五反田弾の幼馴染み〜壊れた絆と道化の仮面〜 作:白銀色の黄泉怪火
八月上旬。
殆どの学生はこの時期には夏休みとなり、何処かへ旅行へ行ったり友達と遊んだりと、思い思いの休暇を楽しんでいる筈だ。
そして、とある家の自室にてお気に入りのゲーム『IS/VS』で遊んでいる頭にヘアバンドを付けた赤い髪の少年もその内の一人である。
「くそっ、なろっ……これで! あー、チクショー! コンボ決まらねえーっ!」
彼の名は五反田弾。
私立藍越学園に通う、普通の高校一年生である。
今日も今日とて華のない夏休みを惰性で過ごしている訳だが、そこには少しばかり理由がある。
「畜生、数馬の奴め……お前が旅行に行ったらその間オレが暇じゃねえかよ」
そう、彼の友人である御手洗数馬が家族と旅行へ行ってるのである。ちなみに、帰ってくるのは夏休みが終わる時との事。本来ならもう一人友人がいるのだが、彼はIS学園という全寮制の高校へと通っている為、おいそれと外出が出来ない。
よって弾は一人、ゲームと友達になって夏休みをダラダラと過ごしているのだ。
「あー、……暇だ」
そう呟くとゲームの電源を切り、ボフッとベッドに横たわる。
チラッと自身の机へと目を向けると、そこに広がるのは無造作に開かれた
普段の彼を見ているものからすれば顎が外れんばかりに驚かれる様な事なのだが、弾は毎年、何時も七月中には宿題の殆どを終わらせているのだ。
弾はベッドから起き上がると自身の机の前まで歩き、机の上の宿題の問題集を手に取る。
「そういや、もうこの生活も六年目になるのか……。速いもんだな、時間が経つのは」
問題集を見つめながら薄く笑うと、机の上に置き直し、問題集を閉じる。
そこでふと外に違和感を感じた弾は窓の方へと顔を向ける。そこには先程のギラギラした太陽の代わりに、今にも降り出しそうな雨雲が空にあった。
そして案の定――。
「……マジか、夕立かよ」
慌てて窓を閉めて苦々しく呟く弾。
夕立を感情のない目で見つめる弾の脳裏には、とある少女の姿が映し出された。
――何で、そうやって自分から笑い者になろうとするの?――
――違うよ、弾。弾はそんな事やらなくていいんだよ?――
――私は、ずっと味方だよ? ずっと、弾の味方!――
――弾の、馬鹿……っ! そんな弾、大っ嫌い!!――
「…………っ!」
思わず壁を殴りつけ、その痛みで我に返る。
窓に映し出された、辛そうな、悲しそうな、怒ってるような、そんな色々な感情が混ざり合った自分の顔を見て自虐めいた笑みを浮かべる弾。
「なんだ、後悔してんのかよオレ? もう壊れちまったのにか? 盆から溢れちまった水なのにか? 弱えなぁ、おい?」
自らをせせら笑うように一人呟く弾。そして表情を戻すとそこには、そこには何時もの笑顔を浮かべる五反田弾が映っていた。
「アイツは関係ない。アイツはもういない」
だから、
「馬鹿になって、馬鹿やって、皆を笑わせて、皆に笑われる。それがオレだろ……なぁ?」
自問自答するような呟きは外の夕立の音に消されていった…………。
「うわ、凄い夕立だな」
IS学園の食堂の一角にあるテーブル席に座り、少年――織斑一夏はそう漏らす。
今日は家の都合でイギリスに帰っているセシリア・オルコットを除いた四人―――篠ノ之箒、凰鈴音、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーディヴィッヒと共に屋外アリーナで訓練をしていたのだが途中で降り出したこの雨により断念せざるを得なくなり、今はこうして食堂で学園から出された宿題をこなしている最中である。
「どうやらこのまま夜中まで降り続けるらしいぞ」
「ほら一夏、手が止まってるよ。今日のノルマはそのページで終わりなんだから頑張ろ?」
「あ、悪い。でも、明日には止んでるんだったらよかったよ」
「む? 明日どこかに出掛けるのか?」
「何よそれ、聞いてないわよ一夏」
一夏がふと漏らした一言に反応するラウラと鈴。特に鈴は『なんで誘わないんだ』とでも言うように不機嫌顔になる。
「いや、明日久しぶり弾に会いに行こうと思ってさ。あいつの事だから暇しているだろうし……っと、これで今日のノルマ終了だな」
「お疲れ様、一夏。それよりも、弾って一夏の友達?」
「ああ。五反田弾っていってな。中学の時からの友達で、軽い性格でいつも馬鹿やってるけどいい奴なんだよ」
