導入部分で燃え尽きた残りカス   作:キューブケーキ

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銀英伝に転生してみた 19~21話

19.これまでのお話

 

 西暦1981年10月13日(1話)

【南アフリカ国防軍】野比のび助:のび太のパパ、アンゴラで死亡

 

 帝国暦466年(2話)

 のび助、ルパート・ケッセルリンクとして転生

 

 帝国暦476年

 父の事業が失敗。ミッターマイヤー家に引き取られる→幼年学校へ進む

 

 帝国暦480年4月

 惑星P2A5の戦い(4話)

【帝国軍】ヤスオ:安雄、ドラえもんの登場人物。のびハザでMOBキャラ。本作でも死亡。

 第146装甲擲弾兵連隊第Ⅱ大隊→主人公、士官学校へ

 

 帝国暦485年

 少尉任官して中隊配属(7話)

 3月21日:ヴァンフリート星系の会戦(第6、第10艦隊崩壊)、ヴァンフリート4=2の戦い

【同盟軍】カール・フォン・デア・デッケン:ルパートが射殺

 主人公、中尉に昇任。駆逐艦ミステルの艦長へ

 

 11月6日:ラムゼイ・ワーツ少将との戦い→ラインハルト、1000隻近い損害を出す 

 11月14日:キャボット少将との戦い→ラインハルト、800隻を損失

 11月19日:ホーランド分艦隊との戦い→ラインハルト、フルボッコ。艦隊を壊滅させらされ指揮権は剥奪

 第6次イゼルローン要塞攻防戦

 12月7日:同盟軍の全面撤退 

【帝国軍】グリンメルスハウゼン:流れ弾で乗艦が撃沈され戦死

 

 帝国暦486年

 戴冠30周年

 第3次ティアマト会戦→主人公、大尉に昇任(11話)

【同盟軍】ウィレム・ホーランド:ビッテンフェルトが旗艦を撃沈

 3月21日:爆弾テロ→3月30日:クロプシュトック侯討伐

 リッテンハイム侯の私兵部隊が、略奪・暴行→制止に向かうも抵抗され交戦状態。完膚なきまでに叩きのめし双方に遺恨(12話)

【叛乱軍】クロプシュトック侯:自決

【帝国軍】コルプト(弟):リッテンハイム侯の私兵を制止しようとして射殺される

 5月18日:サイオキシン麻薬摘発に参加(13話)

 9月

 レグニツァ上空遭遇戦 第2艦隊敗北

 9月13日~15日:第4次ティアマト会戦

 12月31日:ベーネミュンデ侯爵夫人誘拐事件

 

 帝国歴487年

 2月:アスターテの会戦(15話)

 彼我の損害→帝国軍22600隻、同盟軍6400隻

【帝国軍】エルラッハ、フォーゲル:混戦の中戦死

 グランド・カナル事件

【同盟軍】フェーガン:ルパートが「グランド・カナル」撃沈

 3月6日:自由惑星同盟最高評議会。第7次イゼルローン要塞攻略作戦が可決。

 3月20日:動員令発令→ 4月27日:攻略作戦参加の各艦隊が出港

 クルマルク号事件:カストロプ公の犯罪加担発覚→逮捕を逃れようと帝都で爆弾テロ(16話)

【帝国軍】シュムーデ:マクシミリアンに討たれる

 カストロプ討伐の勅命下る

 5月13日:バーゼル艦隊、ルッツ分艦隊と交戦。マリーンドルフ伯領に篭城

 5月20日:イゼルローン回廊同盟側出口でファーレンハイト分艦隊、同盟軍と遭遇

 同盟軍来襲でミュッケンベルガー元帥は応援を動員

 5月21日:フェザーン方面でホネカワの輸送船団を迎撃

 5月22日:フェザーン領内に於ける越境作戦(17話)

【帝国軍】ビッテンフェルト、オイゲン:バーナビー・コステア指揮のPMCに討たれる        

 5月23日:イゼルローン要塞要塞駐留艦隊、出港

 アルトミュールの戦い(18話)

 同盟軍前衛壊滅 戦闘損耗率:第6艦隊約50%、第4艦隊75%

【同盟軍】パストーレ:待ち伏せで戦死

 

 

 

20.イゼルローン陥落

 

 イゼルローン要塞の城門は貝の口のように堅く閉ざされている。

 機雷を散布しながら包囲陣をじわじわと締めてきた同盟軍に対し、艦隊温存の方針をとった要塞側は手出しをしない。そして同盟軍艦隊は遠巻きに包囲しているだけだった。

 無人偵察機からの報告が分析されて、手元の端末に送られてくる。

「敵艦隊は5万隻以上か。今回は随分と艦隊を投入して来たな」

 ファーレンハイト分艦隊は遊撃戦力として包囲の外にいた。

 ゼークト大将は篭城しミュッケンベルガー元帥の増援到着を待って打って出るつもりだ。

(自軍に倍する前衛を撃破して戦果もあげている。臆病風に吹かれたと言われる事もないだろう)

 駐留艦隊司令官の命令がそうなのだから、まだ出撃はしない。

(機会が来るそれまでは、大人しく高みの見物だ)

 今までなら第4、第6艦隊が敗れて撤退してる所だが、今回の同盟軍は動きが予測できない。

 わざわざ出撃してきておりながら積極的な攻勢に出る様子がない。

「イゼルローン要塞を攻めるのは間違い無いのだろうが、何を狙っている?」

 遊弋してるだけでは多大な戦費を消費して出兵した意味がない。

 要塞の射程ぎりぎりを移動して、こちらを挑発し艦隊を出撃させようとしている。

(前回と同じ手を使うとは、奴らも万策尽きたのか)

 そう思わせるのが同盟軍の策かもしれないと、疑い出したら切りがない。

 今回は、戦力差がある割りに積極的行動をしてこない。

(ここまでわざわざ出て来いるのだから何か考えがあるのだろう)

 その様に警戒心を掻き立てられた。

 

 

 

