「厄介なことをしてくれたわね…」
「あら、例の因子を外史へと導くことには、あなたも賛成していたと思ったのだけれど?」
「ええ、因子を遷移させること、そのものには賛成していたのよ。外史を本来の歴史から逸脱させて、それを観察する、それこそが外史の役割のひとつであるのだから…
でも、それは、特定の因子だけを規定の方策をもってして外史へと遷移させる、それだけに尽きる。そこに、異型が入りこむ余地はない。だというのに、あなたがたが外史へと因子を遷移させた、その同時位点において、もうひとつの因子を遷移ではなく消失させてしまうとは…
それで生じる影響は計り知れない。本来の歴史のほうが大きく変遷してしまう可能性がある。それこそ歴史そのものの危機にまで発展してしまう可能性も否定はできない…
「あら、でも『ご主人様』のほうは無事に遷移できているわ。巻き込まれた彼には悪いけれど、もともとひとり分がいなくなることは計算の上なのでしょう? もうひとり分増えたところで誤差の範囲で対応できるのではなくて?」
「あなたの言う『ご主人様』は消失したわけではないわ。あくまで遷移しただけ。その
でも巻き込まれた彼は…いえ、巻き込まれたからこそ、その存在根源から弾き飛ばされてしまった」
「…え、っと、それって…」
「ええ、その彼はすでに本来の歴史から完全に切り離されて…もう
「ええ~、それって大問題じゃない。人ひとり分が、その存在そのものから完全に消失した、ってことよねっ」
「…だから、先程からそう言っているのだけれど…」
「そんな、どうするの、どうするのよっ」
「…方法はひとつ。一度は消失した存在を復活させて辻褄を合せるしかないわ」
「だって歴史からは、もう切り離されちゃっているんでしょ。そんな魂魄を修復して戻したところで、それはその根源とは別物なわけで、もっと
「ええ、本来の歴史にはもう戻せない。でもそんな、行き場のない魂魄でも、存在することを許されるところがあるでしょう?」
「…外史…」
「そう、外史への完全遷移…根源との断絶の影響は無にすることはできないけれど、存在の消失そのものは防ぐことができる。たとえ外史にであっても、その存在の認識さえできていれば、最低限の辻褄合わせはできるはず…
さあ、手伝いなさいな。まずは彼の魂魄を修復する。
遷移の影響で、
そして外史に送りこむ…因子が規定より増えてしまうけれど、そのくらいは許容できるでしょう…」