side 禅定
「・・・知らない天井だ」
ハッ!?何か変な電波が脳から口を伝って漏れ出たぞ!?何故かこう言わなければならないと命令染みたなにかが。『天啓』スキルなんて持ち合わせてないんだが。
それはともかく、見覚えのある近未来的な機械の室内から察するに、どうやら無事に戻れたようだ。いや、戻してもらえた、というべきか。
正直今回生還できたのは奇跡に等しい。援軍の絶妙な支援のタイミング、敵の油断、そして初戦という相手への情報の不足。どれか一つでも欠けていたらここには帰ってこられなかった。少なくとも大なり小なり犠牲は出ていただろう。逆に言えば、大急ぎで戦力を今以上にしなければ、今度は必ず犠牲者が出る、ということだ。
「フォーウ!(モフッ)」
「やあ、お目覚めかい。それは良かった。今回は仕方ないが、人を待たせるのは感心しないよ」
・・・身体を起こした瞬間、毛玉に飛び付かれ見知らぬ人が待ち構えていました。あなたならどうする?
1.「あなたは・・・?」
2.「・・・おはようございます?」
3.モフる。兎に角モフる。ただ無心にモフる
迷う迄も無い。3番一択だ。さあ、いざ夢のモフモフ天国へ、と思ったら即座に逃げられました。解せぬ。
「おや、それだけ機敏に動けるなら心配はなさそうだね。それじゃあこっちも遠慮なくいかせてもらおうか。君には聴きたいことがいっぱいあるんだ。場合によっては告知義務違反にガッツリ引っかかるものだからしっかりじっくりとね」
あ、これダメなパターンだ。昔よく見た時計塔の連中の目に良く似てる。こういう時は逃げるに限るな、うん。
腹を括ったら魔力を流して刻印を起動、脚腰に強化の魔術を掛け、後転倒立の要領で飛び上がり壁を三角跳びして立ち塞がる女性(少し違和感を感じるが)を乗り越える。幸い武闘派ではないのかそれともやる気がないのか反応は鈍い。そのまま出口目掛けて全力ダッシュ!!
「おぉっと!どこに行くんだい。メディカルチェック(という名の尋問)を受けないと外出許可は出せないよ!」
ーーーと思ったら扉番が配備されていた。寝起きの疲労した子供相手に逃走対策を用意していたとは、あの女性(?)はやり手の策士に違いない。
だがしかし、彼女は重大なミスを犯した。それは、
「え?ちょ、止まっt『ゲシッ!』ひでぶっ!!?」
一瞬足りとも止まることなく(勿論手加減はしたが)勢いの乗った蹴りを鳩尾に叩き込む。彼は犠牲となったのだ。俺の逃走という犠牲にな。え?憂さ晴らし?人が必死に闘ってる中高みの見物してた八つ当たり?サテ、ナンノコトヤラ。
まあ、そんな些細なことは置いておいて、あれが派手に吹っ飛んだことで注意を引いてくれている隙にトンズラだ。とりあえずどこか空き部屋か倉庫を見つけて工房化すればこっちに有利にできる。少なくとも一方的な尋問なんて出来n『ムギュッ』・・・ゑ?( ゚д゚)
「せ、センパイ!落ち着いて話を聞いて下さい。逃げたくなる気持ちは分かりますが私達はセンパイと事を構えるつもりはありません!」
なん・・だと?。最強の門番(シールダー)の二段構えとは。全速力で突っ走る男に接触するなんて怖かっただろうに、それでも必死に俺の腕にしがみ付いてくる。これは投了だ。こんな健気なコウハイを振り払うなんて非道、俺には出来ない。
「ゲホッ。あ、あのさ。僕の扱い酷過ぎないかい?ウエップ。」
知らん。起き抜けを狙って人の神秘に土足で踏み込んで来るような失礼な輩に慈悲は無い。せめてこの可愛いコウハイのように対等な話し合いをする誠意を見せなさい。
「あっはははは!少し揶揄うだけのつもりだったけど、随分面白いものが見られたね。しかし、随分早とちりするんだね。カルデアが現在保有するたった二人の戦力を無下に扱う訳無いだろう?」
ケラケラと笑いながら近づいてくるけど、さっきのあなた方、目がマジだったぞ?