 5月25日。ルフェーブル中将麾下、同盟軍第3艦隊の分艦隊2300隻が、帝国側出口で機雷敷設作業を行っていた。

 機雷は人口障害物の重要な分野を占めており、他の障害物にない破壊・殺傷等の効果を持っている。分艦隊司令官ラルフ・カールセン准将は、安全管理と敵の襲来に留意しつつ作業を見守った。

 設置が容易でかつ運用の融通性があるため、適切に使用すれば大きな障害となり、帝国軍増援を阻止できる。

 ファーレンハイトは、この動きを見て取ると襲撃した。

「狙いはいいがな、思うようにはさせん」

 主力艦から大出力の中性子ビーム砲が斉射され、作業中の駆逐艦に青い矢が降り注ぐ。

 ただでさえ貧弱な駆逐艦の中和磁場だが無いよりはマシな防御手段だ。だが作業中のため、警戒隊に残した艦艇を除き作業中の艦艇には中和磁場が展張されていなかった。

 次々と爆沈する味方艦艇を前にカールセンは驚いたが、すぐに状況を理解して反撃の指示を出す。

「作業中止! 応戦しろ」

 カールセンの指示で同盟軍は、中和磁場を展張して艦首を帝国軍の方向に回頭させるが、それまでに800隻が失われる。

 歯を噛み締めて、屈辱に耐える。

「撃ちまくれ! ここで全滅しても無駄死ににはならん」

 第3艦隊司令部には帝国軍来襲の警報を出した。

(後は、応援が駆けつけて仇をとってくれるだろう)

 カールセン心情と他の者は違う。死ぬ気は無く、生きるために戦った。

 孤軍奮闘するが力量と勢いが違いすぎた。

 沈む数は同盟軍の方が多い。

 この戦闘で帝国側出口封鎖は失敗し、カールセン自身も捕虜となる。

「まぁ、戦争は相手がいる訳だし、こちらが無傷とは行かないか」

 第3艦隊が帝国軍に襲撃を受け損害を受けたと、3課からの報告書を受け取りヤンはそうぼやいた。

 所詮は他の艦隊だ。自分と知り合いが無事なら問題ない。

 無邪気に子犬のように自分を慕ってくれる被保護者や、友人達。彼らを助ける為なら頑張るが、それ以外のものに興味はない。

(俺みたいな大人にはなるなよ。ユリアン)

 心の中でハイネセンにいる被保護者を思い浮かべる。

 

 

 

 5月26日。艦艇38800隻を率いてミュッケンベルガー元帥がついにイゼルローン回廊、帝国側出口に到着した。これはカストロプ討伐でフェザーン方面に展開してる艦艇を除いて、現在帝国の動員できる戦力の全てだ。

「ゼークトが撃破した前衛を含めると、敵は7万隻以上投入してきたのか」

 同盟の本気に少し驚いた。敵の方が我よりも兵力は優勢だ。だが、長期の遠征は負担も大きいと考えられる。そこを勝機と見て突いて行く。長引けば、兵站の問題から侵攻して来た同盟の方が不利となる。いままでと同様、負けるつもりは無かった。

 翌日には包囲に対する攻撃が開始された。

 応援の状況を見てゼークトも要塞駐留艦隊を包囲の内側から出撃させる。

「叛徒どもに正義の力を見せてやれ!」

 同盟軍も必死だ。国土防衛の為、イゼルローンを落とさなくてはいけない。

 ファーレンハイト分艦隊はミュッケンベルガーの増援と合流した。消耗品の補充を受けた後、引き続き解囲に参加する。

 ルパート・ケッセルリンクもその渦中にいた。

 イゼルローン要塞の公転軌道を避けて、その周囲を同盟軍艦艇が展開している。要塞主砲の火制宙域を避けているのだ。

 まず、攻囲の強度がどれ程の物か調べたい。

 ミュッケンベルガーはファーレンハイトに威力偵察を命じた。これに対してファーレンハイトは、麾下の艦艇から幾つかの駆逐隊を放った。

(偵察小隊が複数の斥候班で情報収集に当たるのと同じ事だな)

 僕の所属する駆逐隊も、そのうちの一つになる。

 駆逐艦「ミステル」は、哨戒に参加するたびに敵を引き連れて来る艦隊の貧乏神だ。

 その様な迷信が艦内で噂され僕の耳にも届いていた。

 冗談半分で言って来たのは駆逐艦「オイゲン・ゼンガー」の艦長ヒロシンスキー大尉。幸運艦として名高い歴戦の「オイゲン・ゼンガー」は艦齢8年に達そうとしており、その間2度の近代改修を受けており、歴代の艦長3名は無事生還してさらなる出世の階段を上っている。

「これこそ勝利の女神だろう?」

「そうだね」

 自信満々に言うヒロシンスキー大尉の言葉に相づちを打ちながら、「ミステル」とは大違いだと思った。

(でもうちの船も悪くない。だって激戦でも生き残れているんだから)

 駆逐艦の艦橋には当直士官以下の8人、両側に見張り員が1人ずつ配置されている。

 見張り員は文字通り、目視と双眼鏡で警戒監視を続け、脅威や兆候を発見すると、艦橋内に連絡する。その内容が伝令員から当直士官に伝えられ、当直士官はレーダー員に指示をして相手の位置や針路、速度を特定し、状況を判断する。

 艦橋下にあるCICの電測員もレーダー見張りとして常時、モニターを注視している。船を見つけると当直士官に報告し、見張り員が目視で確認する仕組みだ。

 なんやかんやとあって出港した僕らだが、ベララベラと暫定的に名付けられた哨戒区で、同盟軍の哨戒と「ミステル」らはかち合った。

(あながちジンクスも嘘とは言えないか……)

 僕は艦位記録表を端末から呼び出して自艦の位置を確認する。細かい位置の確認は、LRRP以来の経験からだ。

「敵艦の数はわかるか?」

 敵味方識別装置に反応なし。つまり敵だ。

「巡航艦が4隻。それに駆逐艦8隻です」 

 艦種まで答えてくれた優秀なレーダー員に感謝する。

「ツツジより発令。各艦、我に続け」

 間髪入れずに届いた通信士の報告に顔を歪める。

(一戦やらかすつもりか。めんどうな)

