導入部分で燃え尽きた残りカス   作:キューブケーキ

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本作はにじファンで、らいとすたっふルール2004にしたがって作成し、掲載していた未完作品です。黒歴史の再掲載にあたり、手直しを少ししています。撃墜されていなければ「バウワンコ」の話になります。


銀英伝に転生してみた 1~3話

1.前世の部分

 

 

 僕の名前は野比のび助、41歳。世間で普通のサラリーマン。

 妻の玉子と息子ののび太、ドラえもんが家族だ。

 大学卒業後、CIDGに誘われインドシナ半島をLRRPとして戦った。フェニックス作戦がリークされ発覚すると、変わりにローデシアでの仕事を斡旋された。

 同じ共産主義者との戦いだ。特殊部隊セルース・スカウツでモザンビークやザンビア、ボツワナで戦い、1980年には南アフリカ国防軍に雇い主が変わった。

 第32大隊に大尉として着任。「大学卒業後の人生=軍歴」で、給料も悪くない。

 1975年のサバンナ作戦以降、南アフリカは本格的にアンゴラに介入し、僕らの大隊も、UNITAを支援して各作戦に投入されていた。

 そして1981年10月12日、ハンドバック作戦が始まった。目的はアンゴラ領内のSWAPO根拠地の撃滅だ。

 担当地区のパトロールが終り、遅めの昼食を摂っていると中隊本部に呼ばれた。

「ノビー。君のティ-ムに仕事を頼みたい」

「はい中隊長」

 机の上に地図、写真、報告書が広げられている。

「二日前、アンゴラ北東部で哨戒中の友軍機が、木製ヘリコプターの攻撃を受けて反撃し撃墜した」

 写真には黒焦げに焼けた機体の残骸が写っている。

「飛来した方向からコンゴ領内と判断される」

 なるほど、モザンビークやローデシアのパターンか。

「空爆で叩くので、敵の根拠地を探し出し誘導してくれ」

 また越境作戦だと、その時はそれぐらいにしか考えていなかった。

 月並みな言い方だけど、まさかあんなことになるなんて思っても見なかった。

 移動経路、休止点、無線周波数の割り当て、呼び出し符号などの打ち合わせを終えると、補給担当から必用な装備・消耗品を受領し、翌朝にはすぐ出発だ。

 友軍の支援を受けられない越境作戦のため、携行する装備は今回多くなる。

「SA7はどうしますか」

 ティームの先任下士官、ミステル・ヤオイ曹長が尋ねてくる。

「いや。今回はいい」

 個人携行火器として9ミリマカロフ、AK47、銃剣、手榴弾。分隊支援火器のPPKと対戦車用にRPG-7、対人地雷も持っていく。携行無線機と予備電池。それぞれの予備弾倉や戦闘糧食、2リットルの水筒、寝具に雨具や着替え、予備の戦闘靴などを含めるとかなりの荷物で、疲労を考えると携帯式対空誘導弾は、車両ならともかく長距離の徒歩移動では辛い。

 翌朝、ヘリでアンゴラとコンゴ国境地帯まで空輸されてる途中、撃墜された。

 あっけないものだ。

 それまでの準備がすべて無駄になったし、残された家族が心残りだとか、考えている暇も無かった。

「うわ」と我ながら情けない台詞しか出なかった。

 衝撃と熱風に体が切り裂かれる痛覚を感じたのは覚えてる。

 そこまでだ。

 だから撃墜されて僕は死んだのだと思う。

 

 

 

2.開幕

 

