Muv-Luv 〜赤き翼を持つ者は悲劇を回避せんがため〜   作:すのうぃ

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注)今回は視点の移り変わりが激しくなっております。


15話 思惑・前

赤い衣を纏う青年は、愛しい彼女の名を呼ぶ。

 

「よろしくな」

 

剣神の名を冠する彼女は、真紅の鎧を斜光に輝かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アルゴス小隊、C-51区画への到達確認。各機は所定位置につけ』

 

01了解、返す言葉には堅さがあった。無論これが任務である以上、緊張から来るものもあるのだろう、しかし今回のそれには別の理由がある────と、ステラ・ブレーメル少尉はコンソールを規定通りに操作する傍ら、出撃前のユウヤの表情を思い出した。彼は腕を組み眉をひそめながらType-94の頭部センサーと見つめあっていた。

きっと、彼なりに機体へ歩み寄ろうとしているのだろう。結論付けたステラは、網膜にでかでかと投影された『JIVES Engage』の文字に操縦桿を握りなおした。

 

 

 

 

 

JIVES起動、オペレーターの声に呼応し次々と顕現する異星起源種。

いつ見ても不快極まりない醜悪な顔、死ね再現映像共。アルゴスは01のコールサインを預かるユウヤ・ブリッジスは「01、フォックス02」トリガー。不知火のマニピュレーターが連動し突撃砲の36mm弾を3発限定点射、3。合計9発の劣化ウラン弾は、前進し続ける要撃級の感覚器官を穿ち、戦車級を挽肉にする。視界の隅に映る討伐カウンターの数字が変動した。

 

『ひゅー、流石はトップガン』ユウヤの脳裏にVGのニヤけ顔が浮かぶ『砲撃戦はお得意ってか?』

 

「03チェックシックス…………うっせぇぞVG、んな安い挑発乗るかよ」

『おぉっと危ねえ…………挑発じゃなくてよぉ、折角の機動戦だぜ? その背中にあるブツはお飾りか?』

「それが挑発だって、言ってんだ!」

 

 

目前に迫る要撃級が、不知火目掛けて腕を振りかぶる。モース硬度15を誇る鈍器、受け止める術を持たない。左跳躍ユニットを噴かし、回避。コンマ1秒前まで不知火が存在していた空間を要撃級の腕が通過した。

更に右跳躍ユニットを前方、左を後方へ噴射しターン。要撃級の無防備な背中を捉えて────レティクル内から要撃級が逸れた。

 

「(────っく! まただ!)」

 

即座に点射からセミオートへ。トリガーを絞る。

不知火は要撃級の周囲を大きく回りつつ36mm弾を放つ。右側面から左側面を穴だらけにした要撃級は、感覚器官を苦悶に彩りながら地に伏した。

姿勢制御。体勢を立て直しNOE(匍匐飛行)を再開したユウヤに『おいユウヤ!』と少女────タリサの怒声。彼女の駆るアクティブが不知火の背後を守る様に降り立ち随伴を開始する。

 

『なんだよ今の! 機体に振り回されてんじゃねぇか。いくら長期戦闘を想定してるからって、弾と燃料は無限じゃねえんだぞ!』

 

分かってる。ユウヤは声を張った。そうでもしなければ、この猪は耳を貸そうとしない。

 

「流されるんだよ、風に!」

『はぁ!? そよ風によたつく戦術機があるか!』

「あるんだよそれが!」

 

実際には言葉が足りなかったが、それ以上の説明をユウヤはしなかった。自分の問題を他者に押し付けるつもりはなかった。

 

『っ、01チェックファイブ!』ステラの鋭い声がユウヤの耳を貫く。管制ユニット内を走り回る警告音。振り向いた不知火の頭部センサーは、飛び掛かろうとする戦車級を捉えた。

 

「────く、そ、がァァァァ!!」

 

情報で構成された異色の体液が、不知火の装甲を汚した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルゴス小隊、試験項目15をクリア。目標到達率……65%」

「01、肩部装甲ブロックを損傷。戦闘行動に支障なし」

「JIVES、case7発動。補給線がBETA群に壊滅させられた為、各機はこれ以降補給を受ける事が出来ません」

 

指揮所内に響くはオペレーター達の無機質な声、キーボードを叩く音。そして、室内奥に立つ男性────イブラヒム・ドーゥル中尉のため息。その視線は大型モニター、正確には画面内で奮戦するType-94へと向けられていた。

────振り回されている。演出開始前からイブラヒムがType-94の機動から感じた違和感は、時間が経つにつ

れ疑問から確証に変わっていた。

 

ブリッジス少尉の────というより米国式の────操縦方法は、空中機動制御を腰部の推力偏向機能に頼る、言ってしまえば強引な機体制御。今までは比較的主機出力の低いType-97だったから、力押しが通用していて、それにOSが学習し対処したからこそ今まで何とかなっていた。

しかし、いざType-94に乗り換えてからというもの、今までに比べ、よりぎこちない挙動をするようになった。正規出力の主機に加え、大出力のジネラルエレクトロニクス製エンジンを搭載した跳躍ユニットを装備したType-94では、OSの対処可能範囲を越えた事も含め、機体制御時のズレを誤魔化せなくなっていたのだ。

