ダンジョンに道化がいるのは、恐らく間違っている。 作:猫パン
今回は…大目に見て下さい。
言い訳をするなら、ダークソウル3をやって触発されたんです。
あと、ちょっと仕事が忙しかったりダークソウル3(3週目)が忙しいので時間が取れないのです。
今後もこれ以上の亀更新が予想されますが、気長にお待ち下さい。
豪勢なドレスを買い、ヘスティアを『神の宴』へと送り出した後、ベルは1人でダンジョンへと来ていた。
ベルがゴライアスを倒したため、もぬけの殻になった『嘆きの大壁』を素通りして、十八階層にある安全地帯すらも超えた所。
俗に言うエキストラダンジョンとでも言おうか。
正確な名前も、推奨レベルすらも不明なそこは、十八階層の中心部…中央にある社から入ることが出来る。
が、誰も入ろうとはしない。
何故か、それは難易度が通常のダンジョンよりも跳ね上がるからだ。
敵の強さはレベル2の冒険者2人居れば1体を相手取るには問題ない強さだ。
そして動きを見極めれば、1人でも問題なく戦える。
現に何人かは、入り口付近の敵に対しそれを成している。
だが問題はその先だった。
見通しの悪い入り組んだ地形、仕掛けられた見えにくい罠。
そして気配も無く突然襲い掛かって来る多数の敵。
1体の敵はそんなに強くないとはいえ、冒険者は基本的に敵の気配を察知してどの方向に何かが居ると感じられるものだ。
だがそれが何も無しに、罠だらけの地形で突然背後や横から襲い掛かって来るのだ。
当然序盤も序盤、入り口付近でそれなのだからと心が折れた冒険者も少なくない。
そして何名かで行けば大丈夫と思った冒険者が、4人パーティーで行って2人死んでいる。
それで入る人が居なくなったが、とある情報がそれに拍車をかけた。
ロキファミリアの幹部達何名かが探索に行き、ボロボロになって出て来たと。
オラリオ屈指の実力を誇るロキファミリアですらそれなのだ、自分達が行ける訳が無いと。
そんな所に、今ベルは居た。
正直なところこのダンジョン、法則性が分かれば簡単な部類に入る。
敵がどこから来るかは分からない、罠も沢山ある。
足を踏み入れれば罠があるかも知れない、そして踏み入ったら足音で勘付かれ敵が強襲してくる。
だが逆に考えてみて欲しい。
足音で突然出て来て強襲される。
ならば、音で釣れると。
ほぼ一本道なため1度倒してしまえば背後には気を遣わずに済む、そして前に音を出せば強襲しようと出て来た敵が、標的を見失ってキョロキョロと隙を露わにするところが見られるのだ。
そう、1体ずつ確実に仕留めていけば楽に進める。
敵が居ると分かっているからこそ、慎重に進んではならないダンジョンなのだ。
そして現在、ベルはとある場所で休憩していた。
このダンジョンの要所要所にある休憩ポイント、安全地帯とも言える場所だ。
「ふぅ、落ち着くなぁ。」
ベルとて人間だ、いくら冒険者といえど疲れも溜まるし眠くもなる、空腹や眠気などもある。
ましてやこのダンジョン、一瞬たりとも気が抜けずかなりの神経を使うのだ。
音を立て敵を釣り、1体ずつ確実に仕留めていく。
簡単な作業であるが、失敗するとそこに居る敵全てに気付かれ包囲されリンチに遭う。
ベルとてそれは例外ではない。
いくら強力なステイタスだとしても、いくら敵がそこまで強くはないとしても、数の暴力は偉大なのだ。
少しの失敗が命取りになるため、こうして休める時に休んでいるのである
「はあ、よし。あとちょっとだ。」
そう言ってベルは立ち上がり、我前に迫る大門を見る。
如何にもな雰囲気を纏ったそれを見て、ベルはよりいっそう気を引き締める。
レベル3の冒険者。
下手したらレベル4以上の冒険者2人掛かりでも厳しいような敵が、大門に近付くに連れ出て来る。
誰一人として篝火の先へと、そもそも篝火にすら到達していないため、前情報が何も無いまま突き進む他ない。
「はぁっ!!」
静かに忍び寄り、後ろから所謂バックスタブを取ったベルは一撃でその命を狩る。
