幼い頃、命を救ってくれたアークスに憧れ、アークスになるべく日夜努力を重ねてきた少女、エリシア。成績優秀で、人望も厚い彼女は、周りからスーパーニューマンなどと呼ばれ、将来を約束されていた。だが、彼女には悩みの種があった。それは、幼馴染であるレイ=ブレイズだ。




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「愛のチェンジオーバー」のヒロインであるエリシアからの視点で物語が進んでいます。よかったら愛のチェンジオーバーを読んでからこちらをご覧くださいw


PSO2二次作品―私の望む未来ー

 

 

 

 

今でも夢に見るあの日の光景・・・。

住み慣れた街は炎に包まれ、漆黒のダーカーが逃げ惑う人々に襲い掛かる。

一人、また一人と、次々と大人たちが倒れる中、子供の私は必死に走り続けていた。

 

 

 

「だれか・・・誰か助けて!だれか・・・!」

 

怖くて怖くて、泣くことも出来ずに、ただ逃げ続けていた。

どうして母と離れてしまったのか。自分が今何処にいるかもわからなかった。

 

「きゃっ!」

 

何かに躓き、私は転んでしまう。そして何に躓いたのかと振り返ってしまった。

 

私が躓いてしまったソレは、苦悶の表情を浮かべたまま息絶えた男の人だった。

 

「あ・・・あ・・・」

 

自分もこんな風に殺されてしまう。

 

怖い。

 

足がすくんで、立ち上がることが出来ない。

 

そして背後に感じる異形の気配。

 

鉄の板をフォークで引っかいたような、身の毛がよだつ声を発しながら、ソレは現れた。

 

死神の鎌のような大きな前足が、私の命を刈り取るために振り上げられる。

 

「いや・・・いや・・・いやぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

ギリギリのところで体が動き、私は無様に転げながら逃げ出した。

 

無我夢中で私は走り続ける。

けれど、絶望はすぐ後ろに迫っていた。

 

『ギィィィィィィィ!!!』

 

ガサガサという足音と、あの不愉快な声とも音ともつかない叫びとともに、ダーカーが私を追いかけてくる。

 

「はぁはぁ!助けて!誰か助けて!誰かぁぁぁ!!!」

 

死にたくない。死ぬのは怖い。私が何をしたって言うの?なんでこんな目に遭わないといけないの?

もうだめ。胸が苦しい。これ以上走れない・・・。

肺にまともに空気が入ってこなくて、足が鉛のように重くなって、いっそ楽になってしまいたいと思ったその時だった。

 

『ドン!』

 

前もろくに見ることが出来なかった私は、何かにぶつかり倒れそうになった。

けれどそのぶつかってしまった何かは、私を優しく包み込んだ。

 

「・・・よくがんばったな、お嬢ちゃん。もう安心していい、助けに来たぞ」

 

見上げるとそこには、無精ひげを生やし、大きくごつごつした手で、私の頭をガシガシと少し乱暴に撫でる男の人が立っていた。

 

その人は季節はずれの赤いマフラーを巻いて、赤い戦闘服に身を包んでいた。

 

「あ・・・アークスさん?」

「おうよ、おっちゃんはアークスだ。君のママに頼まれて、君を探しにきた」

 

ニカっと笑いその人は、ツインブランドと呼ばれるダブルセイバーを取り出し、起動した。

 

「・・・泣いて怖がる子供をっ!」

 

そして追いかけてきたダーカーをキッと睨みつけ・・・。

 

「追い掛け回してんじゃねぇ!!!」

 

ダーカーの真っ赤に光るコアに向かって投げつけた。

ダブルセイバーはまるでミキサーの刃のごとくダーカーを細切れにして、主の元へと舞い戻った。

ほっとしたのも束の間、辺りにまたあの鳴き声が響き渡る。今度はその声が何重にも聞こえてきた。

そして先ほどのように真っ黒い蟲が、歪みの中から姿を現す。先ほどと違うといえば、その数だ。

私たちは瞬く間に多くの蟲に囲まれてしまう。

 

「・・・お嬢ちゃん、いいって言うまで頭上げるんじゃないぞ。怪我じゃすまないからな!」

 

私は言われたとおりに地べたにうずくまった。

 

「デッドリーサークル!!!」

 

ぎゅぃぃぃっという音がしたかと思ったら、バタバタと何かが倒れる音がして、視界の隅でダーカーの足がいくつも霧のように消えていった。

 

「ま、ざっとこんなもんか。よし、いいぞお嬢ちゃん。怪我は無いか?」

 

アークスのおじさんは私の体を確認する。

 

「あーあー、おでこにこんな傷を作っちまって。かわいい顔が台無しになっちまうぜ?ちょっと沁みるけど我慢できるな?」

 

おじさんは私のおでこを、消毒液で濡らしたハンカチで拭いて、ポケットから絆創膏を取り出して貼ってくれた。

 

「・・・おっちゃんにも、君と同い年くらいの子供がいてなぁ。しょっちゅう傷だらけになるまでふざけ回るやんちゃ坊主なもんで、いつも持ち歩いてるんだ。・・・これでよしっと。さぁ、ママのところに帰るぞ。時間が無い」

 

おじさんは私を抱き上げ、そのまま走り出した。

 

「こちらレオン。行方不明の少女を発見し、そちらに向かっている。置いて行ったりしないでくれよな、ディナル」

『わかっている。だが急いでくれレオン。ここも侵食が進んで来ている。長くは持たないぞ』

「了解だ。3分で行く」

 

私を抱えたまま、おじさんは風の様に走った。襲ってくるダーカーをすり抜け、振り返りざまにガンスラッシュで打ち抜きながら走り続けて、あっというまに救助艇へたどり着いていた。

 

「エリシア!!!」

 

母の声がして、私ははっとした。

 

「おかあさん!」

 

おじさんは私を下ろしてくれて、私は人ごみの中から現れた母に抱きついた。

 

 

「ああエリシア!よかった、本当によかった・・・!怖かったでしょうに・・・。無事でよかったわ」

「こわかったけど、アークスのおじさんが助けてくれたの。・・・おじさん、本当にありがとう」

 

おじさんはまたニカっとわらって、手を振ってくれた。

 

「・・・本当に有り難うございました。なんとお礼を申し上げたらいいかわかりません。あなたは娘の命の恩人です」

「いやいや、これもお仕事っすから。それに、俺も息子持ちなんで、やっぱほっとけないんでね。さ、早く乗ってください。ここは危険だ、避難しましょう」

 

おじさんは私達二人を座席へと案内してくれた。そして私にシートベルトをしっかりと締めてくれた。

 

「あ、そうだ・・・」

 

おじさんはつけていたマフラーを私に巻いてくれた。

 

「・・・この救助艇はポンコツだから暖房機能がイマイチでな。おっちゃんのお守りだけど、貸してやるよ。向こうに着いたらちゃんと返してくれよな」

「何から何まで、本当に有り難うございました」

「ありがとうおじさん」

「もう迷子になっちゃダメだぞ」

 

私はお母さんとも合流し、助かったと安堵していたが、現場には緊迫した空気が流れ続けているのが、子供の私でもわかった。

 

『全員すぐに乗り込め!このままだと完全に取り囲まれてしまう!』

「聞いたろ!全員今すぐ乗り込め!早くしろ、ぐずぐずするな!」

 

おじさんが他のアークスが全員搭乗したのを確認すると、ハッチを閉めた。

 

「いいぞディナル!出せ!」

『了解!離陸する!』

 

機体がおじさんの合図とともに動き出し、ゆっくりと上昇を始めたその時だった・・・。

 

『ドゴォォォォォォン!』

 

爆音と機体を揺るがす

ほどの振動。そして人々の悲鳴。

 

「おいディナル!何があった!?」

『くっ。ダーカーの攻撃だ!それも大型の奴だ。・・・レーダーに多数の巨大熱源反応あり!まずい、コントロールが利かない!不時着する!!!』

「全員つかまれ!」

 

私と母は必死に座席につかまり、手を握り合っていた。

 

けたたましく鳴り続けるアラーム。人々の悲鳴、そして轟音。

救助艇は不時着に成功したようだけれど、落ちた場所は最悪だったようだ。

 

「・・・そんな」

 

救助艇の窓から見えてしまった絶望に、母は絶句する。

私のことを追いかけていたダーカーよりも、ずっと大きなダーカーがそこには写っていた。

 

「・・・ディナル、どうだ飛べるか?」

『・・・修理まで10分は必要だ。そうすれば最低限飛ぶことは出来る。だが・・・この状況では』

「俺が時間を稼ぐ。後は頼むぜ、相棒」

『レオン?一体どうするつもりだ!?』

「なーに、お仕事するだけよ。俺のお仕事はヒーローだからな。ウェポンチェンジ、暁!」

 

おじさんは先ほどのダブルセイバーが光に包まれ、光が消えたときには別の武器へと変わっていた。

そしておじさんは一人、ハッチを開ける。

 

「おじさん!」

 

おじさんは振り向き、またニカっと笑い、そのまま燃える街へと戻っていく。

私は窓からおじさんの姿を探した。

おじさんはたった一人で、ビルの様に大きなダーカー達と戦い始めた。

ダーカーの放つ法撃が救助艇に当たらないように距離を取りながら、必死に攻撃をかいくぐり、跳ね飛ばされてもすぐに立ち上がり立ち向かっていく。

 

「おじさん!がんばって!死なないで!」

 

窓に映るおじさんは、ツバメのように空を飛びまわりながら攻撃を仕掛け、そしてまるで舞い散る木の葉のように攻撃をすり抜けていた。

圧倒的に不利な状況で、誰もが絶望していたけれど、おじさんは最後の最後まで必死に戦い続けていた。そして永遠とも呼べるような10分が経ったとき、おじさんは満身創痍の姿でもまだ、戦い続けていた。

 

『レオンもういい!戻るんだ!何とか飛ばせる!』

『ディナル、俺の事はいい。今すぐ飛べ』

『何を言ってるレオン!お前を置いていけるか!』

『今俺が戻ったら、こいつらにまた救助艇が狙われる。そうなったら次こそ全員お陀仏ってやつだ。・・・サナとレイに、『すまなかった。愛してる』と伝えてくれ』

『ふざけるな!自分で伝えろ!くっそ、すぐに救援が来る。それまで死ぬんじゃないぞレオン!』

『ああ、わかってるよ。相棒』

 

機体は離陸し始め、一瞬だけおじさんと目が合った。

そしてまた、私に向かって傷だらけの笑顔で、ぐっとサムズアップした右腕を私にむかって突き出した。

 

「おじさん!」

 

私はすぐに他のアークスがおじさんを助けてくれると思っていた。

そう願わずにはいられなかった。

けれど、現実というのは本当に残酷で・・・。

私たちは無事に別のアークスシップに避難することはできたけれど、おじさんは・・・。

 