「敵艦発砲!」

 先に撃ったのは同盟軍だった。閃光がスクリーン一面に広がる。

 そろそろ、この光景にも見慣れて来たなと自分でも思う。

(ま、的になるのは先頭の艦で、自分では無いから気楽な物だ)

 打算的な事を考えてしまったが、人間だし仕方ないよね。

 

 

 

 戦闘後インタビューを受けた、ある同盟軍将官の回想

「あれはひどかった。前衛の2個艦隊が壊滅するわ、敵は要塞に籠って出てこないし上も何を考えているのかわからない。それで先輩に訊いてみたんだ。何か策でもあるんですか? って。でも、先輩は複雑そうな表情を浮かべて教えてくれなかった。まぁ、軍規に関わる事は教えられないのは当然だよな。で、そうこうしてる内に敵の応援がどばっと来て、例の如くいつもの艦隊の対決が始まったのさ。うちの艦隊――あの時は第10艦隊から第8艦隊に移動してたんだけどね、アップルトン中将の指揮で私たちも迎撃に当たったんだ。帝国軍は味方を助ける為にこっちの包囲を打ち破りたい。そういう気迫が凄いのなんのって。目の前の船が、ぼかすか沈んでいくんだよ。え、小便ちびりそうになる怖さを感じなかったかって? あ~それが、スクリーンやモニターを通してみると現実感がないんだよね。戦争映画を見てるみたいといったらわかるかな? で、戦闘糧食の袋を開けて片手で食べながら自分の船を指揮してたんだ。その時に、スカーフに魚の汁がこぼれて拭いたんだけど臭いのなんのって……あれは忘れられないな」

 

 

 

 同盟軍は頑強に抵抗し、この日は解囲することが出来なく帝国軍は後退する。

 翌日5月27日。

 同盟軍第2艦隊は小規模の降下を支援して、包囲の外にある恒星アルテナにいた。

 恒星とは、いわゆる太陽で灼熱の炎は生身の人間なら近くにいるだけで一瞬で焼き尽くす。

“薔薇の騎士”(ローゼンリッター)連隊。同盟軍最強の陸戦部隊であるその部隊は、本作戦における重要な役割を与えられ、高温の熱源で燃え続けるガス星雲に降り立ち敵の妨害に備えて警戒配置についている。

 作業時間は1人当たり15分。冷却剤をふんだんに使いながら工兵が交代で作業に当たっている。

 装甲服を着ていて温度調整されているが、それでも熱気は伝わってくる。

 シェーンコップが直接指揮して、厳重に警備されたコンテナが揚陸艇から降ろされる。

(こんな物に頼るとはな……)

 それが何だか知っていて不快な表情を浮かべる。

 全長60センチメートルほどのその物体が本作戦の鍵だ。

 ED爆弾―――The earth destruction bomb―――地球破壊爆弾。

 旧世紀の遺物であるその兵器は、惑星を2回破壊する威力があるという。

「戦争に綺麗も汚いもない。ただの人殺しで、効率よく戦ったほうが勝つ」

 シェーンコップに今回の作戦を説明した青年、ヤンはそう言った。

(俺より3、4歳年下だったか)

 人畜無害そうな顔をして強烈な作戦を立てた。

「これしかないと思う。これで駄目なら毎年、また戦死者が増えるだけだ」

 真剣な表情を見て、不快な作戦だが旧帝国人は納得した。

 そんな多量破壊兵器の前では、1発で戦車を吹っ飛ばすジャンボガンや、1発でビルが煙と化す熱線銃など玩具だ。

 この一連の動きは帝国軍でも察知された。

「何をしているかは知らないが、放置する訳にもいくまい」

 ミュッケンベルガー元帥は恒星アルテナに展開する同盟軍第2艦隊に対して、攻撃を実施する。目的は、包囲から一部の戦力を引き出す事もあった。

 

 

 

「これも貴官の想定の内かね?」

 パエッタはヤンにそう尋ねた。

「まさか。そこまでは、予想してませんでした」

 ヤンは苦笑する。

 黙って、作業させてくれるとは思ってもいなかった。この戦場に関しては、同盟軍が優性なので楽観視はしていた。

 ロボス元帥は作戦の万全を期す為、第2艦隊の作業に応援を送った。ホーウッド中将の第7艦隊である。

「しめた。包囲の一部が動いたぞ!」

 これを好機と見た駐留艦隊は再び、突破を試みる。

「甘いな。いかせはせん」

 グリーンヒル大将によって統括されるスタッフが有効に機能し、帝国軍の企図を砕こうと迎撃をする。

 同盟軍の攻勢限界は、兵站の兼ね合いから6月末まで。

 これだけの兵力を一度に集中するのは、今回が最初で最後だろう。だからこそ負けるわけにはいかない。

 5月28日に日付が変わろうとする頃、ミュッケンベルガーは自分が罠にはまった事を知った。

 応援と合わせて2個艦隊の同盟軍に狭撃を受け、不利な状況に追い込まれかけている。

「敵に合わせる必要はない。一端、後退するぞ」

 今までと違い、今回の同盟軍が粘り強い事にミュッケンベルガーも気づいてはいた。だが狙いが分からなかった

 長丁場の戦いとなり包囲12日目。

 何度もやって来るミュッケンベルガー元帥の増援を撃退した同盟軍は、作戦を第二段階に移行する。

 包囲をしていた同盟軍艦隊が距離を取るように後退する。

「やつらやっと諦めたか?」

 要塞の中にほっとした空気が溢れた。

 その時、スクリーンに映るアルテナが一瞬、光球に包まれたように見えた。

 次の瞬間、重力崩壊が起こった。

 凄まじい閃光が視界を覆う。

 恒星アルテナを爆破したのである。

「目がああああ!」

「なんじゃこりゃあああ」

 叫ぶ帝国軍将兵の前で太陽は爆発した。

 それはこの世の終りを象徴し、イゼルローン要塞にとっても終焉を意味していた。

 超新星になる前に発生したこの爆発は、公転軌道上に浮いていた岩石やガス、氷、それに沈んでいった艦艇の残骸もアルテナだった物と一緒に吹き飛ばし、そして計算された軌道に乗り大質量の兵器となってイゼルローン要塞に向かって飛翔し襲った。

