それは、旅の途中偶然見つかった。
打ち捨てられた洞窟の奥底から、氷の塊が見つかったのだった。
洞窟の中はヒヤリとしているが、依然外のほうは暖かくて移動時は汗ばむくらいの陽気だった。
そんな中でこんな氷室が見つかったのだから、賑やかなキル姫たちは大いに盛り上がりかき氷を作って火照った身体を静めることになった。
「さぁ、アナタ? たぁんと召し上がれ♪」
芭蕉扇が差し出した器を僕はそぅっと受け取った。何故ならこれでもかというくらい山盛りだったからだ。
「盛りすぎじゃないかな、芭蕉扇?」
しかし芭蕉扇はその反応が気に入らなかったらしく、豪奢な羽根付き扇をパチンと閉じた。
「だって私はアナタの正妻だもの! 他の姫たちと同じようなよそい方など、できるわけがないわっ!」
「ちょっと芭蕉扇! 毎度の正妻発言にも言いたいことあるけど、それよりも加減ってものを考えなさいよ! 冷たいものをいっぱい食べ過ぎると簡単にお腹壊しちゃうのよ! せっかく私が適切な量で計っておいたのに……」
「まぁまぁ……。ちゃんと冷えすぎないように気をつけるからさ、その辺にしといてあげてよ。芭蕉扇だって悪気があってやったわけじゃないんだし……」
「……もうっ! ちゃんと気をつけなさいよね! この隊はその辺みんなルーズなんだから!」
心配性のアスクレピオスも今回はなんとか矛を収めてくれたが、しかしこれ、気をつけてどうにかなる分量じゃないかも……?
けれど、おかわりしてるキル姫もいることだし、大丈夫だろう。僕はあまり気にしなかった。
そして、実際僕の身には恐れるような事態は何も起こらなかったのだった。がしかし……。
――
それは翌日の話になる……。
「主君、実は折り入って頼みがあるのだが……」
それはいつも気合い充分、勤勉極まりないキル姫、マサムネの発言だった。
「どうしたの? そんなに元気がなさそうなのは珍しいけれど……」
「う、うむ……。実は恥ずかしながら……」
そんな前置きをしながら、マサムネは上目越しに打ち開けてくれたのは……。
「拙者、腹を壊してしまったのでござりまする……」
「ぷっ!」
「なっ!? 笑うことないではないか! ただ、昨日……。珍しく氷菓など食べたもので、少し舞い上がってしまって……。その上、ほら、拙者の服は腹部の布地が少ないゆえに……」
確かに。布地が少ない……、どころかへそ丸出しスタイルだし、冷えるのもしょうがないような服装だと思う。
「それじゃあ、アスクレピオスに相談して薬をもらってこよう。きっとすぐに良くなるよ」
「ま、待ってくれ! それではいかんのだ! 主君、後生だからお待ちくだされ!!」
それは珍しく慌てた様子のマサムネだった。どこか怯えた様子にも見える。それこそマサムネには似つかわしくない姿だ。
「あれだけ強気でアスクレピオスの忠告を破ったのだ……。今更頭を下げるなどできようものか……。拙者、どれほど苦しくとも、彼女にだけは相談するわけにはいかぬのだ。……だからどうにかこの場だけの話にはしてくれまいか?」
「それは、いいけど……。でも大丈夫なの……?」
「かたじけない。いや、拙者の心配なら無用でござる。……アイタタ」
しかし、ふらつきよろけてしまうマサムネ。よく見れば顔色もあまり芳しくない。
「ほら、そんな恰好してるからだよ。ほら、僕の上着、着ていいからさ」
「か、かたじけない、主君……」
今度はマサムネの顔が少し赤くなっているような……。ひょっとして熱でもあるのだろうか?
