導入部分で燃え尽きた残りカス   作:キューブケーキ

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銀英伝に転生してみた 33~34話(1-1を選択)

33.1-1

 

 クルーゼンシュテルンの増援到着で、“大将軍の城”を攻囲していた同盟軍が撃滅され二日が過ぎた。

 その間、ロイエンタール艦隊がパエッタの合流より一足早く、ビュコック艦隊を撃破し、フェザーン主府を目前にしていた。

 帝国にもその名を轟かせていた同盟軍の名立たる提督――ビュコック、ウランフ、ボロディンの三人が戦死した事で障害は大きく減っている。伯父に完全な勝利を報告できると言う現状に、フレーゲルは満足感を覚えていた。しかし、そこへ急報が訪れた。

「伯父上が亡くなっただと!?」

 司令部に通されたのは、ブラウンシュヴァイク公の腹心であるアンスバッハだった。

 包帯を頭に巻き、痛々しそうな表情でアンスバッハは語る。

「リッテンハイム侯の謀反です」

 思わず掴みかかろうとするフレーゲルをオーベルシュタインは止める。

 普段のフレーゲルからは想像も出来ない感情の起伏だが、それも仕方がない。親代わりの後ろ盾であったブラウンシュヴァイク公が逆賊として討たれたのだ。

 予てより帝都において、フェザーン方面への新たな増援が派遣される為、その観閲式が行われる事になっていた。

 観閲式参加部隊である諸侯の軍勢には、リッテンハイム侯の息がかかっており、彼らは帝都を瞬く間に制圧した。その中核的役割を果たしたのが、帝都防衛軍司令部と内務省である。

 これでは、警備や当日の関係機関の情報は駄々漏れであり、泥棒に家の鍵を渡して留守を頼んだような物であった。

「逆らう者は死刑だ」とリッテンハイムは暴虐の限りを尽くした。帝都は血に染められたのである。

 叛乱軍に帝国軍三長官、各尚書もその身柄を拘束された。これで帝国の中枢機関は人質を取られ、その機能を封じられ対抗手段を取ることは出来なかった。

 皇帝の居城においても、師団長不在の虚を突かれ近衛師団は武装解除され、ベーネミュンデ伯爵夫人の館に居た皇帝は、外部との接触を禁じられそのまま拘禁されていた。

 当然ながら政敵であるブラウンシュヴァイク公の館も第1目標の一つとして襲撃された。その時、公は亡くなったという。アンスバッハを下がらせた後、フレーゲルは一人にして欲しいと私室に篭る。

「閣下。リッテンハイム侯の正式声明が放送されております」

 私室で考え込んでいたフレーゲルの下に報告が届いた。立体TVをつけると憎い仇の姿が映った。

 FTLを通して帝国領全土にリッテンハイム侯のメッセージが流されていた。要約すると、君側の奸臣であるヴラウンシュバイク公を討った。皇帝の身柄と帝都は自らの掌握下にある。自分に従えとの事だ。

「おのれ、奸賊め。核ミサイルを撃ち込んでくれる」

 リッテンハイム侯の言葉にフレーゲルは怒りの言葉を洩らす。

(伯父上の仇を討つ)

 その事でフレーゲルの心は決まった。

 シャワーを浴びてさっぱりすると、会議室に主だった将官を集める様指示を出した。

 現状分析をすると、帝都の叛乱に対してただの政変と見るか、そうでないかで行動は異なる。諸侯は静観して様子見を図る物やこの機会にとリッテンハイム侯側に付く者とに分かれる。

 フレーゲルは、ブラウンシュヴァイク公の庇護の下でなら支持者がいたかもしれない。旗色を鮮明にする事を躊躇する者たちが居た。

 この中で最先任にあたる装甲擲弾兵総監のオフレッサー上級大将はフレーゲルの支持を闡明した。フレーゲル自身意外だった。

「そもそもわしは裏切り者と言うものが気に食わない」と言う事だそうだ。それにカストロプ討伐では、部下に自由な裁量を任せて討伐を成功させている。そう言った将として必要な器量をフレーゲルに認めていた。

 オフレッサーが従う事を決めたならほかの者も反対する訳にはいかない。クルーゼンシュテルンもフレーゲルを支持し、他の提督達も従う事に同意した。

 旗色が鮮明になり皆が落ち着いたのを確認したオーベルシュタインは、フレーゲルに今後の方針を進言した。

「こうなっては同盟軍の増援との決戦を回避し、速やかにフェザーンとの和を結び、帝国領内に取って返すべきです」

 自分達は帝国軍宇宙艦隊のほぼ全戦力を与えられている。今なら戦力差でリッテンハイム侯を討つ事が出来る。時間を置けばこちらが不利になるだけだ。

 さらに今現在、相対する敵に対する問題点も続けて説明する。

 幸いにして、フェザーン回廊帝国側出口は帝国軍が封鎖しており、民間船は出入りできない。さらに通信妨害も行われているので、帝国領内の情報流出は制限されている。

「しかし、今回のような事件の情報を完全に封じ続ける事は難しい。無駄に時間を取るべきではありません。敵に帝都の政変を知られる事にもなりかねませんから」

 そうなれば、戦術的勝利を背景に講和を求めると言うこちらの優勢が消し飛んでしまう。同盟が継戦を決意すれば、フレーゲル達はフェザーン回廊に拘束されることになる。

 その前にフェザーン回廊に於ける戦いを終えなければならない。

 フェザーン側への提案は「完全非武装中立とし、同盟軍の撤退を求める。こちら側も兵を退き開戦前の境界を認める」と言う譲歩したものとなる。

「これを蹴る様ならフェザーンは歴史から姿を消す事になるでしょう」

 その様に使者はルビンスキーを恫喝した。

 フェザーンが滅ぶまで帝国の侵攻は終わらない物と思っていたルビンスキーには意外な事だった。帝国軍による完全な情報遮断で、帝国領内の情報が入ってこない以上、判断材料は少ない。