 膨張した質量は、恒星風も爆風へと変えた。3.7x10の46乗ジュールのエネルギーが490億度の高熱で叩きつけられる。

「ファッ!?」

 帝国軍は不意の出来事に心理的衝撃を受けた。

 圧縮された分子雲の塊が高速で突っ込んでくる。その物理的損害は無視できない。

 圧壊という言葉が相応しく、あれほど同盟軍艦艇の砲撃で破壊できなかった要塞の外壁が卵の殻のように崩壊していく。

「な、何事だ!」

 要塞司令官トーマ・フォン・シュトックハウゼン大将は事態を把握しようとした。

 宇宙で地震が起きるはずは無い。

 だが現に要塞は激しく揺さぶられている。

 そしてレーダーに大量の障害物が高速で要塞に向かってくるのを捕らえた。

 幾らなんでもあれだけの数の質量を受けたら無傷で済むはずが無い。それは誰に教えられるのでもなく本能でわかった。あれは危険だと。

「あれを撃ち落とすんだ、射撃用意!」

 司令官が冷静であれば部下は落ち着きを取り戻し行動する。

「撃て」

 要塞主砲で迎撃するが、その質量は今まで相手にしていた艦艇とは異なる。

 それに数が多すぎる。

 2回目の射撃を行う前に激しい衝撃が要塞司令室を襲う。

 要塞の電力がダウンしたのか、一時停電するも、分散電源が稼動しすぐに復旧する。

「なんということだ!」

 モニターに写る惨状を見てシュトックハウゼンは叫び声をあげた。

 

 

 当初、無人艦艇や老朽化した廃船を無人操縦で、イゼルローン要塞に突撃させ、外壁を破壊することをヤンは考えた。

 要塞に収納出来る艦艇は約2万隻。ということは、それ以上の艦艇が必用だ。

「大質量の物体を外壁にぶつけるだけなら、隕石などに推進装置を設置するのはどうですか?」

 相談されたフォークは言った。

「移動は、艦隊の後方を追従させれば偽装できるでしょうし、現地に着くまでは牽引すればいいと思います」

 ヤンは首を振って否定する。

「駄目だな。準備と輸送に時間がかかる」

 打つ手なしですな、とフォークが答える。

 休暇を貰い過去の歴史文献を調べて考えたが思いつかない。

(銀河帝国の歴史は古代ローマ帝国に似ているな)

 気分転換にその辺りを調べてみる事にした。

(城塞都市の攻略も何か、参考になるかもしれない)

 アウァリクム。

 ガリアの叛乱を鎮圧するローマ軍にとって城壁は、破城槌で突き破ったり粉砕できない障害物だった。同盟軍にとって艦砲の出力でイゼルローン要塞の外壁を破壊出来ないのと同じだ。

 結論から言うとこの戦闘では雨が降り始め、作業音が隠蔽でき攻城櫓を接近させ強襲した。

(宇宙で雨は無理だ)

「雨なんて降るわけ無いしな……」

 椅子の背もたれに体を倒して考える。

 流星雨、流星群、小惑星。

(ん?)

 そこで思い付いたのが、アルテナを破壊してそれ自体を質量兵器として利用する事。

「驚いたな」

 ロボス元帥は、モニターに映し出されるイゼルローン要塞を見て、参謀長のグリーンヒル大将に話しかける。

「まさか、これ程呆気なく破壊できたとは」

「ええ。そうですね」

 グリーンヒルも他の幕僚と同じようにモニターに映し出される光景に目を奪われながら答えた。

 イゼルローン要塞は三日月のように大きくその球体を削ぎ落とされていた。

 これだけではない。

 次々と水素とヘリウムの塊が、止むことなく要塞に降り注いでいる。

 大きな質量がぶつかり、要塞の表面で火山の噴火のような幾つもの爆発が起きている。

 中にいる人員の脱出は不可能で、生存は絶望的だ。

(敵ながら同情する。あそこに居るのが、自分達ではなくて良かったと心底思う。もうあの要塞が機能する事はないだろう)

 

 

 

 帝国暦487年6月5日。難攻不落を誇ったイゼルローン要塞は陥落した。

 僕は生きてるさ。

 とりあえず第7次イゼルローン要塞攻防戦は、双方の艦艇と人員に多大な損害を出しながらも、これで終結する。

(これで家に帰れるのだろうか?)

 帝国もガタガタだなと溜め息が出る。

 叛徒の奴ら、調子にのるなよ。

 僕はこの光景を一生忘れない。そして復讐を誓った。

 帝国軍は残存戦力を収容しつつ帝国領内に引き揚げ、同盟軍は帝国側回廊出口周辺に70万個の機雷を敷設し封鎖する。

 長きに渡るイゼルローン回廊の戦いがこれで終止符を打たれたのである。

 

 

 

 即日、イゼルローン要塞の失陥にたいして帝国軍三長官は辞任の覚悟を持って皇帝の下に参上した。

 それに対して皇帝は、冷ややかな言葉を浴びせたと記録に残っている。

「謝れば済む問題でも無かろう。それにじゃ、今の帝国軍には後を任せられる将帥が欠如している」

 次期宇宙艦隊司令長官と目されていたメルカッツが退官し、人材が枯渇しているのも事実だ。

 ここ最近、活躍の目立つフレーゲルを押す声もあったが彼では若すぎる。若手の貴族が暴走した場合、抑えきれない可能性がある。

 皇帝は、カストロプの叛乱により国内の不穏分子が騒ぎ出している事もあり、事態が一段落がつき後任の目処がつくまで慰留を命じた。

「叛徒の奴等がイゼルローン要塞を破壊したそうだ」

「イゼルローン回廊機雷と残骸で封鎖されたらしい。少なくとも連中から攻めて来る積もりは無いようだな」

 帝国にとって敗北だが、この事で同盟に対する脅威から貴族の間で愛国心が沸き起こり、初めて挙国一致の戦時体制へと移行し始めた。

 あらゆる面で帝国は改革される事となった。

 

