夜の戦艦、月の涙   作:ハルバーの懐刀

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(かいきにっしょく)

月の視直径が太陽より大きく、太陽の全体が隠される現象。



プロローグ 皆既日食

ある晴れた昼の海上にて、一隻の白い大型客船が航行していた。

 

 

 

総トン数2万3235トンもあり、およそ700人近くが搭乗可能な大きな船である。

 

 

 

客船の操舵室には、複数の乗員たちが航行する船の操作を行っていた。

 

計器を見る船員や舵を握る操舵手。

 

双眼鏡で航行する先を見る若い副船長。

 

彼らは乗客たちが乗るこの船を安全な航海にさせるため、懸命に働いていた。

 

 

 

その他では、船内の客室などを掃除する船員たち。

 

乗客や乗員たちの食事を作る料理長と部下たち。

 

医療に携わる数少ない船医。

 

全ての船員たちがそれぞれの分野で活動していた。

 

 

 

 

 

船首に近い側面の甲板では、青い空と海を見つめる黒服で白い帽子を被る船長が佇んでいた。

そんな彼の元に1人の白い軍服で軍帽を被る老人がやって来る。

 

「航海は順調のようじゃな」

「おや・・・ええ、そのようです」

 

船長が慌てて振り向き、声を掛けてきた人物を確認した。

その人物は老体でありながらしっかりとした体格を持ち、左胸に3つの勲章を付けている。

また、左手には、黒い鞘に入った侍のような軍刀が大事そうに握り持たれていた。

 

「本土から少し離れていますが・・・この海域ならば安全でしょう」

「慢心はいかん、と言いたいところだが、そんな説教もお主は聞きとうないだろう?」

「それは・・・」

「構わんよ。楽にせい」

 

2人が船から見える景色を眺めていると、彼らの背後を2人の子どもが走り去る。

 

「こっちだよ~♪」

「バカ! そんなに走ると転ぶぞ!」

 

先頭を走るのは、赤い吊りスカートに白のブラウスを着たおかっぱ頭の幼い女の子。

甲板の手摺りに届かないくらいの小柄な身長である。

 

その後ろからは、白い半袖シャツと濃い緑色の長ズボンを着た坊主頭の少年が追い掛けていく。

先程の彼女より、少し大きめの身長をした男の子だ。

 

軍服の老人は走っていった2人の子どもを見送る。

 

「やれやれ・・・元気なものだ」

「あれだけ元気であれば、将来も有望でしょう」

「馬鹿を言うでない・・・」

 

彼は茶化されたと思って、船長へ叱りつける言葉を口にした。

 

 

 

 

 

「いたっ!?」

「ほらぁ、だから言ったのに・・・」

 

おかっぱの少女が前のめりに転んでしまい、左膝の部分が軽く擦り剥けてしまった。

ため息を吐く少年が彼女の元へ歩き寄ると、向かい側からスーツに白衣を纏った短髪の女性が小走りでやって来る。

 

「お嬢ちゃん、大丈夫?」

「う、うん。大丈夫」

 

彼女は少女の擦り剥けた部分を確認し、ポケットから小瓶と少し太めの絆創膏を取り出した。

 

「ちょっと沁みるけど我慢してね」

 

白衣の女性はそう言って、小瓶に入れていた水で傷口を洗い、太い絆創膏を貼り付ける。

 

「ありがとう~♪」

 

応急手当てをされた少女が笑顔でお礼の言葉を口にした。

彼女はすぐに立ち上がって、その場から走り始める。

 

「あっ、また・・・あ、ありがとうございました!」

「いいのよ♪」

 

お礼を言う少年が急いで少女を追い掛けていった。

残された白衣の女性が見送りながら微笑む。

 

「元気ね・・・あの子も元気でいるかしら・・・」

 

 

 

 

 

景色を眺め続けるご老体が目を細めた。

彼の異様な静まりに、不思議に思った船長が尋ねる。

 

「どうかされましたか?」

「・・・・・・いや、気のせいだ」

 

彼はそう言って、その場から立ち去っていった。

残された船長も彼の見つめていた方向を確認してから歩き出す。




次回:新月
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