 自治領主ルビンスキーは講和に同意し、同盟政府に艦隊の撤兵を要請した。

 講和締結の報告を受けたフレーゲルは、ただちに兵を帝都に向けて帰還させる。

 後世に、フレーゲルの「フェザーン大返し」で知られる事になるこの講和締結は、リッテンハイム侯の叛乱を事前に知っていたフレーゲルの政治的策謀の結果であると言う意見もある。

 

 

 

 フレーゲル軍はフェザーン回廊からオーディンまでの航路を18日と言う速さで走破した。

 その間、リッテンハイム侯は手をこまねいていた訳ではない。彼に賛同しない者も居るのは分かっていた。

 その急先鋒は、ブラウンシュヴァイク公の可愛がっていたフレーゲル。フレーゲル本人は大した事は無いが、彼を祭り上げて討伐の兵をあげる者が居るといると考えられた。

 帝都オーディンからフェザーン回廊にいたる9ヶ所に拠点を築き、諸侯の兵が動員完了するまで時間稼ぎをしようとした。フェザーンで同盟軍が使った作戦と同じ事だ。

 しかし、それは優秀な指揮官が揃っていて初めて実行できる作戦だ。フェザーンで同盟軍相手に戦ったフレーゲル軍の敵ではなかった。

 先鋒を命じられたのはロイエンタール。目的は敵主力艦隊の誘引だ。

 フレイア星系のレンテンベルク要塞を電撃的に攻略したロイエンタールは、引き続きアルテナ星域でリッテンハイム軍と遭遇した。

 その艦隊を指揮していたのは盟友のウォルフガング・ミッターマイヤーだった。

 

 

 双璧と名高い片割れのミッターマイヤーがロイエンタールの前に立ち塞がった。その事にロイエンタール艦隊に所蔵する将兵に衝撃が走った。双璧が戦えばどちらが勝つかなど悪夢としか思えない。

「ミッターマイヤー提督より、会談の申し入れです」

 通信士の言葉にロイエンタールは頷く。

「会おう」

 きっかり1時間後、ロイエンタールの旗艦に連絡艇がやって来た。私室に通されたミッターマイヤーは普段と変わらぬ気さくな挨拶をした。

 ワイングラスを傾けながら、ロイエンタールが本題に切り込む。

「――で、卿がわざわざ出向いてきたと言う事は、俺に寝返れと言う事か」

 遠慮のない物言いにミッターマイヤーは苦笑を浮かべる。

「はっきり言うとその通りだ。卿とは戦いたくない」

「俺は戦ってみたいがな」

 呼吸音だけで笑い、ミッターマイヤーはグラスに口を付ける。

「卿が宇宙艦隊司令長官、俺が参謀長と言う椅子を用意してくれるそうだ」

 しばらく手元のグラスを見ていたロイエンタールが口を開く。

「卿は倒したい相手が居るだろう」

「何のことだ?」

 ルパート・ケッセルリンク。ロイエンタールがその名前をあげた。

「奴を倒すまで卿の戦いは終われないだろう」

 その言葉を聴くミッターマイヤーの瞳は暗く濁ってる。

(自分からエヴァを奪った男。裏切り者だ。だがエヴァはもう俺の物だ)

 帝都の制圧に加わったミッターマイヤーはエヴァンゼリンを手に入れた。邪魔する両親は殺した。

(もっと早くこうするべきだった)

 ロイエンタール言葉がミッターマイヤーの思考を呼び戻す。

「俺個人としても卿と戦う機会は魅力的だな」

 出来レースだが本気で一度ぶつかり合おうという事だ。その時、ルパートを殺せるかはミッターマイヤーの腕次第と言うことだ。その為のお膳立てはロイエンタールがする。

 ミッターマイヤーはグラスの中身を飲み干すと立ち上がった。

「では、後ほどまた会おう」

「ああ。またな」

 退室するミッターマイヤーの背中をロイエンタールは見送る。

 ファーレンハイトの艦隊が壊滅した所で、投降に応じる。その意思が双方の間で伝わった。

 

 

 

34.1-2

 

 

 ブラウンシュヴァイク公討たれる。その急報が帝国全土に駆け巡ると、諸侯はどちらに付くか旗色を鮮明にしなければならなかった。綺麗事だけではなく、将来性などの損得感情も動く。

 マリーンドルフ伯フランツは、最も初めにフレーゲルに味方をすると決めた貴族だ。貴族だけでなく平民にも信望のある彼が動く意味は大きい。貴族の良識と言われるほどの彼は、元来争い事を好まない性格のため、今回の件でも中立を宣言すると思われていた。

 しかし、個人としてフレーゲルにカストロプの侵略から救われた恩もある。それに、野心家であるリッテンハイム侯とは反りが合わなかったのも理由のひとつだ。今回の件を見れば、どちらが簒奪者であるかなど明白すぎた。

 結果としてフレーゲルは、多量の糧食、飲用水、推進剤などの供出を受けることができ、補給問題を解決して帝都に兵を進める事が可能となった。

「本心としては、争い事に巻き込まれたくない。だが、そうも言ってられない。どちらかに付くならば、大恩あるフレーゲル閣下につく」

「さすが私のお父様です!」

 マリーンドルフ伯フランツの娘ヒルダも、フレーゲルの支持を強く父に薦めた。理論整然と説く娘に同意を示しながら、男子であればと改めて残念に思った。

 娘の見識を素直に喜ぶ父の姿を見て、ヒルダは内心で頭を下げた。

(ご免なさい。お父さま)