 

 

21.これってドラえもんなのよ

 

 ミュラーとルッツの分艦隊は疾風の如く、5月23日、フェザーン領内に切り込んだ。

 フェザーンでの越境作戦。その意味する事は大きい。自治領としての地位低下を意味するのかと噂された。

 ミュラーのフェザーンに対しての認識は一般的なもので、帝国を構成する地方領の一つに過ぎないと言う物だった。

 最初の内は自治権を侵すと言う後ろめたさで部下たちも緊張していたが、いざ始まってしまうと、フェザーン側の抵抗も無く意外と呆気ない物で、落ち着いている。

(そうだよな。自治領とは言え、帝国の一員なんだから……)

 ミュラーはそう自分を納得させた。

 スクリ-ンには事前に調査された航路図が表されている。

 そこに映し出された敵――ホネカワの勢力圏である私有惑星は限られた物だ。余計な政治的問題を引き起こさないように、攻撃目標は予め決められているから楽だ。

(敵の抵抗が軽微な物であれば、全てを制圧するまでそれ程、時間もかからないだろう)

 今、僚友であるルッツとミュラーの分艦隊は、競う様に次々と目標を制圧していた。

 歳も近く階級も同じ。これで意識しないと言う方が嘘になる。

(どちらがより武勲を上げるか勝負だ!)

 お互い口には出さなかったが、ミュラーはその様に強く意識していた。

 現状としては5月26日に、戦略資源であるガルタイト鉱石の産出地である惑星コーヤコーヤを制圧。翌日には星間連合本部のあるトカイトカイに地上部隊を降下させた。無人偵察機の一部は、遠くハテノハテ星群まで達している。

 帝国軍の再度行われた越境作戦の情報は自治領主府にも伝えられ、非公然であったフェザーンの援助は今後、一切を禁止すると宣告された。

(フェザーンの連中も帝国を敵に回すほど馬鹿ではなかったと言う事だな)

 艦隊を邪魔する物は居ない。

 制圧した惑星に半舷上陸させる事もなく、補給を終えたると速やかに次の目標に向かう。

 

 

 

「これはフェザーンと帝国の戦争を意味するのではない。一企業のホネカワと帝国の問題である」そう言うと、ルビンスキーはフェザーン全土の警備隊に、抵抗せず帝国軍を通過させるよう命じた。

 その指示を出さねばならなかった事はルビンスキーにとって屈辱だった。だからこそ逆に冷静になれた。

 同盟と帝国の双方は、フェザーンにとって友好関係を維持する事が必要な相手だ。

「このままで、済ませるつもりは無い」

 帝国軍がフェザーン領内で軍事行動を行ったことは、フェザーンの威信を傷付ける物であり、中立を脅かす物だった。

 市民の一部はニュースの速報を見て、帝国のフェザーン駐在高等弁務官事務所に押し寄せ「帝国軍はフェザーンから出ていけ」などと叫び声をあげていた。

 ルビンスキーはボルテックに不敵な笑みを浮かべ言った。

「それに一度燃え上がった炎は簡単には消せないからな」

 反対デモは自治領全土に広がる動きを見せていた。

 

 

 

(カストロプの叛乱支援はやり過ぎたかもしれないな)

 元同盟軍のバーナビー・コステア中将は、司令部のおかれた古い校舎の2階から、石畳の通りを通過する車両の群れを見下ろしながら、会社の判断をそう思った。

 ホネカワ製の各種装輪装甲車が乾燥した砂塵を巻き上げ、地響きを立てて進む。

 大気圏軌道上空から見れば緑に覆われているこの美しい星は、小人の妖精が棲むという伝説があるフェザーン自治領内にある惑星ピリカ。

 ハナでの戦闘終了後、訓練施設などの拠点をピリカに移しコステアと練習艦隊もこちらに移動してきた。艦隊の戦力は随時増強されている。

 今居るピリポリスのように、最初の開拓者によって立てられた古い石造りの町並みが所々に残っている。

 街には住民の姿は見受けられない。数年前にホネカワによって購入され、一般の住民は退去している。

 軍事力としての戦闘部隊を持たないフェザーンの商人たちは、銀河帝国の敵ではなかった。しかし自分達も生き残らないといけない。その彼らの武器は経済力だ。

 だから叛徒といわれる自由惑星同盟とも交易を始め、帝国・同盟双方の必要とするものを供給した。

 日用品、食材、嗜好品に始まり、医薬品や建築資材といった戦争にあまり関係ないものの輸出も手がける様になった交易は、需要の声が高まり、液体燃料や油脂類、宇宙船の推進剤、各種弾薬にも及んだ。

 戦争も商売にする。その意味を十分理解していた。

 今やフェザーンは、両国の兵站を支える無くてはならない存在としての地位を築き上げている。

 だから調子に乗っていた。フェザーンには手出しできるはずが無いと。

 そして古典的傭兵の「戦闘を行う」ことを目的とした民間軍事会社を設立した。

 これが誤りだった。

 コステアに与えられた仕事は、失われた人材を補充すべく新規雇用された者を教育する事だ。

 同盟・帝国の元軍人も社員にはいたが、本格的にフェザーン侵攻を始められたら、対抗しようにも数が絶対的に違う。皆殺しにされるのが落ちだ。

(ハナでは運良く死を免れたが、次も上手く行くとは限らない。こちらにも戦う牙があることを帝国軍に知られた。次は、もっと慎重に警戒して来るだろう)

 所詮は傭兵であり正規軍相手に連勝する自信は無かった。

 

 

 5月も残り数日で終わろうとしている。

 荒廃した惑星の側を駆逐艦「ロスラウ」は航行していた。

「なんだあれは。核戦争でもあったのか」

 スクリーンに映し出される地表の様子を見て、艦長のアルフレット・グリルパルツァー中佐は眉をひそめた。

 うず高く積まれた瓦礫と土砂。荒廃した廃墟がかつての町並みをうかがわせる。

 無人偵察機の情報では放射線濃度が高い。

(ということは水や土壌、大気も汚染されているのだろう)