 

 

数日後・・・。冷たい棺の中に横たわるおじさんは、もうあの笑顔を見せてくれることは無かった。

 

「私のせいだ・・・」

 

棺には、おじさんの奥さんと、私と同い年くらいの男の子がすがり、声を上げて泣いていた。

 

「うるさい!アークスなんて大っ嫌いだ!返せ!僕の父さんを返せよ!!!」

 

男の子を慰めようとした大人に向けられた罵声が、私の胸へと突き刺さる。

 

「私のせいでおじさんが・・・」

 

 

私が迷子になんてなったから、脱出する時間がなくなってしまい、たくさんの人の命が危険に晒された。そして、おじさんは皆を守るために犠牲になってしまった。

私がおじさんを死なせたんだ。

 

 

葬儀が終わり、おじさんは埋葬された。

次の日、私は花束とマフラーを持って、お墓参りに来ていた。するとそこには、目尻を真っ赤にした男の子が、おじさんのお墓の前で立ち尽くしていた。

 

「ごめんなさい・・・」

 

私は声を振り絞る。

 

「私がお母さんと離れ離れになんてならなかったら・・・」

 

きっとこの男の子は私のことなんて許してくれないだろう。もしかしたら怒り始めて、私はぶたれてしまうかもしれない。

でもそれが私への罰だというのなら、受け入れるしかない。

私はこの人から、お父さんを奪ってしまったのだから。

 

「・・・悪いのは君じゃないよ。ダーカーと、父さんを見捨てたアークスたちだ」

 

感情の無い声で、男の子は答えた。

 

「・・・これ、あなたのパパが私に貸してくれたの。だから返さなくちゃいけないから・・・。大切なマフラーだって・・・・」

 

男の子に、マフラーを入れた紙袋を手渡した。

男の子はマフラーを取り出して、しばらくじっと眺めていたと思ったら、自分の首にそのマフラーを巻きつけた。でも子供にはやっぱり長すぎるようで、お尻の所までマフラーは垂れ下がっている。

 

「・・・僕の・・・俺の父さんは、強かったろ」

「うん。・・・すっごく、かっこよかった」

「・・・だってさ。よかったね、父さん」

 

男の子は、長すぎるマフラーをなびかせながら、ポケットに手をつっこんで歩き始めてしまう。私は慌てて男の子を呼び止めた。

 

「あの、・・・怒らないの?」

 

正直なところ、何故呼び止めてしまったのかわからなかったけど、呼び止めなきゃいけない気がした。このまま彼を帰してはいけない・・・。そんな事を思って声をかけたんだと思う。

 

「・・・名前も知らない女の子を、怒る理由なんてないよ」

「エリシア!・・・私は、エリシア=バレンタインっていうの」

「・・・レイ=ブレイズだよ。よろしくな、エリシア」

 

また会おうね。そんなことはお互い口にもしなかったはずなのに、もしかしたらこれっきり会うこともないかもしれないのに、レイはそんな事を口にした。

 

夏が終ったばかりでまだまだ暑いというのに、マフラーをしているレイを行き交う人々は何事かと振り返るけれど、レイは全く気にも留めず、ポケットに手をつっこんだまま堂々と歩いていた。

その背中が、同じような背丈だというのに、妙に大きく感じた。

そう、ソレはまるでレオンさんのようで、私は少しだけ彼に憧れを抱いた。

そしてその憧れは、自分の心の成長とともに、恋心という複雑なものへと変わっていくのでした・・・。

 

 

 

 

 

 

 

―10年後―

 

 

「エリシア。レイを知らないか?あいつだけ進路決まって無くてな。見かけたら進路指導室まで来るように伝えてくれないか」

 

先生が困った顔をしながら私に頼みごとをする。

 

「委員長聞いて下さい!信じられません!レイです!レイ=ブレイズがまたやりました!エッチな本を堂々と机に広げたまま教室から姿を消したんです!ああもうあんな害虫がクラスにいるって考えただけで蕁麻疹が!ああもうヤダヤダ。不潔なゴキブリみたいでもう!」

 

潔癖症の風紀員が私にレイの苦情を言ってくる。

 

「ねぇねぇレイ先輩ってぇ、なんであんな変な格好してるんだろうね。あれ格好いいと思ってるのかなぁ?」

「そうそう!顔もそれなりにかっこいいし、運動神経抜群じゃん?なのにあの服のだらしない着方!そもそもマフラーとかないっしょ、この時期に!キャハハハ」

「でもさぁ、あのエリシア先輩と付き合ってるっていう話でしょ?」

「えー似合わなーい!」

「エリシア先輩は結構憧れてたのにー。男の趣味悪くてなんだか幻滅って感じ?」

「毎日毎日口うるさく注されてて、よく嫌いにならないね、レイ先輩。私だったら嫌いになるかなぁ・・・」」

「レイ先輩は巨乳好きだからね。レイ先輩の持って来てるエロ本って大概巨乳物って話だよ?」

「やだ、それってエリシア先輩の体だけが目的ってこと!?むしろ胸だけあればいい的な?目を覚ましたほうがいいよエリシア先輩は・・・」

「超ウケルー!」

 

ギャルっぽい下品な後輩達が根も葉もない噂話をしながら道をふさいでいた。

 

「ちょっといいかしら?廊下でおしゃべりするのは結構だけれど、道を塞がないでいただけると大変助かります!」

 

「「「「ヒッ!?」」」」

 

道をふさいでいた女子達は、まるで蜘蛛の子を散らしたように逃げていく。

 

「あ、委員長いいところに!あのさ、レイが・・・以下略」

「委員長、レイをみてないですか?じつは・・・以下略」

「委員長ー!レイ先輩が酷いんですよぅ!・・・以下略」

「委員長!我校が秋の大会で優勝するためには是非ともバスケ部にレイを・・・以下略」

「いいや野球部に!彼が居れば地域優勝どころか全船優勝だって・・・以下略」

「いいやボクシング部に!彼は絶対にプロになれる逸材!・・・以下略」

「何を言う!彼こそサッカー部に入るべきだ!・・・以下略」

「ふざけるな!是非陸上部に・・・以下略」

「・・・レイ君を僕達の成人漫画同好会に・・・以下略」

 

「あーもう!!!なんで私を一々通すのよぅ!!!レイに直接言って!!!そして誰か一人くらい私を名前で呼びなさいよ!!!!」

 

いつもいつもいつも!アイツのせいで私はこんな感じだ。私はアイツのマネージャーでもなければ、ましてや、・・・恋人でもないというのに。そして他人からはわからないかもしれないけれど、私と彼の間にだって隔たりというものは存在する。

具体例を挙げるとするのなら・・・。

 

「なんか用かよ、エリシア」

 

この顔である。

屋上で昼休みを満喫していたであろうレイは、私の顔を見るなり、まるで苦虫でも噛み潰したような嫌な顔をする。こんな顔をされる理由くらい知っている。私がレイの生活態度を細かく注意するからだ。私だって言いたくもないけれど、生徒会長とか風紀委員長を任されてしまった私としては、校則違反の悪い例を全て体現しているその格好を注意しなければ、他の生徒に示しがつかない。だから、言いたくなくても言うしかないのだ。

・・・今でも大切にしている彼のマフラーも、原則的には禁止されているのだから。

コレだけは本当は、注意なんてしたくない。せめて他のところだけでもしっかりしてくれていれば、私はコレだけは見逃してあげたい。

他の生徒にも、あれは彼の父であり、私の命の恩人の形見だから許してあげて欲しいと頼むことだって出来るのに・・・。

それなのに、あんな顔をされたらもちろん、私の気分は最低になる。結果、そのフラストレーションが私に火をつけ、そのアンニュイ過ぎる生活態度に口を出してしまう。

そして今日はついに、下品な軽口に対して怒りを我慢できずに、思いっきり蹴りを入れてしまった。

 

レイに進路指導室に行くようにと伝えて、階段を下りながら思う。

私だって、普通の女の子みたいに寄り道をして帰りたいし、校則の一つや二つ破ってラフに過ごしたいし、そして何よりも、レイにあんな顔をされたくない。

あんな顔をされると、過去の嫌な事だって思い出してしまう。

 

10年前、今のシップに避難してきてから転入した小学校にはレイがいて、あろうことか同じクラスになり、そして隣の席へと案内された。避難してきた子供も多い中、私達の間柄の配慮など一切無かった。そしてある意味奇跡とも運命の悪戯とも取れることが起こってしまったのだ。

レイはあの時全く怒る事も無く、私のことを許してくれたとわかっていても、私は自分を許せないでいた。

クラスで人気者だったはずのレイが、レオンさんの死後、あまり友達とも遊ばなくなり、笑顔も極端に少なくなっていたことから、スクールカウンセリングを受けていたことを知ってからは、もうひどいものだった。

私は自責の念に押しつぶされそうだった。

自分が生き残る代わりに、彼の父と笑顔を奪ってしまった。

そんな彼と毎日顔を会わせなければいけないし、クラスを変えてもらいたくても、それでは彼から逃げ出してしまうことであり、そんなことは一番してはいけない。

だから耐えるしかないのだと・・・。

 

しかし、私はレイと顔を合わせるたびに、挨拶も出来ずに、ただ怯えるように縮こまることしか出来ず、そんな私を見てレイは余計に私という存在を鬱陶しく思ったのだろう。

雪の降るある日、帰り道でレイは私をはじめて怒鳴りつけた。

 

「お前いい加減にしろよ!お化けか!?お化けなのか!?違うだろ!お前は今生きてるんだろ!?これからもそんな暗い顔して生きていくつもりかよ。父さんのおかげで助かって、今お前がこうして生きてるなら笑え!思いっきり笑って生きるのがお前の役目だ!違うかよ!?・・・笑ってたほうがお前は絶対かわいいんだからそうしろよな!そんな暗い顔されたら友達にすらなれないだろ」

「だって・・・だって!わたしは・・・わたしのせいで・・・レイのパパは・・・ひっく・・・ぐす・・・・」

 

こらえていたものが、全部涙となって流れ落ちてくる。そんなわたしの頭を、レイはガシガシとちょっと乱暴に撫でた。そうソレはまるで、レオンさんが私にしてくれたことと同じだった。

 

「・・・お前のせいなんかじゃないって言ったじゃんか。お前はなんも悪くない。気にする必要なんかないんだ。あの時は俺もいっぱいいっぱいで、・・・正直泣くのを我慢するので精一杯でさ。エリシアが渡してくれたこのマフラー、すげーうれしかったんだ。今更になっちゃったけど、ありがとな。エリシア、俺と友達になってくれよ」

 

レイはレオンさんそっくりのニカっとした笑顔で、右手を差し出していた。

 

「・・・うん!」

 

私はその差し出された手を握り返した。

それからというもの、私たちは毎日のように一緒に遊んだり、勉強をしたり(レイはいつもサボってはいたが)、もちろん喧嘩だってたくさんしてきた。でもちゃんと仲直りして、一緒に成長してきた。

ただ・・・。

心の成長と共に、互いの性別が私たちの間に妙な距離を作ってしまった。

それは私が作ってしまったものなのか、それともレイが作ったものなのかはわからなかったけれど、私の進む進路がアークスだという事を知ったレイは、私の話なんて殆ど聞いてくれなくなった。

私がアークスになったら、このままではきっと会うこともなくなってしまうだろう。

 

「どうして、うまく行かないんだろう・・・」

 

いくら私が不器用でも、自分の恋心くらいは気がついている。

私はレイが好き。

でも、私の目標はアークスになること。

そのために勉強だって沢山したし、フォトンを操りテクニックを身につける練習だって沢山してきた。

レオンさんに助けられたこの命で、少しでも多くの命を守るために、私はアークスにならなくてはならない。

・・・もちろん、その中でもレイのことは絶対に守りとおしてみせる。

何があっても、私がレイを守って見せるんだ。

だからこんな事で挫けちゃいけない。がんばってがんばって、私は私の望む未来を手に入れよう。

私はアークスになって、そしてレイの恋人にしてもらう!・・・かなり恥ずかしい目標だけど、今はソレでいいと思う。

 

「・・・うん、がんばれ私!」

 

よし、気合も入れ直したし、ネガティブモードはおしまい!