 この時、ヒルダの脳裏には赤毛の青年が過っていた。自分の家を守り、知り合った友人を助けられる選択を選んだ結果がフレーゲルに味方する事だった。律儀な父に、自分が囁けばどの様な思考をするかは分かっていた。父を利用したことに後ろめたさを覚えながらも、ヒルダの中で重要な位置を占めだしていた青年を見殺しにせず済むことでほっといていた。

 

 

 

 賊軍扱いを受けていても錦の御旗はこちら側にあるとフレーゲル達の士気は高かった。リッテンハイム侯に付いた者達を帝国軍の一員とは認めない。よって友軍相撃でもないと理解した。

 リッテンハイム侯側の兵に比べて、フレーゲル軍は正規軍を中核としており練度も異なる。これまでの対叛乱鎮圧作戦の延長と考えれば良いのだ。

 カール・グスタフ・ケンプ、コルネリアス・ルッツ、アウグスト・ザムエル・ワーレン、エルネスト・メックリンガー、ナイトハルト・ミュラー、ウルリッヒ・ケスラーと言った提督達が、フレーゲルに運命を託している。

 装甲擲弾兵総監自らが格下のフレーゲルに従っている。その為、帝都解放の地上戦で敵の矢面に立つ装甲擲弾兵に不満はなかった。

 フレーゲルは自身に軍事的才能がないことを理解しており、指揮を任せながら自らもリッテンハイム討伐に同行する心算だった。しかしオーベルシュタインが反対した。

「閣下」

 体に熱を帯びて高揚していたフレーゲルの意識に、冷静に現状を把握しているオーベルシュタインの言葉が水をかけた。

「閣下は我らの盟主であり、不用意に前線で戦死でもされては閣下の大義を信じて付き従う我らが路頭に迷う事になります」

 伯父の仇を討ちたいのは理解できるが、神輿は安全な要塞で待機して動くなと言う事だ。不承不承ながらもその意見が正しい事を認め、クルーゼンシュテルンをフレーゲルの代理指揮官としてオーディン解放の主力を預けられた。

 リッテンハイム軍は、虎の子の精兵がロイエンタールに拘束されている為に、フレーゲル軍主力の進行を阻止できる手駒がないと考えられた。

 ラインハルトの人物評価でクルーゼンシュテルンは凡庸だが、フレーゲルにとっては信頼できる将の一人だ。共に肩を並べて戦う時に求められるのは軍事的才能ばかりではない。人として信頼できる事だ。若手の提督を纏める上でも、クルーゼンンシュテルンの年齢と実績に期待されたのだった。

 クルーゼンシュテルンは期待に答え、オーディンに至るまでの航路に、縦深陣地の様に配置されたリッテンハイム侯爵の艦隊を正攻法で撃破して行った。

「鎧袖一触とはこの事ですな」

 快進撃に幕僚からそのような言葉が漏れた。

「油断するな」

 勝利に驕ること無くクルーゼンシュテルンは指揮官としての重圧に晒されていた。

 最後に、帝都を望む軌道上に立ち塞がった艦隊の指揮官はウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ上級大将であった。

 老練なメルカッツにとってはフレーゲル軍の動きは読めた。ロイエンタールに与えられた戦力は少なくないが、フェザーンに投入された戦力の半分にも満たない。ならば、リッテンハイム侯についたこちらの戦力を誘引し、その間に手薄となったオーディンを狙うと考えられた。

 敵艦隊の構成が情報端末に表示される。その中に見知った者の姿があった。

「敵の指揮官はクルーゼンシュテルンか」

「そのようです」

 クルーゼンシュテルンの旗艦を覚えていたシュナイダーが頷く。

 かつての部下達と刃を交わすとに当たって、メルカッツは挨拶をしておく事にした。

 

 

 

 12月28日、ヴァルハラ星系で対峙する両軍の間で、通信回線が開かれた。

「メルカッツ閣下が何故、リッテンハイム侯の側になどに付かれたのですか!」

 尊敬する恩師との対面に、クルーゼンシュテルンは質問を投げ掛ける。幕僚は興味深くその会話に聞き耳を立てている。

『家族が人質になっておってな。私としても不本意だが、全力で当たらせて貰う』

 メルカッツの傍らにはベルンハルト・フォン・シュナイダーも控えていた。ここが戦場でなければ、懐かしい再会と思った事だろう。だが、今は感傷に浸る時ではない。彼らと自分達は敵味方に別れた。

 消えた通信画面を、苦渋に満ちた表情で見ていたクルーゼンシュテルンは攻撃命令を出す。

「相手が誰であろうと退くわけにはいかん……」

 フレーゲルに付き従うと決めた以上、クルーゼンシュテルンに後退の選択はなかった。

 旗艦のスクリーンに各級指揮官が映し出されている。FTLで各艦が繋がれ簡単な打ち合わせが行われていた。

 それぞれの手元に送られた彼我の情報。それによると、メルカッツ艦隊は、オーディンの時点周期に合わせて帝都上空に位置する軌道上に展開していた。

「これでは帝都を人質に取られたような物ではないか!」

 例え、メルカッツ艦隊はを撃破しても残骸が地表に落着すれば甚大な損害を与える。チャモチャで目撃した光景が目に浮かぶようだ。

 この時代の艦艇は、特殊鋼が艦体の外殻を構成しており、その発達は水上艦艇と同じ様に装甲の厚みが競われた。エネルギー中和磁場の開発、それを突き抜ける実体弾の開発。それに対抗する為の装甲の開発と盾と矛の関係は続いた。

