Muv-Luv 〜赤き翼を持つ者は悲劇を回避せんがため〜 作:すのうぃ
アラスカへ向かう輸送機【ムリーヤ】の中。
俺、黒田 冬夜は日本を去りアラスカの国連軍基地に行く日を翌週に控えた日に巌谷中佐に言われた事を思い出していた。
「同伴と言ったな。あれは嘘だ」(意訳)
そう、俺が唯依の補佐に行くのには変わりはないんだけど、どうやら手違いがあったようで唯依が先にアラスカに行ってしまったらしい。だから俺は後から来る今回の『XFJ計画』におけるアメリカ出身の主席衛士とその専属整備兵を乗せた輸送機に一緒に乗る事になった。わざわざ俺のためだけにアメリカから日本に一度寄ってくれるなんて。本当に有難いね。
輸送機に乗り中に入ると、件の主席衛士と整備兵の姿があった。
「貴様達が、今回の主席衛士とその専属整備兵だな?私は今回の計画代理人の補佐を命じられた、黒田 冬夜大尉だ。これからよろしく頼む。」
本当は、あんまし貴様とか言いたくないんだけど、ここは軍隊。最初の挨拶は形だけでもこんな風にしなければいけない。最初だけだけど。
すると向こうも敬礼しながら自己紹介を始める。
「ハッ!お初にお目にかかります!自分は、ヴィンセント・ローウェル軍曹でありますっ!!」
「…………ユウヤ・ブリッジス少尉だ。」
「おい、ユウヤ!相手は上官だぞ!?」
「別にいいだろ……見た感じ俺たちとタメだろうし。」
整備兵ーーローウェル軍曹が、ブリッジス少尉を嗜める。
確かにブリッジス少尉の、上官である俺に対する態度は間違っている。見た目自分と同じかそれ以下の年齢の奴に上から目線で話されるのが嫌だって事だろうか。
でも、それにしたって少尉の俺を見る目は異常だ。まるで親の敵を見るような目だ。
「だからってお前なぁ………!!」
「あー、別に構わんぞ。俺だってあんま堅苦しいの苦手だし。公式の場でなかったら、俺の事呼び捨てで呼んでくれてもいいし、敬語も使わなくて大丈夫だぞ?」
「え?」
俺の反応が意外だったのか、ローウェル軍曹は若干驚いた顔をする。ブリッジス少尉も、言葉には出していないが同じ様な顔をしている。
まぁそうなるよね。普通初対面なのにこんな軽い感じで接してくる上官なんか居ないだろうし。俺でも同じ様な反応するわ。
でも、これからきっと長い付き合いになるんだ。なまじ階級が高いからって話しかけるたびに一々敬礼されては相手の話し口調が堅くなるとか嫌過ぎる。そんなの常識ぃ〜とか言われても関係ない。例えインチキおじさんが何と言おうが、今は俺が上官だ、俺への態度は嫌がおうでもフランクにさせてやるぜっ!!
「何なら「クロりん」とか「黒ちゃん」とかでも良いぞ。訓練兵時代では仲間内では「とっくん」と呼ばれていてな。あ、でも「やーさん」はやめてくれよ?ヤクザ屋さんみたいで嫌だからな。そうそう訓練校時代といえばさ…………」
そう、転生する前で言えばこれは第一印象で全てが決まる高校生デビューの様なもの。今こそ新しい俺を解放する時だ!!行くぞ!ハァッ!!