 もし過去に戻れたら、もし生まれ変われたら、そうしたら違う人生を歩んでみると一度ぐらい考えたことはある。

 だけど、まさか未来とは……。

 帝国暦466年。ルパート・ケッセルリンクの名前で、僕はフェザーン自治領に生れた。

 勿論最初から、野比のび助としての記憶があった訳ではない。2歳半になって会話できるようになった時、お風呂で転んで頭を打って生前の記憶を一気に取り戻した。

 日本での生活。妻と子供たち。

 インドシナの樹海で雨に打たれた事。初めて敵を殺した時は体が震えた。南ローデシアの川で、中隊のマスコットとして飼っていたライオンの体を洗った事もある。

 敵に撃墜された最後の日、ヘリコプターから見下ろしたアンゴラの赤い土。

 のび助の41年間の人生。

 そう言った生々しすぎる記憶と知識に、高熱を出して丸一日寝込んでしまった。

 看病で気疲れしたのだろう。ベットの傍らで眠っている母親の寝顔を見つめながら、これからのことを考える。

(気のいい両親を混乱させたくない……)

 よくある妄想のような三文小説で、前世の記憶を持つ幼児が、内政で活躍したり文武に優れているとかあるが、現実は甘くない。うちは貴族でもない平民で、社会構造の改革が出来るほどの名家でもない。

(特に神様が出てくる作品なんて最低だと思う)

 脇道に逸れたが、子供の体で何かの偉業が出来るわけでもない。

 それに僕自身が、大して優れていたわけでもない。

 当面は、子供らしくない言動をしたりせず、目立たないよう普通に過ごす事にした。

 記憶が戻って気になったのは、今が何月何日で、自分がどこにいるのかと言う現状だ。情報は生きる術だ。知っていると知らないとでは取れる動きも異なる。

 文字を覚えた頃に、年号も読めるようになった。帝国暦と言われてもぴんと来ない。

 小学校で習った歴史によると、西暦2801年を宇宙暦1年として銀河連邦が誕生。宇宙暦310年に太祖ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムが神聖不可侵の皇帝となり、銀河帝国が誕生したと言うことだ。

 立体TVが一般家庭に普及している事から、とてつもない未来だと言う事はある程度分かっていたが、授業で自分の生まれた年を知ってさらに驚いた。

 ルパートとして僕が生まれた帝国暦466年は、撃墜された1981年から数えて1285年後になる。

(1285年……)

 あまりにも歳月が流れ過ぎていて現実感が沸かない。驚いたのは確かだが、衝撃はあまりなかった。

 そしてこの世界は、銀河帝国という皇帝陛下が治める世界で、貴族の導きで僕達平民は幸せに暮らしているという事を教えられる。1000年以上経って宇宙に出ても貴族制度があることに驚きを覚える。

(皇帝、貴族? 本当に幸せなのか……)

 中世ヨーロッパだと封建社会の平民は農奴だったよなと思い出す。

(でも中世って言っても範囲が広いか)

 アパルトヘイトの尖兵として戦っていた僕だから、世の中が平等だとは思っていないが、皇帝とか貴族とは極端だ。

(結局、人類は宇宙に生活圏を広げても変わらなかったという事か)

 生活水準は前世とあまり代わりが無く、空を自由に飛びまわれるようになったわけでもない。一方で、銀河を宇宙船で走破できるようになったそうだけど、冷蔵庫など日用品の類は普通に変わりなくあった。

 それと、地球外知的生命体は残念ながら存在しなかった。

 僕の暮らすフェザーンは自治領で、結構自由な気風のある商人の国らしく、父もその一人だ。やってる仕事の内容は、詳しく知らないが会社の経営者だと聞いている。

 家は貧しくは無い、そこそこの暮らしが出来た。だが、たまには和食が恋しくなる。

(今度自分で作ってみるか……)

 身長が伸びれば、台所で調理も出来るし買い物だって行けると思う。それまでは我慢だ。

 僕が幼い頃から父は長期出張か、たまにしか家にいなかった。それでも寂しいと思う事は無かった。帰って来た時はたくさんのお土産を母と僕に忘れない。それに一杯抱きしめてくれた。

(僕は愛されている)

 その事を強く実感した。それはとても幸せな事だ。不満などある訳が無い。満面の笑みを浮かべて抱き上げてくれる父に、不服を感じることはなかった。

 

 

 