 一撃で沈める事ができれば問題ないが、中途半端に核融合炉に被害を与えたままオーディンに落着されれば、放射物質を拡散させる事になる。

 帝都に軌道上から侵攻する敵を迎撃するために構築された濃厚な防空網がこう言う時にこそ機能しなければならないが、その照準はフレーゲル軍の艦艇に向けられていた。

「奴ら。まさか、落下してくる残骸まで放置はしないだろうな……」

 幕僚の懸念ももっともだ。皇帝に万が一、被害が及ぶことを考えると中々、手出しができない。

『要は残骸を落とさなければ良いのだろう』

 オフレッサーが楽しそうに白兵戦で制圧する事を提案した。

『目指すのは、メルカッツの首一つだ』

 極上の美女を相手に一晩を過ごす様に、恍惚とした表情を浮かべながら告げた。

「しかしオフレッサー閣下……いえ、何でもありません」

 オフレッサーの視線をスクリーン越しに受けて、クルーゼンシュテルンは黙りこむ。

(本当に戦いが好きな方なんだな……)

 諦めの表情を浮かべるとクルーゼンシュテルンは、メルカッツの旗艦に兵を送り込む計画を考え始める。打ち合わせで優秀な参謀達が立てた計画は簡単だ。中和磁場を出力全開にした戦艦2隻を、事前に行うワルキューレと宙雷戦隊の突撃で混戦に持ち込んでいる間に旗艦へ接近させる。

 同時に強力な電波妨害、煙幕展張などで目眩ましをして、旗艦を挟み込むように舷側へ体当たりさせて固定しつつ、突入口を開けて一気に制圧する。旗艦さえ黙らせれば、後は烏合の衆。敵艦隊は崩壊すると考えられた。

「わしがメルカッツの首級をあげるから、しっかりと見ておけよ」

 オフレッサーは自信たっぷりに言い切った。

 

 

 

 メルカッツ艦隊の射程ギリギリでクルーゼンシュテルンは艦隊を出し入れしながら、若手貴族が暴発して出てくるのを待った。メルカッツにとって見え透いた挑発だが、麾下の貴族達には効果はある。

 フレーゲル軍の攻撃はメルカッツ艦隊の小艦艇から先に攻撃してくる。

(嫌な場所を探し当てて攻撃してくる)

 主力艦の装備する大出力ビームの集中射撃だと、大型の主力艦は別としても、小艦艇だと塵も残さず消滅させる事ができる。中和磁場による防御を重点的にするが、確実に戦力を削られていく。

「ワルキューレを出せ。敵の砲撃を撹乱する」

 メルカッツも受け身なだけでは、味方の士気が低下すると知っている。回避運動を行いながらも、攻撃隊を繰り出した。

「敵艦載艇の出撃を確認!」

(ようやく動いたか……)

 突撃を支援するため、混戦に持ち込まなくてはならない。

 メルカッツ艦隊の動きに合わせて、こちらも追加の戦力を投入する。

 高速で艦隊の防空圏に突っ込んでくるワルキューレに対して、CSPで上げられていたフレーゲル軍のワルキューレが迎撃に向かう。

「頃合いは良いな」

 ワルキューレの統括指揮を任されていたケンプは、宙雷戦隊を前進させるよう連絡を入れる。

 突撃にあたる宙雷戦隊は、友軍の通信妨害開始により通信管制ができない為、一撃離脱に徹させている。ワルキューレの空戦隊も格闘戦には持ち込ませない。

 駆逐艦が沈んだ哨戒線の穴を塞ぐ前に、傷口をえぐるようにワルキューレの支援で宙雷戦隊が殺到してきた。主力艦から濃厚な突撃支援射撃も行われている。

 推進機関に致命的な損害を与えて、操舵できないようになった艦艇が惑星の重力に引かれて落下していく。その様なことが起きないよう緻密な精密照準で支援射撃は行われていた。

(ううむ、さすがは帝国軍……)

 メルカッツは帝国軍に所属した者として、自軍の練度を遥かに凌ぐ帝国軍に喜びを覚えていた。

(貧弱な部分を探し当て、そこを重点的に攻めるのは戦術の基本だな)

 こうして砲火を交わすと敵の技量がよく理解できる。

 現状がこれ以上優しくなるとは考えられない。あとどれくらい持ちこたえられるだろうかが関心事だった。

『メルカッツ提督。このままでは奴らに良いようにされるだけです!』

 若手貴族が挑発に乗り激発しそうだった。

「卿らを動かすのが彼らの狙いだ。動くことは許されない」

『しかし……』

 なおも食い下がらず指揮官に不服従な態度を取る貴族に呆れた。軍制や軍令を理解できていない小僧だ。

(度し難い馬鹿者め。これだから敵に圧されるのだ)

 奥歯を噛み締めてメルカッツは怒りを抑える。

 強力な通信妨害も始まった。精密照準で、緻密な射撃計画に従って大出力のビームと無数のミサイルが束となって放たれる。

 宙雷戦隊は煙幕を展張しなが駈け回っている。有視界戦闘に追い込まれ、僚艦との接触事故が多発した。

「忌々しい奴らだ!」

 艦長が洩らした言葉にメルカッツも内心で同意する。

 ただでさえ通信妨害も行われており、回避運動は困難になっていた。

 戦艦とは強力な砲戦能力と、艦隊指揮できる設備つまり生存性の高さが売りだ。図体が大きい分、運動能力には制限があり、ワルキューレのような敏捷性は期待できない。

 敵の砲撃と艦載艇の攻撃に応対していると報告が入る。

「敵戦艦。本艦に突っ込んできます!」

 気付いた時には、回避不可能な距離に迫っていた。

 反航戦でも狙っているのかとも考えたが、あまりにも至近距離で相手の艦を攻撃した場合、自艦が損害を受ける可能性があった。

(混戦で視界も不良。だから至近距離まで迫ったのか)

