Muv-Luv 〜赤き翼を持つ者は悲劇を回避せんがため〜   作:すのうぃ

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更新が遅れてしまい申し訳ありません焼き土下座。





11話 廃ビル群に木霊する打撃音

ビルの陰から、吹雪の指先ーー正確には索敵センサーーーを覗かせる。

これは比我の距離感を肉眼で掴む為。やっぱ、センサーの表示見るよかよっぽど分かりやすい。別に電子兵装ディスってる訳じゃないけど。

頭部を左へ右へ振りながら、二機のアクティブは慎重に歩みを続ける。勿論この間、ステラによる狙撃が無いか警戒するのも忘れない。折角久しぶりに戦術機乗れたのに『行くぜッ!』って言った途端に胸部に被弾でゲームオーバーとか恥ずかしすぎる。

 

そういえば。

 

俺が戦術機に中々乗れなかったの、書類作成とかデスクワークがクッソ多かった所為なんだよな。

日本に居た頃も何かコレを書けやら国連に提出するお前の資料作れとか。それくらい上層部(そっち)でやって下さい、って言いたかったけど相手が巌谷中佐だったから無理でした。慰官は左官、もとい権力には抗えない。躊躇いなく上官に噛みつけるユウヤがちょっと羨ましいと思う。

 

《敵機 接近警報》

 

そんな下らん事を考えてる内に、アクティブズが結構近くまで来てた。危ね、うっかり見過ごすとこだった。警告鳴るようにしてた冬夜大勝利。

 

操縦桿付近に設置されているキーを操作、静音から戦闘(ミリタリー)へ。吹雪が鋼鉄の唸りを上げる。

 

距離、200。

 

吹雪のマニピュレーターを引っ込め、立て掛けてあった突撃砲を装備。

 

150。

 

先程ここいらを練り歩いて入手した地形データを元に考えた、これからの行動ルートを再度確認。念のために端っこに網膜投影しておく。

 

120。

 

軽く深呼吸。

 

110。

 

操縦桿を握りっぱなしの手をほぐす。

 

そして、一度だけ目を閉じて、すぐに開く。

 

さて、始めようか。

 

100ーー。

 

フットペダルを思い切り踏み込み、跳躍ユニットを真横に噴射。二機の前に躍り出る。

 

『来やがった!』

 

突撃砲を前に向ける。FCSのロック機能は解除。36mm弾が銃口から吐き出された。

しかし、アクティブはジャンプする事でこれを回避。一発も命中弾は出ずじまいだった。だが、これでいい。ここで当てる気は無い、今は牽制が目的なんだからな。

 

『あぁ!? 逃げんなテメェ!!』

 

噴射された推進剤による慣性を殺す事なく、飛び出た所の対にあるビルの陰に突っ込み、そのまま吹雪の身体を水平噴射跳躍で逃走させる。

 

「ハッハー! 三対一の状況下でマトモに戦うと思ったか!? まだまだ逃げるぜ、吹雪ぃぃい!!」

 

予め用意していた逃走ルートに沿って吹雪を駆る。ちゃんと狭い道を選択してあるから狙撃の心配も少ない。しかも変則的に曲がったり飛んだりするから照準合わせるのも難しいと思う。自分がされたら嫌な事を考えた結果こうなりました。やだ俺ってば陰険。だから彼女とか出来ないんだよねーチクショウ。

 

だけど、タリサもチビでアホだが馬鹿ではない。VGと二手に別れて行動を開始。俺を挟み撃ちにする気らしい。俺の後ろにタリサのアクティブが居た。

 

「はっ、男の尻追い掛けるなんて、タリサも趣味悪いなぁ!」

『インペリアルが、はしたねぇなぞ!』

「お前のレベルに合わせてんだよ、感謝して貰いたいね!」

 

36mmの劣化ウランに軽口をオマケする。が、後ろを見ずに適当に撃ってるから照準もへったくれも無い。お陰で後ろの褐色少女に『下手くそ!』と罵られました。オーケー、タリサ。後で飯に睡眠薬仕込んでやる。お前なんか明日のブリーフィングに寝坊しちまえばいいんだ。へっ、イブラヒム中尉に怒られて涙目になるあいつの惨めな姿を見るのが楽しみだぜ(ゲス顔)

 

《接近警報》

『ボケッとしてんなよぉ!!』

 

鏡で見たらドン引きな笑顔を浮かべているであろう俺に、いつのまにやら突撃砲捨てて短刀装備したタリサ機が跳躍ユニット噴かして突っ込んで来た。

 