 

そう思った矢先に・・・。

 

「エリシア、レイには会えたか?早くしないと昼休みが終ってしまうのだが・・・」

 

・・・どうしてアイツはいつもいつも私の心を挫くような真似をしてくれるんだろう。

 

「先生、放送室の鍵を貸していただけますか?」

「ん?ああ、構わないが・・・」

 

私は放送室の鍵をひったくり、放送室へ向かう。

足音がなんだか大きくなってしまうくらい、私のイライラはマックスに達している。

 

そしてチャイムを鳴らし。ありったけの憎悪を篭めて彼の名を呼んだ。

 

「すぅ・・・レ~イィィィィィィ!!!」

 

校内に響き渡るわたしの濁声。もう恥とか建前とか色々吹っ飛んでいた。

これで来ない日には、あのマフラーを後ろから思いっきり引っ張って絞め殺してやるんだから。

 

ブツンと音を立ててマイクがオフになる。

 

「何よ!人の気持も知らないで!ダークファルスエロダー!!!!」

 

防音効果のある部屋に私の怒声が響く。

そして少し深呼吸をして、自分がしたことを少しだけ後悔した。

コレは流石に怒られるかもしれない。いや、コレはどちらかというと後ろ指を指されて笑われてしまうパターンだ。

 

「あちゃぁ・・・。参ったな・・・」

 

ストレスとプレッシャーのせいだろうか。最近怒りやすくなって来ている気がする。

 

ううん、これはやっぱり全部アイツのせいだ。

 

レイの顔が頭に浮かぶたびに、心はかき乱されていく。

 

これが恋煩いというのであれば、なんと鬱陶しい病なのだろう。

もっとロマンチックなものを想像していた。

恋焦がれ、会えない時間が切なくて、一緒にいる時間は蜂蜜のように甘いものだと思っていた。

 

「・・・なんであんなの好きになっちゃうかなぁ、私」

 

まぁソレが恋なんだといってしまえばソレまでよね・・・。

 

落ち着いたところで放送室を出て、進路指導室の前を通り過ぎようとしたとき、レイの怒鳴り声が一瞬聞こえたかと思った瞬間・・・。

 

『ガッシャン!!!』

 

大きな音を立てて、自動ドアのガラスが粉々に吹き飛んだ。

そして破片をぐしゃりと潰しながら、見たことも無いくらい怒ったレイがゆっくりと現れる。

 

「れ・・・レイ?あ・・・あの」

 

レイは私を無視して素通りしてしまう。

・・・ううん、無視と言うよりも、今は関わらないでくれと、無言で伝えてる感じだった。

 

「レイ!なんてことをするんだ!エリシア、怪我はないか?レイ、待つんだ!何処へ行く!話も終ってないし、こんな事をしていいと思っているのか!?」

「うるせぇ!!!停学にでも退学にでも好きにしやがれ!!!」

 

レイの殺気を孕んだ怒声に、身がすくむ。私に向けられたものではないとわかっていても、あんなレイは見た事が無いから、やはり怖い。

 

レイはそのまま、学校をサボってしまった。

 

―放課後―

 

「ったく、相棒の奴・・・。アークスだろうが無かろうが、この時期に問題起こすとか進路に丸響きだってのに。なぁ委員長」

「・・・うん」

 

レイが怒った理由。

それはアークスになれと説得され、その時によくも知らない人にレオンさんのことを引き合いに出されたからだった。

私にとっては、そんなことをしてはいけないのは当たり前で、レイの中に残っていたアークスになるという選択肢の一つを完全に潰してしまうきっかけになったと確信した。

進路票を提出していないということはつまり、どこかでレイがアークスになるという選択肢を捨て切れていないという証拠だと、私は思っていたけれど、今回のことでもうレイはアークス以外なら何でもいいという結論に至り、自分の身体能力を生かせる職業を選ぶだろう。

 

「はぁ・・・」

 

ため息が出てしまう。

 

正直なところ、望みは限りなく薄いけれど、レイにはアークスになって欲しかった。

 

一緒にアークスになって、一緒に色んな星を回って、一緒に戦って・・・。

 

そんなビジョンを何度夢見たことか。

 

「・・・ねぇアフィン君。レイが行く所思い当たらない?今日はレイのお母さんはお仕事お休みだから、そのまま家には帰れないと思うの」

「んー、アイツが行く所つったら、ハートショットだけど・・・。・・・なぁ委員長、なんでアイツはアークスにならないんだ?あいつが戦いをおっかないって思うはず無いと思う。それどころか、あいつの性格だから『親父の仇は俺が一匹残らず狩り尽くす!』とか言い出しそうなもんだけど・・・」

「・・・それはね、レイのお母さんが心配するからよ。レイが生まれてから、レイのお母さんは前線から離れていたけれど、当時はレイのお父さんとコンビを組んでいて、二人で活躍していたみたい。・・・けれど、レイのお父さんが亡くなってからは、レイのお母さんはアークスに戻ることなく、仕事をしながら女手一つでレイを育てたの。・・・そんなお母さんに心配かけられるはずないでしょ?・・・だってレイってね、ああ見えてほんとはすごく優しいのよ?お母さんが買い物袋を持って帰ってくる姿を見つけたら、すっと駆け寄って、一言『ただいま』って言って買い物袋を取り上げちゃうんだよ?普段のレイの姿だったら、絶対知らんぷりすると思ってたから、ちょっと意外で・・・」

「なるほど、そういう相棒のギャップにキュゥンと来ちゃう訳か、委員長は」

「え?いやそういう事じゃなくて、その・・・」

「隠すな隠すな。バレバレだって、委員長が相棒のこと好きなことくらい。だってアイツのことアレだけ注意するってことは、アイツのことそれだけ見てるってことだろ。嫌いな相手は見たくもないって。そんで周りだってそれくらい気づいちゃってるから、もうお互い付き合ってるもんだと思ってるし噂にもなるわけさ。だから、相棒の苦情は委員長に集中しちまう。他の人間が文句言ったところで、ギロッと睨まれて一蹴されちまうからな。女の子ならともかく、男は例え話じゃなくて物理的に一蹴されておかしくないからな。アイツの足癖の悪さなら知ってるだろ?自動ドアの二の舞にはなりたくないのさ」

「でもレイは、私のいう事なんて全然聞いてくれないもん。聞いてくれてたら、こんなに苦労しないわ」

「言う事聞かせる方法はあるぞ?リスクめちゃめちゃ高いけど」

「・・・例えば?」

「相棒とゲームか何かで勝負するのさ。勝ったらなんでもいう事を聞くっていうルールでね。まぁ負けるとかなり危険だぞ?だってアイツが相手なんだから、エロイこと禁止したって準エロイ要求してくる。かなり危ない賭けなのは間違いないだろ?」

「うぅ・・・・・・」

「勝てればあとはこっちのもんさ。ある程度の校則を守らせればいい。なんだかんだで、約束したことは破らない男だからな。ハートショットはダーツバーだし、練習の成果を発揮するには良いチャンスかもよ?ま、やるやらないは委員長次第かな。委員長の端末にハートショットのアドレス送っとくよ。・・・ああ。あと、かなり個性的なマスターが経営してるけど、あんま気にしないでいいぜ」

「うん」

「俺も後で顔出すわ。ちょっと用事があるんで遅くなるけど。もし場所わからなかったら連絡してくれればいいから」

 

アフィン君と私は校門のところで別れ、私はハートショットというレイが入り浸っているというお店に向かった。

 

 

そして私はアフィン君が教えてくれた方法で見事勝利を収め、その日を境にレイは制服もしっかり着こなし、エッチな本は教科書にこっそり数冊忍ばせる程度にとどまった。

まぁ見ようと思って見ない限りはわからない程度なので、私は許してあげることにする。

 

ただ、これによって後に私にとって大問題が生じることになった・・・。

 

 

それは私たちにとって最後の球技大会で、レイがバスケに参加し、現役のバスケ部相手に一人で得点を稼ぎ出し、優勝してしまったことがきっかけだった。

どうして急にバスケ?と聞いたら・・・。

 

「んー。一応就職先の社会人チームに誘われてるからな。俺が入社する頃にはプロリーグにデビューするつもりらしいし、そこで活躍すれば俺も晴れてプロデビューできるからかな」

 

なんて、割とまともな意見だった。

 

そして生活態度を改めたレイが急にそんな活躍をしたもんだから、女子から人気が急上昇してしまったのである。

結果・・・。

 

「あのあの!レイ先輩ってエリシア先輩と付き合ってるんですよね!?最近の活躍はやっぱりエリシア先輩のためなんですか?」

 

広報部の女の子がレイにそんな質問をしたのが間違いで・・・。

 

「は?エリシア?・・・え、俺エリシアと付き合ってなんていないけど?それ本人にもちゃんと確認した情報?広報部がそんなデマ普通に流すなよな」

 

なんてキョトンとした顔でコメントするものだから、事態は急展開・・・。

 

卒業まであと3ヶ月となった12月、レイの知らない水面下で『レイ=ブレイズ争奪戦』が始まってしまったのである。

当の本人はといえば・・・。

 

「最近俺の人気がうなぎ昇りらしいなぁアフィン君。やはり俺はホストになるべきだったかもしれないね!」

「・・・一生やってろ脳筋野郎」

 

完全に調子に乗る始末・・・。

 

 

