英語のnew moonから翻訳されているため、そんなに古い呼び名ではないらしい
薄暗い雲に覆われた空と、少し濃い青色の海。
太陽が隠されたその海上では、多数の砲身を上部と左右側面に付けた通称“軽巡ホ級”と言われる個体が航行していた。
それの左右には、黒いクジラのような細長い物体も泳いでいる。
「・・・?」
ホ級の人の形をした上半身が何かを察知した。
それの頭が上空を見上げると、上空からいくつもの何かが落ちてくる。
「!?」
その正体に気付いた軽巡は急いで回避行動をとるが、左側に居た黒い物体へ飛来物が直撃した。
「ガァァッ!?」
命中した飛来物は直撃と同時に、黒い物体の装甲を吹き飛ばす程の爆発を起こす。
背中を壊されたそれが青い両目と白い歯並びの口を曝け出した。
「初弾命中!」
「やるね。ボクも始めるよ!」
「見事な初弾だな。こちらも突撃する!」
海上を滑り走る黒いセーラー服を纏った3人の少女たち。
中央で突っ込むように飛び出す白銀の長髪をした赤眼の少女。
彼女の腰には黒い筒の爆雷投射機があり、それを固定するベルトに三日月のバッジが付いている。
また、サイハイソックスを履いた両足の外側に三連装魚雷が装着され、両手で拳銃型の単装砲を構えていた。
白銀の少女の左側には、長い金髪を後ろへ2つのテールにまとめた金色の瞳の少女。
彼女は他の少女たちと共通の白ネクタイに三日月バッジが付けられ、白銀の少女と同じ魚雷と爆雷を装備している。
手に持った拳銃型単装砲だけは、それぞれ両手に持って二丁拳銃のように扱っていた。
金髪の彼女とは反対側である位置に、緑色のセミロングヘアをした緑目の少女。
彼女も他の2人と似た装備をしているが、左目の上辺りに三日月型の髪飾りが付けられている。
白銀の少女と同じサイハイソックスの両足に四連装魚雷が装着され、右手で拳銃型単装砲をカッコよく構えた。
「左、砲雷撃戦用意! まずはお前からだ!」
緑髪の少女が右側へ平行移動しながら、右手の単装砲と足の魚雷を同時発射する。
彼女が狙う相手は、さっき被弾したばかりの黒い物体だった。
放たれた砲弾が先にそれの頭部へ命中し、遅れてやって来た複数の魚雷が横っ腹を吹き飛ばす。
致命傷を受けたそれはゆっくりと海中へ沈んでいった。
「ガァァッ!!」
「ボクとやり合う気なの? とっても可愛いね!」
金髪の少女は口から砲身を伸ばす黒い物体と砲撃し合う。
彼女が持つ両手の単走砲が交互に砲撃され、相手の身体のあちこちに当たっていった。
連続で被弾し続けたせいで、黒い物体の外皮が弾け飛ぶほどの爆発が起きる。
「目標、軽巡ホ級・・・行けっ!」
白銀の少女が両手で構える単装砲を撃ち放った。
彼女の砲弾は放物線を描いて、相手の上部に付いた複数の砲塔を破壊する。
損傷した軽巡が白い両手を後ろ腰へ回し、黒い魚雷を1本ずつ取り出した。
先刻の仕返しと言わんばかりに、魚雷の先端を相手の少女へ向けて手放す。
「見え見えだな!」
彼女は目視で魚雷の軌跡を確認し、即座に左側へと回避した。
相手の軽巡はそれを予測して、まだ無事な左右の砲塔を撃ち放とうとする。
「悪いが、その手は食わぬ!」
「ッ!?」
彼女の右足の航行速度が上がり、反対側の左足が速度を失くす。
瞬時に行われたその動きで、1秒も経たずに180度回転し、反転した方向へ高速移動した。
少女の予想外の回避に、軽巡の砲撃は何もない海上へ弾着する。
「運が悪かったな!」
銀髪の少女は砲撃で隙が出来た相手に向けて、両足の魚雷を2発ずつ発射した。
正確に狙い澄まされた魚雷が軽巡ホ級の下部へ命中し、多段ヒットによる連続爆発で海の底へと沈んでいく。
「ふぅ・・・っ! 皐月ぃぃっ!!」
「っ!?」
銀髪の少女が口から出す砲身で仲間を狙う黒い物体の存在に気付いた。
彼女は咄嗟に単装砲を構えて、発射寸前の敵の兵装を狙い撃つ。