 メルカッツもすべてを見通せるわけではない。偶然の産物だろうと、敵の戦艦が接近してきた現状を考えていた。

「衝撃に備えろ」

 艦長が艦内に指示を出して間も無く、衝撃が襲ってきた。

「敵が侵入してきました!」

「狙いは本艦の指揮機能か」

「敵を排除しろ!」

 艦長の指示で乗員が迎撃に向かう。しかしながら相手はオフレッサー上級大将が直接指揮する装甲擲弾兵の精兵。メルカッツの旗艦に選ばれた乗員達とは言え陸戦では素人だった。「精強たれ」を装甲擲弾兵総監要望事項として心身を鍛え技能を磨いてきた男達は、野に放たれた殺戮の野獣だった。通路は瞬く間に、流血で深紅に彩られていく。

「くそ! 装甲擲弾兵が相手だ何て無茶だ」

 ろくな装備もない敵の抵抗を簡単に排除しながら、オフレッサー達は通信室、CIC、艦橋と限定された制圧目標に向かう。

 

 

 

「通信室が制圧されました!」

 その報告にメルカッツは眉をひそめる。これで、負け戦が決まった事を確信した。

 旗艦の通信設備が制圧されると、メルカッツの指示が受けられない事から、統制が利かず艦隊は崩壊しだした。仕方ないのかもしれない。

 軍事史から見て浸透戦術が誕生したのも部隊が統制できたからだ。艦隊の統制ができなければ、古代の戦争のように方陣で戦うしかない。通信手段の回復を行おうにもフレーゲル軍の通信妨害は激しい。それで、よく相手も動けるものだとメルカッツは感心する。

 文字通りメルカッツ艦隊を蹂躙するフレーゲル軍。軌道上に位置していたメルカッツ艦隊を押し上げようと、下方からの攻撃が激しいものになっている。我慢せずに移動しろと言わんばかりだ。正面切っての正攻法での戦いでは練度と数が者を言う。

「敵艦隊は帝都上空から離れています」

 中性子ビームにより牽制の射撃を行っていたクルーゼンシュテルンは、行動の自由を得た。

「よし。全艦突撃! 奴らを蹴散らしてやれ」

 今度は遠慮はせず、大出力のビームや実体弾が放たれる。

兵の質も数も劣っていた為、負けるのは必然だった。

 敗北が決まった瞬間、歯抜けの櫛のように戦列から逃亡する艦艇が次々と現れた。

『負け戦に付き合う義理はない!』

 その台詞にシュナイダーは顔を歪める。敬愛する上官は達観したのか制止しようとしない。

「かくも醜悪な姿を見せられようとは!」

 艦橋に通じる隔壁の外では乗員達がまだ抵抗を続けている。

「シュナイダー少佐。貴官も早く退艦することだ」

「いえ。閣下に最後までお供させて戴きたいと思います」

 メルカッツは呼吸音だけで笑うとクルーゼンシュテルンに通信を開くよう命じた。

 

 

 

「敵旗艦より入電」

「繋いでくれ」

 スクリーンにメルカッツが姿を現す。シュナイダー少佐に支えられたメルカッツは、どこか負傷したと外観からは分からないが苦悶に耐え脂汗を浮かべていた。

「メルカッツ提督。降伏して頂けませんか?」

『それはできない』

 予想していた答えだが、失望を感じていた。

『だが私以外の者は命じられ従っただけで責任は無い。彼らの事を頼む……』

 続く言葉で納得する。部下の投降に関しては認めるということだ。

 皇帝に叛旗を翻した大逆罪は極刑を免れず、良くて終身刑だ。この戦いの勝敗が見えた以上、彼らの未来が明るいはずもなかった。

「できる限りの尽力をお約束します」

 スクリーンに映るメルカッツの表情が和らいだ。

 

 

 

 クルーゼンシュテルンとの通信を終えたメルカッツの耳に爆発の轟音が聴こえた。

 艦橋に通じる隔壁を破壊して、粉塵と共に装甲服を見にまとった兵士たちが雪崩れ込んで来る。見慣れた装甲擲弾兵だ。

「くそ!」

 咳き込みながらもブラスターを取り出して抵抗しようとした部下がすぐに組伏せられた。

「武器を捨てろ!」

 抵抗しても無駄な事はすぐに理解した。

 先頭に立つ巨漢の敵兵を視界に納めて、メルカッツは瞳を細める。

(なるほど、これでは勝ち目が無いな)

「久しいなメルカッツ」

 宇宙艦隊と装甲擲弾兵。所属は違うがかつて同じ戦場で指揮を執った身。面識はある。

「お久しぶりです。オフレッサー上級大将」

 オフレッサーが人の悪い笑顔を浮かべながら尋ねる。

「訊くだけ訊いてみるが、降伏しないか?」

 その言葉に、メルカッツは屹然と答える。

「銀河帝国軍の上級大将は降伏などしない」

 メルカッツは以前、自由惑星同盟に投降した帝国軍の提督を痛烈に罵倒していた事がある。「帝国軍の将帥官は叛徒への投降よりも、名誉ある自決を選ぶべきだ」と言っていた。若かりし時の言葉とは言え、自らその言葉を違える気はなかった。むしろ、クルーゼンシュテルンの言葉を断った時に死を覚悟していた。