いやはや。血気盛んですこと。VG来るまで待てなかったんだねぇ、作戦立てた意味ないじゃないですか。それに対して冬夜先生による指導が満場一致で可決されました。これより、BETA戦闘最前線で培った技術及び近接戦大好きッ子による教育的指導が行われます。

 

乱射によって弾切れとなった突撃砲を投げつける。

同時に長刀を選択、背部兵装担架が起き上がった。

爆散ボルトの小爆発により跳ね上がった長刀を、右マニピュレーターでしっかりと掴む。

 

「耐えてくれよ……!」

 

背後に迫ったアクティブを視界の隅に捉えつつ、俺は長刀を地面に突き立てる

(・・・・・・・・)

舗装の剥がれたの地面に刺さった長刀を軸に、少々強引に機体を方向転換。背中にナイフを突き立てたようとしていたアクティブが軽くつんのめる。今だ。この勢いを殺さずに仕留める。

 

跳躍ユニットを噴射。回転に更なる速度が加わる。

 

「ぐぅぅ……!」

 

遠心力によって発生する、衛士強化装備でも殺しきれないGに、歯を食いしばって耐える。身体中の血液が全部片方に偏ってるみたいで、すげぇ気持ち悪い。

 

丁度アクティブの背後に回ったタイミングで、俺にとって嬉しい誤算。

マニピュレーターに掛かっていた負荷が許容力をオーバーしたのだ。結果、機体の破損を防ぐべく吹雪は長刀を自動的に放棄。支えを失った機体はアクティブ目掛けて一直線。

振り返って迎撃態勢をとろうとするタリサだが、もう遅い。

スパイクモードの追加装甲を装備した左腕を、アクティブに叩きつける。

 

ドッゴォォオン!! という、途轍もない音が廃ビル群に木霊した。

 

凄まじい遠心力により馬鹿みたいな威力を持った鉄塊をモロに食らったアクティブにJIVESが下した判定は『胸部ブロック陥没により戦闘続行不可』。頭部カメラから送られてくる映像には、管制ユニットがぺったんこになったアクティブの姿が映っていた。まるでタリサの胸のようだ。やったね冬夜、おちょくるネタが増えるよ!

 

『あーもー勝手に突進して行きやがってタリサの奴』

「だからイノシシって呼ばれてんじゃねえの?」

『テメェそのあだ名使うな!』

 

何故か胸部潰されて大破(JIVESが作り出した仮想映像)したアクティブから抗議の声が聞こえた気がしたけど、気のせいだな。死人に口無し。喋るなんてありえない。よって無視を決行。

 

「さって。これでニ対一、だな」

『あら。それなら勝てるって? 舐められたものね。私も、ストライクも』

 

あれ俺はー? と約一名、イタリア人男性の声が通信機越しに聞こえるのを無視して、俺は突撃砲を前方に掲げた。

 

「行くぜ、アルゴス小隊。マッハで蜂の巣にしてやんよ」

 

 

 

 

 

アルゴス小隊 作戦指揮室

 

 

薄暗い室内に複数設置されているモニター。

その中でも一際大きい画面に映し出されている映像を、日系ハーフの青年ーーユウヤ・ブリッジスは睨むかのように見つめていた。

 

モニターの中では、今の自分の乗機であるType-97が画面を縦横無尽に飛び回っている。

 

「あんな動きが出来るのか……?」

 

ある時は地上を滑り、またある時は建物を脚部で蹴りつけながら空を駆け抜けるType-97の姿は、まるで極寒の地に足を踏み入れた者に、容赦無く吹き付ける吹雪。

 

その苛烈な機動を前に、ユウヤは知らず拳を握り締める。

 

ーー訓練機に出来る動きを、俺が出来ていない……!?

 

言葉に表せないある種の敗北感が、胸を圧迫する。

元々、ユウヤの所属はアメリカ軍。運用されている機体が違えば、それに付随する運用思想も変わってくる。F-4の帝国アレンジ版である"撃震"ならまだしも、純国産戦術機である"吹雪"を乗って数日のユウヤが思い通りに動かせないのは、仕方のない事と言えよう。

 

だが……

 

ーーたかが日本の戦術機に出来る動きを!?