「ふ・・・ふふふ、今まで見向きもしてこなかったミーハーの女子達なんかに、レイを渡してたまるものですか。こうなったら徹底的に防衛し、徹底的にレイを攻略してやるんだから」

「・・・どうでもいいけど、委員長なんか悪女みたいになってるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

―登校時―

 

『ピンポーン♪』

「はーい、あら?エリシアちゃん?久しぶりね!やだ、しばらく見ないうちに美人になっちゃって!」

「ご無沙汰してます、おばさま。レイ起きてますか?」

「うん、今さっき起きたところよ?レイー?エリシアちゃんよー?」

「・・・はぁ?なんだこんな朝っぱらから・・・どうしたよ」

 

レイは寝癖でボサボサの頭のまま、歯ブラシを咥えたまま顔を出した。

 

「おはようレイ、一緒に学校行こう?」

「・・・・・・は?」

「は?じゃないでしょうに!さっさと支度してくる!」

「え、朝飯・・・」

「あと15分早く起きないあんたが悪いの!バナナでも食べてとっとと行きなさい!・・・ごめんなさいねぇオホホホ」

 

玄関のドアが勢いよく閉まり、しばしの静寂。

 

『攻撃は最大の防御』という言葉を知っていますよね?そう、コレが私の作戦。

レイを完全にガードしつつ、猛烈な攻撃により陥落させる。

私という存在が傍にいる限りは、レイには何人たりとも付け入る隙なんて与えないのだ。

 

「なんなんだまったく・・・」

「・・・レイと久しぶりに一緒に登校したかっただけなの。ごめんね?」

「・・・・・・エリシア」

「うん?なぁに?」

 

私はにっこりとレイに向かって最高の笑顔を向けた。

 

「・・・お前が何か企んでる時ってほんと白々しいよな」

「・・・う」

 

自分でも白々しいと思ってるし、あざとすぎるかなって思ってるけど、それくらいしないと貴方は気づきもしないじゃないの!!!

 

「その・・・企むというか、レイは時々遅刻するから、社会人になったら危ないなーと思って」

「あー・・・まぁそれは・・・でもいつもより30分も早いぞ」

「私はいつもより10分も遅い登校です。レイはHRに滑り込めば良いとか思ってても、一般社会はそうは行かないんだからね!」

 

そしてその30分前が、私にとって今朝最大の防衛になった。

 

「ん、なんだあの女子。あの校章は2年だよな」

 

あれは明らかにレイの下駄箱の前・・・。なんて古風な手を使うのかしら。

 

「・・・誰かの下駄箱でも探してるんじゃない?レイ、教えてあげたら?」

「え?・・・レイ先輩!?エリシア先輩!?し、失礼しました~!」

 

2年生の女子は私たちの姿を見た途端一目散に逃げ出してしまう。

 

「・・・なんだありゃ」

「ただの敵前逃亡ってやつじゃないかしら」

「敵前って・・・なんかエリシア妙な威圧感でてないか?ダークファルスにでもなるつもりか?」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・いや、本気で睨むなよ(何なんだ本当に)」

 

 

 

―昼休み―

 

「はー終った終わった。アフィン、購買いこうぜ」

「えー学食にしねぇ?購買のパン食い飽きたよ」

「あー、そうだな。たまにはBランチで豪勢に行くか」

「Bランチごときで豪勢ってほんと切ない経済状況だよなぁ」

 

私はレイたちが教室を出たところで、生徒会室から作業資料を持って購買へ行き、サンドイッチとミルクティを購入してから学食へと向かい、何事も無かったように4人席を陣取る。

 

「やっぱ混んでるじゃんか。どうする」

「お、あそこのカウンター席が2つ・・・」

「レイー!アフィン君ー!ここ、ここー!」

「「・・・・・・・」」

 

二人とも何事かと顔を見合わせていたが、ゆっくりとこちらへ近づいてきた。

 

「お前が学食?・・・で、購買のサンドイッチ?生徒会の仕事まで持ち込んで?」

「しかもこんな大量に・・・。俺ら生徒会の仕事なんて一切わからないから手伝えないぞ?」

「これくらい15分あれば終っちゃうわよ。書類を端末にスキャンしてデータ化するだけの作業だから」

「最初からデータで提出させればそんな面倒なことしなくて済むじゃないか」

「問題はそのデータは外部から必ずアクセスする手口があって、改ざんする事が出来ることよ。それをさせないために、こういうローカルな手法も大切なものよ?」

「ご苦労なこって・・・。けど、どう考えてもここでやることはないんじゃ・・・」

「・・・残り少ない学生生活を、何処で満喫したっていいでしょ?」

「・・・まぁそうなんだけど。一体なんだよこれは・・・」

「(白々しい。白々しすぎるぞ委員長。なのに何故気がつかない、相棒!!!)」

 

―放課後―

 

「れーい♡いっしょにかえろ♪」

「・・・何ソレ気持悪い」

「気持悪いって何よ!いいから帰るわよ」

「・・・お、おう」

「あ、そうだ!帰りにクレープ屋さん寄って行こうか?レイ甘いの好きでしょ?」

「・・・お前が学校帰りに買い食い?嘘だろおい・・・」

「いいのいいの!私もうアークス士官学校の推薦取っちゃったから、これからは自分のしたいことに遠慮しなくていいの!ほらほら、正式に入学決まったのよ?」

 

私はレイに推薦入学許可証のコピーを端末に映し出してどうだと見せ付けてやる。

 

「・・・へぇ、よかったじゃんか」

「えーそれだけ?なにかお祝いとかしてくれないのぉ?」

「・・・クレープ奢らせていただきますハイ」

「やった♪ほら早く早く、売り切れちゃうよ?」

「ちょ、袖引っ張るなって。・・・なんなんだよほんとにもう」

 

もうここまで来ると、恥じらいなんか一切無くて、そしていつの間にか楽しんでる自分が居た。

 

しかし、公園のベンチでクレープを食べながら上機嫌の私をよそに、レイはすこし表情が曇って見えた。

 

「どうしたの?」

「・・・あー、そのなんだ。一体今日のエリシアどうしたのかなーと」

「・・・ふふ、やっぱ不自然だと思っちゃうよね。でもね、これって割とずっと前から、私が本当にしたかった事なんだよ?私にはなんとしてもアークスになるって言う夢があったから、今まで頑張ってきたけれど、その夢がちょっとだけ叶う。だから、今は少しだけ休憩してるの。巻き込んじゃってゴメンね?なんだかんだで私、頑張り過ぎちゃってちゃんとした友達って少なかったりするんだよね・・・。なんていうのかな、上辺だけっていうのも変だけど、みんなから一線引かれちゃってるって言うか、スーパーニューマンなんてあだ名付けられちゃうしね・・・」

「・・・ぶきっちょなのは相変わらずだな。そもそもアークスなんて、フォトンさえ扱えればなれる職業じゃないか。士官学校にわざわざ推薦で入るくらいだから、お前の親父と同じように高官目指すものだと思ってたんだが、現場勤め希望するだなんて、一体なんの努力なんだよ」

「まぁ・・・一応ちゃんとアークスになるまでは、私はお父様のいう事を守るしかないからね」

「ハッ。今時『お父様』ってのもどうかと思うけどな。の割には、母親はお母さん呼ばわりだろ?どういう家族だよ全く・・・あれ、どういう家族なんだ?10年もお前と一緒にいたけど、お前の親父俺あったことないよな?」

「・・・殆ど家に帰らないわ、あの人は。時々映像通信で、私の様子とか家の様子をお母さんと淡々と話すくらい。たまに家に帰って来て、3人で食事はするけど、重苦しい空気がなんか漂っちゃうんだよね。昔、レイのおうちでご飯ご馳走になったでしょ?小さいテーブルを3人で囲んで、大皿に盛られた家庭料理をそれぞれが適当に分けて食べて・・・。あんなこと初めてで、私どうしたらいいかわからなくて、貴方は笑いながら『何でも知ってるようなエリシアが夕飯の食い方もしらねーの?』なんて私に取り分けてくれたよね。あれすっごく、楽しかったなぁ・・・」

「・・・母さんは『うちがビンボーなだけです!』だなんて笑ってたな。しっかし、そんな親父なの?意外と苦労してんのなぁお前。将来お前の旦那になる奴すげー大変そう」

 

そんな他人事みたいにケラケラと笑うレイ。

 

「ふふふ、私を手に入れようって言うんだから、たっぷり苦労してもらわないとね♪私、そんな安い女の子じゃないんだよ?」

「ほー?言うねぇ。でもさエリシア。どーでもいいけど、料理くらいまともに作れないと旦那を毒殺して捕まっちゃうぞ?」

「ひっどーい。大丈夫だもん。旦那さんが料理作れる人なら私は他の家事を担当すればいいだけだもん。そういうレイの奥さんだってきっと苦労するんでしょうね!寝ぼすけで、だらしがなくて、性欲の塊で!いつも浮気の心配ばかりしてなきゃいけないわ」

「あー。ほとんど否定は出来ないかな。浮気はしない。毎晩抱く」

「最っ低ー」

 

楽しい時間なんていうものはあっという間に過ぎてしまうもので、私の門限が刻々と近づいていた。午後6時が門限だなんて子供みたいだなんて、レイは笑っていた。

レイは門の所まで一緒に帰ってくれて、そして『んじゃまた明日な』なんて言って帰ってしまう。

もう少し一緒に居たかったのだけれど、仕方ない。

 

私は玄関の扉を開けて、靴を脱ごうとした。そしてふと、お父様の靴がそろえて置いてあることに気がついた。ああ、今日は帰ってきたんだなと、少し気が滅入ってしまった。

 

「・・・ただいま戻りました、お父様」

 

リビングに顔を出し、久しぶりに会う父と挨拶を交わす。

 

「・・・今日は少し遅かったじゃないか。まぁいい、座りなさい」

「・・・はい」

 

話の内容は、またお説教のような話だった。卒業するまで気を抜かずに頑張れとか、やはり現場ではなく高官としてキャリアを積んだほうがより多くを守れるとか、そんな話だった。

 

お風呂に入ってパジャマに着替えた私は、そのままベッドに倒れこむ。

 

「疲れた・・・。レイ、今何してるのかな・・・」

 

端末を開いてメッセージを送ろうかとも思ったけれど、まめに返してくれるような人でもない。用事はなんだと通話をいきなり繋がれても、特に用事もないのだから・・・。

そしてもう寝てしまおうと思い、いつもより早い就寝をしたものだから、翌朝の目覚めも早いわけで・・・。

 

「レイおはよう!一緒に学校行きましょ!」

「・・・昨日より20分早いってどういうことだよ」

 

流石に呆れられてしまった。

 

 

そんな毎日を繰り返し、クリスマスを孤児院で暮らす子供達のためのボランティアという名目で一緒に過ごしたけれど、2月14日の今日まで、レイが告白してくれることなんてなかった。

そして痺れを切らした私は、慣れない料理をして、手作りチョコと共にレイに告白すると心に誓ったのだった・・・。

私はいつものように早朝からレイと一緒に登校。

いつものように一緒にお昼を食べて、周りを警戒する。

やっぱり殺気に近いものが私に向けられる。

『なによ、恋人でもないくせに正妻ぶってしっかりガードして!』

そんな内緒話が今にも聞こえてきそうだ。

 

「・・・お前さ、なんかすっげー怖い顔してるけど大丈夫?」

「・・・相棒、察してやれよホント。いい加減俺はあきれるぜ?」

「大丈夫よ、アフィン君。なんでもないわ・・・」

 

だからそれ以上余計なことは言わないでと、アイコンタクトを送り、アフィン君にはしっかりと通じたようだ。

 

そして放課後、私は覚悟を決める。

 

手作りチョコを武器に、私はレイの前に立ち塞がる。

 

「?」

 

後ろから追いかけてきて、いきなり道を塞いだ私に、レイはきょとんとしていた。

 

 

「あ・・・あの!」

 

周りの生徒達が野次馬のように私に注目する。

そして今更気がつくのだ。

私は誰よりも早く渡すことを優先するあまり、場所を一切選んでいなかった。

逃げ出したい逃げ出したい逃げ出したい!