 グリルパルツァーは自ら前衛の尖兵を買って出た。

 私生活では辺境宇宙の探検でも知られるグリルパルツァーなので、また自著のネタにでもするのだろうと、前衛部隊を預かるヴァルヒ大佐は了承した。

 グリルパルツァーの駆逐艦長としての手腕も、悪くはないからだ。

 CICでレーダー見張り員を担当する電測員から報告が入る。

「二時方向に艦影多数。本艦に接近中」

 敵味方識別装置に反応はない。

 フェザーン主府から各地の警備隊には連絡が入っているとの事だ。つまり、こちらに表立って妨害するものは居ない。居たらそれは敵だ。

「砲戦、魚雷戦用意」

 その様に命じながら確認を取る。

「艦影の大きさはわかるか」

 隕石やデブリを誤認したのなら笑い話にしかならない。ベテランの担当が言うのだから艦影なのだろう。

 少し考えて答えが返ってくる。ワルキューレよりは大きく、駆逐艦よりは小さいとのことだ。漠然としている。

「魚雷艇でしょうか」

 甲板士官のローレンツ少尉が思いついたように言う。

「かもしれん。安く揃えてゲリラ戦を行うには手頃な装備だ」

 グリルパルツァーも同意する。

 高速で接近するそれは攻撃態勢に入っていると考えていい。

(他に思いつくものもないし、多分そうなのだろう)

「本艦は発見されている。そして敵がやって来る。それでまず間違いはない」

 艦隊の先頭に立って哨戒中という事で「ロスラウ」は全員配置に付いている。

 疑わしい物は沈める。ビッテンフェルト分艦隊の二の舞はご免だと徹底されていた。

「先手を打ちこれを迎撃する。外すなよ」

 迷いはせず断言するように指示を与える。

「旗艦に報告。我。敵と遭遇する。位置と方位だ」

「はい」

 状況開始を告げ「ロスラウ」単艦で果敢に敵に挑む。

 敵の姿が艦橋のスクリーンに見えてきた。

「なんだあれは……」

 不細工なと言いかけて、指揮官らしくないと言葉を飲み込む。

 確かにその船は不細工な深海魚のような姿をしていた。

 ちなみに銀河帝国の標準駆逐艦である「ロスラウ」は27億帝国マルク。相手はそれより遥かな安物に見えた。

「突撃」

 先任で副長もやっている航海長に、短く指示を出す。

「ロスラウ」は機関出力を増速して艦体が一瞬、ぶるっと震えた。

 敵は此方が向かって来ると思わなかったのだろう。散開し「ロスラウ」を包囲してこようとする。

 数は8隻。2個水雷艇隊といった規模か。

「ああ、反応が遅い。あれでは駄目だな」

 射線が交差して友軍を撃ってしまう。

「我が軍なら怒鳴られていますな」

 部下の言葉に反応しようとした瞬間、敵艦から魚雷が放たれた。

「敵艦発砲」

 無誘導らしく、こちらの通り過ぎた後を通過していく。

「なんて錬度が低い。これなら叛徒の方がましだ」

「ええ、そうですね」

 グリルパルツァーの漏らした言葉に先任も苦笑を浮かべている。

「これなら、いけそうですね」

 味方が来るまでの時間稼ぎは出来る。

「そうだな」

 でも、ただ撃たれるだけだとつまらない。

「砲雷長。自由に撃っていいよ」

「はい、艦長。楽しませて貰います!」

 魚雷艇に航宙能力は低い。惑星の軌道を離れて遠洋航行する事は、費用効果に合わないからだ。あくまでも、襲来した敵の迎撃など限定された状況下での運用を想定されている。

 信号待ちで車より自転車が先に動けるのと同じ様な物だ。

 そう言う意味では、航宙能力もあり様々な状況下での運用を前提で設計されている駆逐艦の敵ではなかった。所詮、自転車は車の敵ではない。

 

 

 

『5月28日1045時。海産物のような形状をした艦艇を保有する銀河漂流船団という海賊と交戦、撃滅する。我の損害は軽微。戦闘航行に支障なし。作戦を続行する』

 ナイトハルト・ミュラーが日記を書いていると、副官のドレウェンツ中尉から報告が入る。

「前衛の駆逐艦が新たな海賊の襲撃を受け、応援を要請しております」

 また海賊かとうんざりした。

「フェザーンはこんなに治安が悪い航路ばかりだったのか?」

「自分も予想外でした」

 ドレウェンツ中尉も苦笑していた。前衛がすでに急行しているという。

 結局、襲撃して来た敵は撃破され、捕虜にした生き残りの尋問の結果、ニムゲ団という海賊だという事が解明された。根拠地は近くの惑星だという。

「閣下、どうされますか?」

 海賊は、麦わらの昔から縛り首の死刑と決まっている。

「よし、こうなったら徹底的に相手をしてやろうじゃないか。海賊にはうんざりしていたんだ。フェザーンの警備隊にも協力を要請しろ。海賊相手なら嫌とは言わないだろう」

 ハウシルド大佐の戦隊を制圧に向かわせる事にした。

 

 

 