 今日も父は帰ってくる前、FTLで連絡をしてくれていた。

 FTLはシンクロトロン偏光の原理を応用したもので、光速の壁を超えて電波を送ることが可能だとか。

 電波妨害さえなければ、全銀河でリアルタイムの通信が出来るらしい。

 アインシュタインが特殊相対性理論の中で、質量を持つ物が真空中の光よりも速くなることは何て有り得ないって提言していたそうだが、未来の技術はその壁を粉砕してしまった。

(科学の力は凄いなぁ)

 そんな事を感嘆として受け止めていると、玄関から父の声が聞こえる。

「ルパートちゃん!」

 いつもの父の呼び声だ。職場では強面で渋い中年を気取っているが、家に帰れば子煩悩な普通の父親に変わる。でも『ちゃん』は照れ臭くて慣れない。

 さて、お迎えに行こう。

 居間から玄関に行くと、母と手を取り合っていた父が僕を抱きしめてくれる。

 光沢のある額が眩しい。

「パパに会えなくて寂しかったかい?」

「う……うん……」

 幸せそうに抱きしめる父。

(この暑苦しいテンションはやめてほしい)

「うふふ」

 母はあらあらとほほ笑んでいる。

 育ててくれる両親に感謝はしているが、前世の記憶を持つは中年男としては、結構複雑な心境だった。

(ああ……玉子さん、僕が死んだことを知ったら悲しんだろうな……)

 何度も言うが、今の家族に不満はないよ。だが、思い出すのは生前の家族の事。

「はぁ……」

 気分転換に、最近ハマっているお絵かきをする。過去を背負って宇宙的な何かの力で転生したからにはこの世界で生きていくしかない。

「ルパートちゃん。何を書いてるのかな」

 着替えた父は、ハゲた頭をテカテカ光らせ、ニコニコと僕が書く絵を覗いてくる。

 息子の魂に宿る者が、戦場を渡り歩いてきた歴戦の兵士とは知らない。それは双方にとって幸せな事なのだろう。

「リンゴ」

 鉛筆一本で質感を表現する僕に、「この子は天才だッ!」と両親は大喜びしている。

 あんたら親バカだろうとは言わない。

(これからの人生どうするか)

 野比のび助としての人生は終わった。そのことはすでに諦めてというか、割り切った。

 幼いころの画家になる夢を目指すのもいいかも知れないなぁと漠然と考えてみる。

(先は長い。ゆっくり考えれば良いか……)

 

 

 帝国暦476年。のほほんと過ごしていた僕の人生に転機が訪れる。

 何がきっかけだったのかは知らないが、父の事業が失敗したらしく母と二人で夜逃げ同然の引っ越しをすることになった。

(何、そのいきなりの家族離散)

 平穏な普通の暮らしが消え失せた。父は必ず迎えに来るからごめんねと大泣きをしていた。

「ルパートちゃん」

「パパ……」

 僕も悲しくなってぎゅっと、父の首に腕を回す。僕がもっと大人だったら両親を助けられた。その事が残念で悔しかった。

(ああ。早く大人になって、両親を楽にさせてあげたいな……)

 この瞬間、精神的な面でもルパート・ケッセルリンクになった。

 母の遠縁で帝国領のミッターマイヤー家に引き取られた僕は、食べるために幼年学校を目指す事にした。自分の技能を生かした就職なら軍人しかないと思ったからだ。

 それに、この時代。叛徒と戦う軍人は身近な英雄で子供達の憧れだった。宇宙の平和を乱す悪の根源である叛徒をやっつけると言うのは、単純に正義を信じて戦えるし悪い事ではない。

 平民が貧困から抜け出すには手っ取り早い手段の一つだった。

「ルパート。あなた、軍隊なんて入って本当に大丈夫かしら」

 その事を告げると母は驚いた表情を浮かべて僕を凝視した。

 僕の年齢で自発的に軍隊に入りたいと言うのは珍しい訳ではない。だが、母親として我が子を死地に放り込む勇気はない。

 出世する道は他にもある。平民でも学費を捻出出来れば大学に行ける。大学を卒業しても就職先を見つけるのは難しい。同じ選ぶなら公務員試験を受けて各省庁で管理職として上を目指す事だ。

