過去の罪と向き合う陵牙に、果たして救いはあるのか!?
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注意 今回の描写で記憶内の意識の陵牙は『』がつきます。
『浮遊城アインクラッド』。
俺がいた世界で存在したゲーム『ソードアート・オンライン』の舞台。
世界初のフルダイブ型ゲームは、たちまち俺達の世界で話題となり、発売日初日に1万本限定のソフトは全て売り切れとなった。
しかし、それが事件の始まりだった。
ログインした約一万人のプレイヤーは、意識をゲームの世界に囚われたまま出られなくなる。
ゲームハード『ナーヴギア』を外部から外そうとすれば、その時点でプレイヤーの命はない。
そして、このゲームで自身の操作するアバターの体力…HPが0になれば、プレイヤーの脳はナーヴギアによって破壊される。
最後のステージを突破するまで、脱出不可能なデス・ゲーム。
囚われた約一万人のプレイヤーの中に…轟雷陵牙もいた。
――――――――――
陵牙は宿から出て町を歩いているが、その中で気づいたことがある。
あくまでもこの世界は『自身の記憶』で作られている世界。そのため、この世界の物には触ることができず、ほかのプレイヤーにも認識されない。
しかも自分の体は、勝手に動いている。
今の自分の意思ではなく、過去の記憶と同じように動いていく。
その中で陵牙は、この時間軸がいつなのか理解した。
ある建物にさまざまなプレイヤー達が集まっている。
このゲーム内でもトップクラスの高レベルプレイヤー達『攻略組』。
彼らが見ているボードには、何人かのプレイヤーの画像が貼られており、その中に『不気味な笑顔と骨の腕が描かれた棺桶』という悪趣味なマークが貼られていた。
(そうか…じゃあこの後は…)
すると、周囲が変化して薄暗い洞窟へと変わる。
ふと、後ろから殺気を感じる。
『俺』が振り向くと、ボロボロの服を着た男が斧を振り下ろし、『俺』は持っていた剣で斧を受け止める。
ほかにも、何人もの黒いローブを着たプレイヤー達が、『俺』と一緒に来たプレイヤー達
を襲撃してきた。
(まさか…おい!やめろ!)
必死に叫ぶが、俺の声は届くことはない。
そして、『俺』は目の前の敵プレイヤーの狂った笑い声に圧倒されながら…
「う………アアアアアアア!!!!」
『俺』は無我夢中で剣を振り、敵プレイヤーの上半身と下半身を真っ二つにした。
暗い世界を彷徨っていたネプテューヌは、 複数の人間たちが剣を交えている洞窟に辿り着いた。
「私…どうしてここに…?」
そして、その中で見知った顔を見つける。
「陵牙!」
ボロボロの服を着た男の斧を受け止めている『陵牙』。
ネプテューヌは声をかけようとしたが…
「アアアアアアア!!!!」
今まで聞いたことのないような叫び声をあげて、『陵牙』は目の前の相手を『斬り殺した』
「…え?」
斬られた男はポリゴン粒子状のエフェクトと共に砕け散る。
そのまま、『陵牙』は我武者羅に剣を振るう。
「死ね…消えろ…!」
次々と、黒いローブを着た男達を切り裂く『陵牙』。
「ラフィン…コフィン…!消えやがれええええええ!!!」
叫びながら次々と男達を切り裂く陵牙。
「リョウ君!」
白い服を着て、レイピアを持った少女が止めようとするが、エストックを装備した髑髏のマスクをつけた男が目の前に立って妨害してくる。
「もうやめて、陵牙!」
必死に叫ぶネプテューヌだが、『陵牙』には聞こえていない。
「リョウ!」
剣、コートまで黒ずくめの少年が『陵牙』を押さえ込む。
「放せ!こいつらは…こいつらだけは俺が殺す!」
暴れていた『陵牙』だったが、すでに残った黒ローブの男達はほかのプレイヤーによって拘束されており、戦いの決着はついていた。
「一体…なんなの、これは…?」
ネプテューヌの疑問に答えるものはおらず、急に強い眠気が襲ってきた。
――――――――――
目が覚めると、ネプテューヌはパープルハートの姿のまま拘束されている。
その目の前には、鎧を纏ったゼクスと、魔戒剣を持ったまま気絶している陵牙がいた。
「陵牙!」
パープルハートは必死に呼びかけるが、陵牙の意識は戻らない。
「無駄だ。こいつは今、自らのおぞましい過去を見ている」
「おぞましい…過去?」
パープルハートの脳裏に、先ほどの陵牙の姿が浮かぶ。
「お前が向こうで何を見たのかは知らんが。お前が見たのはすべて、真実だ」
真実…?
