二日月とも言われ、日没後の一時間前後のまだ明るい空に、繊維のように細い月が見えることがある
16:50(ヒトロクゴーマル)
深海棲艦の泊地へ向かう連合艦隊。
彼女たちは暗い雲の下にある海上を滑り走っていた。
第1艦隊の艦娘たちは縦へ2列に並び、第2艦隊を追い掛けるように航行していた。
先行する第2艦隊は、高速戦艦を中心に前方は駆逐の3人、後方に航巡と雷巡の2人が追従する。
「まもなく、例の合流地点になります。全艦、航行速度を緩めて下さい」
高速戦艦“霧島”の指示で、艦娘たちの前進する速度が落ちた。
非常にゆっくりとした航行により、海上を移動する際の水音が抑えられる。
目標からかなり離れているとはいえ、すでに敵の勢力圏内へ侵入しているからだ。
彼女らは敵に気付かれないようギリギリの航行速度で合流地点に向かう。
「大井っち、寂しがってるかな~?」
「あのご様子だと・・・支援艦隊に引っ付いて来るのでは?」
「大井っちなら有り得る」
北上は左側に居るプリンツの予測が正しいと言い切った。
「・・・・・・此処です」
「全艦、停止せよ」
霧島の声を聞いた旗艦の武蔵が艦隊の航行停止を命じた。
日が落ちる寸前の時刻、雲のせいで夜が更けそうな時間帯に思えてしまう程の暗さだった。
それでも、水平線近くに見える太陽の光が残り少ない光源となってくれていた。
「支援艦隊が来るまで、各艦は艤装の点検をしておけ。大規模な戦闘前に、調子が悪かった、なんて嫌な言い訳もしたくないだろう?」
超弩級の艦娘が右手で眼鏡を整え、右腰辺りに装着された巨大な三連装砲と身体の左右に展開された巨大な艤装を稼働させる。
正規空母の翔鶴や瑞鶴は、艦載機である矢とそれを放つ和弓を確認し始めた。
その他の艦娘は、兵装である砲塔と魚雷発射管、自身の足となる機関部の点検を行う。
「そういえば・・・木曽」
「なんだ? 長月」
「この連合艦隊は、“空母機動部隊”だったな?」
「そのはずだぞ?」
「水雷戦隊に“軽巡”が居ないぞ」
「「「「「あっ!」」」」」
緑髪の少女から指摘されたことに、一同が間の抜けた声を漏らした。
その中で秘書艦である霧島が顔を赤くし、震える右手で頭を抱え込む。
「そういえば・・・き、木曽さんは・・・雷巡でしたね?」
「あっ、ああ・・・」
「改装したばかりで・・・私の戦況分析が抜けていました」
「あいつのせいもあるだろう・・・」
木曽が言うあいつとは、上坂提督のことであった。
「帰ったら説教と、私自身も反省文を・・・」
「はぁ・・・支援艦隊の軽巡を編成すればいいだろう」
自らの失態で落ち込む高速戦艦に、武蔵が元気付けるような解決策を提案する。
「ふふっ・・・・・・っ!」
少し緊張が抜けた彼女らの中で、笑い声を漏らす菊月が逸早くあるものを感じ取った。
「菊月?」
「砲撃音!!」
「全艦、警戒せよ!!」
彼女は皐月の呼び声よりも、聞こえてきた音の報告を優先した。
旗艦の武蔵が即座に号令を飛ばし、全員が臨戦態勢をとる。
「「「「「・・・」」」」」
彼女らは電探で空と海中を索敵し、視覚や聴覚などで確認できるものも探した。
辺り一帯が静まり返る中、遠方から雷のように轟く砲撃の音が響いてくる。
「・・・で?」
「あれ?」
「こいつは・・・どういうことだ?」
3人の駆逐艦が疑問に思うのも無理はない。
砲撃音がするからには、放たれた砲弾が何処からか降ってくるはずだった。
しかし、何時まで経っても敵の砲弾は飛んで来なかった。
不審に思った翔鶴があることを口にする。
「まさか・・・敵の泊地で、戦闘が?」
その言葉に反応した霧島が航巡の艦娘へ指示を出す。
「筑摩さん、索敵機を向かわせて下さい」
「りょ、了解。水偵のみんな、発艦準備!」
彼女は後ろ腰からアームで展開された左右の艤装の内、左側のカタパルトが2つ付いた甲板から水上偵察機を飛ばした。