それでも米国式に頼る他無かった彼は、それを変えようとしなかった、いや、出来なかったのかもしれない。

しかし、それが今回の演習では、若干ではあるが変化が見受けられた。荒削りだが、跳躍ユニットで強引に機体を制御するのではなく、腕部や頭部を機動中に意図的に動かす事によって空力特性を姿勢制御に活かそうとする、彼の姿勢が見て取れたのだ。

 

「アルゴス01、右腕、並びに突撃砲損傷。使用不能です」

「…………まぁ、一朝一夜で掴める物でもないがな」

 

事実、まだ全てを消化し切った訳ではないが、途中経過を見てみると前日よりも記録が遥かに落ちている事が分かる。このまま挽回する事もあるかもしれないが、きっと高確率で予想通りの展開となる。

 

「しかし、長期的な目で見れば良い傾向ではあるが…………」

 

言いつつ、彼は視線をモニターから外し、隣へと向ける。

 

「目標到達率 87% …………ん、あれ。追加試験項目開示? こんなタイミングで…………って、"case・Encounter・Type-00"? なにこれ?」

「…………余程焦っているようだ。そうノンビリしていられる時間も、あまり無いらしい」

 

視線の先。

そこには、本来居る筈の二人の姿が無かった。

 

 

 

 

 

 

網膜に映るアラスカの大地が、傾いた陽に紅く染め上げられる。地を埋め尽くす程のBETA群は既に姿を消していて、後はCPからの帰還命令を待つだけだった。

 

やっと終わった、ユウヤは額を伝う汗を拭う。ため息が管制ユニットの中を転がった。

 

『あら、お疲れね』ステラの声音は任務時のそれではなくなっていた。『いつもと機動制御が変わっていたけれど、どう?』

 

「どうもこうも、ご覧の有様だ」

 

機体ステータスの定時チェックの手を休め、肩を竦める。

 

「跳躍ユニットの出力を抑えた分、今までのズレが余計に出しゃばって来た」

『だな。先生、車がドリフトするみたいにBETAの周りをグルグル回ってよ。見ててハラハラしたぜ』

『お陰であたしが前に出るハメになってさー、いやー、苦労したぜ』

 

いやそれはタリサが前に出過ぎなだけでしょ、そうそうだから猪ってな、んだとてめえこら、普段通りの騒がしいやり取りを嘆息したユウヤは、定時報告のために周波数をCPに合わせた。

 

「こちらアルゴス01、定時報告、機体に異常なし。帰投許可を」

『こちらCP。その件に関してだが────』

 

ぶつり。ラワヌナンド伍長の声は、突如断絶された。

変なところでも触ってしまったかと思い周波数を再度調整。しかし、通信機が拾う音は吹き荒れる砂嵐の様なノイズばかり。更に、データリンクも僚機である3機以外とは繋がっていない。

なんだ、この状況は。ユウヤだけでなく他の三人も、この不可解な状況に首を捻る。

 

『おいおい…………今になってCPが壊滅? お家に帰るまでが任務ってか』

『だからって、あまりにも不自然過ぎるわ。通信妨害をされている風でもないし…………』

『それじゃあ、向こうから切ったってのか? JIVESだって停止してる、演習は終わったはずだろ』

『私にだって分からないわよ…………最悪の場合、指示を待たずに帰還する事も視野に入れて────っ?』

 

唐突に立ち上がるレーダーウィンドウ。自機と僚機達を中心とした円形の12時方向外円部に、戦術機と思しき反応が二つ(・・)。紫色の光点で表示されたそれらは、こちらに向かって急速に接近していた。

 

『…………こりゃあ、もっと最悪なやつじゃねえか』

 

VGの言葉からは、普段の軽い態度が消えている。見れば他の二人も同様、言葉を発さず表情を強張らせていた。

隊内を緊迫した空気が横たわる中、ユウヤは通信回線を開放に設定。硬い声が彼の口から出る。

 

「接近中の所属不明機に告ぐ。こちらは、アルゴス試験小隊所属 ユウヤ・ブリッジス少尉。現在 当演習区域は、『XFJ計画』所属である我が部隊が優先的に占有している。所属部隊と官姓名を述べ、直ちに領域外へ出られたし」

 

定型文で応答を求めるも、レーダー上の光点は進路を維持しユウヤ達へ向かって来る。応答無し。緊張が、更に高まる。

 

「…………総員、第一種警戒態勢」知らず、ユウヤの口から零れ出る。

何を自分は考えている、あの二機は単に迷い込んできただけで、心配はただの杞憂で終わる筈だ────理性が言う。しかし、それ以上に感じる"嫌な予感"。己の本能が、これは只事ではないと、ユウヤに告げていた。

 

────そして、不幸な事に。

 

 

『っ! あの機体はっ!?』

 

予感は、最悪な形で的中することになる。

 

ただ、それが最良の結果に繋がるのか、それとも良からぬ道へ進むかは彼次第であることを、当人が知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってて。今、会いに行くから」




うちの鎮守府に大鳳さんがやってきた記念に書き上げました。
前と著しました事からお分かりだと思いますが、次は後編という事になります。場合によっては中編になるかも。
では、また次回。



ps.剣神を彼女はおかしかったかな。きっと雪風読んだせいだ。

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