それはまだこの世界で僕が目を覚ましてばかりの頃の話――。
旅に不慣れな僕は仲間たちの進言もあり、町で休息を取ることになったのだった。
とりあえず宿を一部屋取ることになったのだが、そこで少し困ったことになる。
「何よアンタ、これも想定済みで部屋を一つにしたんでしょ? このムッツリスケベ」
「ち、違うよ! だいたいその辺の遣り取りは全部ティルフィングがやってくれてたじゃないか!」
僕に濡れ衣を着させようとしているのはデュリンという名の……、なんだろうか。
彼女は、人間を手のひらサイズまで小さくしたような大きさの女の子で、背中に生えた光る羽のようなもので空を飛んでいる。
妖精、といえばすぐに伝わるような外見なのだが、それを一度でも口にしようものならすぐに激昂するため表現が非常に難しい。
癇癪持ちなのかわりとすぐに機嫌が悪くなるが、チョコをあげるとすぐに機嫌が回復するため、不機嫌が長持ちした試しはない。
「もうっ、デュリン! 今は仕方がないでしょう? まずは腰を落ち着けなくては……」
「まったく、そんなこと言って……。夜中に襲われたって知らないわよ。……ふん、何よチョコなんか差し出して、ごまかそうったってそうはいかないんだから……モグモグ、こ、この香ばしい薫りは、……素晴らしいわぁ……ッ!!」
デュリンにチョコのおかわりを用意しつつ宥めに掛かっているのはティルフィング。桃色の髪が印象的な見目麗しい少女である。
そんな、随分と賑やかなメンツだが、残りは、宿へ着くなりベッドへ倒れ込んでしまった小学生くらいの身長のガンバンテインや、早々に町へ遊びに出掛けてしまったナンパ大好きなケラウノス、荷物を整理すると言って拾った石をぼうっと眺める天沼矛(あめのぬぼこ)がいた。
デュリンも入れれば五人の美少女に囲まれての一泊だ。さすがに少々緊張の色は隠せない。
それに、道中数回の戦闘をしたにもかかわらず、少女たちからは女の子特有の匂いが漂っていて、自分の汗臭い匂いと比べて改めて違いを見せつけられてしまう。
そんな自分の体臭を気にした動作だったのだが、ティルフィングは途端に表情を変える。
「そうですね、ここまでしばらく戦い詰めでしたものね。少し汗を流してきますね、マスター」
「う、うん……」
「覗くんじゃないわよ?」
なんて、デュリンが言ってくるが、さすがにこのサイズの女の子の覗きはしないかなぁ。口には出さないけど。殺されそうだし。
――
そうして僕は一同が落ち着いた頃合いで、この世界のことを聞いた。
世界を蝕む者たち――異族が人々を蹂躙している。それと戦うことができる唯一の存在がキラー・プリンセス、通称キル姫。キル姫を管理しているのがラグナロク教会だ。
ユグドラシルを中心にしてそこから王聖区、人民区、耕民区、人外域と続く。外側に行くにつれて異族の数が増え危険が増していく。
僕はその耕民区と人外域の境界を隔てる冥花の花畑で目を覚ました。
そこで偶然会ったのがティルフィングたちだ。彼女らに出会わなければ僕は今頃異族に食われていたはずだ。
はてさて、そんなところがここまでの顛末なのだけれど、話が一段落したところでデュリンがついてこいと、僕らを促したのだった。
辿り着いたのは、ラグナロク教会の支部である町で一番大きな館の中だった。
警備の騎士がすんなりと通してくれた廊下を進むと、そこにはいかにも教会といった風情の聖堂があった。
大きな扉を両手で押し開けると、絨毯が奥まで続いていた。
静謐な雰囲気を醸し出す空間に、僕は肝が冷えるような心地がしたけれど、デュリンは気にも留めない感じでふわふわと先へ進んでいく。
置いて行かれないように慌てて進む。少し空気が冷たいような気がする。
しかし、落ち着いてくるとその光景にまず疑問符が浮かんだ。果たしてここはなんなのだろう、と。
聖堂といえば、祭壇とか十字架とかそういうのが置いてあって、人々はそれに手を合わせてお祈りをするんだと思っていた。宗教の大体はそういう傾向があるのだと思う。……僕の偏見でなければ、だけど。
けど、そこにあったのは泉だった。コインを投げればお金が増えるわけでもないだろうし、メダルを填め込むような穴だって存在しない。それはただの水を貯めただけの空間だった。少なくとも僕の目にはそう映った。
「着いたわね。よし、ここでガチャが引けるわ」
ガチャ? 何のことだろうか。クジみたいなものだろうか。しかしそれらしい店構えは見当たらないが……。
「はぁ……。これだから素人の相手は面倒なのよね」
デュリンはわざとらしいくらいに大きく溜息を吐くと、肩を竦めた。