翼に“六三四空”と白文字で書かれたプロペラ機が暗くなってきた空へと向かう。
「・・・索敵機より入電。我、敵の泊地内の戦火を確認す」
「なっ!? なんでそんな状況に!?」
筑摩が呟いた索敵機の報告に、ビスマルクが驚きの声を出した。
同じように驚いていた武蔵が霧島へあることを問い質す。
「霧島、支援艦隊の到着予定は何時だ?」
「決まっていませんが・・・もし、横須賀から真っ直ぐ来たとしても、こちらより早く来ることは有り得ません」
「それがもし本当だったら?」
「そもそも彼女らには、目標の場所すら伝えていませんよ?」
「・・・となると、考えられるのは・・・」
彼女らの考えた結論はただ1つ。
海上へ前触れもなく出現した艦娘の存在である。
「っ!」
2人の話し合いを聞いた菊月が何も言わずに飛び出した。
そんな彼女の姿を見て、他の艦娘たちも後を追い始める。
「菊月!? 待ちなさい!!」
「戦場に身を投じた者がいるのだ!! 放ってはおけぬ!!」
「もう! あなたって娘は・・・」
高速戦艦の制止を聞かず、彼女は艦隊の先陣を切るように真っ直ぐ突き進んだ。
黒マント靡かせる木曽が右隣に居る筑摩へ話し掛ける。
「泊地の様子を見ることはできるか?」
「・・・残念ですが、この暗さでは限界のようです」
彼女が言った通り、先程まであった太陽の姿が消失し、水平線が見辛かった空は暗闇に包まれてしまう。
索敵に飛ばした艦載機はすぐに帰還するよう指示される。
「なんだ、これ・・・どうして、敵が・・・」
長月が口にした言葉。
その理由は、彼女らが信じ難い光景を目の当たりにしたからだ。
「魚みたいに浮かんでるのって、全部駆逐艦みたいだね~?」
「姉貴、それだけじゃない。別のも交じってる・・・」
「わ! びっくりした! こ、これって・・・私と同じ重巡ですか?」
「そうね。プリンツと同じ重巡のリ級ね。本当にどうなってるのよ・・・」
敵の泊地へ向かっていた艦隊は、海面で静かに浮かぶ敵の遺骸を発見する。
但し、その数は異常と思えるくらい数多の量であった。
少なくとも目に映るだけで20隻以上は確認できたのだ。
「木曽っち、見て見て~」
「ん? これは・・・」
「魚の内臓取りみたいだね~」
「いや、魚じゃねぇから・・・」
北上と木曽が見つけた駆逐イ級だったもの。
その頭部の左側面辺りが装甲すらひしゃげる程にこじ開けられていた。
「よく見ると、このリ級って、きれ・・・い゛ぃぃぃっ!?」
「プリンツ? どうし・・・うわっ!?」
ドイツ艦の2人が浮かんでいる重巡のあることに気付く。
人型である彼女の下半身が無かったのだ。
それは灯火が消えた目で虚空を見つめたまま、残る上半身だけで海面に浮いていた。
「一体どれだけの敵が? それにどうやって・・・」
霧島は目に映った敵の艦種をそれぞれ数えていく。
しかし、どれも状態の悪いものが多く、正確に数えられる自信がなかった。
「ひっ!・・・しょ、翔鶴姉・・・これ・・・」
「く、空母・・・ヲ級・・・」
瑞鶴に抱き付かれた翔鶴が思わず手を口に当てる。
深海棲艦の中で高い危険性を持つ艦種。
正規空母の“空母ヲ級”
クラゲのような口付きの頭の艤装を被る白い女性だが、その彼女が意外な方法で事切れていた。
彼女らが手に持っている黒い杖が自らの胸の中心に突き刺さっていたのだ。
他の同個体はリ級のように下半身を失くすか、顔から煙を上げて物言わぬ存在になっていた。
だが、墓標のように突き立てられたその遺骸だけは、艦娘たちの記憶に刻まれる程衝撃を与える。
「酷い有様だね」
「そうだな・・・・・・っ! 皐月っ! 後ろっ!」
「へっ?」
金髪の少女の後方から、長身で左右に砲塔が付いた大盾の艤装を持つ敵が姿を現した。
それはル級と言われる戦艦クラスの個体だ。
慌てた長月が砲塔を構えて、縮こまって防御する姉を救おうとする。
「ひぃ!?」