 オフレッサーは自分の甘さに呼吸音だけで笑った。古い武人であるメルカッツの答えは分かっていた。だが、訊かずにはおれなかった。

「ならば死ね」

 聞く者によっては冷酷に思えるその言葉も、武人の名誉を守ってやろうというオフレッサーの想いだった。

 それが敗者の責任の取り方とメルカッツはオフレッサーの言葉に頷く。瞳には感謝の思いがこもっていた。

 オフレッサーは瞬きする間も与えず、戦斧を一閃させメルカッツの首を跳ね飛ばす。痛みを与えず一撃で切り落としたのが、せめてもの温情だった。

「メルカッツ提督!」

 シュナイダーの叫び声が艦橋に響く中、メルカッツの戦死が信号弾で報告されると通信妨害が解除され、降伏勧告が残存艦艇に行われた。

 

 

 

 偵察衛星によると、皇帝の居城の上空には雨雲が立ちこめており、直接、降下を行うには不向きな天候だと言う。その報告に天候回復を待つべきだと慎重論が出た。降下作戦の責任者であるオフレッサーはその意見を言った参謀の襟首をつまみ上げて一括した。

「馬鹿者。皇帝陛下の下に馳せ参じるのは臣下の務め! 悪天候ごときで臆してどうする!」

 装甲擲弾兵に臆病者はいない。その言葉で決定した。

 かくして、帝都解放の主隊である降下部隊は、クルーゼンシュテルン中将の援護下で降下開始した。

 勇将の下に弱兵はいない。士気を高める部下達に満足感を覚えると共に、オフレッサー上級大将は皇帝の居城へ一番乗りをした者は、二階級を特別昇進させてやると鼓舞していた。

 敵も皇帝を奪われては、元から無い大義名分が暴かれ、簒奪者は誰かと白日の元に晒されてしまう。兵の士気が瓦解するのは早い。遅かれ早かれ、フレーゲル軍が降りてくる事は明白だ。味方艦隊の敗北すら計算に入れて戦力を集結させていた。この事実を偵察によって知ったフレーゲル軍の指揮官達は激しい抵抗を予想した。

 

 

 

 オフレッサー達がオーディンに到達したことでロイエンタールは、敵艦隊の誘出と拘束と言う任務を半分以上果たしたと言える。

(後は、ミッターマイヤーが上手く片をつけるかだな)

 リッテンハイム侯側に集まった兵力は艦艇5万隻。そのうちの14,500隻をミッターマイヤーは与えられていた。相対するロイエンタールは艦艇16,000隻。

 最強同士の戦いは、時にして弱者がぶつかり合うよりも凄惨な損害を出すと言う。両軍は睨み合いを続け緊張が頂点に達するまで時間はかからなかった。

 自軍の司令官が、自分達の頭越しで敵の司令官と通じているとは思いもしない。ファーレンハイトは全力でぶつかった。

「今こそ、恥辱を晴らす時だ」

 ファーレンハイトは、指揮権を奪われ拘束された事を忘れていない。だが、直接手を下せる復讐の機会が訪れるとは思っていなかった。その心は歓喜に満ちていた。

(大神オーディンよ。この機会を与えてくれた事に感謝します!)

 そしてミッターマイヤー艦隊もまた、殺気をたぎらせてまっしぐらにファーレンハイト艦隊に襲いかかってきた。これで出来試合などと信じる者はいない。

「敵艦隊は前衛と交戦に入りました」

 疾風ウォルフの名に違わず、凄まじい勢いでファーレンハイト艦隊の戦列を削り取って行く。ファーレンハイト艦隊の戦闘損耗率が急角度の曲線を描いていく中で、幕僚の中から声が上がった。

「少々、損害の多さが気になります」

「ファーレンハイトを囮に敵を引き付けて、これを捕捉撃滅する」

 ロイエンタールは救援を差し向けようという幕僚の進言に対して、その様に答えた。

(ミッターマイヤーとの約束もあるしな……)

 

 

 

 皇帝の居城”新無憂宮”は武骨な武装した集団によって制圧下にあった。リッテンハイム侯の私兵だ。皇帝はベーネミュンデ侯爵夫人の館で軟禁状態にあった。

「返事を聞かせて戴きましょうか、陛下」

 館に訪れたリッテンハイム侯は、身綺麗な正装をしているが皇帝に敬意を表しているわけではない。その事は、楽しみで仕方ないと浮かべられた表情が物語っている。

「皇帝の地位がそれほどに欲しければ、余を殺せば良い」

「私としては、皆の前で正式に禅譲して戴きたかったのですが……致し方ありませんな」

 リッテンハイムは、やれやれと大袈裟な身振りをしてため息を吐いた。皇帝の返事に失望したわけではない。文字通り、本当の意味での簒奪者になる。それもまたよ良しと言う気分だった。

「陛下の処刑を指示するのは真に心苦しい事ですが、仕方ありません。処刑は明日の正午、場所はここで。最後の晩餐をお楽しみ下さい」

 雨が止んで天気が快復していると良いのですけど、と告げるてリッテンハイム侯爵は去って行こうとした。

「この裏切り者!」

 シュザンナの罵倒の声をリッテンハイム侯爵は笑って聞き流す余裕があった。

「ああ。ベーネミュンデ侯爵夫人、安心してください。貴女も直ぐに後を追わせて差し上げますよ」

 リッテンハイムに掴みかかろうとしたシュザンナを抱き止めながらも、皇帝は最期の時を本当に自分を愛してくれている者と共に過ごせることに暗い喜びを感じた。

 

 

 

