今できる精一杯で力を入れてみました。
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衝撃的な出会いの翌朝、俺はルウィーの教会の一部屋で目を覚ました。
ふと部屋のテーブルに目を向けると、そこには一枚の魔界符が置いてあった。
「…やっぱり夢じゃなかったか…」
話は、昨夜に遡る。
―――――――――
「ど、どういうこと!?アイエフ達と知り合いって、あいつに魔戒騎士の知り合いがいたってこと自体初耳だけど!?」
俺の目の前で、今まで見たことのないパワードスーツのような外見の『硝煙騎士・狼攻』という鎧を纏った男に俺は質問攻めをしていた。
「落ち着けって、じっくり説明するよ」
男は咳払いをして、説明を始める。
「俺は『楠神裕也』。元魔戒法師で、今は狼攻の称号を持つ魔戒騎士だ。つっても、この世界には大地とあんた、そして俺くらいしか魔戒騎士はいない。称号は大した意味を持たないだろうけどな」
「元魔戒法師?」
「ああ。ちょっと訳あって今は魔戒騎士になったんだ。ちなみに、騎士としては今年で3年目だ」
目の前で笑う少年…裕也に対し陵牙は驚いている。
騎士としての時間ではない、魔戒騎士の人数についてだ。
「どういうことだ?魔戒騎士が俺達3人だけって…」
「それはまあ…色々あってな」
気まずそうに目を逸らす裕也。
「色々って…」
突然、裕也はその場から飛び上がる。
「やっべ!そろそろラステイションに行かねえと間に合わない!」
「おい!」
露骨に話題を変える裕也に不信感を覚える陵牙。
「悪いが、俺もはっきりしたことは知らないんだ!知りたければ、教会の図書館にでも行ってみろ!ひょっとしたら何かわかるかもな!」
裕也は1枚の魔界符を置いていく。
「そいつを使えば、俺たち3人と連絡が取れる!持ってて損は無いぜ!」
――――――――――
「まったく、突然帰るなよ…色々聞きたいこととかあったのにさ…」
文句を呟きながら、俺は顔を洗い、いつもの魔法衣に袖を通す。
「おはよう、陵牙」
微笑みながら、ブランが挨拶する。
「おう、おはようブラン」
陵牙は横で書類整理を手伝いながら、質問する。
「今日の予定は何だ?」
「今日は…」
ブランの表情が曇る。
「今日の予定は、ルウィーの孤児院への訪問ね。私も、ここには個人的な用事があったから」
「個人的な用事?」
今日の仕事は孤児院への訪問か。
しかし、ブランのいう『個人的な用事』とやらが気になる。
「こないだの事件の遺族が、あの孤児院にいるのよ」
――――――――――
俺とブランは孤児院へと到着し、門をくぐる。
「ようこそお越しいただいて、ありがとうございます!」
職員の人が挨拶をしてくる。
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
目の前の職員さんは、黒髪ショートヘアの美女だった。
正直、こっちの世界の女性は結構綺麗な人が多い気がする。
「むっ………」
「ぐほっ!?」
横で不快そうな顔をしたブランが肘打ちしてくる。
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、ああ。大丈夫…です…」
職員さんが聞いてくるが、俺は愛想笑いで返す。
すると、どこからか視線を感じる。
「………」
みると、建物の中から子供達がじっと見つめている。
そして、ブランが気づいて目が合うと、子供達が走ってくる。
「あ~!ブラン様だ!」
「ねえねえブラン様!一緒に遊ぼう!」
たちまち子供達に囲まれる結果となったブラン。
「はいはい、ブラン様が困ってるから、順番にね」
『は~い!』
息ぴったりに返事をする子供達。
「じゃあ陵牙。私は先に行ってるから」
「ああ。俺も後から行く」
ブランは子供達の相手をするために去っていく。
「やっぱ、最高ですね。子供の無邪気な笑顔って」