あの陵牙が、怒りに任せて相手を殺したあれが…?
「何なら、もう一度見ていくがいい」
ゼクスの目が妖しく光ると、パープルハートの意識は再び陵牙の記憶へと飛んだ。
―――――――――
過去の記憶の中で、『陵牙』は目の前の敵…SAOで快楽目的のために他のプレイヤーを殺してきた殺人集団『
『やめろ!俺は…こんなことは望んでいない!』
陵牙は必死に叫ぶが、周りが真っ黒な世界になる。
「いや。俺…お前はこの時、心から望んでいたはずだ。友の…お前の仲間を殺した奴らを
根絶やしにする。それが目的でお前は、あの討伐作戦に参加した」
『陵牙』が笑いながら語りかける。
「お前も同じだよ。陰我に塗れ、ホラーに憑依される人間と!」
『黙れええええ!』
陵牙は魔戒剣を抜いて『陵牙』に振り下ろすが、『陵牙』は姿を消した。
「さらばだ。轟雷陵牙」
そう言い残すと、陵牙の周囲の光は完全に途絶えた。
――――――――――
パープルハートは真っ暗な空間を飛び、陵牙を探していた。
「陵牙…どこにいるの…?」
ゼクスによって再び陵牙の精神世界に飛ばされたのは誤算だったが、今は陵牙を探さなければいけない。
「…っ。早く、陵牙を見つけないと…」
嫌な予感がする。
あの時のゼクスの言葉で浮かび上がった、陵牙達が自分の元から去っていくような予感。
本当に陵牙がいなくなるのではないか?
「そうなる前に、早く助けないと…!」
そんな中、パープルハートは黒いコートを着た青年を見つける。
「陵…牙…?」
パープルハートは陵牙の手を取るが、様子がおかしい。
「俺は…俺が…殺した…」
陵牙はパープルハートの手を強く握る。
「陵牙?どうかしたの?」
その時の陵牙の目を見て、パープルハートは驚いた。
「ネプテューヌ…」
陵牙は小さな声で話す。
「俺は…昔、人を殺してた…」
その言葉を聞いて、ネプテューヌは確信する。
あの時見た光景は、やはり事実だったのだと。
「ずっと忘れようとしてた…忘れちゃいけないのに!」
今ならはっきり思い出せる。
『笑う棺桶』の奴等を怒りに任せて殺した。
あの日、彼が殺したプレイヤーは5人。
しかし、やつらの顔は思い出せない。
「奴等は敵だった。だけど殺さずに取り押さえることだってできたのに…俺はそれをしなかった。怒りに任せて、5人の人間の命を奪ったんだ」
すると、パープルハートは陵牙を強く抱きしめた。
「陵牙…私にはまだわからない。あなたがゲイムギョウ界に来る前のことを、私はほとんど知らない」
でも、とパープルハートはいったん言葉を切る。
「あなたが戦って、生き残ったから、私達は貴方に出会えた」
パープルハートは言葉を続ける。
腕の中で今にも消えそうな陵牙の心に語りかける。
「でも俺は…すべてを忘れようとしていた!奪った命を、なかったことにしようとして…そんな俺が…人を守る資格なんて…!」
パープルハートはさらに強く陵牙を抱きしめ、彼の耳元で語りかける。
「その事を後悔している貴方が、人を守る資格がないなんて…違うよ。少なくとも、貴方のおかげで救われた命は、この世界にはたくさんいる」
ノワールも、ブランも、ベールも、今まで彼が出会ってきた人も、陵牙がいたから救われた人が多い。
もちろん、自分も。
「いつか貴方も思い出せる。だからその時は思い出してね。貴方が奪った命だけでなく、貴方がいたからこそ救えた命のことも…」
「…ネプテューヌ」
――――――――――
現実世界。
意識を失った陵牙とパープルハートの前に立つゼクスは剣を取り出して陵牙に向けて構える。
「悪夢に呑まれて死ぬがいい。黄金騎士よ」
すると、牙狼剣が突然輝き、ゼクスの鎧が強制解除された。