「撃つなっ! 長月っ!」
「っ!?」
発砲寸前で菊月があることに気が付き、砲塔を構えた緑髪の少女を制止させた。
「よく見ろ・・・」
「何?」
「えっ・・・ふあっ!?」
何時もなら容赦ない砲撃を連発するはずの戦艦は何もしてこなかった。
それも当然である。
身体を動かすための頭部が首から綺麗に消えていたのだ。
残された身体は直立の体勢を維持し、皐月を無視するかのように通り過ぎる。
「戦艦ですらこの様か・・・どれ程の強者が?」
武蔵たちが首無しの戦艦を見つめていると、遠くから数回の砲撃音が響いてきた。
驚く彼女たちが再び臨戦態勢に入るも、敵の砲弾は1発も飛んで来なかった。
「やっぱり誰かが戦ってるのかねぇ~?」
「こ、これだけの敵を倒して・・・まだ、戦闘を・・・?」
北上とプリンツが泊地の状況を予想する中、霧島が思い切ってある指示を飛ばす。
「仕方ありません。危険ですが・・・翔鶴さん、偵察機を出して下さい」
「分かりました。彩雲を発艦させます!」
五航戦の姉が弓を構えて、1本の矢を暗い空に放った。
それは空中で1機の艦載機へと変化し、目的地である泊地の方向へ飛び向かう。
「・・・」
彼女は偵察機の視界と共有し、そこから見える情報を探し始めた。
「武蔵さん、後は任せます」
「うむ。全艦! このまま進むぞ!」
武蔵の掛け声により、艦娘たちは亡骸が漂う海上を進んでいった。
彼女らがある程度進んだ先に、小さな島のような影が薄らと見えてくる。
その周りでは、いくつもの火柱と立ち込める黒煙が発生していた。
「翔鶴姉、何か見える?」
「ええ、戦火のおかげで泊地の全体が見えてき・・・・・・えっ?」
突然、翔鶴が疑問の声を上げてしまい、それを不審に思った筑摩が話し掛ける。
「翔鶴さん? どうかされましたか?」
「誰かが鬼級と戦っています・・・・・・これは・・・」
「「「「「!?」」」」」
彼女が口にした言葉で一同に緊張が走った。
鬼級というのは、深海棲艦の中で姫級と並ぶ程の驚異的な力を持つ個体である。
そして、そんな強大な敵と対峙する何者かが居る事実も判明した。
「誰だ? 誰が戦っている?」
菊月が焦る気持ちを抑えて、翔鶴にその正体を尋ねた。
彼女は冷や汗を流しながら答える。
「直接見た方がいいわ・・・もうすぐ見えてきます」
鉄の残骸で出来た小さな島らしき泊地。
周辺の海面には、多数の深海棲艦が破壊された状態で浮いていた。
体内に持つ燃料に引火したらしく、篝火のように炎上する個体も複数漂っていた。
泊地の方も人型の個体が青い血を流しながら倒れている。
遠目からその光景を見ていた艦娘たちは、泊地の入り江となる場所を凝視していた。
「泊地棲鬼か・・・」
武蔵が言ったその名称の個体は、主に深海棲艦の泊地を統制する存在であり、その遭遇率は他の鬼級より高いと言われている。
巨大な艤装の上部に、女性のような人型が生えていて、その右肩の背部から長身な単走砲が伸びていた。
「ん? あれは・・・」
長月は泊地の鬼が居る位置から少し離れた場所の存在に気付く。
それは大きな白マントを羽織る戦艦タ級と言われる個体だった。
彼女は泊地棲鬼と対面するように立ち、その大きな背中を艦娘たちに見せていた。
「あれは何をして・・・」
ビスマルクがそう言おうとした瞬間、そのタ級の背中から細長い何かが生えた。
「「「「「なっ!?」」」」」
何かによって串刺しにされた彼女が左側へと投げ飛ばされる。
彼女らは投げ飛ばした張本人を見て、驚愕の声を上げた。
赤く光る眼と小柄な白い体に、フード付きの黒服を纏う幼い子どものような姿。
前のチャックが開いてあり、縞模様の首巻、胸の黒いブラとへそが丸見えである。
先程、タ級を刺した細長い物体は刀らしく、彼女の右手に握られている。
また、臀部辺りから白い尻尾が露出していて、沿うように装着された飛行甲板と尾の先にある歯が剥き出しの巨大な口と複数の砲塔が付いていた。