そんな一夏とシャルロットの会話を聞きながら、鈴は思ったことをそのまま呟く。
「あー、そういえば私まだ弾に会いに行ってないわ……」
自身が日本に帰ってきたのは四月の半ば。今が八月上旬なので四ヶ月もその事を忘れてた事になる。その事に気付いた鈴はちょっとした罪悪感が芽生える。
そして、そういう事にはよく気付く一夏は鈴の言葉に顔を顰める。
「鈴、それは流石に薄情過ぎるだろ。俺も鈴も弾には世話になったんだから」
「う、うっさいわね! 分かってるわよそんな事!」
思わず強い口調になるが、すっかり忘れていた自分が悪い為それ以上言い返さずに黙る鈴。
(とりあえず、今度弾に会ったら一発殴っておこう)
内心、とてつもなく理不尽な事を思いながら。
「ヤッホー、織斑君。宿題捗ってるー?」
不意に声をかけられ、一夏は声がした方へと顔を向ける。そこには見慣れたクラスメイトの相川清香、谷本癒子、四十院神楽、夜竹さゆかの四人が立っていた。
「ああ、さっき今日のノルマを終わらせた所だよ。相川さんたちは?」
「私達もある程度終わったから、自分へのご褒美として、コレ!」
視線を下に向けると、それぞれの手にはケーキと飲み物が置かれたトレイ。
それを確認した一夏はなるほどと頷く。
そんな一夏を尻目に四人は一夏たちの隣の席へと座る。そして食べ始めるのかと思いきや、一夏たちの方へ顔を向ける。
「そういえば皆、明日とか予定空いてたりする?」
「明日?」
「なんだ、なにかあるのか相川」
突然の質問に首を傾げるラウラと箒。そこへ神楽のフォローが入る。
「いえ、たまには大人数でどこかテーマパークにでも行きたいと思っていまして。なので、もしよければ御一緒にどうでしょうか?」
神楽のその言葉に四人は特に否定せず了承する。その中で一夏は申し訳ない顔をして謝るポーズを取る。
「あー、四十院さん。俺明日友達と会うからさ、ゴメン」
「いえ、突然の申し出ですし謝ることないですよ」
「そーそー、気にしないでよ織斑君」
「というか、会いに行く友達って男の子?」
「癒子、そこに喰いつくの……?」
「あ、でもそれ私も気になる。織斑君、その友達ってイケメン?」
「清香まで……」
自分の友人に興味津々な二人に苦笑する一夏。せめて写真だけでも見せてあげようと一夏は携帯電話を取り出す。
「今写真見せるからちょっと待ってて……あ、あったあった。こいつだよ。この赤い髪の」
一夏が清香に渡した携帯の画面を癒子と、その後ろから席を立って回り込んだ箒、シャルロット、ラウラが覗き込む。そこには弾が中学の制服の姿で教室の窓際にもたれ掛かりながら思いっきり格好付けてる写真が写っていた。
――ちなみに、この写真は弾が鈴に対して一夏の思いっきり格好付けた写真送ってやろうとした中、一夏が「お前もやれ!」と言われて撮られたものである。
「おー、中々のイケメンですなー」
「でも、なんかチャラそうな感じだね」
「ううむ、男の癖になぜこんなに髪を伸ばしているのだコイツは」
「一種のファッションだよ篠ノ之さん。私はアリだと思うけど」
「だが、嫁の方が男前だ」
そんな弾の写真に対してアリが二票。ナシが三票。ラウラの基準だけがよく分からないものではあるが、そういう結果に落ち着いた。
清香たちはそれで満足したのか、次にさゆかへと携帯を差し出す。
「ほら、さゆかも見てみなって!」
「えーと、私は……」
「いいからいいから!」
渋るさゆかに半ば強引に携帯を渡す清香。
さゆかは小さくため息を付くと画面を見る。
「え……なん、で……?」
写真を見たさゆかの反応は予想外のものだった。
目を大きく見開くと顔を青ざめさせる。ふと聞こえた呟きには少し泣き出しそうな声が混じっている。
そんな様子のさゆかに一夏はたまらず質問をする。
「夜竹さん、どうかしたのか?」
「織斑……君。この人って、弾、だよね……?」
一夏、そして今まで傍観してた鈴は驚く。清香たちには弾の名前を言っていないのだから。
「ちょっと、アンタ弾の事知ってるの?」
「私は――」
さゆかの次の言葉に、一夏と鈴は今日で一番驚く事になる。
そして、その言葉で五反田弾と夜竹さゆかの二人を主軸とした長い夏が始まる事となる。
「私は――弾と幼馴染みだったの」
こんな感じで始まります。
ルビ振り初めてやりました……ちゃんとできてるか不安だ。
感想よろしくお願いします。