「な、何だと!?」
ベルナルドは立ち上がり警戒するが、そこには…
魔戒剣を構えた陵牙が立っていた。
「貴様…!」
陵牙は魔戒剣を真上に掲げ、すばやく円を描く。
召還の陣から光が溢れ、陵牙は漆黒の牙狼の鎧を纏った。
「牙狼…どうやってあの世界から戻ってきた…?」
「今回ばかりは、囚われのお姫様に救われたもんでね」
ベルナルドは魔戒剣と盾を擦り合わせ、ゼクスの鎧を再召還する。
「黄金騎士よ。貴様に問おう」
ゼクスは牙狼を睨み、魔戒剣を構える。
「よくわかっただろ?無力で、愚かで、自ら破滅への道を進む人間という存在を」
「己の快楽のためだけに他者から奪い取る。それが貴様らが守ろうとしている、『人間』という生き物だ」
「貴様の守るべき人間とやらは、己の欲望のせいで陰我を生み出す。それでも貴様は、人を守るか?」
牙狼は少し俯くが、顔を上げた。
「確かにそうだな。俺は、過去に何度も見てきたよ。多くの人間は自分勝手だ」
でも、彼が出会った人達はそんな人間ばかりではなかった。
自分の身を心配してくれた仲間達もいた。
同じ目的のために力を合わせようと言ってくれた人だっていた。
あの仲間達がいたから、俺はあのデスゲームを乗り越え、今、この場にいる。
牙狼は一気に走ると、牙狼剣をゼクスに向かって振る。
「っ!」
ゼクスは盾で受け止めるが、牙狼は叫んだ。
「人は身勝手な生き物だ。だから誰しも心に闇を抱えている」
「だけど、そんな人間ばかりじゃないって、今ならはっきり言える…」
「例え人の心に闇があるとしても…守るに値する光だって存在する!」
瞬間、赤い炎が牙狼の周囲を囲み、鎧に吸収される。
「ぐうう………グウウウオオオオオオオ!!」
ひび割れた体、金色の部分が増え、全身に赤い炎を纏った姿…
陵牙は炎獄牙狼へと姿を変える。
「はっはっは!最高だな!お前も本気ってことか!」
ゼクスは盾を投げつけてきたが、牙狼は剣から炎の斬撃を放って防ぐ。
「ハアアアアア!!!」
すぐさま牙狼は斬撃を2つ放つが、ゼクスの後ろを素通りしていく。
「ふん。どこを狙って…ガアッ!?」
後ろから攻撃をくらい、ゼクスはよろける。
振り返ると、そこには刀を構えるパープルハートがいた。
先ほど放った斬撃は、パープルハートを捕らえていた鎖を破壊したのだ。
「油断大敵、よ」
パープルハートは牙狼の隣に立ち、刀を構える。
「魔戒騎士と女神…
二人の力、見せてあげるわ!」
その瞬間、パープルハートと牙狼の姿が消える。
「な、何!?」
すると、後ろから紫の光と共に強い衝撃が走り、続けざまに前方から赤い炎と共に攻撃を受けた。
「せえええい!!」
「でりゃああああ!!」
攻撃は止まることなく、目にも留まらないスピードで斬撃をくらうゼクス。
「決めるぞ、ネプテューヌ!」
「ええ!今度こそ…これでとどめ!」
牙狼剣に赤い炎を纏わせた牙狼。
パープルハートと共にゼクスとの距離をゼロにして、空中に叩き上げる。
「ハアアアアアアアアア!!!!!」
「ウオオオオオオオオオ!!!!!」
ネプテューヌの必殺技『ネプテューンブレイク』と牙狼の渾身の一撃が、ゼクスに命中した。
――――――――――
「くっ………」
牙狼は鎧から煙を上げ、強制的に解除されて陵牙の姿に戻る。
「やったの!?」
パープルハートも消耗しているのか、ふらつきながらも刀を構える。
「ネプテューヌ、だからそれフラグだっての!」
前にも似たような会話をした記憶があるような…
すると、ボロボロになって鎧が解除されたベルナルドが立っていた。
「思っていたよりも…強くなったな、黄金騎士」