撃たれた衝撃で黒い物体の放った砲弾が金髪の少女の手前に着弾した。
「うわっぷっ!?」
水飛沫を受けた少女が身体全体を振って、掛かった水滴を落とす。
その間に緑髪の少女が魚雷発射管から1本の魚雷を抜き取り、右手でそれをブーメランのように黒い物体へ投げ付けた。
「ガァッ!?」
傷だらけの身体へ追い打ちの魚雷が当たり、相手の青い目の光が消失していく。
最後の敵艦が沈むのを確認し、銀髪の少女が一息入れて、他の2人へ呼び掛けた。
「作戦完了。これより、鎮守府へ帰投する!」
択捉島(えとろふとう)の太平洋側にある湾付近の軍事施設。
『単冠湾鎮守府』(ひとかっぷわんちんじゅふ)と言われる場所である。
ドック内では、帰還した3人の少女たちが自身の持つ兵装を整備用の棚へ直した。
兵装が置かれた棚の上には、2頭身ぐらいの小人のような少女たちが多数やって来る。
彼女らは青い整備士の服装を纏い、手に持った工具で兵装の整備を始めた。
3人の少女たちはドックから繋がる通路を抜けて、両扉のある部屋へと入っていく。
そこは、通信機器や海図のあるテーブルなどが用意された会議室である。
「おっ、3人共。お帰り」
数枚の書類を読んでいた白い軍服と軍帽を被る男性が彼女らへ声を掛けた。
彼の名は、“上坂 幸人”(かみさか ゆきと)
この単冠湾鎮守府の司令官であり、そこに属する艦娘たちを指揮する存在。
34歳という年齢だが、まだ若々しく活気のある男性の風格を持っている。
彼の右腕側に居た巫女服を纏うボブカットの女性が右手でズレた眼鏡を整えた。
「ご無事で何よりです。戦果は・・・見た通りですね」
この鎮守府の秘書艦でもある金剛型戦艦の4番艦“霧島”
鎮守府内の戦艦たちの中で最も練度の高い高速戦艦である。
彼女は戦闘能力だけでなく、戦術や分析力も長けているため、司令官の補佐に入ることが多い。
「旗艦である菊月。随伴の皐月、長月の3名。鎮守府近海の敵艦隊撃破に成功し、無事に帰還しました!」
「うん、無事で何よりだ」
「皐月は慢心していたがな」
「ちょっと!? 長月ぃ!!」
銀髪の少女の報告を受けて、上坂提督が笑みを浮かべた。
傍らに居る金髪の少女が緑髪の少女の告げ口で焦り始める。
「君達でようやく全員が揃った。そろそろ始めるとしよう・・・霧島」
「了解です、司令・・・総員、至急、会議室へ集合せよ」
彼女が備え付けの通信機で緊急招集を呼び掛けた。
5分後、会議室内で多数の艦娘たちが整列していた。
上坂提督と霧島は、彼女らと対面するように立ち、集まった艦娘たちを見渡す。
彼女らの中央には、戦艦クラスである2人の女性が立っていた。
1人は、褐色肌に薄い金髪をヘアバンドでツインテールと犬耳という独特な髪型にしている。
服装は桜花紋章のある金属輪に赤い肩掛けと赤いスカート、黒いニーソックスを履いていた。
胸や腹、足の一部に白いさらしが巻かれてあり、特に胸の部分はさらしだけで覆い隠されている。
その右隣に居るのは、金色の長髪をした長身の女性。
彼女は日本海軍の軍帽とは違う灰色の軍帽を被り、服やニーソックスも灰色のデザインをしている。
また、肩口付近は素肌が露出し、背中まで丸見えの状態である。
「この武蔵の主砲が伊達ではないことを見せてやる!」
「Gut.(まぁ) 私と武蔵の主砲は、お飾りになることは無いわね」
褐色の女性は、大和型戦艦の2番艦“武蔵”
金髪の女性は、Bismarck級戦艦の1番艦“ビスマルク”
2人は最近この鎮守府へ着任したばかりで、演習をすることが日課となっていた。
「五航戦の実力を見せ付けてやるわ!」
「そうね。見せ付ける相手は誰にする?」
「いっこ・・・じゃなくて、この鎮守府の皆よ!」
武蔵の左側には、銀髪ロングヘアーの女性と黒髪ツインテールの女性が話し合っていた。
彼女らは、通称“五航戦”と言われる翔鶴型の正規空母だ。