 軍隊は包囲が大好きだ。今回もファーレンハイトは、自分達を囮にロイエンタール艦隊主力がミッターマイヤー艦隊を包囲するであろうと考察していた。その意図をミッターマイヤーに読まれないよう、自分達は激しく攻撃を敢行すべきだと判断した。

(ミッターマイヤー提督は攻撃にこそ優れているが防御は脆い)

 フェザーン進攻作戦での経験からそのように感じていた。

 何度もファーレンハイト艦隊にぶつかって来るが、強引な攻め方では長続きはしない。幾度目かの攻撃が破砕された時、ミッターマイヤー艦隊が戦列にだらしなく口を開けていた。

(こちらを誘っているのか)

 巧妙に偽装されているが、そこに食い付けば締め付けられて、こちらの小指がもぎ取られる。そう言った罠だと判断した。 しかし、考える。

(虎穴に入らずんば虎児を得ず。あえて、死中に活を見出だすという手もあるか)

 ロイエンタール艦隊主力が動かないと言うことは、自分達が満足な成果をあげていないと考えられた。

 ファーレンハイトはミッターマイヤーの用意した罠に食いかかる選択を選んだ。

 ミッターマイヤー自信、自分が狂っているのか正常なのかはわからない。両親の死体の横で泣き叫ぶエヴァンゼリンを犯した後、絞殺した。エヴァンゼリンは二度とルパートに逢う事も無い。

(今はルパートを殺すだけだ)

 自嘲気味に笑うミッターマイヤーを見て、リッテンハイム侯からお目付け役として付いてきた若手貴族は背筋を寒くさせた。

 事情を知らずにここまで付いてきた一般将兵は不幸だった。自分達の知らない所で生殺与奪の権利が握られているのだから。ミッターマイヤーは確実にルパートを殺せる機会を作るため、損害を躊躇しない。

(リッテンハイム侯に味方した事を父や母が知ったら軽蔑するだろうか)

 従弟を殺したことが家族に発覚すれば、どう非難を受けるのかわからない。

(上手く混戦状況を作らねば……)

 ロイエンタールとは戦いの落とし所について話はついている。

「さすがは疾風ウォルフ。楽しませてくれるな」

 巣穴に突っ込んだファーレンハイト艦隊に艦載艇が襲いかかってくる。予想通り待ち伏せの展開だが、耐えれない程でもない。

 

 

 駆逐艦「ミステル」は輪形陣の一角を構成して来襲するワルキューレを迎撃していた。敵味方識別装置が役に立たない為、第二次世界大戦のような目視で確認する。

(母さん達、無事だと良いな。兄さんも何を考えて叛乱なんかに加わったんだ?)

 僕はスクリーンを注視しながら防空の指揮を取っていた。

 味方を誤射する可能性もあるが仕方無い。それは敵も同じ条件だ。こちらに攻撃姿勢をとって急接近してくれば敵だという判断だ。

 照準の追尾は自動で行われるが、敵味方識別が問題点だった。そこで各艦艇は目視の見張り員をレーダー見張り員とは別に配置する事で対応した。

「落ちろ蚊トンボ!」

 うるさく付きまとうワルキューレを火線が捉え撃墜した。

 ほっとしたら、激しい衝撃を感じた。

「ミステル」の艦体を「ベイオ・ウルフ」から放たれた青い矢が貫く。

「艦尾被弾!」

 スクリーンを見ると、こちらに向け砲撃して来る艦影が在った。

 戦艦「ベイオ・ウルフ」。兄さんの旗艦だ。

「流石は兄さん、やるな」

 この混戦に紛れて兄さんは、大胆にも旗艦を含む司令部付隊を前進させて来た。その敢闘精神に僕は敬意と驚きを覚える。

(司令部を最前線に投入するなんて常識外れだ。戦国時代の武将では無いのだから、陣頭指揮なんて今時、流行らない。だが本当の英雄は違う)

 駆逐艦と戦艦では「ミステル」の完敗だと一瞬で答えが導き出せる。

(だけど、兄さん。前に出すぎると弾に当たりやすいし目立つよ)

 負け惜しみではないが、その様に思った。

 艦内を火炎が隔壁を吹き飛ばし駆け抜けて来る。

 僕の視界を眩しい光が覆った。

(あっ……)

 反応炉が爆発し「ミステル」も光球に包まれる。

 

 

 

 スクリーンで「ミステル」の沈む様子を確認したミッターマイヤーは、漏れそうになる歓声を圧し殺す事に苦労した。

(やった。遂にやったぞ! 遂にあの忌々しい従弟、ルパートを始末した)

「さらばルパート、君との楽しかった思い出を俺は忘れない。いつまでも、いつまでも

……」

 そこまで言って耐えきれなくなったミッターマイヤーの哄笑が「ベオウルフ」の艦橋に響く。

 その瞬間、「ベオウルフ」もファーレンハイト艦隊の一隻が放った砲火に捉えられ撃沈される。

 ルパートに数秒遅れてミッターマイヤーもヴァルハラに召された。最期の瞬間、その心は勝利によって満足感に満たされており、自分に迫った死に気が付かず幸せであったと言える。

 ミッターマイヤー艦隊は司令部が壊滅。その動きは繊細さを欠ける物となった。

 ロイエンタールは突然、指揮系統が乱れたのを感じ取った。

(急に手応えが無くなったぞ)

 不振に思ったロイエンタールは、「ベイオウルフ」の位置を確認するよう命じたが、反応無しの返事が返ってくるだけだった。

 密約による投降の機会を逃したロイエンタールは、統率を失ったミッターマイヤー艦隊を圧迫し包囲を完成させてしまう。

「くそ。ミッターマイヤーの馬鹿野郎」

 ミッターマイヤーの統率だから諸侯の寄せ集め艦隊とは言え戦えたのだ。指揮官先頭の陣頭指揮による弊害が如実に現れた。

「敵を殲滅する。遠慮は無用だ!」

 やる気になったロイエンタールの攻撃命令が下り、戦闘は思惑を外れて混迷を深めて行く。

 