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そんな俺の願いが届いたのか。
「やっぱりアメリカの女性ってのはアレだ。スタイルが抜群だな!ボンッキュッボンッ!みたいな?あぁ1人でもいいから俺にもアメリカ出身の知り合い欲しいぜ。今度誰か紹介してくれよヴィンセント」
「おいおいおい!これから行くのは多国籍軍の国連軍基地だぜ?アメリカはもちろん、ロシアや中華やドイツやらの女が、もう選り取りみどり!!知り合いだけで済ませるのかいトウヤの旦那ぁ?」
どうやら俺の努力は実ったようだ。現在、自分の好きな女性像について俺たちは熱い議論?を交わしている。
「おやおやヴィンセントくん?その口調……中々自信があるようですね?今までに何人の女を口説いてきたんだい?」
「いやー!俺なんかよりもこの隣にいらっしゃるプレイボーイ・ユウヤなんか、何人の女を今までに泣かせたことか、なぁ!?」
「プレイボーイ言うな!!」
ブリッジス少尉とは余り仲良くなれなかったが、少なくとも俺に向かってくる敵意は、ほんの僅かだが弱まった。ローウェル軍曹に至ってはお互いを呼び捨てにするまでに至った。
いやぁ、まさかここまで上手くいくとは。完全にぶっつけ本番でやってみたけど、やっぱりアメリカ人ってのはこういう明るい性格の人間を好むのかねぇ?日本でこんなことやろうものなら、『ドン引きです………』な事態に陥る事は間違いなしだろう。あれ、これ言ったのは下乳ロシアンガールか。
「ロシア人って、やっぱ肌が白いんかねぇ?俺色白でスタイル抜群な長髪美人がタイプなんだよ。」
「あー。分かるわー。良いよなロシアの女って。でも俺としては日本のお淑やかな黒髪美少女も良いと思うけどな!」
「お、ヴィンセントはそこらへんもストライクゾーンなのか。なら、今回の計画代理人の篁中尉なんて良いぞ?まぁ真面目過ぎんのが玉にきずだけどな。」
「…………なぁ、大尉。」
「あん?どうしたブリッジス?」
「あんた本当に日本のインペリアルなのか?」
おいおいおい………。この日系ハーフは何を………。
「はぁ?なぁにいってでぇい!帝国斯衛軍第19番戦術機甲中隊【赤鷹中隊】の隊長たぁ、俺の事よっ!べらんめぇい!!」
よっ!日本一!!と横で手をメガホンの様にして言ってきたヴィンセントのノリの良さに気を良くしながら、俺は1人にしか言われてないのに、全方位にありがとうありがとうと言いつつ手を振る。
隣では何か疲れた表情をしながら「日本人は礼儀作法にうるさいが、大人しめな性格だって聞いてたぞ……」とか言ってるが、残念。俺は型にはハマらないタイプの人種なんでね。これからはどこぞの幻想殺しよろしく、まずテメェの中にあるその日本人への偏ったイメージをぶっ壊してやんよ。
「はぁ…………あんたと居ると、こっちが疲れる………」
「いやー!お褒めにあずかり、光栄です!!」
「ほめてねぇよ…………」
うん、知ってるよ。でもな、ユウヤ君。君俺の事苦手なんだろうけど、何か振れば絶対反応を返してくるから弄るの超楽しいんだよね。
此方が叫べば、絶対に返事を返す。そう、君はまるで………
「まるで、山彦の様だ………」
「意味わかんねぇよ……。しかも山彦は同じ言葉しか返ってこねぇだろうが……」
ほら、返ってきた。しかもツッコミと共に。その上、一つのフレーズから俺の考えている事をしっかりと読み取っている。
……………ふむ。ブリッジスは凄腕の衛士というだけでなく、ツッコミ要因としての素質もある様だな………。
ふとユウヤの隣を見ると、ヴィンセントがこちらを見ながら親指をサムズアップしているのに気が付いた。その目は『あんたもユウヤの活用方法を理解出来たか。』と物語っていた。それに俺は腕を組んだまま左手の人差し指と中指をビッ!!とする事で肯定を示す。もちろん顔は前方に固定したまま。しかし目線だけをヴィンセントに向けている。
「何でお前ら、この短時間でそんな仲良くなれたんだよ………」
「それは、お前が居てくれたからだよ…ブリッジス………」
「気色わりーよ!!」
両手を胸の前で握りつつ照れた様にそんなセリフを言う俺に大声を出してツッコむブリッジス。
ふははっ!!だぁーから貴様はいつまでもツッコミ要因なのだぁ!
「いやぁ。俺あんたが上官で良かったわホント。」
「俺だってヴィンセントみたいな奴を部下に持てて嬉しいぜ。」
いぇーい!と、ハイタッチをする完全に波長のあった(主にブリッジス弄りにおいて)
俺たち。
「まだ昼前なのに、もう疲れた……」
そして戦術機が噴射降下するようにテンションを下げるブリッジス。
そんな俺たち3人を乗せて行くムリーヤ。
アラスカへの道のりは、まだ遠い。