「せ・・・戦艦レ級・・・」
霧島が無意識に発したその個体の名称。
ある艦隊がそれと遭遇した際、壊滅的な打撃を受ける原因となった深海棲艦。
その遭遇率も極稀ではあるが、報告された詳細によると、出会ったら最後と言われるほどの戦闘能力を持っているらしい。
辛うじて撃沈に成功した報告もされているが、今のところ謎が多い個体の一種でもある。
各鎮守府では、彼女に関する資料が配布され、その存在とは極力接触しないよう厳重注意されていた。
そんな恐るべき存在が連合艦隊の目の前に現れたのだ。
鬼級に続いて、要注意個体の出現。
予想外の敵に、霧島が歯を食いしばる。
「くっ・・・まずい。此処は一旦、撤退を・・・」
「待て、霧島。様子がおかしいぞ」
「はぁ?」
何かを感じ取った武蔵が撤退命令を下そうとした霧島を止めた。
彼女はその行動に異を唱えようとするが、次に見た光景から目が離せなくなる。
戦艦レ級と言われる少女が怒りに満ちた表情で、泊地棲鬼の居る方向へ振り向いた。
彼女は勢いよく海面を走り出し、泊地の鬼が居座る場所へと向かう。
「クッ・・・ヤラセヌゾ!」
泊地の鬼は右肩の砲塔を走ってくる少女へ向けて、轟音とともに強烈な砲撃を連発した。
戦艦の少女が相手の砲弾を軽い跳躍で左右に躱していく。
「イマイマシイ! ソコダッ!!」
鬼級の放った砲弾が走る少女の手前辺りへ直撃した。
すぐに追撃の砲弾を発射し、彼女を亡き者にしようとする。
「ッ!?」
砲撃による水柱の中から戦艦の少女が飛び上がって来た。
彼女は左手に何かを持ち、鬼級の人型がある部分へ向かっていく。
「バカメッ!!」
泊地の鬼が自慢の砲身で、空中に居る相手へ狙いを定めた。
至近距離でその砲塔の先と対面する戦艦の少女。
彼女は咄嗟に左手に持っていた物を取り出した。
それは“戦艦ル級”が持つ多数の砲身が付いた大盾の艤装だった。
「ナニッ!?」
泊地の鬼が驚きの声を上げるも、瞬時に砲塔の発射を止めることは出来なかった。
戦艦の少女は左手に持つル級の艤装を相手の砲身の先へ押し付ける。
砲身から放たれなかった砲弾が内部で爆発し、飛んできた少女も巻き込む程の黒煙が発生した。
「グッ!!・・・ワレノ、ホウトウガ!?」
内側で起きた爆発により、長かった砲身が破裂するように割れていた。
戦艦の少女が持っていた艤装は辺り一帯に細かく散っていく。
「ドコニ・・・ハッ!?」
消えた相手を探す泊地の鬼が左側からやって来る存在に気付いた。
戦艦の少女は爆発の直後、対面する相手の右側へ回り込んだのだ。
彼女は火が燃え移った首巻を引き剥がし、再び鬼級の人型へ飛び掛かる。
「コノッ!・・・ガァッ!?」
泊地の鬼は下部の艤装にある左側面の白い剛腕で殴り飛ばそうとするが、戦艦の少女から生えた尻尾の口に噛み付かれてしまう。
彼女は噛み付く尻尾を利用して、うねった動きで鬼級の上部へ突っ込む。
「グブゥッ!!!」
鬼の女性の胸に戦艦の少女が両手で持つ刀を突き刺した。
赤い血を吐く鬼の彼女が憎らしげに相手の顔を睨む。
「コ、ノ・・・・・・キ・・・・・・イ・・・ガ・・・」
「・・・」
対する少女の方は凄い剣幕で見つめ返し、尻尾の先で相手の顔を噛み砕いた。
頭部を失った鬼級の身体全体がゆっくりと崩れ落ちる。
下部の艤装も前のめりに倒れていき、戦艦の少女が両手で握る刀の柄を離した。
彼女の身体が背面から落下し、浅い海上に着水する。
「「「「「・・・」」」」」
最後まで目を離さず観ていた艦娘たちは言葉を失った。
異常なくらい危険視されるレ級が脅威とされる鬼級を僅かな時間で葬ったのだ。
また、彼女らにとって、深海棲艦同士の戦いを目撃したのは初めてである。
『お主ら! 何故先に行っとるのじゃ!?』
呆ける全員の耳に、聞き覚えのある航巡の声が響いてきた。
「と、利根姉さん?」