意気込む妹の“瑞鶴”と笑顔で話す姉の“翔鶴”
2人は鎮守府内で数少ない航空戦力の要でもある。
「夜戦♪ 夜戦♪ 待ちに待った夜戦ができる―!!」
「姉さん、落ち着いて・・・」
「那珂ちゃんも夜戦はいりまーす!」
ビスマルクの右側にいる3人の女性たち。
彼女らは軽巡の艦娘で赤みがある白の上服と黒スカートという共通の服を纏っている。
白く長いマフラーが特徴のツーサイドアップした茶髪のセミロングの女性は“川内”
緑の鉢金と一体化した大きなリボンがはみ出ている茶髪のロングヘアーの女性は“神通”
姉たちより目立ったフリル満載の服を纏う左右の団子ヘアーの女性は“那珂”
彼女らは川内型軽巡洋艦である3姉妹で、それぞれが個性的な性格を持つ艦娘たちだ。
但し、上坂提督は彼女らの性格に難儀しているらしい。
「ビスマルク姉さまとご一緒に出撃・・・えへへ♪」
金髪の戦艦の真後ろでは、彼女と同じ灰色と黒の軍服を纏う金髪の短いツインテールの女性。
ドイツの艦娘でアドミラル・ヒッパー級3番艦“プリンツ・オイゲン”と言われる重巡洋艦だ。
彼女も武蔵やビスマルクと同じく、着任してから日数が余り経っていなかった。
また、同じドイツ艦だからなのか、ビスマルクと一緒に過ごすことが多いらしい。
「大井っち、ちょっと暑苦しいよ~」
「嫌です。北上さんの温もりが欲しいの!」
プリンツの右側では、濃い緑色のセーラー服を着た2人の女性たちがくっ付いていた。
彼女らは雷撃能力に優れた重雷装巡洋艦と言われる特殊な艦娘たちである。
黒髪の三つ編み女性は“北上”と言われ、彼女の左腕辺りから抱き付く茶髪のセミロング女性は“大井”と言われている。
この2人も一緒に居ることが多く、特に大井の積極的な好意から始まるらしい。
「姉貴たちはいつも通りだな」
「クマー。木曽も羨ましいクマ?」
「人前でやれるか! 破廉恥な!」
「き、木曽さん、落ち着いて下さい」
翔鶴たちの後ろでは、3人の女性たちが重雷装艦の2人を眺めていた。
栗毛色の長髪に白いセーラー服を纏う少し幼く見える女性。
彼女こそ、重雷装艦となった2人の姉であり、球磨型軽巡洋艦の1番艦“球磨”だ。
頭部のバネのようなアホ毛が時々揺れるのと、独特な口調が目立つ長女である。
その左隣には、彼女と同じ白いセーラー服に右肩を覆い隠す程の金色の飾緒(しょくしょ)が付いた黒マントの女性が居た。
緑みがかった黒髪のミドルロングに右目を隠す金の装飾がされた眼帯がキラリと光っている。
彼女は、球磨型5番艦である“木曽”
姉達である北上や大井のように、遅れて重雷装艦へと改装された末の妹だ。
動揺する木曽の後ろから宥めるように声を掛けた黒髪ロングの大人びた女性。
彼女はグリーンの半袖ジャケットと、チャイナドレス風の前垂れと後垂れがあるきわどいスカートが特徴的な服装を着ていた。
利根型航空巡洋艦の2番艦“筑摩”
彼女は重巡でありながら水上爆撃機を運用できる貴重な航空戦力を持っている。
「いよいよだな・・・」
「菊月、緊張してる?」
「あまり気負い過ぎるな、菊月。自信を持てば問題ないぞ?」
「緊張など、していないさ・・・」
黒いセーラー服の少女たちは、睦月型の駆逐艦と言われ、高い練度と数多くの戦闘を経験していた。
金髪の少女は、睦月型5番艦の“皐月”
緑髪の少女は、睦月型8番艦の“長月”
銀髪の少女は、睦月型9番艦の“菊月”
この鎮守府に居る艦娘たちの中で、最も多くの深海棲艦を撃破している。
その艦種も駆逐、軽巡だけでなく、軽空母や重巡、戦艦クラスなどを撃破したこともあった。
彼女らがそれぞれ雑談する中で、上坂提督が咳払いをしてから真剣な話を切り出す。
「ごほん!・・・予定していた15:30(ヒトゴーサンマル)だ。それでは、作戦内容を説明する・・・霧島」
「はい。本日の12:00(ヒトフタマルマル)に、威力偵察任務で出撃した第2艦隊が“深海棲艦の泊地”を発見しました」