 帝国の辺境で独立を認められたアンラック大公国。

 皇帝が、その首都である惑星チャモチャで叛乱が勃発したとの報告をガリオン・ブリーキン侯爵から受けたのは6月7日のことである。

 アンラック大公国はサイオキシン麻薬が野放し状態だった。中毒患者が多く、毎日のように路肩で死んだ骸が見受けられた。

 国内の治安維持にあたる公国軍も、衛生管理の防疫のため死体の回収に駆り出される状態だった。

 すべては公王の無策、無能の原因だ。

 公国の歴史は短く、現在の公王は凡庸どころか無能で「サイオキシン麻薬の習慣が無くなるまで国家の管轄で供給する」と国営で売買を始めた。

 最初の目的は密輸の撲滅だった。そのうち国家収入の貴重な財源と見られるようになっていた。

 カストロプ公が帝国の政に携わっている間はそれでも良かった。帝国の官権が公国に口出しをする事が無かったからだ。

 だが事態は変わった。

 帝国は内紛の火種を放置はしない。公国であっても、帝国の癌に成るなら排除される。

 平民が多数を占める軍にあって、ナポギストラー少将は改革を声高々に唱え圧倒的支持を得ると、軍を掌握し同志の青年将校達と救国革命会議を設立した。

「我々の目的は暗君を排除する事にある」

 計画は何度も練られた。動員兵力、制圧目標、拘束すべき要人、宣言内容など。

 6月1日。官公庁に人が集まった午前10時を狙って、軍は蜂起した。

 主要目標の一つである公王の居城。

 そこを警備する親衛隊は貴族の子弟で構成されていた。

 彼らは戦意こそ高かったものの、戦闘車両と航空機の支援を受けた装甲擲弾兵の前に、文字通り血の池に沈みあっけなく制圧される。

 侍女に奉仕させていた公王は突然の乱入者に怒りの声をあげた。

「何だ貴様ら!」

 公王の執務室になだれ込んできた兵士は、儀礼用の時代がかかった制服を着た親衛隊ではなく、血に染まった装甲服を着た公国軍の装甲擲弾兵。

 厳選された高級ウールを100%使用したクラッシックデザインの敷物が、血で汚れた軍靴に踏みにじられ染みが広がっていく。

「それはフェザーンから取り寄せて3500帝国マルクもしたんだぞ、貴様らごとき下賤な輩が踏んでいいと思っているのか。身の程を知れ!」

 敷物の事で激怒する公王に対し、侮蔑の表情を浮かべながら制圧部隊の指揮官が告げる。

「陛下の御命を頂戴致しに参りました」

 銃声が執務室に響く。

 蜂起は成功した。民衆の解放を宣言し、これまで圧政を強いてきた貴族の領主や悪徳商人が逮捕拘束され後悔処刑が始まった。

「貴様、私を子爵と知っての狼藉か」

 貴族の血を継ぐ者は老若男女を問わず殺された。若い女性は性的暴行を受けた後に殺される。

「助けてお父様、お母様!」

「黙れ穀潰しの屑が。お前のドレス1枚でどれだけの血税が使われていると思っているんだ!」

 この放送はFTLを通して全銀河に広がった。無修整の裏ビデオやスナッフビデオ、児童ポルノも霞む凄惨な内容だった。

 同盟領でもマスコミにこの事件は取り上げられた。

「民主政治だと言いながら、武力を使っての革命ほどたちの悪いものはないよ。何しろ自分の正義を信じてる狂人が武器を持っているんだから」

 イゼルローン要塞陥落の立役者である同盟軍のとある中将は、被保護者に不快そうに今回の事件をそう批評してソリビジョンを消した。

 

 

 

 皇帝の居城、“新無憂宮”(ノイエ・サンスーシー)に不快な空気が漂っていた。空気の発生源はアンラックの貴族であるブリーキン侯爵。帝国にとっては辺境の田舎貴族。まともに相手をする心算はなかったが、革命が起こったと言う事は帝国にも飛び火する可能性がある。

 有益な情報を聞きだせるかと期待して参列していた関係者はブリーキン侯爵に対して、非好意的な視線を放っていた。

「アンラック大公国は、皇帝陛下の御威光の下で自治を許された国。帝国とは一心同体です」

 ブリーキン侯爵は妻子を処刑され興奮していた。登城してから一時間近くも革命軍が暴徒であり、恩知らずだなどと罵倒していた。

 皇帝もうんざりして、早く黙らせろと周囲に視線を放つが、それに応えられる者がいない。それほど、ブリーキン侯爵の纏う空気は禍々しく陰鬱な物だった。

「これは帝国と皇帝陛下に対する叛乱です。平民どもの叛乱を許すわけにはいけません」

 彼の瞳は復讐の憎悪に燃えている。正直まともに相手をしたい者など誰一人としてこの場にいない。

「あの謀反人どもを誅する為、ただちに宇宙艦隊の派遣を伏してお願い申し奉ります」

「さようか」

 頭をたれるブリーキン侯爵は皇帝の、面白くも無さそうな表情に気付かない。

 誰かが、ほっと溜め息を洩らした。

 ようやく長い口上が終わった。そんな安堵感さえ漂い始めている。

 空気を呼んで侍従が皇帝に紅茶の入ったカップを恭しく差し出す。それを受け取り、皇帝は興味もないという態度で呟いた。

「アンラックは華麗に滅んだのであろうか」

 その言葉は、傍らに控えていたリヒテンラーデ侯にしか聞こえなかった。

 勿論、表情には出さなかったが、内心、リヒテンラーデ侯は絶句していた。お前らなどに興味はないと言っているような物だ。

 皇帝の視線に気付いて、軍務尚書エーレンベルク元帥が発言する。

「恐れながら、陛下」

「うん。何じゃ」

 皇帝と臣下の間に、暗黙の意思疎通があった。

「現在、帝国はイゼルローンの失陥で多くの兵と艦艇を失い再編中です」

 お前のためにお優しい陛下に代わって言ってるんだぞと、ブリーキン侯爵の方に視線を向ける。

「またカストロプ討伐に兵を割いており、さらにフェザーン領内でも越境作戦中です」

 これ以上、戦場を拡大する訳には行かない。

「新たな戦をする余力はございません」

「そうか。それは残念じゃのう」 

 エーレンベルク元帥は頭をたれながら、隣に立つブリーキン侯爵を伺う。

 皇帝が声をかける。

「聴いての通りじゃ」

 ブリーキン侯爵は納得いかなかった。

(諦めろと、この老人は言っているのか。妻と幼い息子を殺された私に、そう言ってるのか)