職員さんも理解できるのか、頷く。
「皆、最初は笑顔が無かったんです。親から捨てられたり、売り飛ばされそうになったり。そんなことが多かったんですよ、少し前までは」
以外だった。目の前の子供達はそのような過去など感じさせないほどの笑顔だったからだ。
「でも、ブラン様がこの国をより良くするために行動して、そういったことは減少しまし
た。ですが…」
少し表情を曇らせる職員さん。
その視線の先には、周囲から離れた所でブラン達を見ている少年。
「あの子…3週間くらい前に来たんですけど、まだ周囲と馴染めないようで…」
「そうか…あの子が…」
――――――――――
遠くからブラン達を眺めていた少年。
その目は、ブランを『誰か』と重ねているようだった。
「隣、いいかな」
突然声をかけられ、少年は振り返る。
そこにいたのは、この国の女神と一緒に来た男。
黒いコートというなんとも目立つ服装の男に、少年は驚くが、無言で頷く。
「そっか。ありがと」
黒コートの男は、少年に声をかける。
「俺の名前は、轟雷陵牙。君、名前は?」
「………ライガ」
少年…ライガは小さく呟いた。
そっか。と小さく笑う陵牙。
彼は懐からジュースの缶を取り出し、ライガに渡す。
「ほいっと。飲むか?」
「……別に」
そりゃ残念と言いたげな表情をした陵牙はコートに缶をしまう。
「ライガ君…君の話、聞いたよ」
「…!」
この少年…ライガは俺があの日、ホラー・ザドリの捜査を行っていたときに見つけた廃
墟、そこで奴に食われた少女の弟だった。
「お姉さん、あの事件で殺されたんだよね」
「………」
彼を見て放っておけなかったのは、彼がホラーの被害者だけではない。
「きつい事を言うかもしれないけど、今のように何もせずに止まってたら、何の意味も無い。俺はそう思ってるよ」
「っ!なんだよ…お前に、僕の何がわかるんだよ!お姉ちゃんが急にいなくなって、お父
さんもお母さんも僕の前からいなくなって、ひとりぼっちになった僕のことなんて、お前にわかるはずないだろ!」
涙を流しながら叫ぶライガ。
彼の目を見て確信したことがある。
「ああ。俺には君の苦しみがわからない」
「………!」
「だって、人の悩みや苦しみなんて、他の人にはわからないよ。誰にもわからないから、苦しいんでしょ?」
「う……」
俯くライガ。しかし、俺は言葉を続ける。
「だけどさ、ライガ君は似てるんだよ。昔の俺に」
「え?」
そう。ライガを見て思ったのは、似ていたのだ。
あの頃、無力感を持っていた俺に。
「俺、孤児院の出身でさ。俺が最年長で弟や妹のような子がたくさんいたんだ」
あの頃を思い出し、少し笑顔がこぼれる。
「だけど、俺は本気で自分が嫌になったことがある。昔、俺の妹分だった子が誘拐された
んだ」
ライガは驚いた表情をする。
「それで…どうなったの?」
俺は目をつぶって首を横に振る。
「結局、助けられなかった。あの子は殺されてさ、俺は暫くの間誰とも口を利かなかった」
ライガ君の目が見開かれ、驚きを隠せていない。
「俺はずっと悩んだよ。何度も何度も悩んで、俺は決めたんだ」
「決めたって…?」
俺は、他の子供達の相手をしているブラン達を見る。
「俺が手を伸ばせるなら、その相手を絶対に守りたい。あの時みたいに何もできないのは、もう嫌だからね」
俺はコートから魔戒剣を取り出す。
「そして、今の俺がある。俺が憧れた『
ハハッと笑う陵牙に釣られ、ライガは初めて笑顔を見せる。
「ねえ…」
「ん?どうした?」
ライガは先ほどとは違う目で、聞いてきた。
「僕も、その守りし者になれるかな?」
しばし、あっけに取られる陵牙だったが、笑顔で返す。
「ああ。何があっても人を守りたいって強い心と、どんな悪い奴にも負けないように鍛えるんだ。そして…優しさを忘れないことだよ」
「優しさ…?」
「ああ。大事な人を失ったライガ君なら、わかる筈だよ。大事な家族が、友達がいなくなったら、どれだけ悲しいのか」