「うぅ。こんな緊急事態でふざけたのは悪かったと思うけど、君にも非はあるんだよ。素人の一般人って触れ込みだったのに、見た事も無い魔術で起死回生してみせるんだもの。あんな芸当、時計塔の魔術師でも出来る奴はそうはいないよ」
う、それを引き合いに出されると弱い。ただ、こっちだって悪気があって黙ってた訳じゃないし、そもそもこんな『魔術使いらしい』依頼内容でもなかったし。
「その事は悪いと思ってます。けれど、此方も身内の恥を晒すようであまり話したくないですから。まあ、事情が事情ですから、不安材料は早目に解消しようというのは賛成です。」
「ああ、それは良かった。話が早くて助かるよ。でも、それなら何で逃げようとしたのさ?」
「あのままだと何でもかんでも喋らされそうだったからです。こっちにも色々話せないことがあるんで、対等な対話が出来る場を整えたかったんですよ」
「まあ、自分の魔術を秘匿するのは魔術師としては当然だけど、君の力はとても強力だ。単にマスターってだけじゃすまない。充分戦力に数えられる。これからに備えて情報共有は大事だと思うけど」
ロマンさんが不満そうに返してくる。確かに俺の魔術は色々と融通が効く。人間の貧弱さを差し引いても役立つだろう。サーヴァントならともかく、魔物やゴーレム程度ならどうとでも出来る自負もある。しかし・・・。
「世界を救った返礼が封印指定行きホルマリン着じゃ笑えませんよ。勿論いざという時にまで出し惜しみなんてしませんが、後で自分の首を絞めるような事はしたくないですね」
「あ・・・」
マシュは想像ついたようだ。俺が考える最悪のシナリオに。
基本、魔術師なんて生き物は利己主義が服着て歩いているような人種だ。只ひたすら自分の研究に没頭し、必要なら他人の成果を簒奪したり、神秘の秘匿の範囲ならどれだけの犠牲も許容してしまう。むしろカルデアのような自分以外の誰かの為に何かをする連中の方が相当珍しい。
さて、そんなロクデナシ達が自分の関係の無い所で勝手に命を賭けて、知らない内に世界を救った奴を配慮することがあるだろうか?それどころか、世界を救える程の力を研究資材にしようとこぞって掠め取りにかかるだろうな。
「・・・何を馬鹿なことをペラペラ喋っているのかしら。貴方、この私と私のカルデアを随分安く見ているのね」
「まあ、予測出来る全てに警戒を持つのは及第点がやれるが、自分の手札を把握しきれていないのは減点だな」
突然、扉から入ってきたのは一組の男女。一人はつい先程まで、行動を共にしていたオルガマリー所長だった。良かった。何とか助けることができたのか!でもどうやって?肉体は既に爆発によって消滅したと、ライノールは言っていた筈なのに。
もう一人は初めて見る男だ。短めの黒髪に薄い黒縁眼鏡、顔立ちは恐らくかなり整っているのだろうが、痩けた頰に眉間に寄り過ぎた皺の所為で魅力よりも陰険さが前に出てしまっている。
後ろには紫衣のキャスターが控えている所を見ると、彼があの時のマスターか。
「貴方は飛び入りとはいえ、このカルデアと正式な契約を結び所属しているマスターなのよ。雇用者を守るのは当然の努め。少なくとも、人類規模の危機を対岸の火事扱いするハイエナ達の餌なんかにする気はないわ」
「・・・魔術師の雇用理念が当てになるかはさて置いて、この機関は国連の肝入りな上、サーヴァントという強力且つ我々独占の手札もある。外野に関してはそれ程気にする必要は無い。それに」
一呼吸置いて今度はロマン博士の方に向き直る。僕の見間違いだろうか。彼の目付きがさっきよりさらにキツくなったような気がする。
「あんたも聞きたいのはこれからの戦力の筈だ。それなら聞き出すのは基本戦術と得意魔術で充分だ。切り札についても秘匿で良いだろう。俺たちがレイシフトしている間に先日の要領で次元を繋がれて強襲、その後は拷問なり洗脳魔術なりで情報漏洩、なんてのは避けたいからな」
「正論ね。貴方達なら任せられるって事は分かったんだし、こっちはそれで構わないわ。良いでしょ、ロマン?」
所長がそう言うとロマンさんはやや不満そうだけど納得してくれたみたいだ。魔術師って色々とアレな人種だから、どう切り抜けようかと悩んでいたが無事何とかなってよかった。
それにしても随分と所長の対応が丸くなった気がする。側から見て気付かなかったけど、ライノールにあの時何かされたんだろうか?
