side 禅城
ーーー訳が分からない。
この場にいる殆どの者がそう感じているだろう。つい先程まで絶体絶命の窮地に立っていた筈なのに、気が付けばその元凶たる騎士王は腹に風穴を開けて仰向けに倒れている。霊核は完全に破壊され、竜の因子によって辛うじて息をしている。未だ現界している事自体奇跡としか言えないが、それも時間の問題だ。そう遠くなく彼女は消滅する。それにしても先程のアレは一体何だったのだろう?まるで体内に爆薬でも仕込まれたかのような内側からの魔力の爆発だった。あの一瞬の間に、どうやって騎士王にすら気付かせずにやってのけたのだろうか?
面を上げて辺りを見回す。紫のローブに身を包んだキャスターと思わしき女性は心底残念、とでも言わんばかりの表情で伏した騎士王を見つめている。その姿は未熟な我が身でも分かるほどの魔力と底知れなさを醸し出しながらもまるで王侯貴族のような気品も感じさせる。さっきから「せっかくの着せ替えモデルが・・・。あれだけ頼んだのに、マスターのイケず・・・。」とかブツブツ聞こえてくるけど気の所為だろう。きっとそうに違いない。
次に、騎士王に見事な一撃を叩き込んで流れを引き寄せたあの神父らしきサーヴァントは何処に行ったのだろうか?父母には到底及ばないが、多少は場数を踏んでいるのである程度は気配も読める。しかも相手は歩く神秘の塊ともいうべきサーヴァント。それが何一つとして察知出来ないということは、気配遮断スキルを持つアサシンのサーヴァントなのだろうか?
残るは、自分から一番遠くで佇んでいるとても影を衣のように纏う巨漢の男。先程は鬼を思わせる咆哮と覇気、暴風の様な連撃を振るった狂戦士は役目を終えたとばかりにピクリとも動かず、主の新たな命令を待つばかり。
味方なのかどうかは兎も角、敵意はなさそうなので一息吐いて今度は仲間達の方を見やる。マシュは・・・あぁ、良かった。今は自分の足でしっかりと立ち上がっている。先程は相当な無茶をさせてしまい心配していたが、サーヴァントの回復力故かパッと見は後遺症等は無さそうだ。勿論、戻ったら有無を言わさず即刻メディカルチェック行きだが。
所長はあまりの状況の変化具合に頭が付いてこないのか、呆然としたままだ。いつもならこんな事になった時点で癇癪起こしてる筈なのに。此方も無傷のようで安心した。もし何かあったら事後処理g(ry・・・コホン、今後の進退に関わる重大な危機になるところだった。いや、良かった、良かった。
ロマンもまた同様に沈黙している。どうやら掛ける言葉が見つからないようだが、何故だろう?この冬木の地は俺達が来た時点でキャスターを除いて完全に制圧されていた。そんな中で僕達に加勢してくれたという事は、彼等が前にロマンが言っていた援軍なのだろう。ならば彼等の動向を何故知らなかったのだろう?
「センパイ、この状況はいったい・・・。彼等がロマンさんの言ってた・・?でも、」
「あぁ、マスターの姿が見えない。セイバーを倒せた以上あとは特異点を正常化させるだけ。なのにまだ警戒してるということは、よほど用心深い奴なのか、それとも此方を全く信用していないのか。まあ、それは後々改善していくとして、と」
「センパイ?あの、何を・・・?」
いったん面倒ごとを思考の端へ放り投げて、この真面目なコウハイの頭を撫でる。全く、義務感や周りへの気遣いは尊いことだけど、もうちょっと自分を大事にして欲しいものだ。
「あの、センパイ。これは・・その・・・///」
「うん?どうした、顔が随分赤いけど調子が悪いのか?ま、まさか連続宝具の反動が今頃!?」
「いえ、違います!!確かにまだ少し違和感はありますが、その、体調は寧ろ・・・今ので・・良くなったというか・・その・・(ボソボソ)」
何だか良く聞こえないけど、真っ赤になって俯いてしまった。どうしたんだろうか?
あ、そうか!これだけの面々の中で子供扱いされたことに照れているのか。これは悪い事をしてしまったな。
「・・・はあ。どうしてこうウチの組織の男共はこう女心が分からないのかしら。マシュのこれからが心配になるわね」
うるさい、がっかり所長。大事なところで役に立たない人に残念なモノを見る目なんてされたくない。
「ちょっと!何も言わないからって分からないと思わないで頂戴!!あなたの目は無駄に色々かたるのよ、主に悪い方に!!!
・・て、あなた・・何をする気?」
とりあえず、所長は置いておいて、俺はセイバーの元へと近寄る。まだ意識があるのは驚きだが、喋る事すら億劫なのか視線を向けるだけに留まる。
「ーーー
「え!?センパイ、まさか!?」
「治癒魔術!?あなた、一般人からの筈じゃ・・・。!じゃなくて、あなた何のつもり!!?」
「大した事じゃない。気休めにもならない小手先の治癒だ。それにここまで壊してしまってはどうにもならない。が、少しばかり終わりを長引かせるのと会話できる程度なら何とかなる。マシュ達は本当に良くやってくれた。ここからは、というかここからが俺たちの仕事だ。」
「せ、センパイ?あの、仕事とは?後は、特異点の修正だけでは・・」
「システムは一人でには狂わない。必ずそこに理由と道理がある。それを知っているのは彼女だけだ。
さて、君は言ったな?『見られている。だから案山子に徹した』と。ならばこの事態は君自身の望みだけでなく、他の連中の思惑も混じっている訳だ。その大元を叩けなければ、例え人理定礎全てを修正出来たとしても、イタチごっこだ。君の苦痛をただ長引かせる外道染みた手段だが、こっちも人類史を2015年で終わらせる訳にはいかない。答えてくれ」
「・・・なる程。落ち着いて良く見れば面影がある。そう・・・。あなたは自分を好きになる事ができたのですね、◼︎◼︎◼︎・・・・」
最後はノイズが入ったかのように聞き取れなかった。けれど、どうやら俺ではなく、俺を通して誰かを見ているようだ。
「良く聞いてください。これからあなた達はグランドオーダー ーーー聖杯をめぐる闘いに身を投じなければならない」
『「「!!!」」』
「冠位指定・・・ですって!?」
「7騎のサーヴァントで殺し合うのではなく、7騎のサーヴァントが殺しに来る。今の貴方達の戦力では到底勝ち目はない。それでも挑むというなら、これを・・・」
「?これは・・石?とペンダント?」
「貴方なら、必ず『彼』を召喚できるでしょう。彼の真眼と戦いの上手さは大きなアドバンテージになる筈。そして、あの男を必ず止めて下さい。始まりの御三家が生み出した妄念を・・・・!!?ぐ、あぁ・・・」
「!!セイバー!!?くっ・・!?」
一瞬だった。セイバーの伏せていた大地が漆黒に染まり、底無し沼の様に彼女を引きずり込んだ。余りの早さに即応できず、自分を逃すだけで精一杯だった。一体何が?
「傀儡風情が、あんまり余計なことを喋って台本を汚さないでくれませんかね?」
「いや、まさか君達がここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの計容外だ」
二人の男が立っていた。一人は、カルデアをふらついていた時にロマンさんと会った緑の紳士服に身を包んだ男。そしてもう一人。年恰好は自分より少し下、群青色の西洋合羽に顔の上半分を覆う仮面を着けた、そして・・・銀髪に緋色の眼をした少年だった。
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