 激情がこみ上げて来るのを抑えきれない。怒りで目の前が真っ赤になる。

 顔に憤怒の表情を張り付かせ何か言おうとした。

「……っ!」

 不穏な空気を感じてエーレンベルク元帥は、ブリーキン侯爵の肩を掴み囁く。

「陛下の御前ですぞ」

 ブリーキン侯爵に聴こえる程度の声だったので、周りには漏れていない。エーレンベルク元帥の配慮に感謝し頭を下げる。

「陛下。ブリーキン侯爵はお疲れのようですので、小官が控え室までお連れ致します」

「うむ」

 皇帝は面白そうな表情で二人を見ていた。

 

 

 

 救国革命会議は帝国に対して明白な反旗を翻した訳ではない。

 だが貴族社会に対する敵対は事実だ。腐敗したとは言え、帝国を構成する付庸国の一つ。叛徒が今回の蜂起を扇動していたと言う情報もある。

「イゼルローン失陥で頭が痛いのに、次はアンラックか……」

 艦隊に先んじてイゼルローン要塞失陥の報告の為、一足早く帝都に帰還していたミュッケンベルガー元帥は、エーレンベルク元帥からブリーキン侯爵の話を聞いて顔を歪める。

「イゼルローン失陥の責任を問われ辞任も出来ん。逃げ出す事は出来んが、全てを投げ出したくなる」

 言葉に疲れを漂わせながら言った。

 エーレンベルクは紅茶のカップをソーサーに戻し言った。

「それは私も同じだ。国内治安維持の観点からも、好むと好まざると介入せざるを得ないだろうな」

 その言葉にミュッケンベルガーは頷く。

「そうだな。放置はできん」

 しかしすぐに動ける手駒は少ない。イゼルローンで失った戦力の再編は急務だ。

 イゼルローン解囲の為、送り込んだ艦隊も帰還の途上にある。

 それにカストロプ討伐、フェザーンへの仕置きと言う課題も山積みで残っている。過労死か心労で倒れる事を覚悟する激務と重責だった。

(これが陛下の我々に対する罰なのかもしれぬな……)

 責任ある者は軽々しく辞任など認めぬと言う皇帝の意思を感じた。ならば、自分達は全力で職責を全うするしかない。

「まずは、カストロプ討伐が優先だな」

 軍務省、統帥本部、宇宙艦隊司令部もその事では同意していた。

「帰還途中の艦隊を転用しよう」

 カストロプの早期討伐に向け兵力の追加投入を検討する為、二人は話し合った。

 

 

 

 イゼルローン要塞駐留艦隊で生き残ったのは、遊撃戦力として包囲の外に初めからいたファーレンハイト分艦隊だけだった。駆逐艦「ミステル」は、解囲に参加した艦隊と共に帰路を航行している。

 深刻そうな顔をした乗員達。陰鬱な空気が艦橋を包んでいた。

(空気が思いなあ)

 僕はそんな濁った空気にうんざりしていた。

 要塞の陥落は衝撃的だったけど僕にとっては南ベトナム陥落ほどではない。あれほど米国が支援したのに、手を引いたら呆気なく負けた。

(それと周りの皆は同じような物か)

 そこに報告が来た。

「艦長。分艦隊司令部からの通達です」

 暗号化された文章を、情報端末で艦長固有の数字を入れて翻訳する。

 次はカストロプの討伐参加だと言うことだ。思わず表情を歪める。

(またか。やっと帰れると思っていたのだがな……)

 乗員へカストロプ討伐に参加になったと放送で伝え、航海長に操舵を任せて補給科長と補給計画の見直しの相談を始める事にした。失望した表情を浮かべ、自分に向かってくる視線を感じる。

(僕だって、帰国できる物と思って居たさ)

 苦笑を浮かべる。その時、ふと思いついたことがあった。

 イゼルローンの敗北については緘口令を布かれている。これは、駐留艦隊で生き残った僕達に責任を負わせて、懲罰的意味で前線に送られるのかと言うことだ。

(邪推し過ぎか。ま、どちらにしても、めんどうな事だ)

 副長にフェザーン情勢の資料を集めるよう命じる。情報は幾らあっても構わない。

(あちらでは、フェザーン領内まで越境して敵の訓練所などを叩いているらしいが、反乱鎮圧作戦の初歩だな)

 そこで、ビッテンフェルトが戦死していた事を思い出す。

(あの人は死にそうも無い感じがしていたがな……。やはり突撃馬鹿だったのかな?)

 陽気で良い人と言う印象を受けていた。個人的に親しくしてくれた知り合いだからその知らせは残念だった。

(でも、あの黒なんとかって変な艦隊に誘われなくなったのは良いな)

 とりとめもない事を考えながら会議室に向かう。

 

 

 

 フェザーンは情報を制する事で様々な工作を行う。

 それでも前回は、帝国軍による予想外の越境作戦が行われた。

(楽しませてくれるな)

 そう言った刺激的な防諜の世界をルビンスキーは楽しんでいた。家族に向ける温厚な顔も、シビアな世界を楽しむのも同じ男だ。

(フレーゲルが単独で立てた作戦な訳が無い。おそらくは、あの義眼の参謀だろうな)

 カストロプ問題から意識を切り替え、次の報告に目を向ける。

「ほう」

 ルビンスキーの口元が楽しげに歪んだ。

 同盟のシトレ元帥が、イゼルローン回廊封鎖で成果を上げたロボス派の力を削ぐ為、帝国領内に人材を送り込まると言う事だった。

 帝国の国力を疲弊させ、なおかつ自分の政敵の力を削ぐ。

 厭らしくて矮小な人間らしい計画に、シトレの腹黒さを感じて嬉しくなってくる。

(悪くは無いが、もう一工夫欲しいな)

 議会の承認を受ければ行動を始めると言う。不正規特殊作戦であろうとその辺りは変わらない。

(民主主義か)

 ルビンスキーは画面に映し出された名簿の中から一人に注目する。

「ヤン・ウェンリー」

 旧時代の遺物である兵器を使い、イゼルローン回廊を無価値な物にしてしまった男。使いこなす事が出来れば最高の手札になるだろう。

(この男が欲しいな)

 その為の準備を始める。

「だが、その前に」

 愛する家族にメールで連絡を入れておく。

 いかなる鉄人であっても心を休める時が必要なのだ。

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