 少なくとも戦争で死ぬ事は無い。

「大丈夫だよ、お母さん」

 母の心配も分かるが、これでも大尉まで叩き上げた記憶がある。

 体もそのうち付いてくるようになるだろうという自身があった。

「そう? 貴族の子に苛められたりしたらどうしましょう」

(いじめられたらばれない様に上手くやるよ)

 母が心配するのももっともだが、徴兵されるぐらいなら先に自分で道を選んだほうがマシという考えもあった。

 幼年学校では一般教養と基礎教育の前期教育課程、各職種の中期教育課程を学び下士官候補生として部隊で後期教育課程が修了すると下士官に任官する。

 僕はせっかく持って生まれた前世の記憶と経験を生かすべく、装甲擲弾兵への配属を希望していた。

 実際、人類はここ数百年たっても、対反乱鎮圧作戦はたいして進化していない。制空権の確保が、惑星の軌道上になっただけで、最後は歩兵が足で確保する。

(僕の出番だね)

 伯父が、マリーンドルフ伯爵家に出入りをしており、コネはあった。

(あれだよね、使えるものは使わないと。世の中ってのは公のルールとはまた別に裏のルールが存在するし、貴族はやはり偉大だな)

 なるようにしかならないが、上手くいけば出世してまた家族三人で暮らせるだろうという打算もあった。

 人生の新しい道が開けたし、それが新しい人生の目標だ。

 

 

 

 幼年学校からの迎えのバスに、集合場所の合同庁舎に集まっていた僕達、生徒は乗り込む。

 持って行くものは、下着の代え、タオル、筆記具それに金銭と言った本当に少ないものだった。

 着いて、宣誓の書かれた契約書に署名すると被服の支給を補給係りから受け、営内に戻る。

 二段ベットが5つ並んだ10人の部屋で生活するそうだ。

 ベットメイキングの仕方なども習った。

(凄いな。これが躾けというやつだな)

 身体測定や何だかんだと、目まぐるしく忙しいうちに初日の一日は過ぎていく。

 課業終了後の夜、廊下に出て戦闘靴を磨いたり、制服に名札や階級章を縫い付ける作業が始まる。

「地味な作業だな」

 僕の隣に座って、戦闘靴を磨いていた太ったやつが話しかけてくる。かなりの大食らいらしい。

(持久力は無さそうだな)

 そう思いながら返事を返す。

「うん。そうだね」

 彼はベットバディのハルオという。

 新兵の初日は、お客さん扱いだからこう言う物だ。

(明日から助教の、僕達に対する扱いが厳しいほうに変わるだろうな。色々な意味で楽しみだ)

 ルパートは新兵に不釣合いなほどの落ち着きと、不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 

3.お姉ちゃんの思い

 

 春の陽気で、薄らと汗ばむ季節。

 明るい日差しの昼下がり、少女と少年が、市場を買い物袋を抱えて歩いている。

 賑やかな喧騒の中、屋台の良い匂いが辺りを漂っている。

(仲の良い姉弟。もしかしたら恋人に見えるかな)

 私──エヴァンゼリン──はそんな事を考えながら、隣を歩くルパートに目を向ける思春期乙女だ。

 ルパートはフェザーンから越してきた叔母の息子で従弟。今では私の弟と言って良い。将来が楽しみな顔立ちをしている。

 ミッターマイヤー家は、伯父と伯母の夫婦、そして私の3人だけの生活だったので、新たに2人の家族が増えて嬉しかった。

 彼は幼い顔立ちに似合わず、意思が強く男らしい所がある。

 ミッターマイヤーの家に世話になりっ放しというのは、彼の矜持が許さないのだろう。しばらくして生活費を稼ぐとか言い出して、幼年学校に自分から進んで入った。

 そう言う所格好良いと思うけど、まだ子供なんだし無理しなくても良いのに。

 伯父さんが誉めてもいたけど、少ない給料から仕送りまでしてくれているという。

 私はせっかく、弟が出来たのにと別れが寂しくなった。

「良い、たまには、連絡しなさい」

「はい姉さん」と約束させた。

 隣を並んで歩くルパートの端正な顔を眺めていたら、なんだか自然と溜息が出た。

(彼は私の事をどう思っているのだろう?)