「失礼ね!?私だって命の恩人相手に義理を通すくらいするわよ!
・・・それに正直嬉しかったのよ。マシュから聞いたけど私を助けるのにかなり無茶したんでしょ?そうまでしてくれる人がいるって思わなかったから」
何だろうか、これが幻術か何かに思えてきた。それとも夢か?
ロマンさんも信じられないものをみているかのようだ。つまり、何が言いたいかというと、
「デレ期?」
「鬼の霍乱?」
「普段からそうしていれば嫁のm(ry「貴方達そこに直りなさいぃ!!」アベバーッ!!?」
〜〜〜〜しばらくお待ち下さい〜〜〜〜
「さて、落ち着いた所でお互い見せられる分だけだけど情報共有しよう。」
とりあえず話を元に戻してみる。幸い二人掛かりでロマンさんを所長の盾にしたので、俺たちの損耗はそれ程じゃない。所長のストレスも発散されたので会議をするのに丁度良い。
もう一人のマスター ーー蘇芳 漸次ーー も一人何事か思案していたが、呼びかけにすぐ応じて顔をこちらに向けている。今この場に居るのは俺、所長、蘇芳、マシュ、ロマン、それとダ・ヴィンチの6人。
「改めて自己紹介から。俺は禅城 蘇芳。マスター候補48番目の一般人枠からカルデアに参加した。得意戦術は宝石魔術による範囲攻撃と投影魔術による白兵戦かな。よろしく」
とりあえず質問は最後に回すように言い含めている。とりあえずこれから死ぬ気で働かされる現場担当の自己紹介から始めてみた。
「マシュ・キリエライト、カルデア所属。今はあるサーヴァントと融合しデミ・サーヴァント化しています。原因は不明です。よろしお願いします」
ふむ、マシュはとても簡潔な紹介だな。そして頻りに蘇芳の事に視線を向けている。どうやら彼を警戒しているようだ。
「最後は私か。蘇芳 漸次だ。俺の家はアトラス院所属の錬金術師の家系だった。知っている方もいるだろうが、アトラス院は初代院長が遺した終末世界の回避に血道を上げている連中だ。ただ、二代前の当主から脱退しているが、何だかんだ腐れ縁が続いていたんだろう。俺にカルデアに一口噛んで繋がりを作れと依頼してきた。得意戦術は東西から掻き集めてきた魔術と錬金術による礼装のオールレンジかな」
へー。知識として魔術を収集してるだけじゃなく、その殆どを戦闘で使えるって凄いな。アトラスの錬金術師は魔術回路が少なく本人の戦闘力は低いって言われているのに。なら、セイバーに使った爆発やあの紅い結界も彼が?いや、セイバーの対魔力を突破したり、一工程(シングルアクション)で結界魔術を成立させるなんて可能なのか?
「それじゃあ、誰か質問・・・」
ありませんか、まで言えなかった。無茶苦茶素早く所長とロマンさんが挙手してらっしゃる。それじゃ、所長どうぞ。
「禅城。貴方一般人枠で入った筈よね?なんで魔術を使えるの?いえ、使える、なんてレベルじゃないわ。確実に実戦で使えるように仕上げられたものよ、あれは。どういうことなの?」
う、やっぱり聞かれたか。あんまり話したくないんだけどなぁ。
「えーっと、身内の恥といえば良いのか。実は僕の苗字って母方の親戚から借りていて、本名は別なんですよ。ただ俺は母と違って理論よりは感覚派だからある程度学んだら現場で修行しようってことになりまして。それで父母よりも協会に繋がりの強い禅城の世話になってます。父母も大分時計塔関係で世話になったから奉公も兼ねてですね。」
「あら、そうだったの?一般人って先入観があったから気付かなかったけど、確か禅城家って嫁いだら嫡子に秀才以上が必ず出来るって持て囃されている名家よね。
それは分かったけど、じゃあ何で魔術師として参加しなかったの?貴方の実力と禅城の力なら何も問題ないでしょう」
「あ、なんていうか、その。僕の実家って凄い天然というか、うっかりというか。カルデアの件を了承する手紙の住所を『うっかり』間違えて出したり、それで機密情報が漏洩しかけたっていう時計塔から大目玉食らったり、その騒ぎに乗じて実家の成果を掠め取ろうとする馬鹿を潰したりしていて連絡が遅れ、その頃の俺は禅城のお祖父さんの知己に頼まれて封印指定の真似事に地球の裏側まで行ってたから更に遅れて。正規枠はもう締め切っていて、下手に関係の薄い魔術師に借りを作ると洒落にならないことになるかもしれないから母の協会での後見人って人に頼んで無理矢理一般人枠を作って貰いまして」
と、ここで一旦言葉を切って見渡してみる。うん、皆さん『何言ってんだ、コイツ』みたいな顔してらっしゃる。だから言いたくなかったんだよなぁ。とりあえず早い所話題を変えないと、また所長が暴れ出しかねない。人が人命をかけてやってる事業に願書出し損ねた受験生みたいなことしたなんて、喧嘩売ってるとしか思えないもんな。
あれ?みんな呆れてるかと思ったら蘇芳だけ難しい顔してる。あ、挙手した。じゃあ、どうぞ。
「一つ尋ねたいのだが。・・・お前、歳は幾つだ?」
・・・・・・・・・・・・ゑ?
