姉と弟が命の危機に瀕しているという訳ではありません。死んでいるという訳ではありません。
二人は、ちゃんと生き延びています。
遭難した。
たったそれだけで、私と弟の現状を伝えることが出来るだろう。
あえて詳しく言うならば、
見えるのは一面海の青と空の青とちょびっとばかしの雲。
助けは四日後に来るらしい。弟の携帯がかろうじて繋がり、そういう連絡を受け取ったのだ。
大丈夫。
「お、お姉ちゃん、大丈夫だよね。僕達、ちゃんとお母さんの家に帰れるんだよね?」
「大丈夫、大丈夫。大雨も振らないし、波も穏やか。ちゃんと、助けが来れば無事に助かって、お母さんの家に帰れるよ」
「そっか。うん、分かった」
分かったと言いながらも、五歳下の弟は私の手を強く握って離さない。強がっていることは見え見えだ。だけれども、強がっていることが私は嬉しかった。
強がろうと、強くなろうという意思が弟に芽生えたことが、とてつもなく嬉しかった。
勿論、今はそんなことを言うべきではないのだろう。お母さんの家に帰って生還を喜んでから、こんなことは喜ぶべきなのだろう。死んでしまえば全て無意味なのだから。
だけど、それでも私は嬉しかった。
声変わりをしたばかりの弟は軟弱でひ弱で、私の側を離れようとしないそんなとんでもなくダメな男子だ。本当にもう愛おしいくらいにダメダメだ。
そんな弟が、こんな状態でも、死ぬかもしれない今の状況でも、泣き喚くことなく強がっている。
それが、どうしようもなく嬉しくて、だから弟がより一層、愛らしく思えた。
母性本能なのだろうか。だとすれば、弟にはある種の母性本能をくすぐる才能があるのだろう。
確か、弟には男友達よりも女友達の方が多かった気がする。それはもう、嫉妬してしまうくらいにはお世話好きの女子と仲がいい。
どちらなのか――嫉妬しているのは弟なのか弟の友達なのか、そして私がロリコンなのかブラコンなのか――は内密だが、そんな嫉妬に弟は気付くことなく、私を友達の輪に入れようとするのだ。
残念ながら、こちとら大学受験生で勉強を必死こいてしている振りをしないといけない時期なのだ。
故にあまり大っぴらには遊べなかったが、それでもまぁ、ロリコンが血の涙を流すくらいには女子小学生と、ショタコンが舌を噛み切る勢いで悔しがるくらいには弟と遊んでいる。
何が言いたいのかと言えば、鈍感無自覚母性本能くすぐる才能持ちなどというどこの主人公だよというスペックを持っている弟の成長が、姉として純粋に嬉しいという話だ。最初から最後までその話しかしていない。
「あれ? あれって、迎えの船じゃないの?」
遠くの方で、小さく、何とか、船が見えた。どうやらあの連絡は四日後に来るのではなく、四日以内に来るということらしかった。
「あ、本当だ」
「……助かったね」
「助かったね」
「……じゃ、とりあえず、
「うぇ……、食べたくないな……」
「好き嫌いしないの! 大きくなれないよ!」
「うぅ……、はーい」
そう言って私と弟は、
頭、首、胸、手、足、内蔵まで全て、基本的にグロテスクな部分は私が、まだかろうじて『他の肉』に見える部位を、弟が。
そして、食べられそうにない骨は全て向かってくる船の反対側に捨てた。
これで
高校三年生の姉と姉より五歳年したの弟。
一体、
それに、解決したのは
解決したのは