「デュリン、私にも分かるように説明してもらえませんか? ここはラグナロク教会の施設ですよね? まだ、マスターの洗礼も行っていないのに、勝手に使って大丈夫なのでしょうか?」
「そんなの大丈夫に決まってるでしょう? っていうか、いちいちガチャ引くのに教会の許可なんて取ってたら、教会は今頃致命的な人手不足に陥ってるわよ」
「……それで、ガチャっていうのはなに……?」
さすがにティルフィングのほうは知っていたらしく、デュリンと眼をパチクリとさせたあと、二人で目を見合わせていた。まるで僕だけ蚊帳の外みたいだ。
「そこまで知らないなんて、……記憶喪失って本当に面倒なのね……。良いわ、教えてあげる。良い? ガチャっていうのはGrand Artifact that Created [Humanoid Alternation]の略称よ。頭文字を取ってGACHA、ね。意味は『新世代の人類を創造するための聖遺物』……だったかしら。まぁ、ようは新しいキラー・プリンセスを仲間にするための儀式だと思っておけば良いわ」
「ガチャを引くにはマナや姫石を使うと聞きましたが、デュリンはそれ、持っているの?」
「……なんとかマナガチャ一回分くらいはあるわよ。これを使ってガチャを引きなさい。今の戦力だけじゃあ、とてもじゃないけど王都になんて辿り着けないし」
そうして手渡されたのは青い光の球体のようなものだ。実体はないようで、容積的にたぶんデュリンよりも大きいから、体積を持つ物質というわけではないみたいだ。……で、これをどうしろと?
「投げ入れるのよ。泉に向かってね。それが召喚の儀式。アンタのバイブスに適応した姫が必ず召喚されるわ。今後何度もやることになるんだから嫌でも慣れてもらうわよ」
……そうは言われても良く分からない。けれど、やってみなければこのまま何も分からないままだ。僕は手の上に浮かんだそれを泉の方へ投げるように手を振った。
光は僕の手を離れ、泉に落ちる。――瞬間、スパークするみたいに光が暗い聖堂内を駆け巡る。
思わず腕で遮った先で、バシュゥと何かの音が鳴り、光が収束していく。
バシャア、と水音がして、そこに一つの影が生じていた。
人の形をした影が、ゆるりと泉から這い出してくる。
カクン、と腰が抜けてしまった。もう僕はただ見上げることしかできない。
銀色の髪、深紅の瞳。雪のように白い肌。それは、天より舞い降りた天使のように美しい少女だった。
ト……。僅かな足音すら荘厳な響きを伴って伝わる。
そして、少女の花弁のように美しい唇がゆったりと開いた。そして、どんな楽器よりも美しい音色で声を発した。――それが人の声であると気づくのに僕はしばらくの間気づくこともできなかったくらいに。
「……あなたが私のマスターなの……?」
僕は、何も答えられない。喉に何かが詰まったかのように呼吸すらできない。呼吸の仕方が思い出せなくて、僕はただ、震えていた。
「ねぇ、宿は何処? 私、今すぐ寝たいんだけど……」
僕にはそこまでの記憶しか残っていなかった。
あとから聞いた話では、僕はティルフィングに担がれて宿に連れ帰ってもらったらしい。
レーヴァテインは勝手にもう一つ部屋を取り、そちらで寝泊まりすることにしたそうだ。出費が大変なことになったとデュリンが呻いていたが、チョコ代も結構馬鹿にならないとティルフィングが漏らしていたのを僕は聞き逃さなかった。
とにもかくにも、それが僕の初のガチャ体験であり、その後何度も命を救われることになる大切な仲間、レーヴァテインとの出逢いなのだった。
ガチャを書いてみたかった、という回でした。
せっかくなので序盤の説明諸々やチュートリアルでのガチャなどのお話になりました。
教会等の設定は多少作った部分もあるので本編との相違があったらすみません。まぁ二次創作なので……。
あと、ガチャの語源はしっかりと作ってみたかったんですが、英文法を覚えたのはもう十年以上前なのでうろ覚えもいいところです。受験生は参考にしないでください。あと、イングリッシュに詳しい方、正しい英文法を教えてもらえるとありがたいです。伝わる程度であればいいんですけども……。
あと、今回から○○の○○というタイトルを廃止しました。絶対にネタ切れになると思ったからです。まぁ次回あたりにまた近いタイトルになるかもしれんけど。
今回は推し姫のレヴァを書きましたが、そして次回もレヴァ回になりそうな気配です。まだ予定ですが……。ぼそぼそと喋るときのゆかなボイスがツボ過ぎて生きるのが辛いです。
……そういえば今回エロがなかった……。