいたんやけど…なんやん?その格好。」
ヘスティアを上から下まで眺めて、一言。
「ドレスも着れない貧乏神を笑おうと思ったんやけど…なんなん?」
「うるさい!大体なんだい?君は。僕だってドレス位着られるんだよ!君の貧相な胸部装甲よりよっぽどましだね。」
腕を組み、タユンと揺れるその胸。
それを見てカーッと顔を紅くするロキ。
自身の悲しいまでにスカスカの胸部と、ヘスティアの豊満な胸。
「僕を貧乏神と言うけど、君は貧相神だね。大体その母性ゼロの絶壁で、一体何人の男を絶望させてきたんだい?絶壁の上に絶望とか、馬鹿じゃ無いの?あ、僕今上手いこと言ったね。」
「全然上手くないわ!ボケエェェエェェエ!!!」
「ふみゅぅぅぅぅ!!」
瞳に涙を溜めたロキが、遂にヘスティアへと掴み掛かった。
その手で柔い頬を抓り、左右に引っ張り蹂躙する。
「このドチビが!最初から気に入らへんかったんや!この貧乏神!」
ロキの攻撃に涙目になりながら、それでも反撃しようとするヘスティア。
だが彼女の四肢の長さでは届かない。
その為全てが空を切った。
その間もロキが掴んだ手が縦横無尽に動く度、ヘスティアの小さい体が揺れる揺れる。
たゆんと効果音が付きそうな程に。
「…きょ、今日はこんくらいで勘弁しといてやるわ。」
突然手を離した為、ヘスティアがドサリと地に落ちる。そしてそのまま去っていくロキへ…
「今度はその貧相な物を僕に見せるんじゃ無いぞ、この負け犬!!」
「うっさいわボケエェェ!!!!覚えとけよぉ!!」
「はぁ…全く。子供ね。」
そう呟いたヘファイストスの言葉は、誰にも聞かれなかった。
因みに前回出て来た攻魔ノ剣について追記。
装備者であるベルが切る物を選べる呪いの剣。
概念から魔法から、果ては因果すら切り裂ける。
他人に掛かった呪い等も切れるのだが、肉体も切れてしまう為注意が必要。
因みに現在のベルのステータスですが、Level1の癖にアイズとあまり変わりが無いです。
数値が少し低いくらいで、一般的なLevel5の冒険者と変わりありません。