 

「・・・委員長」

 

アフィン君の目は、『大丈夫、それでいい。頑張るんだ!』と強い応援を送ってくれているようだった。その視線は、私の背中をしっかりと押してくれた気がした。

 

「レイ、私の気持なの!ずっとあなたが好きでした!」

「・・・・・・・・・は?」

 

私は両手でチョコを思いっきり差し出した。

 

恥ずかしい、怖い、言ってしまった、どうしよう、断られたらどうしよう・・・。

 

レイが何か言ってるけど、全然頭に入ってこない。どうしよう、頭が完全にパニックになってしまった。

 

 

「エリシア・・・おい、エリシアってば!」

「は、はい!?」

「・・・いい加減チョコ離せよ。受け取れねーだろ」

「・・・え?受け取ってくれるの?」

「・・・おう」

「その・・・これは、私を彼女にしてくださいっていう意味のチョコ・・・なんだけど」

「知ってるよそれくらい。ぶっ倒れる覚悟で食い尽くしてやんよ。ほら・・・」

 

レイはチョコを受けとって、手を差し出してきた。

 

「これからもよろしくな」

「・・・うん!」

 

私は右手でレイの手を掴もうとしたけど・・・。

 

「ばーか、反対だろ。一緒に帰るんだからさ」

 

レイは私の左手を掴み、何事もなかったように手を繋いだ。

 

子供のころは、何度かこうして帰ったこともあった。

懐かしいレイの手は、私の手を包み込むくらい大きくなっていて、温かいのはそのままだった。

 

私たちを茶化すギャラリーは、レイの「命がいらない奴だけこの場に残れ」という一言で、あっという間に逃げ出してしまう。

 

 

「おいおい、泣くほど嬉しがるような相手か?俺は」

「・・・だって、ずっと好きだったから・・・子供のころから、ずっとずっと!」

「そっか・・・。なんか感慨深いな。こうしてお前とまた手を繋いで帰るなんてな。もう二度とないと思ってたわ・・・。あー、俺もお前のこと好きで良かったわ」

「・・・ふぇ?」

「お互い今更になっちまったな・・・。好きだぜ、エリシア!」

「・・・ふへへへぇ~♪」

 

私はレイがちょっと引いてしまうくらい変な笑い声が出てしまう。

そして、少しずつレイと私の指は絡み合い、互いの手をしっかりと繋いだ。

 

次の日から、『番長&委員長』なんてコンビ名を付けられるはめにはなったけれど、それでも私は幸せだった。

 

 

 

 

 

 

それから、私たちは卒業し、それぞれの道を歩みつつも、恋人として同じ道を歩き続けている。

私がアークスとして正式に働き始めてもその関係は変わらなかったけど、レイは一人暮らしをはじめた。

『何時でも泊まっていいんだぜ?クックック』

だなんて下心丸出しで言ってくるけれど、・・・依然、私には門限が設けられ、夜の10時には自宅に戻らなくてはならない・・・。

しかも私は、父にレイという恋人がいることを、未だに打ち明けられていない・・・。

もちろん、思いっきり反対してくることが目に見えてるからだ。

どうやら父は、私とアークスの若手の高官とのお見合いまで計画しているらしい。

ほんとに勝手な人・・・。

 

「はぁ、憂鬱。どうにかしなきゃなぁ・・・」

 

私は独り言を呟きながら、クエストの申請をする。

今日は惑星リリーパの砂漠を調査する予定だ。

 

クエストが受理され、いざキャンプシップに乗り込もうとしたその時だった。

 

静電気のような何かが、ピリピリっとした違和感。寒気にも似た嫌な感じ。

そしてその違和感の正体はすぐに見当がついたけれど、私は困惑してしまう。

なぜなら、その違和感をオラクル内で感じてしまうことが問題なのだから。

 

「ダーカー因子!・・・なんで?」

 

きっとこの違和感を感じたのは私だけじゃなかったのだろう。計器にもちゃんと数字として計測されたため、すぐに警報が鳴り響く。

 

 

『緊急警報発令!緊急警報発令!アークスシップ内に多数のダーカーの反応を確認!繰り返します!アークスシップ内に多数のダーガーの反応を確認!C地区周辺区域の住民は速やかに避難してください!アークスの指示に従い、速やかに避難してください!』

 

何かの間違いだと思いたかった。

C地区には今、レイがいるはずなのだから・・・。

 

私はすぐさまキャンプシップを市街地上空に飛ばし、市民救助作戦に参加する。

 

「お、委員長!じゃなかったエリシアちゃん!」

「アフィン君!・・・大変なの、レイが・・・レイがこの地域のどこかにいるの!さっきから端末で呼びかけても通信状況が悪すぎて返事がないし、どうしよう・・・何かあったんじゃ・・・!」

「落ち着けよ。仮にもアイツだぜ?そう簡単にくたばっちまったりしないさ。だろ?相棒の仕事って確か民間警備会社だよな。C地区に護送対象が指定されてる任務を洗い出してっと・・・。ビンゴ!リストにあいつの名前があるよ。一応新人アークスがひとり一緒についてるけど、・・・あれ、連絡が途絶えてる?」

 

私はすぐさまアフィン君の端末を覗き込み、物資の配送ルートと現在時刻から、おおよその位置を割り出して、一目散に駆け出した。

 

「お、おいエリシアちゃん!一人で大丈夫かよ!?」

「大丈夫、無理はしないつもり!レイを見つけたらすぐ連絡するから!」

「お、おう、気ぃつけろよ?」

 

私は走り続ける。レイの居場所までそう離れていないはず。

無事でいて欲しい。

ううん、絶対無事でいてくれてるはず!

レイならきっと・・・きっと!

 

「レイ・・・レイどこ・・・どこにいるの?」

 

ダーカーの気配がどんどん濃くなって、ついには目の前にも湧き始めた。

 

「邪魔しないで!!!」

 

ロットの先から稲妻が迸り、道を塞ぐダガンたちを蹴散らす。

ダーカーを倒しながら進む私は、車の陰に人が倒れてるのを見つけた。

 

「大丈夫ですか!?しっかりしてください!」

 

レイではなかったけど、私はすぐに駆け寄った。

けれども、その人は虚ろな目を空に向け、息絶えていた。

 

「く・・・」

 

あの日の光景が脳裏に浮かぶ。

 

途端に、私の心が恐怖に取り付かれる。

 

もう乗り越えたと思ったはずだった。

 

動悸が激しくなる。目の前の事切れた男性が、レイの姿に見えてきてしまう。

 

「・・・レイ、レイ!どこ!?」

 

私は走り出す。

恐怖は少しずつ心を支配していく。

怖い。怖くて堪らない。レイが居なくなってしまう。いつも隣にいてくれたあの人が、私の前から居なくなってしまう。

それがなんて恐ろしいことなのかと、今更気がついた。

 

「レイー!レイお願い!返事して!レイーッ!」

 

今にも泣き出しそうな自分を奮い立たせるように、私は声を上げ続ける。

その時だった。

 

「エリシア!こっちだ!俺はここに居るぞ!」

 

私はその声がするほうに全力で走り出す。

瓦礫を飛び越え、立ちはだかるダーカーを焼き、必死に走った。

そして私はついに、レイを見つけることが出来た。

 

「レイ!良かった無事だったのね!」

 

レイのほかに生存者が居たけれど、私はそんなことは気にも留めずに、世界で一番愛おしい人の胸に飛び込んだ。

 

「わっ!止せ、人前だぞ!」

 

そんなの関係ない。

レイはどれだけ私が不安だったかわかっていない。アークスだって命を落としかねないようなこんな状況で、一般人のレイが無事でいたことがどれだけ奇跡といえるだろうか。

一緒にいたはずのアークスは一体どうしたんだろう。

 

 「ああ、一緒にいたアークス?我先に逃げ出したけど、行った先にもダーカーの気配を感じた。もしかしたらもう・・・」

 

私は愕然とする。仮にもアークスが、一般市民を置いて逃げ出しただなんて・・・。そしてアークスでもないレイがガンスラッシュを握って戦って逃げ延びてきたというの?