「…うん」
「だから、もし守りし者になりたいのなら、約束して」
「約束…?」
ライガ君はきょとんとした顔で聞く。
「次に会うときは、誰かを守れるくらいに強くなって、小さな命にも心を通わせられるような、誰よりも優しい男になるって」
俺の言葉に、考えていたのかライガ君は暫く何も喋らなかった。
しかし、顔を上げると彼の雰囲気が変わっていた。
「約束します!僕も守りし者になるために!」
どうやら、前を向けるようになったらしい。
「それと、大事なことだけどさ。今のライガ君は、一人じゃないよな?」
「え………」
俺が視線で合図をすると、ライガ君ははっきりと見る。
その先にいるのは、一緒に住む孤児院の子供達。
自分を気にかけてくれた先生達。
「見てごらん。君の前には、誰がいる?」
「先生…が…」
「うん」
「みんなが……いる…」
どうやら、自分が一人ではないことに気がついたようだ。
「でも……やっぱり、お姉ちゃんが…お姉ちゃんがいない…」
「ライガ君。本当に苦しいなら、しっかり泣いておきなよ。今なら、ここには他に誰もいない」
「う……うん…あああああああああ!!!!!」
ライガは、泣いた。
ずっと、心の奥に封じていた苦しみを流すかのように。
――――――――――
「どうだ?すこしはましになったろ?」
「うん…ありがとう」
さっきまでと違い、憑き物が落ちたかのような柔らかい笑顔になっていた。
「ねえお兄ちゃん。僕…お兄ちゃんの言ってた守りし者の話、聞いてみたい」
そうか。なら…
「ちょっと驚くかもしれないけど、見ててね」
周囲に人がいないことを確認し、俺は魔戒剣を引き抜く。
そのまま、召還の陣を描き、俺の体に牙狼の鎧が装着される。
「お、お兄ちゃん!?それって!?」
やっぱり驚いてるようだ。
「これが牙狼。人間を食べる怪物から、人間を守る鎧だよ」
俺はすぐに鎧を解除し、話を続ける。
「この鎧を使う人は、黄金騎士って呼ばれててね。お兄ちゃんが知ってる中でもかなり強い黄金騎士がいるんだよ」
「強いの?」
「ああ。彼の名前はね…」
俺はライガ君に教えた。
彼と同じ名前を持った、誰よりも強く、そして優しい。
黄金騎士・牙狼…『冴島雷牙』のことを…
――――――――――
時間は過ぎ、夕方。
俺とブランは一緒に歩きながら帰っている。
「ねえ陵牙…」
「ん?」
「ライガと何かあったの?」
ブランが質問するのには理由があった。
先ほど孤児院から帰るとき、ライガと陵牙が二人で話をしていたからだ。
「ちょっとした約束だよ」
「約束?どんな?」
少し考えたが…
「ん~~…内緒だ。これは男同士の約束だしな」
「何よそれ…」
あの日、帰る前に俺はライガと向き合っていた。
「僕、絶対に強くなる!今は無理かもしれないけど…お兄ちゃんが見せてくれた黄金騎士に、絶対なりたい!」
「そっか…なら、俺も約束だ。ライガが本当に『強く、優しい魔戒騎士』になれる日まで
に、俺は鎧を金色に戻すよ。『黄金騎士』の名前に相応しくな」
俺は魔法衣からある物を取り出す。
それは、木でできたフルート。
「これって?」
「俺からのプレゼントだ。折角だし、一曲演奏するよ」
俺はフルートを持ち、ゆっくりと奏でる。
(BGM 英霊たちへの鎮魂歌)
響く音色は、この場にいた人達の心にも響いていた。
優しい音色は、戦いに全てを捧げた者達に安らぎを与える曲だった。
「この歌は、俺がライガ君くらいの年に、尊敬する人から教えてもらった曲なんだ」
俺はフルートを渡す。
何なら、挑戦してみるか?
俺の目を見て、ライガは力強く頷いた。
ホンの小さな約束。だが、人は約束を信じて努力する。
この少年が、遠い未来で人々を守る日が、果たして来るのか…
それは、誰にも分からない…
次回予告(ナレーション 西沢 ミナ)
再び現れる暴食のホラー。
危機に陥る牙狼の前に、魔弾の騎士が駆けつける!
次回『信頼』
魔戒の絆が、奇跡を起こす!