side 蘇芳
「・・・ふーん。そう、じゃあ結局収穫は酷くスケールダウンしたルーラーだけで、肝心の情報は全く得られなかったのね?それどころかルーラーが原因で原住民と碌に接触すらできなくなったですって?」
『えーっと、はい。その通りです、面目無い』
こんにちは、蘇芳です。今私達は別行動を取った禅城と情報交換をしています。
やり方はメディアに通信魔術をハッキングさせて無理矢理パスを向こうに繋げている。これでカルデア側にデリカシーの無い盗み聴きをされる恐れもない。
しかし向こうは初っ端から躓いているな。まあ原住民にロクに恩を売る前から歩く地雷状態の聖女を保護したら聞ける話も聞けなくなるか。それとこっちが派手にやった所為で向こうの魔物が減ったのも不味かったな。分かりやすく味方だとアピールがし辛かったかな。
「じゃあこっちの方が仕入れた情報は多いな。ジャンヌ・ダルクが竜の魔女として蘇った、異形の怪物の出処もそいつら、オルレアンの首都は既に制圧されている、詳しい情報は戦った連中が皆殺されているので不明、ワイバーンは使役というよりは大ボスの首根っこ捕まえて操っている、以上5点か。」
実を言うともっと色々情報は仕入れてある。しかし、その方法を聞かれると面倒なので伏せておく。どうせ後で知っても大差はないさ。
ちなみに仕入れた情報とは、敵には他にも6騎、もしくはそれ以上のサーヴァントと目される存在がいる、ということだ。
以前『石詠み』については説明したと思うが、今回用いたのは、『物から情報を詠み取る』能力だ。この『物』についての解釈は曖昧で、私が物だと思えれば全て適応できる。そう、
流石に生物そのものを『物』として認識出来る程外道じゃないが、もの言わぬ屍体なら精々生き物の役に立ってくれと思える程度には非道だ。そいつらから惨劇の一部始終から最期の断末魔までしかと拝見させてもらった。残念ながら雑魚に宝具を開帳する酔狂な奴は二騎しかいなかったが、それでもしゅうかだ。それと、明らかに狂化が駄目な方向に作用している奴が多いというのも目ぼしい成果かな。こんなこと、この矢鱈と正義感の強い連中には言えんな。ウチの陣営が合理的判断が優先の面子で良かったと心底そう思う。
『凄いな、こっちはジャンヌが二人いる事とそいつがワイバーンを使役している事位しか分かってないのに。
俺たちは急いで近隣の村を周ってみるつもりだ。もし敵の首魁が本物のジャンヌならクラスはルーラーである可能性が高い。もし抑止側からサーヴァントが召喚されているなら各個撃破されかねない。蘇芳はどうする?』
ふむ、我々も周囲の街には行ってみるが、もし仮にサーヴァントが居た場合は其方に向かってもらう。中途半端な戦力は我々には邪魔だ。メディアの魔術やヘラクレスの怪力の巻添えになられては堪らん。引き換え、そっちは技量自慢が中心だから問題ないだろう。これから本丸が突っ込んで来るんだ。戦力は幾らあっても足りんぞ?
『・・・あの、ミスター蘇芳。今凄く不安になる一言が聞こえたのですが、どういうことですか?』
ん?いや、その黒ジャンヌもサーヴァント探知出来るんだろう?なら、他の有象無象は兎も角、自分がもう一人いるなんて知ったら普通即座に事実確認するだろ?史実のジャンヌダルクはかなり行動派の様だし自分の目で確かめる位しそうだし。
『・・・えっと、もし本当にそんな事態になったら・・・・』
当然、組織のトップに単独行動なんてさせんだろうから、護衛にサーヴァントやワイバーン大量、最悪騎馬代わりに竜の大ボス迄出張って来るだろうな。
『・・・つまり?』
早く野良サーヴァント掻き集めて来い、死ぬぞ?
『どうしたんですか、禅城さん?早くお休みに『今すぐ発つぞ、急いで次の街へ!!』へ!?ちょっと落ち着いて下さい!貴方はあまり無理が出来ないんですから適度な休息をって待って!?お願いですから話を聞いて下さ(プツン)』
・・・良し。彼等への尻に火も付けた事だし、もう少し派手に暴れても戦力を分散出来るな。
「あの、マスター?態々連絡を取ったのはその為に?」
いや?勿論それもあるが、ちゃんと彼等が現状の危機を正しく認識出来るようにするのが目的だ。もしその黒ジャンヌとやらが私が考えている通りなら尚更だな。
「ほう?是非君の推察を聞かせて欲しいな。敵にも参謀役がいても可笑しくはあるまい。サーヴァント戦なら兎も角、旗頭を前線に出すものかね?」
まあ、貴方の好きそうな展開だよ、神父。
恐らく蘇芳と共にいるのが正規の召喚が成されたジャンヌ=ダルク、そして黒ジャンヌは『誰か、もしくは何処かの国から悪性として見た』ジャンヌ=ダルクだ。ならば相当の精神汚染かそれに類するスキルを付与されている事だろう。
自分でも抑え切れない破壊衝動と憤怒に生来の道徳心や心が悲鳴を上げながらも何とか自身の行いを肯定している中で、まさかの正常で清浄な自分が現れたときた。
内心荒れ狂っていることだろう。自身のやってきたことは誰かに指向性の施されたもの、自分は誰かに都合の良い存在として生み出された偽物なんじゃないのか、とな。
「なるほど。それはさぞ痛ましい姿を晒していることだろう。まさしくアイデンティティークライシスの一歩手前だな。それで理性をかなぐり捨てて彼等の元に参じる、と」
まあ襲来を予測しているなら、手練れ揃いのあの面子なら逃走出来るだろうが、呑気に構えている所を不意打ちでは危険過ぎるからな。彼等にはまだまだ馬車馬の様に働いて貰わなくてはな。少なくともこれで此方側に全戦力の投入は避けられたし、上手く斥候か牽制でサーヴァントを派遣してくれたら確実に各個撃破出来る。欲を言えば、合流させた野良サーヴァントが上手く立ち回って敵の神経を逆撫でしてくれたら、以前の騎士王の様に最高のタイミングで横合いから思い切り殴り付けられる。
「火中の栗を拾うのは飽くまでカルデア側の人間だけで、此方はリスクを可能な限り押し付けて尚且つ恩も売れる。悪いマスターですこと」
君達を触媒無しで召喚できる時点で私の人間性はお察しさ。こんな所で無駄に危険や悪目立ちのリスクを背負いたくはない。これ以上予定を狂わされては堪らん。
いやそれにしても、実に都合の良い展開だ。最初はあの煩わしいワイバーンを派手に蹴散らした所為で無駄にリスクの高い真っ向勝負を仕掛ける必要があったのに思いも寄らないジョーカーを向こうが引いてくれたものだ。誰が聖杯を使役しているかは知らんが、曲がりなりにも頭に戴いている女を揺るがせられるなら幾らでも隙がある。我々に取って最上の戦略で盤を進めよう。
ここまでご覧いただきありがとうございました。