「旗艦のビスマルクと偵察機で発見してくれた筑摩たちには感謝する」
「Danke schön!(どうもありがとう)アトミラールのためならば!」
「見つけたのは“利根姉さん”ですけどね♪」
「私の水上偵察機も見たんだから~!」
金髪の戦艦が感謝の言葉を聞いて、嬉しさの余りにニッコリと笑った。
筑摩は本当の発見者の名を呟き、川内が納得いかない様子で両手を振り回す。
「発見場所は、この鎮守府から太平洋側である東へ約1000km進んだ先です。放っておけば本土への攻撃だけでなく、泊地が別の場所へ移動させられる可能性もあります」
「本日、16:00(ヒトロクマルマル)に出港し、この領域の深海棲艦の泊地に襲撃をかける」
上坂提督が右手で軍帽を整えて、目当ての艦娘たちを見定めた。
「編成は空母機動隊。第1艦隊は、翔鶴、瑞鶴、武蔵、ビスマルク、プリンツ、北上だ。旗艦は武蔵。いきなりの機動部隊で悪いが、指揮は任せたぞ」
「無論だ。この武蔵に任せてもらおうか!」
「え゛っ!? ちょっ! 私、北上さんと離れ離れ!?」
自信よく胸を叩く超弩級戦艦を余所に、重雷装の女性が涙目になる。
「それでだ。第2艦隊は木曽、霧島、筑摩、皐月、長月、菊月となる。残った者は鎮守府の防衛に回って欲しい。やるべきこともあるからな」
「やるべきこと~?」
北上が大井の頭を撫でながら疑問の声を上げる。
それを聞いた霧島が指し棒を持って、壁に張られた海図のある場所を示した。
「出撃する連合艦隊は、敵の泊地から離れたこの場所で、支援艦隊の到着を待ってください」
「以前に私の知り合いと、ある約束事をしていてな。敵の泊地を見つけた際、横須賀へ艦隊を派遣してくれれば、熟練した軽巡を貸し出すと言われた」
「残った者は彼女らの補給を手伝い、少しでも早く私達の連合艦隊へ合流させて下さい」
「敵の泊地で大多数の深海棲艦とやり合うのだ。出来る限りの戦力を投入させる」
作戦の内容を聞いた艦娘たちの殆どが納得の頷きをする。
現在、出撃中の第4艦隊が少数で遠征していた。
たった3名だが、帰投すれば増援の艦娘が加わることになる。
「作戦に参加する者の戦意高揚も完了した。総員、健闘を祈る!」
「「「「「了解っ!!!」」」」」
「私の夜戦がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
約1名だけ床へ崩れ落ちて、四つん這い状態で嘆いていた。
ドック内では、出撃する艦娘たちが艤装の装着と点検を行っていた。
帰還したばかりの睦月型の少女たちも高速で整備点検された兵装を身に纏っていく。
その彼女たちの元に、上坂提督がゆっくりと歩み寄って来た。
「菊月、ちょっといいか?」
「司令官。何か?」
彼は左手で誰かを手招きする仕草をする。
その手が向けられた方向から、小さな2人の整備妖精が2門の砲塔を運んできた。
「これは・・・」
「“10㎝連装高角砲”だ。念のため、これを持って行け」
銀髪の少女は妖精から手渡された兵装を右手の甲に嵌める。
その2門の砲身を上下に動かした後、後ろ腰のベルトに装着させた。
「また強くなってしまった」
「あ~いいな。菊月だけずる~い!」
「司令官、私にはないのか?」
不満を告げる皐月と長月に対し、彼は頭を抱え込みながら答える。
「皐月は“強化型艦本式缶”と、長月は“四連装酸素魚雷”があるだろう・・・新装備が無いのは菊月だけだぞ」
「えっ? いっ!?」
「ああっ!? そうだった!!」
姉妹たちの抜けた様子を見て、銀髪の少女が呆れ顔になってしまう。
上坂提督はゲートを指差して、そんな彼女らへ出撃するよう促した。
「もうすぐ作戦開始時刻だ。遅れるなよ?」
「了解だ。菊月、出る!!」
「ちょっとぉ!? ボクが先に行くのに!!」
「なっ!? 出遅れた!!」