しかも当の本人は、ちょっと息を切らしてはいるけれど、全くの無傷。ダーカー因子による汚染も見当たらなければ、怯えた様子も見せずに、コレを返すとほとんど未調整の訓練用ガンスラッシュを手渡してくる始末。

訳のわからないことだらけで頭が痛くなってくる。

 

「・・・アークスの癖に一般市民に戦わせるなんて!でもよかった、レイが無事で。・・・なんていうか、流石すぎるよ。ほんと、一般市民にしておくのがもったいないわ。でももう絶対、レイが戦ったりしないでね。ユニットだってつけてないし、ほぼ丸裸同然じゃない。良かった無事で・・・本当に・・・。大丈夫、後は任せて!私がレイを守るよ」

 

レイはなんだか微妙な表情を浮かべてほっぺたをポリポリと掻き始める。

 

「・・彼女に守られるなんて、バツの悪い彼氏だな。まぁ、わがままいってられる状況じゃないんで、任せるわ」

 

すぐに救助隊が到着して、レイ達には輸送船に乗ってもらう。

 

レイのことは救出できたけれど、もしかしたらまだ生存者がいるかもしれない。

それにコレからが本番だ。これからダーカーの大掛かりな掃討作戦が開始されるはず。

着々と他のシップからアークスたちも集結しつつあった。

 

「・・・レイ、私はまだ戻れないけど、絶対帰るから心配しないで待っててね」

「心配しないはずねーだろ?早く帰ってこいよな」

 

初めてここで、レイが不安そうな顔を見せた。自分がダーカーに襲われても表情一つ変えなかったであろう彼が、初めてここで見せたそんな表情に、私は嬉しいような、申し訳ないような感情が湧いた。

 

「わかってるよ。はい、指きり♪」

「は?やだよこんな時にこっぱずかしい・・・」

「いーからいーから♪」

 

大丈夫よレイ。

私はアナタが思うより、ずっと強くなったのよ?もう泣き虫だったエリシアじゃないんだから。

そんな思いを、私は伝えようとした。

 

「チッ」

 

根負けしたレイが指を絡めようとしてくれたその時だった。

 

「え・・・?」

 

私を取り巻く空間がぐにゃりと歪み、私はダーカーによって作られた空間転移型のトラップに捕捉れてしまっていた。

 

「緊急事態発生!ファンジだ!」

 

こうなってはもう手遅れで、私は別の場所へ転送され、多数のダーカーとの戦闘を余儀なくされる。

 

「エリシア!」

 

周りの静止を振り切ろうと暴れながら、私に向かって必死に手を伸ばすレイがそこにいた。

なんて顔してるんだろう、あのレイが今にも泣き出しそうだった・・・。

 

「ダメ!来ちゃダメ!・・・大丈夫、レイ。私は必ず帰るから安心して」

「何言ってんだ!手を伸ばせ!エリシア!」

 

私の視界が赤黒いもやに包まれていく。

 

「・・・大丈夫だって、言ってるじゃない」

 

レイの姿が見えなくなる。そして私はダーカーの作り出した檻へと転送された。

暗闇の中でうごめく影達。おびただしいほどのダーカーたちが私を一斉に取り囲んだ。

 

「・・・大丈夫よ、これくらい。・・・私はあなた達ダーカーを倒すために。いいえ、レイを守り、レオンさんの仇を取る為に努力を積み重ねてきたの。こんな所で、やられたりしないんだから!」

 

私はロッドを構え、テクニックをチャージする。

 

「どいて。レイが待ってるの」

 

帰ったら、いっぱい抱きしめてもらおう。・・・ううん、私がレイを抱きしめてあげよう。

心配かけちゃってゴメンねって、優しく頭を撫でてあげよう。

あんな顔をされたら、こっちが参っちゃう。

 

「ギ・ゾンデ!」

 

私の放った雷撃が次々と連鎖してダーカーたちを感電させていく。

感電したダーカーたちがひるんだ一瞬の隙を私は見逃さない。

 

「ゾンディール!」

 

私の放ったテクニックにダーカーたちは吸い寄せられ、私はその渦にむかってさらに電撃を放つ。

 

「ギ・ゾンデ!」

 

広がり続けるテクニックの連鎖。やれる!このまま全部なぎ倒してみせる!

 

「ゾンディール!」

 

この調子で戦っていけば、檻の破壊だって出来る。そう思っていた矢先のことだ。

 

『グォォォォォォォ!!!』

 

目の前の空間が歪み、咆哮と共に大型のダーカーが姿を現す・・・。

 

「そんな!こんな狭い空間に!?悪い夢なら覚めてよ・・・」

 

ウォルガーダと呼ばれるソレは、私という敵を認識し、暴走列車のようにつっこんでくる。

わたしは間一髪でその攻撃を避けて、テクニックを放った。

 

「ギ・グランツ!」

 

まともにチャージされていない法撃は、やはり火力が足りない。私は武器をロッドからタリスへと持ち替えた。

私はタリスからカードを引き抜き、空中へと飛ばす。放たれたタリスは空中で固定され、私はフォトンをカードに流し込む。

いくら狭いとは言えど、相手の攻撃はほぼ直線的な打撃攻撃。距離さえ取れば、なんとか避けられるはず。

狙いどおり、ウォルガーダは突進を繰り返すばかりで、私は敵の攻撃を難なく回避することに成功する。

相手と十分な距離を保ちながら、私は十分にチャージしたテクニックを一気にウォルガーダに放った。

 

「ナ・グランツ!」

 

ウォルガーダを光の玉の中に閉じ込め、フォトンがウォルガーダを焼いていく。

 

「これでいい加減終わりにして!ラ・グランツ!!!」

 

光の槍がウォルガーダを貫き、ウォルガーダはひざから崩れ落ちた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・女の子だからって甘く見るからこうなるのよ」

 

流石にフォトンを使いすぎた。フォトンをエネルギーに変換しにくくなって来ている・・・。

次の敵が来るまでに力をためないと・・・。

 

『グォォォォォォォォ!!!」

「・・・え?」

 

一瞬の油断が、私に致命的なミスを招いていた。

 

ウォルガーダはまだ完全に倒しきれていなかった。

 

最後の力を振り絞ったのだろう。私をその大きな手のひらで弾き飛ばして、そして霧のように霧散していった。

そして突き飛ばされた私は、瓦礫へと叩きつけられた。

 

「かはっ・・・!」

 

肺の中の空気が全部吐き出された。そして全身に激痛が走り、私は動けなくなる。

 

「・・・痛い、痛いよぅ」

 

私はなんとかレスタを唱え、傷を癒す。

そんな私を、さらなる絶望が襲ってくる。

再びダーカーたちが湧き始めたのだ。

 

「く・・・負けるもんですか!」

 

私は死力を尽くし、ダーカーたちと交戦し続ける。

 

一箇所、二箇所と、攻撃をかわし切れずに、鋭いダーカーの刃が私の肌を切り裂いていく。

 

「はぁはぁ・・・痛い。痛いよ、レイ」

 

思わず、レイの名前を口にしてしまう。

レイに助けてほしいと思ってしまった。

そんな弱い心を振り払って、私は戦い続ける。

また、ダーカーの攻撃を避け切れなかった。腕に鋭い痛みが走り、そこから血があふれ出す。

ユニットも損傷し、このままでは本格的に命が危ないだろう。

なのに、救援は中々たどり着かない。

時間としてはそんなに経っていないはずなのに、何時間も戦っているような錯覚さえ覚えてきた。

 

そして、疲労がピークに達してきた私は、方ひざを地面について、ロッドにすがる形になってしまった。

 

私、こんな所で死んじゃうのかな・・・。

私が死んだら、レイはどうなっちゃうんだろう。

怖い。死にたくない。

レイに会いたい。

今すぐレイに抱きしめて欲しい。安心させて欲しい。

 

「何を言ってるのよ・・・!レイにばかり甘えて!レイを守るって決めたじゃない!」

 

私は自分を戒めるように声を張る。

 

「おい、エリシアちゃん聞こえるか!?返事してくれ!」

 

アフィン君の通信が、私の端末へと届く。やっと援軍が到着するのだろうか。

 

「聞こえてるよ。・・・いい加減助けてよ、そろそろ私限界・・・」

 

私はヨロヨロと立ち上がり、残り少ないフォトンでレスタを唱えた。傷はなんとか癒えたけれど、あとどれくらい戦えるかと問われれば、長くは持たないだろう。

 

「まってろ、もうすぐ救援が到着するはずだ!それと、・・・こんな時に言うのもアレなんだけど、妙なことになっちまってる。ヒューイさんが・・・ヒューイさんがアイツをアークスにしようとしてるんだ」

「・・・え?」

「自分の恋人を助けたくないのかって、あいつを炊き付けてんだ」

 

そんな!そんなのダメ!だってレイは・・・!

 

 

 

「ああ、なってやるよ!!!エリシアを助けるためなら、悪魔にだってアークスにだってなってやる!!!」

 

 

なんて声量をしているんだろう。ヒューイさんの声がしているのは何となく聞こえてた。でもそれ以上に、はっきりと私やアフィン君にも聞こえるほどの大音量。レイの咆哮があたりに響き渡る。

 

 

「・・・だってさ。俺、結構説得してきたんだぜ?友達として自信無くすよ」

「・・・ダメだよレイ。あんなにアークスを憎んでいたじゃない。お母さんを心配させたくないんでしょう?なんで?・・・お願い、ヒューイさん!レイをアークスにしないで!」

 

私はすぐにヒューイさんに通信を繋いで、応答を待たずに訴えた。

 

「・・・、君たちも感じないか?この大気に溢れるフォトンを。何の偶然かは知らないが、彼の心に火がついたと同時にこれだ。・・・まるで世界に溢れるフォトンが、レイというアークスの誕生を祝っているように、俺は見える」

「このフォトンの反応、まさか・・・PSEバースト!?」

 

アフィン君が驚きの声をあげた。

そして私の体にも、力が戻ってくるのがわかった。

 

「・・・君の言いたい事はよくわかる。だが、今は素直に喜んでしまえ!彼は今、君を助け出すべく全力で駆け抜けている!見ろ!あれが素人の動きだと誰が言える!天性の才能の成せる業ではない。アレは、何年と積み重ねてきた鍛錬の成果だ!燻っていた。燻り続けても尚、鍛錬を続けていたんだろう。今こそ燻ったレイの心が炎のように燃え上がり、炎の剣のように闇を切り裂き、焼き尽くすだろう!さぁしかと目を見開いて、その両目に焼き付けるんだ!新たなアークスの誕生を!!!」

 

何でこうなってしまったんだろう。私がレイを守ってあげなくちゃいけないはずなのに・・・。

 

「・・・もう、レイの馬鹿」

 

レイが自分の選んだ道を投げ捨ててまで、私を助けようとしている。

私がまた、彼の人生が狂ってしまったというのに・・・。

何でこんなにも、幸せを感じてしまうのだろう。

何で、嬉しいと思ってしまうのだろう。

すぐ近くに、レイのフォトンを感じる。なんて温かいのだろう。

彼がすぐ傍に来ている、その事実がこんなにも、私を勇気付ける。

 

「・・・私だって負けてられないの。アークスになったばっかりのレイに、負けてたまるもんですか!」

 

私は奮い立ち、眼前に迫るダーカーたちへとロッドを向けた。

 

「サ・メギド!!!」

 

私のはなった闇のテクニックが、ダガンたちのコアを貫いていく。

けれど、そんなことお構い無しに、私を潰そうとキュクロナーダが迫ってくる。

 

「・・・邪魔。レイがすぐ傍まで来てるの。コレで消えなさい」

 

私はありったけの力をキュクロナーダに注いでいく。キュクロナーダのコアに魔法陣が浮かび、次々と形を変え、それは大きくなっていく。

 

「かの意を滅せよ・・・。メギバース!!!」

 

私の放ったテクニックが、轟音と共に炸裂し、コアを粉砕されたキュクロナーダが崩れ落ちる。

もう私にはほとんど力は残っていない。

けれど、なんの恐怖も感じていなかった。だって、すぐ目の前にレイを感じていたから・・・。

 

「オウル・・・!」

 

おじさん、天国から見てくれていますか?