 視線を感じたのか、ルパートがこちらに顔を向けてくるので、あわてて視線を変える。

 今日は、幼年学校に入って初めての長期休暇ということで、こっちに帰って来てくれた。

(嬉しい)

 早速、街に連れだした。

 規則正しい幼年学校の生活は、慣れない内は辛く厳しいものらしく、最初の3日で辞めたくなったと友達のお兄さんが言っていた。

(うちのルパートはそんな軟弱なわけないじゃない!)

 でも、家族思いの優しい子だから、いじめられていないか心配だった。

「ルパートはどうなの?」

 彼は、別段大したことはないという風に答える。

「軍隊が一般社会と違うのは当然だよ」

 時々、家に居た頃見せていた、どこか遠くを思い出す様な憂いを帯びた表情を浮かべて説明してくれた。

 武器を扱い仲間や自分の生命を預かるのだから、厳しい教育を受け技能を習熟する。下士官になろうというなら、なおの事、これぐらいで音をあげてられないと。

 しばらく見ない内に、軍人さんらしくなった弟に、大人になり置いて行かれたようで寂しさを感じた。

「生意気ね」

 冗談交じりに頬をつねる。

「ご飯はちゃんと食べてるの?」

 少し痩せたかなと思う。

 羨ましい反面、心配でもある。

「うん。食事は十分な量が出るよ」

 足りなかったらPXでお菓子を買ったり、民間委託の喫茶店や食堂もあるので軽食をとったりできるらしい。

「だから、逆にお小遣いか足りなくなるんだ」

 照れくさそうにそう言っていた。

(う~可愛いな)

 ルパートをぎゅっと抱きしめてあげたくなったけど、我慢する。

 手をそわそわさせていると、ルパートが怪訝な表情で視線を送ってくる。

 照れくさくなって話題を探して辺りを見渡す。

(そうだ!)

 露天商の中に果物の扱っている店を見つけた。

 私は、あまり好きではないけど、彼の好物のバナナを買ってあげることにした。

「久し振りだし、バナナを買ってあげるよ」

 彼の手を引っ張って走る。

「姉さん、ありがとう」

 嬉しそうに、紙袋一杯バナナを受け取った彼は、年相応の笑顔を浮かべて一本かじりついている。

 人混みを避けはぐれない様に手を繋ぐ。

(少し照れくさいが、私はお姉ちゃんなのだから)

 浮かれた気分で歩いていたのがいけなかったのだろうか。

 衝撃がした――

(えっ?)

 私は倒れかけて、ルパートが支えてくれている。

「あ……」

(胸に手が。でも、この子、気が付いてないわね)

 冷静に状況を判断する自分がいた。

「無礼者。道を開けろ!」

 私がぶつかった相手は貴族の方だったらしい。

 背中がひやっとして、顔が熱くなって来るのを感じた。

「も、申し訳ございません」

 私は必死で謝るが紙袋を踏みつけられた。

(ごめんね、ルパート。後で買い直してあげるから)

 残念そうな何とも言えない表情を浮かべたルパートを傍目に、そう心の中で謝る。

 まさか中身がバナナだと思わなかったのだろう。

 喜劇を見ているようだった。

 貴族の方はそのまま滑って倒れた。尾骶骨を強打したらしく呻いている。

(うは、笑ってはいけない。笑ってはいけない)

 此方への注意はそれている。かなり痛そう。

「くっ」

 笑いを堪えると喉から変な声が出た。

 よっぽど痛かったのだろうか、周りの人が笑い声をあげているが、相手は立ち上がらない。

「姉さん!行こう」

「え。でも……」

 ルパートが有無を言わさず、私の手を握り締め走り出す。

(ああ)

 貴族の方には申し訳ないけど、私は愉快な気分になる。

「あはは」

 遠慮せず思いっきり笑い声をあげた。不快感は吹き飛び、気分は壮快だった。

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