「禅城家の嫁に宝石魔術、先祖伝来のうっかりとくれば、日本の『冬木の御三家』の一角だろう。確か現当主が2004年に時計塔に入った筈だ。『聖杯戦争の勝利者が鳴り物入りで入学する』というのは結構当時は賑わったからな。いつ君をこさえたかは知らんが、どう逆算してもその形と釣り合わんのだが」
「・・・え!?セ、センパイ!一体どういうことですか!?ま、まさか危険な儀式に手を出したんですか!!?クトゥルー的な何かですか!!!??」
落ち着け、マシュ。俺は人間辞めた覚えは無いぞ。というより、何でアトラス側なのに協会関係に詳しいんだ?この人。
「たまたまさ。私も冬木の地に来れなければ至らなかったさ。まあ、此方ばかり手の内を晒させてはアレだから、タネについては後で教えてやる。それより、どういう仕組みでその姿をしているんだ?」
うーん。まさかこれにまで勘付かれるとは思わなかった。本当にこの人何者?それよりも、分かってもらえるかな?かなり荒唐無稽な話だし、もし逆の立場なら確実に冗談にしか聞こえないだろうし。
「・・・あの、怒らないで聞いてほしいんだけど。7代を数える俺の生家伝来のうっかりがとうとう第二魔法にまで届いたというか」
「・・・・・・・・・はい?」
「いやー。母さんとくっついて色々と余裕が出来た(らしい)父さんが有り得ないスピードで主夫スキルと人タラシスキルを跳ね上げていくのに色んな意味で危機感を持ったのか、母さんが全身全霊で虫除けスプレー《対タラシ用宝具》創ろうとしたのが始まりなんだけどね。それをどうやらかしたのか、平行世界運用の鍵になっちゃうわ、さらにうっかりやらかして俺にぶっかけるわ。下手したら大量流入してきた力で破裂しかねなかったんだけど固有結界とか大師父なんかのサムシングで一命を取り留めて、けど完全には抑えきれなかった分を器を成長させる形でどうにかなった、かな。まあ人より数年歳食っただけで年齢が追いつけば問題ないから」
いや、あれには本当に焦った。もう宝石魔術なんかほっといてあの『うっかり』を研究した方が早く『根源』に到達できるんじゃないかな。本当に、心の底からそう思う。
あれ?みんなそんなに震えてどうしたの?流石にこんな話、信じてもらえないかな??
「いや、こんな時にこんな状況で法螺を吹くような奴じゃないのは理解しているから心配無用だ。ただ」
ただ?
「「「「「魔術舐めてんのか、ゴルアァァァー!!!!!!」」」」」
なんでさ〜〜〜!!??俺何にも悪くないのに〜〜〜!!!!
ここまで読んでいただきありがとうございました。
前回のこじつけについてですが、これは原作主人公の年齢です。もう隠す気もない感じなのでバレバレな両親ですが、彼らの聖杯戦争が2004年。fate/GOが2015年。聖杯戦争後直ぐに子供こさえた訳もないので、どう考えても10歳以下。ビジュアル的にもありえねーだろ、どうすんだよ、と後になって気付きまして。事前準備って大事ですね。