レイは、かっこいい男になりましたよ。

 

「ケストラー!!!」

 

 

バリバリと音を立てて、ダーカーの作り出した檻がひび割れ、二つの刃がそのひびの中心を突き破ったとき、光の中から最愛の人が降ってきた。

 

張り詰めていた糸が切れてしまったかのように、私は全身の力が抜けて、その場に倒れこんでしまいそうになり、そんな私を、レイはしっかりと抱き止めてくれた。

 

 

「エリシア?しっかりしろよエリシア!おい・・・!」

 

私のことを強く抱きしめ、声をかけ続けるレイ・・・。

 

「レイのばか・・・お母さんに泣かれても知らないからね!なんでアークスに・・・私がレイを守ってあげるって決めたのに・・・!」

 

私は精一杯の強がりをして、レイの助けなんていらなかったと言ってやりたかったけれど、そんな薄っぺらい嘘なんてつくだけ無駄だとわかってしまった。

 

「バカ、お前を見捨てたなんてことになったら、勘当されちまうよ・・・。ってか、お前に死なれたら、俺は生きてらんねーよ。エリシア、無事でよかった・・・」

 

ぎゅっと抱きしめてくれるレイ。その体温がすごく温かくて・・・。それだけで私は、堪えていた物が溢れてきてしまう。溢れてしまったが最後、決壊したダムのように、止め処なく涙が流れ出した。

 

「レイ・・・怖かった。怖かったよぉ・・・!もうレイに会えなくなるんじゃないかって、怖くて怖くて堪らなくて・・・!」

 

今更になって、体が震えだした。

一歩間違えば、私は死んでいた。

レイが助けてくれなかったら、私は今こうして、レイに抱きしめてもらうことも出来なかったはず。

 

 

「ごめんな、エリシア。これからは、俺が傍にいるから。俺がお前のこと守るよ」

 

何に対してのごめんなのだろう。そんな事を一瞬疑問に思ったけど、次の瞬間、そんな疑問はどうでもよくなってしまった。

 

「エリシア、お前を愛してる」

 

レイが、今までに一度も口にしたことがなくて、そして一番レイには似合わないなと、私でも思っていた言葉を口にした。

 

そして私は気がついたら、自分からレイと唇を重ねていた。

 

 

 

 

 

 

―後日―

 

「やぁやぁエリシアちゃん元気ぃ?パティちゃんだよー?」

「病院では静かに!何度も言わせるな馬鹿姉!こんにちわ、エリシアさん。ティアです」

「あら、いらっしゃい二人とも。お見舞いに来てくれたの?」

 

私はあの後病院へと搬送され、2~3日検査入院することになってしまっていた。

 

「もちろんソレもそうなんだけどね、是非ともエリシアちゃんに聞きたい事があってね!」

「ねぇパティちゃん。やっぱりやめようよ。退院してからゆっくり聞かせてもらえばいいじゃない」

「何言ってるのティア!まるで流星のごとく現れた期待の超新星アークスの恋人がなんと、期待のスーパールーキーのエリシアちゃんだったなんて、今じゃかなりホットなネタだよ!?冷めないうちにちゃんと記事にしないとスクープにならないんだよ!?」

「ちょっ!?ちょっとまって!?記事って何よ!やめてよそんなこと!そんなことしたら私のプライベートとかどうなっちゃうの!?」

「あー・・・ちょっとソレに関しては手遅れなんじゃない?」

「・・・あんなみんなが見てる前で、熱い抱擁を交わした挙句にキスまでしておいて、ただの幼馴染なんですっていうのは無理があるんじゃないかな」

 

「え・・・き・・・す?」

 

私はどうやらまた、周りが見えていなかったようだ。完全にあの場に自分たちしかいないものだとばかり思ってしまっていた。

 

「「ほら」」

 

二人が映し出した端末には、さまざまな角度から撮影されたであろう私たちのあられもない姿が映し出されていた。

 

「イヤーーーーーーーー!?」

 

思わず私は絶叫する。

 

「まぁまぁエリシアちゃん、とりあえず順番に聞いていくから落ち着いて答えてね。じゃあまず、二人の馴れ初めなんか聞いちゃおうかなー?うへへへへへ」

「パティちゃんなんか酔っ払ったおじさんみたいになってるよ」

 

さぁさぁとマイクに見立てたペンを向けられ、私はしり込みしてしまう。

すると突然、音もなく彼は現れた。ソレも割と不機嫌気味の状態で。

 

「俺もお前達に聞きたい事がある。天国と地獄と出口。お前らなら何処に行きたい?3秒で答えろ」

 

その殺気に満ち溢れたドスの利いた声に二人は縮み上がり、脱兎のごとく走り出した。

 

「「失礼しました~~~~!!!」」

 

ったく。だなんてため息をつきながら、彼は果物のつまったバスケットを私のベッドのテーブルへと置いた。

 

「ようエリシア。まだ生きてるか?」

「・・・はぁ?何ソレ。レイが助けてくれたんだから生きてるに決まってるじゃない」

「ハハ、そりゃそーだな。りんご食う?このりんごけっこういけるぞ」

 

レイはなんと、がりっと皮を剥きもせずに、りんごを丸かじりし始める。

 

「・・・私レイみたいにワイルドじゃないの。もう少しエレガントに食べたいわ」

 

私はバスケットに備え付けてあった果物ナイフを取り出し、りんごの表面に歯を立てる。

 

「・・・なぁエリシア。お前はりんごを削るつもりか?ってか、それじゃあお前絶対に傷を増やす。ったく、力みすぎてフォトンまで溢れてるじゃねーか。なるほど、お前の料理がまずい理由がよくわかったよ」

 

レイはすっとりんごとナイフを取り上げ、器用に皮をスルスルと剥き始めた。

 

「・・・レイって割と器用よね」

「いや、できる奴は小学生でもできる。割と女子のほうが出来るのが一般的だな。そもそもお前力みすぎ。力みすぎてフォトンが闇属性のテクニックに変換されてるのに、そのまま調理するもんだから、食材がダイレクトに汚染されていくんだよ」

「そんなことないわよ!そんな力んでないもん!」

「ある意味、意識せずに闇のテクニックを使いこなせてるんだから、お前はどっちかっていうと光とか雷より、闇のテクニックをマスターしやすいんじゃないか?さすがダークファルスエリシア」

「あらあらレイったら。そのあだ名やめてって言ったわよねぇ?ほんとにメギド撃つわよ?」

「はーい。命が惜しいのでやめまーす。・・・ほれ、切れたぞ」

「えー?そこはレイが一口大にしてあーんしてくれるんじゃないの?」

「・・・そのメニューは当店では扱っておりませんが、オプションで口移しのサービスがございますが、いかがいたしますか?」

「勿論自分で食べます」

「最初からそうしろよ」

 

そんな雑談を交わしながら、ふたりでりんごを分けて食べていたとき、私はあることを思い出した。

 

「あ、レイ!おばさま大丈夫だったの?」

「・・・母さんは、その・・・」

 

途端にレイの顔が暗くなる。

 

「実は俺の家からさほど離れてない小学校にゼッシュレイダが出現したらしくってな、母さんは子供達を守るためにたった一人でゼッシュレイダに立ち向かってったそうだ。・・・現役時代の装備引っ張り出してな」

「そんな、まさかおばさまは・・・!」

「・・・アークスの救助隊が駆けつけたときにはもう・・・ゼッシュレイダはコアを粉砕されていたそうだ。その動かなくなったゼッシュレイダの上で、マジギレモードの母さんがコンサイコンを握って、仁王立ちしながらこちらを睨みつけていたという。そして一言『遅い!!!』と・・・」

「・・・・・・え゛?」

「どうしてお前らはいつもいつもそうなのだと暴れ始め、報告を受けた俺が諭しに行くだろ?そしたら俺がアークスになったことを知るな否や、母さんの怒りの矛先は俺へと向けられ・・・後は思い出したくもない。マジデコワカッタデス」

 

私はぽかーんと開いた口が塞がらなかった。

 

現役時代は自慢のコンサイコンを振り回し、レオン(獅子)を尻に敷く鬼嫁ということで有名だったサナさん。その逸話は今でも古株アークスの中で語り草になっていて、レオンさんとサナさんの息子であるレイは、それ故にスカウトの注目を集めていたのだ。

 

「・・・ま、そんなこんなでいつもどうり元気だよ。・・・近々小学校に母さんの銅像が立つらしい。昔から保護者会とか地域ボランティアで割と活躍してたらしくてな。今回たった一人で小学校に避難してた児童や住民をゼッシュレイダから守ったってことで、英雄・・・いや、守り神扱いされてるみたいだ。鬼母が鬼神に昇格しちまった」

「あは・・・あはははは・・・ははは・・・」

「そういうお前んちは大丈夫なのかよ」

「お母さんと電話で少し話したよ。・・・ただ、さっきのパティたちがもってきた写真が拡散したとなると、かなーりまずいかな」

「んー。まぁあの写真はそれなりにスキャンダラスだけど、まぁそんなの一時的なものじゃないか?」

「・・・お父様はそうは思わないだろうけれどね。特に、私がレイと付き合ってることは、お母さんには言ったけれど、お父様には話せていなかったから・・・」

「・・・・・・・まじか」

 

 

私の予想は、ずばり的中した。

退院した私を待ち受けていたのは、見たこともないくらい怒りを露にしたお父様だった。

 

『パンッ!』

 

屋敷に乾いた音が響き渡る。

 

「あなた!?」

 

お母さんが絶叫する。帰って来て早々、人生で初めて、父親から平手打ちをされた。

 

「なんていうことをしているんだ!!!恥を知れ!!!」

 

ショックなんて受けもしなかったけれど、流石に父親に対して幻滅してしまう。

 

「今すぐこの男とは別れるんだ!私はこんな男認めんぞ!そしてお前は現場から離れ、司令室に移るんだ。まずはオペレーターとしてキャリアを重ねなさい。そうすれば今回のような危険な目に遭わずとも出世は出来る!」

「お言葉ですがお父様、私は彼と別れるつもりもないし、現場を離れるつもりもありません」

「あんな男の何がいいというのだ!!!・・・ヒューイも勝手なことをしてくれる!我々が築き上げたアークスをなんだと思っている!規律を乱せば組織が乱れる!・・・お前が尊敬しているという奴の父親、レオンもそうだった。命令違反や規則違反をたびたび行い、独断で行動する問題のあるアークスだった。あの程度の強さのアークスならいくらでもいるわ!」

「いい加減にして!!!!」

 

もう私は、自分の怒りを押さえられそうになかった。

 

「・・・貴方にとってはレオンさんもレイも、取るに足らない戦闘要員という駒に過ぎないかもしれないけれど、私にとってはレオンさんは命の恩人で、レイは私の誰よりも大切な存在。その二人を侮辱するというのなら、貴方をもう父親だとは思わない!20年間、お世話になりました。私は私の道を生きるわ」

