ファントムオブキルSS   作:水無 亘里

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白銀と朧月夜~Side:レーヴァテイン

 夜の帳が降ろされ、木々も眠りに落ちた頃――……。

 

「呼び出しといて、いきなり〈コレ〉……? あなたってホントにしょーもない人……」

 

 僕の腕の中には、そんなふうにぼやきつつも抵抗しないレーヴァテインがいた。

 

「……抵抗しないんだね。もっと嫌がられるかと思ったんだけど……」

「だったら、最初からやらなきゃいいじゃん」

「……いや、だってさ……」

 

 予想外の返しにしどろもどろになる僕を、レーヴァテインの月を思わせるような瞳がじっと見つめていた。

 そして、ふっ……と。目が眩しそうに細められる。ささやかな微笑が場を和ませる。

 

「……するならさっさとして。明日も早いんでしょ?」

「う、うん……」

 

 僕はごくりと生唾を飲み下した。

 

「それじゃ、レヴァ。……その、良いかな?」

「いや」

 

 ええっ?! と困惑した僕を見上げながらレーヴァテインは口元を意地悪に歪める。

 密着した状態で、さっさとしてまで言っておいて、何がダメなのだろうか。ご褒美を目の前で取り上げられたような絶望感が、僕の胸中を埋め尽くす。

 

「でも、あなたは変態だからそう言っても歯止めなんて効かない。あたしの制止なんて聞かずに襲いかかる。……そんなの分かってるし」

 

 そこまで言われるのは癪だが、その発言の意図はつまり、ひょっとしてもしかすると……。

 

「ねぇ、レヴァ。……どうして抵抗しないの? ……嫌なんでしょ?」

「……別に。めんどくさいだけだし……」

 

 そう言ってそっぽ向くレーヴァテインだが、頬は赤く染まっていて声も少し震えている。

 

「じゃあ、するね……?」

 

 ……返事はない。だが、レーヴァテインは僅かに首をコクリと動かした。

 その顎を押さえて、覆い被さるようにして僕はレーヴァテインと唇を重ねた。

 柔らかい唇の感触と、彼女の熱くなった身体の熱量を味わうようにして、そこで一度唇を話す。

 レーヴァテインは少し呆然とした顔つきで、視線は中空を彷徨っていた。

 だが、その細い指先はまるで続きをせがむかのように僕の上着の裾を掴んだままだった。

 その手に引っ張られるようにして、僕の影は再び少女の影と交わった。

 僕は何度もレーヴァテインとキスをした。

 啄むような甘いそれではなく、貪るような熱いそれを交わした。

 やがて、何度目か分からなくなってきた頃、ふとレーヴァテインは声を上げた。

 

「……ねぇ、当たってるんだけど」

 

 何が、とは敢えて言わなかったが(個人的にはちゃんと言って欲しいところではあったが)、それはさすがに言わずとも分かった。

 

「ごめん、レヴァがあまりにも可愛くて……」

 

 そう言うと、レーヴァテインは耳まで顔を赤く染めて、ぼそりと呟く。

 

「……優しくしてくれたら、……許してあげるし……」

 

 僕はそこで理性のタガが外れてしまい、少し乱暴に細い肢体を押し倒してしまう。

 恨みがましく睨めつける視線に、申し訳なく思いながらその白い頬を指で撫でた。

 

「……はぁ。どーせ、こうなると思ってたけど」

「ごめん、ここからはちゃんと、……するから」

「……ふん、どーだか」

 

 呆れたような口調に反して、どこか熱っぽい響きの少女の声を聞きながら、僕はゆっくりと体重を掛けていった。

 レーヴァテインはそれを受け入れるように身体の力を抜いた。

 そして、僕はまたレーヴァテインの唇を狂ったように奪う。

 ……そうして夜は更けていった。

 

――

 

 眩しい日差しに照らされて、僕は目を覚ました。

 天幕の向こうから日差しが差し込んできていた。

 僕はシーツから這い出て、起き抜けの身体を伸ばす。

 

 ……あれ? レーヴァテインは?

 ……というより、どうして天幕に戻ってきているのだろう。昨夜はあの後、どうしたんだっけ?

 

 もそもそと目元をこすりながら、外へ顔を出すとキル姫たちから声を掛けられる。

 その中に、レーヴァテインがいた。

 

「ねぇねぇ、レヴァ。昨夜のことなんだけど……」

「昨夜?! マスター、なになに? 昨夜はお楽しみでしたねってこと? じゃあ、次は私と一晩楽しもうよ!」

「なッ、マスターッ?! 少しお話があります! ケラウノスさんは少しお待ちください」

 

 僕がレーヴァテインに声を掛けようとすると、ケラウノスが腕を引っ張り、アロンダイトが割って入ろうとしてくる。

 ちょっと待って欲しいんだけど。僕は昨夜の出来事が現実だったのか、それとも夢だったのか、レーヴァテインに聞き出さないといけないのに。

 でなきゃ、気になって今夜は眠れそうにない。

 喧噪の中、どうにかレーヴァテインの背に追いつくが、彼女はそのまま振り返らない。そして、吐き捨てるように言った。

 

「……変態」

 

 そんな……ッ?! そう思いながら打ちのめされる僕はアロンダイトに引き摺られていった。

 そんな視界の向こうでは、レーヴァテインに与一が心配そうに声を掛けていた。

 

「あれ……? レーヴァテインさん、顔が赤いですよ? どうかされたんですか?」

「……なんでもないし」

 

 そんな遣り取りが僅かに聞こえた気がした。




レーヴァテインが気になって仕方なかったので、思いの丈をぶつけてみました。
一応、オチから想像できるとは思いますが、レヴァと密会したところまでは現実だったように書きました。が、そのあとどの程度の行為にまで至ったかのかはご想像にお任せします。どちらとも取れるように書きました。
……ぶっちゃけた話、「抵抗しないの?」「めんどくさいし」というツンデレな遣り取りを書きたかっただけでした。楽しかったです。ごちそうさまです(意味深)。

あと、当初の予定では、ラブリュス編を書くはずだったのですが、そっちを書き終わる前にこっちを突発的に書いてしまったので、それは次回に持ち越しです。
以前、次回レヴァ回と書きましたが、淘汰の話を書くつもりでして、それはラブリュスを主役にすることになったので、ちょっと以前より予定が変わっています。まぁ、結果としてレヴァ回になりましたが。

追記:本当はラブリュス淘汰編を書きたかったのですが、プロットまでしかできてません。
ちょっとボリュームが膨らみそうだったのと、優先順位が低めだったためエタりました。
そうこうしてる間に原作サイドはロストラグナロクやらさらなる新章まで追加されたりして、もはや僕の心は取り残された廃墟となっているような心地です。

たぶん続きませんが、暇すぎて死にそうになったら書くかもしれないのでいつかまた見に来てください。

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