「主君、差し支えなければで構わないのだが……その……」
「うん? 僕で良ければ何でもするよ? 遠慮せずに言ってみて」
「う、うむ……。その、良ければなんだが……」
マサムネは僕の貸した上着の裾をきゅっと握りながら、とんでもないことを言うのだった。
「腹を、さすってはもらえぬか……?」
僕はそんなことを訊かれるとは露知らず、返事をしそうになって……。
「え……? それくらい構わないけ、ど……? って、えぇ!?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまったが、マサムネは僕のインナーの袖を、ぎゅっ。万力みたいな強い力でつまんできて、放してくれない。
「主君も聞いたことくらいあるだろう? 手当という言葉は手を当てる、つまり古くより伝わる気の伝達手段であり、その効果は遙か昔より実証されてきたのだ。つまり、主君にさすってもらえれば、主君より賜った気の力で拙者の腹痛は治まり、活性化した気がお互いの健康状態すら改善させ、さらに元気になれるというわけだ。無論、やらぬ手はなかろう?」
「……そう言われると、そうかなぁ?」
しかし、確かにどこかで聞いたことあるかもしれない。そうか、お腹をさすってあげるだけでそこまでの効果があるのなら、確かにやらない手はないだろう。よし、やろう。
そして、目を向けると、そこにはマサムネの白いお腹があった。
体質のせいか日焼けは少ない。だが、不健康とはほど遠く見えるのは、やはりこの引き締まった肉感にあるのかもしれない。
ぱっと見では、筋肉質というほどではないのだが、見れば見るほど無駄な脂肪のない美しいお腹だった。
「それじゃあ、……触るよ?」
「う、うむ……」
とはいえ、女の子の身体だ。同意の上とはいえ、治療のためとはいえ、やはり少し緊張してしまう。
そぅ……と、腕を伸ばす。僕が唾を飲み込むのと同時に、マサムネも緊張した面持ちだ。
ぴと。指が触れた瞬間、
「やんっ」
あれ? 誰の声だろう。近くに他のキル姫がいたのだろうか。
「ゴ、ゴホン! き、気にしないで続けてくれぬか?」
「え? でも今、他のキル姫っぽい声が……」
「気の所為ではないか? 拙者には聞こえぬが」
「そうかなぁ。確かに聞こえたんだけど……」
「気の所為に決まっておろう!」
マサムネがそこまで言うのなら、気にしなくて良いのかなぁ。まぁ確かに錯覚か何かかもしれないし……。
それじゃあ、もう一度……。さすり。
「ふぁっ……、んぅ……」
「マサムネ? だいじょうぶ?」
「あ、あまり激しくは……ッ! ……そう、そのまま……」
もうちょっとゆっくりのが良いのかな。
……そうか、こうして手をさすっていると、乾布摩擦みたいに手が温まってくる。これが気なのだろうか。マサムネも顔が赤くなっているし、確かに効果があるのかもしれない。
「ああ、収まってきたぞ。さすがは主君だな……」
「どうかな? もう少し続けたほうが良い?」
「……うむ。もう少しだけ構わぬか……?」
「もちろんだよ」
マサムネのお腹はすべすべしていて、柔らかかった。けど、それはせいぜい表面までであって少し力を入れて押し込んでみるとそこには確かな弾力が存在している。これが腹筋なんだな。
しばらくさすっていると、マサムネが僕の右手を捕まえていた。
掴まれた僕の右腕を、マサムネは大事そうに両手で包み込んだ。
そして、見上げた先には満面の笑みのマサムネの顔があった。
「主君、いつぞやにしていたロンギヌスへの修行も、このような心地だったのだろうか……」
「……ロンギヌスはほとんど寝てたけどね……」
「不思議な心地がする……。主君との信頼が深まったような……。実はな、主君……。拙者は少し嫉妬していたのだ」
「嫉妬?」
マサムネは静かに首肯する。
「うん、ロンギヌスは入隊してすぐに主君からあの、特別訓練を行わせてもらい……、アルテミスも主君と特別な特訓をしていたのだろう?」
「うん。まぁ、そうだけど……。あれは優秀だからとかそういう意味じゃなくてね――」
「分かっているのだ。拙者が劣っているのではないと、分かっているつもりなのだ。だが、それでも……」
マサムネの表情が黒い前髪で塞がれてしまう。まるで不安げな顔を隠そうとしているかのように。
「胸の中に沸き上がる不安は、幾度剣を振るっても掻き消えるのではなかった。だから、こうして特別な特訓ができて、良かったと思うぞ」
その顔は、今までで見たマサムネの顔の中で一番眩しい。
「この深まった絆の心と、この高ぶる忠義の心で、拙者はまだまだ強くなるぞ!」
忠義の武士が新たなスキルに目覚めるのは、それからすぐのことだった。
タイトルが決まらなくて困った回。黙座は黙って座っている様子という意味らしいです。腹痛や不安を表現できる良い感じの単語ってないものなんですかねぇ。
前回にマサムネを出して修行がどうのと言わせたのはこの回を書くための布石でした。ちなみにホントに行われていた本家では、水着で特訓してて腹痛になったみたいです。あれ? かき氷じゃなかったっけ? と、書いてから気づきました。たぶん作中時系列的にはこの後に水着でまた腹痛になるんじゃないかと思います。
あと、一応ストックを使い切ったので、解説です。
このシリーズはあくまで本編をなぞらず、キャラクエも再現せずに、好き勝手やるつもりで書いてます。ホントにネタがなくなったら本家を流用するかもしれませんが、可能な限り流用なしでやります。
あと、サブタイトルも本編同様中二風味で書いてます。全部○○の○○というタイトルになってます。けど、もうネタ切れかも。
ガチエロ路線も考えてましたが、いろいろと難しいので現状このままチョイエロくらいで書くと思います。
あと、最後に。
気晴らしで書いてるので安定した更新にはならないと思います。ご了承ください。