 

 

 メルカッツ艦隊の敗走により、皇帝処刑を一日前にしてフレーゲル軍が降下してきた。対する銀河一濃密な帝都防衛軍の防空部隊は、家族を脅かされるという脅迫で協力を余儀なくされた指揮官たちによって運用されていた。早期警戒衛星は、艦隊からの攻撃で破壊されていた為、目は潰されていたといえる。

 日付が変わった深夜、第37戦術戦闘航空団の対地兵装をしたワルキューレ30機が、防空司令部ろ帝都防衛軍司令部に「くたばれリッテンハイム」と書かれたレーザー誘導爆弾を投下した。リッテンハイムに同調していた事が判明したからだ。攻撃隊には帝都を攻撃するため、針の穴に糸を通すような精密爆撃が要求された。

 続いて餌食となったのは発電所で、軌道上の艦隊から巡航ミサイルが放たれ破壊された。

 その後、電子戦支援機を先頭にして、対地爆装したワルキューレが700機。数十個の編隊に分かれて、敵防空網制圧を開始した。この攻撃には、欺瞞として囮用の無人機が大量に投入され、敵の防空火器を引きつける成果をあげた。

 地上では帝都を大きく迂回して降下した装甲擲弾兵が、敵の虚を突いて”新無憂宮”に躍りこんだ。華麗な庭園を誇った皇帝の居城が、皇軍相撃する戦場となるのに時間はかからなかった。

 オフレッサーは敵を排除するに当たって遠慮をするつもりはなかった。

「全火器の使用を許可する」

 速度こそ全てと、小銃程度の抵抗でも無反動砲や擲弾筒発射器、手榴弾を使って排除していった。バラの香りは血と硝煙によって打ち消されている。

「閣下と闘える機会を楽しみにしておりました」

「ふん」

 オフレッサーの前に相対したのは、リューネブルク。リッテンハイム侯の切り札だった。

「一度裏切った者は二度目も簡単に裏切るか……」

 オフレッサーの言葉に、リューネブルクは僅かに眉を寄せる。同盟からの亡命、それと今回の叛乱参加の件を言っているのだ。

 本心を言えば、義兄に家族の安全を脅かされていた。あの場で協力を拒めば、自分達の命は危うかっただろう。今でも、今回の蜂起に当たり家族に危険が及ばないようにと言う名目で護衛が家に張り付いているが、監視目的の人質に間違いなかった。

(人の気も知らないくせに簡単に言ってくれる)

 リューネブルクは、絶対的正義を信じて闘えるオフレッサーに、自分の立場と違う事で羨望と怒りを感じた。

「ほざくな! 勝てば官軍よ」

 リューネブルクは憎悪の色を瞳に浮かべながら戦斧を振るってきた。

「猪武者では勝てんぞ」

 オフレッサーはリューネブルクの機動を装甲服の表面で滑らせるように回避し、足払いを仕掛ける。

「ちっ!」

 地面に打ち付けられたリューネブルクは舌打ちをしながらも、体を回転させ距離を取ろうとする。時間にして数秒の判断だ。先程まで、リューネブルクの倒されていた地面にオフレッサーの戦斧が叩きつけられて、芝生を飛び散らせる。

 姿勢を立て直したリューネブルクに対してオフレッサーは冷笑を浮かべている。

「かかってこい小僧。お前の力を見せてみろ」

 オフレッサーの挑発にリューネブルクは乗ることにした。戦況を逆転するには敵の指揮官を倒すしかない。この戦場に限れば相手はオフレッサーだ。

 何度目かの打ち合いの後、決着の瞬間が来た。

 リューネブルクは息が上がってきたが、オフレッサーに変わりは見えない。

(化物め!)

 オフレッサーの年齢を考えるなら、その体力は驚異的に思えた。

 渾身の一撃がオフレッサーの頭部を捉えた。ヘルメットが割れ、オフレッサーの額に刃が食い込む。

「くっ」

 その瞬間、リューネブルクは自分の勝利を確信した。

 しかし、鋭い痛みを首元に感じた。視線の先に伸びたオフレッサーの腕が見える。

(その先は……)

 リューネブルクの意識が暗転する。

 オフレッサーも銃剣でリューネブルクの首元を突いていた。ごぽごぽと血の泡を噴きながら倒れてくるリューネブルクを遠慮なく払い除ける。

「得物が一つと思わぬ事だ」

 そう言うオフレッサーも実は出血で体力を消費していた。芝生に膝を着き息を吐く。

「オフレッサー閣下!」

 副官が駆け寄ってくる。大丈夫だと片手を上げて反応するオフレッサー。

 オフレッサーがリューネブルクと闘っている間に、館に向かった部下は皇帝の救出に成功した。護衛に囲まれた皇帝の姿がオフレッサーの視界に写った。

 

 

 

 帝国歴487年12月31日。フレーゲル軍は多数の損害を出しながらもリッテンハイム軍を撃滅。翌年にはオーディン周辺の敵軍を一掃し帝都を奪還した。

 皇帝の勅令が下りリッテンハイムは賊軍とされた。形勢不利と見た諸侯は次々と投降していき、リッテンハイム侯は逃亡中に部下に殺害され、帝国内戦は首謀者の死亡を以て終結する。

 

 ルパート・ケッセルリンク。最終階級大尉、駆逐艦「ミステル」艦長。死後中佐に昇任。

 

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