何かが入って来る感覚と共に、その灯火は燃え尽き亡骸が崩れ去る。
そして間髪を入れずに横へと跳んだベルは、潜んでいたそれに対し左腕を振り下ろした。
グシャッと、潰れる音を響かせて。
潰された亡骸を一瞥するのも早々に、ベルはクロスボウを構えていたそれへと走る。
炎を纏ったそのボルトを、それが撃ちだすよりも速く、ベルはその首を狩っていた。
「ふぅ…クロスボウなんて、喰らうと痛いじゃ済まないからね。」
そう呟くベルの言葉には、結構な重みがあった。
持ち前の驚異的な回復力で何とかはなっているが、実際一度喰らっているのだ。
小石か何かが飛んできたと咄嗟に右腕で庇ってしまい、掌をボルトが貫通して血を流していたのだ。
あまりの痛さに悶絶しかけ、敵地のど真ん中と言うことを思い出し全力で後退したのだ。
そして安全地帯で、冒険者であることを心底安堵したのだ。
咄嗟の判断すらも慎重にならざるを得ない為、常に左腕を前に出す姿勢を取っていた。
何があっても左腕が反応するようにと。
そうして安堵の息を漏らし、真横へと迫った大門を覗く。
そこには全身鎧を纏い、巨大なハルバードらしき物を持ち腹部に剣が刺さっている何かだった。
今まで見てきたどんな場所より広いその円形の広場の中央で片膝を付き、肩からは黒い何かがうねりをあげている。
そう、今までの敵とは比べ物にならない強敵。
ボスだ。
このダンジョンは、ステージに入る度に1つお題目を出される。
例えばとある敵を倒せだったり。
例えばあるものを手に入れて戻ってくるだったり。
例えば目の前に居るボスに突き刺さった、火を纏う螺旋の剣を手に入れるだったり。
現在誰一人としてクリアした人は居ないためこのステージしかない。
故にベルは、広場で片膝を付く騎士から螺旋の剣を引き抜かなければならないのだ。
「これは厳しい戦いになりそうだなぁ。」
そう呟きながら騎士に向かって歩いていく。
ベルがどれだけ近付いても動きだそうとしないそれは、ベルに考える余地を与えた。
「絶対これ、抜いたら襲ってくるよね。」
そう考えながら螺旋の剣へと手を掛ける。
そして思い切って引き抜いた。
剣が体から離れていく度、ドクンッと鼓動が強まる。
そして完全に引き抜かれ、それは意識を取り戻した。
引き抜いた螺旋の剣は何処かへと消え、脈動する音が目の前から響いてくる。
ベルは反射的に後ろへと跳んだ。
すぐにでも攻撃が来なかったのは幸いだろう。
ゆっくりとその騎士は、巨大なハルバードを杖に立ち上がった。
膝を付いていた時点でベルの身長を超えていたのに、立ち上がったら既に倍以上はあった。
「ッ!?」
ドンッ。
本能から来る恐怖に従い、横に回避したベルは、自身が立って居た場所に振り下ろされているハルバードを見て背筋が凍った。
チラッと来た道を見れば灰色の霧で覆われている。
どうやら倒さないことには帰ることも出来ないようだ。
「クッ、やってやる!」
意を決して左腕を構える。
両者に開戦の合図など不要だった。
ーーーー△ーーーー
現在ヘスティアはヘファイストスに連れられ、ヘファイストス・ファミリアの工房、否ヘファイストスの私室へと招かれていた。
いや、招かれているというのは語弊がある。
正確には連れて来られたのだ。
ヘスティアはヘファイストスに対し膨大な借金がある。その額約2億ヴァリス。
自身もバイトをし、ベルも魔石を売ってはいるが、まだまだ届かない。
ベルが買ったヘスティアのドレスで、ベルの財産は半分以上吹き飛んでいる。
ヘスティアのバイト代は、それほど多い額では無い。
現在ヘスティア・ファミリアは、ベルが居なければその日暮らしがやっとの極貧ファミリアなのだ。
「それで?返済期限はそろそろなのだけど、返せそうなの?」
「うぐ…そ、それは…」
言葉に詰まるヘスティア。
今から1年程前、ヘスティアは追い出される前にヘファイストスに対しこう言い放ったのだ。
今から1年後、ヘファイストスより大きなファミリアを作って…その迷惑料も込めて色を付けて返すよ!