 

運用思想が違うとか空力特性がなんだと、そんな事ではない。

ユウヤは、自分が毛嫌いする日本製の戦術機に"上官に命じられたから"乗せられるだけでなく、それすら思い通りに動かせない自分に腹を立てていた。

 

そんなユウヤを嘲笑うかのごとく、爆音が指揮所に響く。アメリカが誇る、第二世代最高傑作とまで言われたストライクの改修機、アクティブ・イーグルが、片腕を失くした吹雪の振るう、日本刀を模した74式近接長刀の下に腰からしたを両断されていた。

 

ギリッ。

奥歯を噛みしめる口から音がなる。

 

 

「……どうだ、ブリッジス少尉」

 

その音が聞こえたのか、隣に立つ唯依がユウヤに声を掛ける。

 

 

「これが、貴様の言う"欠陥機"の動きだ」

 

欠陥機、を強調して言う唯依の顔は、モニターの光に照らされて青白く見える。

その感情を殺した様な表情は、日本人形(ジャパニーズ・ドール)を連想させた。

 

「そうですね。素晴らしいと思いますよ、クロダ大尉の操縦技術は」

 

あくまでも、Type-97が優秀である事を認めない。

 

あまりの頑固さに唯依は溜息を一つつくと、大型ディスプレイへと視線を戻す。

その時、丁度オペレーターが口を開いた。

 

「アルゴス04、胸部破損。大破とみなす」

 

隻腕となり、各部から火花を散らした吹雪が、刃こぼれを起こした長刀をストライクの胸元へ突き立てていた。

 

 

 

 

格納庫の床は、その上を歩く戦術機の重さに耐えうる強度を持っている。つまり、めっさ硬い。

そんな場所に、日本伝統の生活文化の一形態である"正座"をしたらとうなるか。当然だが立つ時に脚がガクガクと産まれたての子鹿状態になる事は避けられない。

 

「も、もう勘弁、してくれよぉ……」

 

そんな悲惨な未来を、俺の目の前で涙目になって助けを求める褐色少女は間違いなく辿る事になるだろう。

 

本来正座をする時は畳やカーペットなどの、比較的脚に負担の掛かりにくい場所で行われる。踵を立てればカンカンと音のなるような場に座る時は座布団を敷くのが一般的なのだが……

 

「ダメよタリサ。まだまだ話足りないわ」

「そーだぜ。折角四カ国にも及ぶ人種がここにいるんだ、もっと異文化交流を楽しもうぜ?」

「だからってこの姿勢でやる必要は無いだろ!?」

 

せめてお前らもやれよー!! というグルカ民族の少女の叫びを無視する。このスウェーデン人とイタリア人には容赦というものが無かった。

それを黙認してる俺も俺だけど。

 

今アルゴス小隊に割り振られた格納庫で行われているのは、異文化交流という名の反省会を通り過ぎての、タリサお説教タイム。

 

今回俺が何とか勝てたのは二対一に持ち込めたから。三対一だった場合、近距離のエキスパートのタリサを捌いている内にステラによる遠距離攻撃もしくはVGの奇襲などなどで、敗北していただろう。

 

だが、肝心のタリサはイノシシのアダ名を裏切る事無く、味方の支援も待たずに突進して来てくれた。

俺としては模擬戦で勝利できて嬉しいのだが、各機の連携が求められる小隊の事を考えると手放しで喜べないのが現状。

なので、口で言ってダメなら体で覚えさせようという考えの下、今に至るという訳だ。

 

「まぁ、あれだ。お前はその突進クセを直せ。今日みたいな事になりたくなけりゃな」

 

俺の指摘に俯くタリサ。

今日みたいなとは勿論、ナイフで切ろうと思ったら追加装甲のカウンター食らった事。アレは俺もビビった。まさかあそこまで上手く行くなんて考えてなかった。感覚的に言うとコイン入れた瞬間ビッグボーナス入った感じ。

 

その後も、ネチネチネチネチといびられ続けるタリサ。勿論正座はキープ。後ろから足を軽く突いてやると「のぉぉ……」と心の底から辛そうな声が聞こえた。ちょっと楽しかったので三人交代で小突き続けると

 

「いい加減にしろお前らぁぁあああしいってぇぇぇえ!?」

 

立ち上がった瞬間に絶叫を発しながら地面に崩れ落ちた。

 

その姿を見て「流石にこれ以上は可哀想だ」という結論に達した俺たちは、今日はお開きにする事にした。ちなみにタリサはステラに任せておいた。男の俺たちがシャワー浴びせたりする訳にはいかない。小さいとは言えタリサも女の子だからな。

 

あれ? そう考えたら俺たちって、小さい女の子を弄る大人って事になるじゃん。

 

「……自重しよ、うん」

 

ユーコン基地の上空で鳥が鳴いた気がした。


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