「この親不孝者が!!!出てゆけ!!!」

「言われなくても出て行くわよ!!!このクソ親父!!!」

 

怒りのあまり、私はとんでもない単語を口にしていた。けど、なんだかすっきりしてしまった。

私は部屋に戻ると、旅行カバンに荷物をつめるだけ詰め込む。

 

そしてガラガラと音を立てながら引きずり、玄関に向かう。

 

「エリシア・・・」

「また連絡するわお母さん。・・・ごめんね、お母さんのことは大好きだから」

「・・・レイ君に、よろしくね」

「うん。今度三人で食事でもしようね。・・・いってきます」

 

私は母に別れを告げ、夜の市街地を歩いた。ところどころ数日前の惨劇の傷跡が残っていたけれど、幸いにもレイのマンションは何の影響も受けていなかった。

 

私はチャイムを押して、レイを呼び出す。

 

「レイ?わたしー。あけてー?」

「エリシア?ってなんだよその荷物?とりあえず5分待て」

「あら?女の子でも連れ込んでるの?30秒以内に開けて」

「んなわけねーだろ。俺今素っ裸なんだけど」

「あ・け・な・さ・い」

「・・・ハイ(睨むなよ)」

 

レイの部屋へと続く転送装置が起動し、私はレイの部屋に転送された。

 

「・・・なんなんだ全く」

 

そこにはびしょびしょの体で、本当に素っ裸のレイがビン牛乳をぐびぐびしながらリビングをブラブラしていた。

 

「きゃあ!?何で裸なのよ!」

「シャワー浴びてる最中に来て、5分待てと俺は言ったのに開けろといったのはお前だ」

「前くらい隠しなさいよ!」

「んだよ、初めて見るわけでもないだろ?」

「そう言う問題じゃないわよ馬鹿!!!さっさとパンツはきなさいよ!」

「えー?どうせならお前もシャワー浴びてゴートゥべ」

「メギド!」

「どぅえ!?」

 

とっさに放ったメギドがレイのみぞおちにヒットした。

 

「さっさとパンツはいて来い!切り落とすわよ!」

「・・・ハイ」

 

5分後、ラフなスエット姿のレイがバスルームから戻ってきた。

 

「で、お泊りの荷物じゃねーよな、コレ」

「・・・お父様と喧嘩して、飛び出してきちゃった。テヘペロ☆」

「テヘペロ☆じゃねーよ。んー、まぁちゃんと挨拶しに行かなかった俺にも非があるとはいえ、まずいんじゃねーの?」

「いいのよ、もう。どうせあの人は自分の杓子定規でしか物事を計れない人だし、挨拶したところで私とレイを引き裂く為に色々手を尽くしてくるわよ。レイにハニートラップしかけられても、私はこまっちゃうしね。レイはそういうの簡単に引っかかっちゃうだろうし?」

「・・・うわー。信用ゼロだな」

「だって私がいてもエッチな本捨てないじゃない」

「・・・それはその、参考書的な物といいますか」

「というわけで、今日から同棲生活を始めます。まず手始めに、要らなくなったレイの参考書の処分からはじめましょう」

「ちょ!?」

「・・・何か?よもや『それは要るもの!』だなんて言わないわよね?」

「・・・ハイ」

「ああそうだ、ちゃんと端末にもフィルターかけとかなきゃね」

「ちょ!?お役人様、それは殺生というものでござりまする!」

「あら、レイ。他の女の子の裸見て興奮しちゃうの?私の事愛してないの?この間のセリフは嘘?」

「いや、もちろん嘘じゃねーけど・・・。ほら、一緒に見たりとかさ・・・」

「や」                                   

「デスヨネ・・・」

 

私は書籍やデータディスクなど、さまざまな形で保存された汚物を片っ端から処分して行った。

 

「まったくもう、こんなによくもまぁ飽きもせずに・・・」

「・・・横暴だ。あまりにも・・・」

「もー。だから端末のフィルターは許してあげたでしょ?私の見えないところでなら許してあげてるのよ?浮気許してあげる彼女なんて居ないわよ?」

 

レイは部屋の端っこで体操座りをするくらい落ち込んでいたけれど、こうして私たちの同棲生活は始まった。

やはりレイの言うとおり、しばらくは茶化されていたりしたけれど、それも束の間の事。今はそんなこともなく、当たり前のように二人で仕事をこなし、時にはエコーさんやマールーの相談(半分以上が愚痴)に乗ったりと、それなりに充実した毎日を二人で過ごしている。

 

ただ、少しだけ気に入らないこともある。

それは、アークスとして働き始めたレイは、それこそ水を得た魚のように生き生きと仕事をこなしていくことだ。

 

「・・・アレだけ嫌がっていたのはなんなのよ」

 

今日は、惑星リリーパの探査に来ていて、レイは途中でみつけたリリーパの迷子を肩に担いで、砂漠を歩き回っていた。

 

「またその話か?俺は今でもアークスっていう組織をこれっぽっちも信用してるわけじゃないし、強いて言うなら利害の一致だよな。もし他に同じ仕事内容で信用できる組織があるとしたら、そっちに俺はお前と一緒に移る。今現状、お前の望みを叶えつつ、お前を守れる仕事がアークスってだけって、何度も説明したじゃないか」

「・・・の、割には随分とクライアントオーダーを引き受けるわよね。金銭的な報酬は結構低い依頼まで・・・」

「あー、まぁ善行はやって悪いことじゃないからな。親父がそうやって仕事してたらしいじゃん?まだまだ働き盛りだったのに、あんな形で終ったんだ。さぞや無念だったろうなと思って親父の代わりにと同じことをしてみると、なんとなく、親父がどうしてそんな仕事の仕方をしてたのかっていうのがわかってきた気がするんだ・・・。リリ公、お前の仲間見えるか?」

「りり・・・りりりり・・・」

「んー、お前の足でそんな遠くまで来れるもんでもないと思うんだけどなぁ。生体反応もないしなーエリシアのほうはどうよ。なんか見えるか?」

 

私はレーダーと目視で辺りを見回すけれど、ソレらしいものは見当たらない。

 

「うーん・・・。あ!微弱だけど動体反応が近づいてる。・・・あれ、でもこれって」

「・・・エネミーだろうな。目視できる距離なのに見えないとなると、アレか」

「もう!いい加減虫は嫌っ!ほんと無理!」

「まー砂漠だしな、しょうがないさ。リリ公、しっかり掴まってろ?くるぞエリシア」

「背中は任せて。レイこそ油断しないでよ?」

 

日よけのために被っていたフードマントをレイは投げ捨てる。

 

赤いフラメガッシュに、父親の形見の赤いマフラー。

 

灼熱の砂漠に、炎のように真っ赤なアークスが、愛刀のツインダガー、茜を構えた。

 

「りり!?りりりり~~~っ!」

「わっ!レイのおバカ!リリーパちゃんまで投げてるよ!」

「あ!」

 

私は慌ててリリーパとマントをキャッチする。

 

「ハハ、わりぃわりぃ」

「ほら前!来てるよ!」

 

砂の地面が盛り上がり、グワナーダがその不気味な顎をガチガチと鳴らしながら姿を現す。

 

「・・・さーて、いっちょ始めるか。ヒーロー見参ってなぁ!?」

 

地面から串刺しにしようと、いくつものグワナーダの触手がレイに向かって勢いよく伸びる。しかし、レイはまるで踊るようにスピンを繰り返し、その攻撃を凌ぎ、高く高く舞い上がる。

 

「シンフォニックドライブ!」

 

レイの強烈なとび蹴りの前には、グワナーダの触手なんてひとたまりもなく、あっという間に全ての触手のコアを叩き割った。

その衝撃でグワナーダは、弱点である腹部を地表に露出する。

そして私は、その弱点に向かって闇のフォトンを収束する。

 

「メギバース!!!」

 

爆音と共に炸裂する私のテクニック。グワナーダはたまらず不気味な叫び声をあげた。

そこにすかさず、武器をファイティングビートというナックルに持ち替えたレイが、グワナーダの懐に潜り込む。

 

「フラッシュサウザンド!」

 

鋭いアッパーの後に、嵐のようなレイの拳が叩き込まれる。

 

「これで終わりだ!地獄の果てまで吹っ飛ばしてやる!」

 

ゼロ距離から放たれるレイの全力。

 

「バックハンドスマッシュ!!!」

 

大気を揺るがすほどの轟音と衝撃。グワナーダは腹部に大きな風穴を開けられ、そのまま絶命し霧散していく。

 

 

「・・・殲滅完了」

 

あきれるくらい、レイは強くなった。

勿論私も負けては居ないつもりだけれど・・・。

 

「りり?りりりりー!」

「ん?どうしたの急に」

 

リリーパが指を指した方向には、物陰からこっそりと覗いたほかのリリーパがいた。

 

「そっか。グワナーダが怖くて隠れてたのね。君達はほんとにかくれんぼが上手よね。さ、仲間のところへもどりなさい。もう迷子になっちゃダメよ?」

 

リリーパは、嬉しそうに仲間の元へと戻ったと思ったら、何かをレイに手渡す。

 

「お。俺にくれるのか?ありがとな。・・・て、お前いいのもってんじゃーん!さんきゅー」

 

レイは嬉しそうにリリーパの頭をがしがしと撫でた。そして私はハッとする。

 

「レイ!今すぐそのグラインダーを渡しなさい!」

「やーだね!待ってろドゥドゥ!今日こそ俺の蒼黒のニョイボウを完成させてやるからな!」

「だめ!この間生活費まで使い込んだからしばらく禁止って言ったじゃない!こらー!まちなさーい!」

 

広い砂漠に私の叫び声とレイの笑い声がこだまする。

私たちの日常は、こんな風に続いていくと思っていた。

 

そう、ダーカーが居ない筈のナベリウスにダーカーが出現し、アークス候補生達を救出しに向かった先で、私たちは記憶を失った少女を救った。

 

それが、運命の始まりだった。

 

きっとこの先、悲しいことも辛いことも沢山待ってるんだろう。

けれど、私は恐れたりしない。レイが私を守ってくれるように、私がレイを何があっても守り続ける。

それに、私たちには信頼できる仲間が沢山出来た。

 

今はみんなで、明日を信じて歩いていこう。

 

きっとその先に、幸せはあるのだから・・・。

 

 

 




如何だったでしょうか。とりあえず、PSO2関連の二次作品は今のところ終わりです。
これ以上の連載はやはり本編にも絡んでしまうので、やはり手を出しづらいというか・・・。
まぁ、オリジナルのほうも実は書いてたりするので、そっちを優先したいというのがやはり本音ですね。
ここまで読んでいただき有り難うございました。
感想やご意見どしどし応募いたしますw

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