と、壮大に叶いそうも無い夢と共に、夢と希望が詰まった物を揺らしながら胸を張って言い切ったのである。
だが現実はニート生活にアルバイトが組み込まれただけである。
ベルという眷族を迎え入れはしたが、まだ1人の為ファミリアと言うには小さすぎる。
そう、自分で言ったは良いが全くと言って良いほど用意が出来ていなかった。
「はぁ…正直期待はしてなかったけど、そんなことだろうと思ったわよ…」
ヘファイストスは、正直ヘスティアがたった1年で用意できるとは思っていなかった。
天界から降りてきて自身のもとへ押し掛け、追い出すまでの数年間。
竈と慈愛、そして家内安全を司るその名が示す通りに
いくら追い出されたとは言え、そのだらけきった生活習慣は早々変わる物では無い。
それに今まで1度も外へ出ず過ごし、今はバイト漬けの日々。
伝手も知名度も何も無い故に、冒険者達は誰もヘスティアの存在を知らなかった。
その状態でファミリアなど結成出来るはずがない、ベルが入団したのが奇跡なのだ。
「ぼ、僕だって本気を出せば、ファミリアの団員の10人や20人くらい簡単に集まるんだぞ!」
「その本気とやらはここ1年は発揮されてないみたいだけど、果たして何時見れるのかしらね。」
「うぐぅ…」
ぐうの音も出ないとはまさにこの事だろう。
本気を出したところで人脈と言う繋がりをヘスティアは持っていないのだ、知らない神のファミリアへと入団しようと思う冒険者はまず居ない。
大抵有名どころに集まるものだ。
「まあ、そんなことより借金の事なのだけど。返済の目途は立っているのかしら?」
「…立っていたら、僕は今ここに居ないと思うんだけど。」
「それもそうよね。」
苦笑しながら、分かっていることを聞くヘファイストス。
それに対し、ヘスティアはただただむくれるだけだった。
ーーーー△ーーーー
「クッ…!」
振り回されるハルバードらしき何かを、本当ギリギリで避け続けるベル。
それが出鱈目に振り回されているなら回避は容易なのだが、その一撃一撃が必殺級。
ベルの…否生物にとって弱点でもある首を、かなりの精度で狙ってくる。
いくら驚異的な回復力を持つ冒険者といえど、首を狩られれば否応なく即死する。
ガードという手もあるが、それの重量故に衝撃が凄まじくとてもじゃないがベルの身が保たないのだ。
故にベルは、その大振りな攻撃をギリギリで避け、隙が出来たその巨体に1.2発攻撃をを叩き込んだら離脱するしかなかった。
『グォォォォォォ』
そして何回目かで片膝を付いたそれは、右肩から巨大なヒル状の化け物を生やした。
「なっ!?」
流石にベルもこれには驚いた。
騎士の右肩から先が、別の生き物のように独立して動いているのだ。
しかもその生き物は、騎士の左腕を邪魔しない位置にその特異な腕を生やしていた。
ベルはこれで、実質2体の攻撃を捌かなければならなくなった。
「グッ…キツイ。」
戦法自体は相変わらずチクチクと避けながら攻撃するだけだが、一撃でも喰らえばまともに立ち上がることすら出来なくなるのは明白だ。
そうなればその隙を見逃す騎士では無いため即死が確定する。
故にベルは、避けながらも確実に攻撃を叩き込む。
そして一瞬、致命的な隙を見つけた。
ベルはそれを見逃す事は無く…
「ここだぁあぁあぁ!!」
持てる力を全て振り絞って、左腕を突き立てた。
そし脈動している何かを見つけ、それを躊躇なく握り潰した。
グシャ
その瞬間、ベルは安堵の息を吐くと同時に騎士の体重で押し潰され掛けた。
押し潰される寸前で消えたため難を逃れたが、体勢までは立て直せず、そのまま後ろへと倒れた。
「ハハハ、やった!!僕は、やったんだ!」
勝った事への安堵感と、緊張感が途切れたことにより、ベルはそれはもう盛大に笑った。
そしてそのまま気絶するかのように眠ってしまったのだ。
因みにベルが攻略したのはダークソウル3のチュートリアルでおなじみ灰の審判者グンダのステージ。
少し道筋が長くなってたり、敵の強さが2週目基準だったり、死んだら篝火からの復活が無かったり、篝火での全回復が出来なかったり、エスト瓶が無かったりしますけど、チュートリアルです。
何度も言いますがチュートリアルです。
ベルが挑んでいるダンジョンは、始めからを選択したときからこの難易度だと思って下さい。
あと言っておきますが、ダークソウル世界に繋がっている訳じゃ無いので火防女は出て来ないです。
そしてベルは薪の王でも、火の無い灰でもないです。