ベルナルドは剣を収めると、足元に黒いゲートが開く。
「またいずれ会おう。今度こそ決着をつけてやる!」
ゲートを通ってベルナルドは消えた。
「お…終わった…」
「もう…しばらくは動けないわね…」
陵牙とパープルハートは座り込み、互いに顔を見合わせるが、陵牙は何かに気づいた表情をすると、突然顔を赤くして目を逸らした。
「?どうかしたの、陵牙」
「あ~…その…ネプテューヌ…」
陵牙は言い辛そうにしていたが、何とか言い切る。
「その…服が、色々と刺激的な状態になってるんだが…」
「え……!?」
パープルハートはふと自分の姿を見て、ようやく気がついた。
そう。今までずっと変身を解除していなかったため、プロセッサユニットがボロボロになっており、何と言うか…非常に凄い。あえて何が凄いのかは言わないが。
「~~~~~!?」
パープルハートはネプテューヌの姿に戻る。
「その……陵牙、もしかして…色々見えた?」
「………ああ」
しばらく、俺達の間では気まずい空気が続いた。
――――――――――
帰り道、体のダメージが思ったより少なかった俺はすぐに調子が戻り、ネプテューヌを背負いながらプラネテューヌへと帰っていた。
「それにしても、大丈夫か?」
「ねぷ…お腹減った~。陵牙、今日は陵牙のご飯が食べたい~」
「はいはい。帰ったら特別に俺が作ってやるよ」
3週間ぶりになる、ネプテューヌとの何気ない日常の会話。
だけど、今はそれが心から幸せに感じる。
俺達は共に帰るべき家を目指した。
Sideネプテューヌ
陵牙に背負われながら、私は思った。
あの空間の中で自分の過去に悩む陵牙の姿。
彼を助けたいと思ったとき、胸の中に渦巻いていた苦しみはいつの間にか消えていた。
今はまだ、彼の心の痛みを全部知ることはできない。
だけど、今こうやって彼と一緒にいられることが、私にとっては嬉しい。
「…ん?どうかしたの?」
ふと、陵牙が私の顔を見ているのに気がついた。
「いや、やっぱりネプテューヌは笑顔が一番だよ」
胸が熱くなる。
「何か、帰ってきたって気になるからさ」
……そうか。私はようやく気がついた。
今まで陵牙がノワール達の所に行って、さびしいと思ったのは…
彼のことを本気で好きになったからだ。
私は、陵牙が聞き取れないくらいの小さな声で言った。
「陵牙………
大好きだよ」
――――――――――
俺達が無事に帰ってきて、またいつもどおりの平凡な日常が戻ってきた。
ただ、少しだけ変わったことは…
「よっし!ステージクリアー!」
「ネプテューヌさん!いつまでもゲームしてないで少しは仕事をしてください!」
イストワールさんにガッツリ怒られているネプテューヌ。
「え~?今まで調子悪くて、ゲーム溜まってたから少しでも消化しようとしてるのに~」
「全く、イストワールさんの言うとおりだぞ」
俺はネプテューヌに話しかける。
「仕事なら俺も手伝うからさ、さっさと終わらせて、続きでもやろうぜ?」
「……う~、陵牙が言うなら、仕方がないか…」
ネプテューヌ、ある程度は俺が手伝えば仕事をするようになったって所だな。
「よ~し!じゃあチャッチャと仕事終わらせるよ!」
こういう日常が、しばらく続いてほしいものだな。
第2章 騎士の旅路 完
*
次回予告(ナレーション 大地)
遠く離れた故郷。
英霊達の残した心。
大いなる力を求め、轟擂騎士は何を見るか?
次回、『牙嵐スペシャル 迅雷』
乗りこなすか、それとも落ちるか?
ようやく第2章が完結しました!
一度牙嵐と狼攻の重要エピソードを挟んでから、第3章に突入したいと思います!
ではまたお会いしましょう!