『筑摩―! 吾輩を置いていくな―! 姉を悲しませるでな―い!!』
『北上さんは!? 北上さんは何処ですか!?』
「ああ、やっぱり大井っち来たよ・・・」
身内の声を聞く2人がなんとも言えない気持ちになる。
『こんな大井さんをほったらかしにして・・・北上さんはいけない娘ですね♪』
『龍田、やめろ。四六時中引っ付かれてたら困るだろうが・・・』
『貴様ら何を先走っている!? 死ぬつもりか!?』
『那智姉さん、そんな怒らなくても・・・』
『羽黒は黙っていろ! 霧島! 貴様が居るのに何故こうなった!?』
「はっ!? ご、ごめんなさい! 少し、想定外のことが起きたもので・・・」
霧島は通信機の怒声で我に返り、慌てて支援艦隊にある指示を伝えた。
「申し訳ありませんが、支援艦隊はその場で待機し、撤退準備をしてください。理由は後ほど伝えます」
『なっ!? てった・・・』
彼女は強引に通信機を切ると、旗艦の武蔵へ話し掛けた。
「武蔵さん、すぐに退きましょう」
「待て。“アレ”はどうする?」
武蔵の言うアレとは、泊地の入り江に浮かぶ戦艦の少女である。
「戦闘で疲弊した今なら逃げ切れるはずです。何を気にしているのですか?」
「何を? そんなもの決まっている。何故、“味方である深海棲艦らを壊滅させたか?”だ・・・」
彼女の言ったそれは、霧島も含めて、全員が疑問に思ったことだった。
そんな彼女らの中で、菊月があることを申し出る。
「私が接触してみる」
「菊月!?」
「ばっ、馬鹿をいうんじゃないっ!」
彼女の姉妹たちがその提案を否定した。
しかし、菊月の真剣な表情に、武蔵が静かに頷いて了承する。
「分かった。無理はするな」
「礼はまだ言わぬ。無事に帰れたらな・・・」
「ちょっと! 武蔵さんまで!?」
「本気か?」
「心配ならお前たちも行って構わない。ただ、何かあればすぐに引き返せ」
旗艦から許可された彼女はその場からすぐに走り出した。
それに遅れて、皐月と長月も後を追うように航行し出す。
「無謀すぎるよ、菊月~」
「全くだ。向こうが攻撃してきたらどうする?」
「問題ない。駆逐艦の持てる速度で離脱するつもりだ」
「はぁ、それはいいが・・・その震える腕はなんだ?」
長月が菊月の震える右腕を指摘した。
「こ、これは武者震いだ!」
「もしかして、菊月ビビってるの? かわいいね♪」
「ビビってなどいない!」
3人は静まり返った泊地の入り江へと侵入する。
それぞれが己の持つ兵装を構え、目的である存在を確認した。
あの戦闘から少し経った後だが、まるで死んでいるかのように浮かんでいる。
菊月は2人に目配せした後、その存在へ静かにゆっくりと近付いていった。
「・・・」
段々と見えてくるその存在。
鬼級の命を奪った尻尾はだらけるように漂い、本体の少女も同じように仰向けで浮かんでいた。
彼女の右腕付近まで接近した菊月が様子を伺う。
「・・・」
小さく呼吸する少女が近付いて来た存在に気付き、青くなった両目だけ向けて確認しようとした。
「・・・」
「・・・」
お互いに無表情・無言のまま時が過ぎていく。
突如、戦艦の少女の右腕が小さく動き、それに反応した菊月が右手の単装砲を構えた。
「くっ・・・」
「・・・」
戦艦の少女は自身の頭部に砲身を突き付けられたが、気にせずに己の右腕を海面から持ち上げる。
「っ!?」
「・・・」
伸ばされたそれの白い右手が、菊月の腰に付いた三日月バッジを優しく撫でた。
「きれいな・・・・・・つきだ・・・」
数回撫で回すその腕が力尽きるように下ろされ、少女自身も目を瞑って意識を失う。
呆然とする菊月が構える右腕を徐々に下ろしていった。
「菊月。だ、大丈夫?」
「気絶したか。どうする?」
「・・・」
彼女は近付いて来た姉妹たちに構いもせず、左耳に手を当てて通信機に話し掛ける。
「こちら菊月・・・対象の鹵獲を提案する」
次回:三日月