重々しく上下に別れて開く鉄のゲートに、海面に足を付けた駆逐艦の少女らが勢いよく飛び出していった。
上坂がその姿を見送っていると、彼の背中に2人の女性が飛び付いてくる。
「のわっ!? なん・・・」
「提督~支援艦隊に私を~北上さんの所へ~!」
「夜戦~! 夜戦を~私に~!!」
「よ、よさんか! お前たち! いだだだだっ!!」
「・・・」
航行する銀髪の少女がまだ明るい曇り空へ目を向ける。
それに気付いた緑髪の少女が彼女へ尋ねた。
「どうした?」
「何時になったら晴れるんだろうな・・・この空・・・」
「空?・・・ああ、今日も曇りか・・・」
「ボクたちが此処に来てから、ずっと雲だらけの空しか見てないよねぇ?」
その呟きに同調する2人だが、彼女は更に別のことを小声で呟く。
「今夜は・・・どんな月だったのかな・・・」
真っ暗な視界に突如、眩しい光が差し込まれた。
いきなりの刺激に何度も瞬きをする“それ”が目を覚ます。
目の前には、暗い雲に覆われた空。
身体の背部からは、多数の堅い物が当たるのを感じ取る。
「・・・」
仰向けに倒れる身体の上半身だけを起こし、“それ”は己の両目で辺り一帯を見回した。
「・・・」
ガラクタだった。
“それ”の寝転がっていた場所。
周りにいくつもの山積みとなったもの。
視界に映る地面が殆ど鉄などで出来たガラクタの山だった。
よく見ると、最下層辺りは潮の香りがする水が溜まっているのも見えた。
「・・・?」
状況が全く分からないまま、“それ”が立ち上がろうとすると、両手に何かを掴んでいる感触を感じ取る。
右手には、長い物体らしきもの。
それは侍が持つような“刀”だった。
ただ、その刀は切っ先のあった部分が折れて、本来の長さより2割だけ短くなっていた。
持ち手の部分も元は白かったらしく、焼け焦げて黒くなった部分もあった。
左手には、丸い饅頭のような物体があった。
本体は桃色に塗装され、上部辺りに三日月と兎の絵柄が描かれていた。
「・・・?」
何なのか理解できない“それ”は、その桃色の物体を無意識に背中の何かへ突っ込み入れた。
「・・・」
折れた刀を持つ“それ”がその場で立ち上がり、再びガラクタだらけの周辺を見回す。
「・・・!」
“それ”の耳に何処からか響いてくる金属のような音が聞こえた。
振り返って、音のある方向へゆっくりと足を進める。
「・・・」
目に見えるガラクタ山の頂上を超えた辺りから、近付くにつれてその音が騒がしくなる。
踏み入れる足に鉄のガラクタとは違う、時々何かがパキリと砕ける音も聞こえた。
ようやく頂上へと登り切った“それ”の目に凄まじい光景が飛び込んでくる。
黒い物体の大群だ。
それだけではない。
そいつらの目が青く光り、不気味な雰囲気を漂わせている。
細長い物体に、大きな歯を持つ巨大な口、人間の腕よりも太い白肌の腕。
人の形をしたものまで徘徊し、その殆ども女性の姿をしていた。
身体の一部分に黒い大砲らしき武器も付けている。
それらの空中では、細く小さな黒い物体が編隊を成して、周回するように飛んでいた。
「・・・」
“それ”は何もせずに、蠢くそいつらの行動を観察していた。
「・・・・・・っ!?」
しばらく見ていると、“それ”はあるものに目が離せなくなる。
それは、黒く大きな物体かと思われたが、上部に人らしきものが見えた。
雪のように白い長髪に、黒い角のようなものが2つあり、腰の黒スカートはマントのように後方へ垂れていた。
それの右肩辺りには、長身で巨大な1門の砲塔が黒く光っている。
人の部分で太ももから下は、巨大な口である物体が同化し、その左右には白く筋肉質な剛腕が生えていた。
「・・・っ・・・・・・っ!・・・」
“それ”がそいつの赤く光る眼を見た途端、“それ”自身の身体が震え始める。
にくい・・・
にくい・・・にくい・・・
にくい・・・にくい・・・にくいっ!
あいつらがっ!!!
次回:繊月