Muv-Luv 〜赤き翼を持つ者は悲劇を回避せんがため〜 作:すのうぃ
ーーーハァッ……ハァッ………
アラスカ基地上空。
現在そこでは2機の戦術機が『戦闘』を繰り広げていた。
2機の内の一体。その背中についているのは背部兵装担架ではなく、2機のスラスターユニットだった。これが、第二世代最強と呼ばれる戦術機【F-15E.イーグル】を発展させた機体【ACTV.アクティブ・イーグル】である。
【プロミネンス計画】において、機動力を格段に向上させるべく改修を施された機体は、その推力を以ってしても振り切れない、恐ろしい程の腕前を持つ敵と対峙していた。
ーーーハァッ……ハァッ………
アクティブ・イーグルがどれだけ激しく動こうとも、その背後を取り続ける機体ーーSU-37ub.チェルミナートルの操縦者達は、その呼吸を荒くしていた。ただし、それは疲れや恐怖からくるものではない。
ーーー…………フフッ。嬉しいな………。なんて素敵なんだろう………。
それは、快楽。
ーーーもう、殺して良いなんて。
36mmチェインガンの最終安全装置を解除。恐らくアクティブの管制ユニット内にはロックオン警報が鳴り響いていることだろう。
ーーーあぁ……視える、視えるぞ………。
ロックオンを振り切ろうとアクティブは先程よりも激しく回避運動をとるも、チェルミナートルの操縦者達はそれを許さない。
ーーーお前の【恐怖】が、視える……。汚い、汚い【恐怖】の色だ。
アクティブは一度、跳躍ユニットを逆噴射。空中で後転をする様にチェルミナートルの後ろをとろうとするも、その行動をする事をまるでわかっていたかの様に反転全力噴射。嘲笑うかの如くチェインガンを向ける。
ーーーアハハハッ!!もっとだ………もっと私を楽しましせてくれ!
その端正な顔を狂気に染めて。
少女達は、笑う。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ユーコン基地への到着が迫った頃。
「………つまりだな、ヴィンセント。不知火だけじゃなくて、日本の戦術機には近接格闘戦能力が必要不可欠なんだよ。」
「ふーん。ま、確かに砲撃戦だけじゃあ対応しきれない場面もあるみたいだからなぁ実際。こっちは最前線じゃないからって近接格闘能力なんぞいらねぇ、なんて考えの輩が多いんだよ。」
「…………………。」
一通りブリッジスで遊んだ(性的な意味ではない)俺たち二人は、お互いの国の戦術機の運用概念を語り合っていた。
ちなみに遊ばれた(性的なry)本人は疲れたのか、はたまた日本関連の話題な為か、先程から完全に沈黙している。まぁ多分両方だろう。
ちなみに何で日本関連の話題がダメなのかと言うと、実はブリッジス、日本人絡みで昔色々あったらしい。そんで、日本人やら日本由来の物事に嫌悪感を示していたそうな。あ、何で知ってるかと言うと、さっきヴィンセントが本人の許可も得ずに勝手にペラペラと喋ってしまったからだ。そん時「ぐぬぬ…」みたいな顔をしていたブリッジスが印象的だ。
「ふーん。やっぱG弾の使用を………」
前提に、と言うとすると、突如輸送機が大きく揺れた。
何だ?着陸………ではないな。それだけの事で、こんなに機体が揺れるなんてあり得ない。ま、どうせ乱気流とかの風の影響で揺れたとかそんな類だろう。
そうやって俺が結論づけるも、1人、ベルトを外して座席から立ち上がる奴がいた。ブリッジスだ。
「あ、おい!どこ行くんだユウヤっ!?」
「決まってんだろ!コックピットだ!!」
「だぁ!!待てって!!」
ブリッジスは、ヴィンセントの制止も聞かずにコックピットにはいっていく。
「おぉ!さすがブリッジス!禄に現状を確認せずに操縦席にズケズケ入るなんて俺たちに出来ない事を平然とやってのけるッ
そこにシビれる!あこがれるゥ!」
「んな事言ってる場合か!?俺たちも行った方が良いんじゃねぇのか!?」
「え?別に大丈夫でしょ。その為のブリッジスだし。ヴィンセントは心配性だなぁ。」
アメリカで好成績を残したエリートならきっと何とかしてくれる。さて、俺はゆっくりと仮眠でも
ギュゥゥゥゥウン←何かが機体の真横を通り過ぎる音。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ←衝撃で揺れるムリーヤ。
おいそこの輸送機!!邪魔なんだよ、どけ!死にてぇのか!?←スピーカーから流れるオープンチャンネルの声。
………しようかと思っていた、そんな時期が私にもありました。
はい。今の状況から察しますに、何故か戦術機がこの輸送機の航路上に侵入していて、そのうえ激しい機動をとっていて、その戦術機に乗ってる衛士は今冷静じゃないってとこかな?
うむ、我ながら中々の状況把握能力だ。伊達に今までBETAどもの戦闘を切り抜けてきただけある。
…………ん?よく考えたらこれ、完全に輸送機墜落しちゃうパターンじゃん。
「おい!色々言いたい事はあるけど、取り敢えず何でだよ!?何でこんな事になったんだよ!?」
「ようやく自分が陥ってる状況が分かったか!!さっさと操縦席行くぞトウヤ!!」
弾かれるように座席から離れる俺たち。
全力で操縦席に駆け込むと、ブリッジスが操縦士を押しのけて操縦桿を目一杯倒していた。
すると、コックピットのキャノピーからは、さっきまで輸送機があった場所を通る2機の戦術機ーー確か記憶によれば【ACTV.アクティブ・イーグル】と【su-37ub.チェルミナートル】ーーが見えた。
その様子を見届けた俺はかつてない位脱力する。
「ハ、ハハッ、だから言っただろ?ブリッジスに任せておけば大丈夫だってさ。」
「いやあんたさっき血相変えて怒鳴ってたじゃねぇか。」
確かに!それはそうだけどさ!だって仕方ないじょのいこ!(ダミ声)
誰だってあんな場面に遭遇したらパニックになるだろう。ましてや戦術機の事を理解している衛士なら尚更だ。近くに鈍足の輸送機がある状況であんな三次元機動をするとか頭がおかしいとしか思えない。
「はぁ……。ま、とにかく危機は去った。後は俺がさっきのアクティブの衛士を怒鳴りつければこの一件は解決」
バゴンッ!!
「…………したら、良かったのになぁ………」
アラスカよ。そこまで俺たちに地面を踏ませたくないのか。
「機長!左翼被弾!!姿勢が制御出来ません!!」
「何ぃ!?」
副機長がさっきの嫌な音の原因を報告する。
え?何で?さっき接触は回避できた筈じゃんか?
すると、外部の音声を拾う為取り付けられたマイクからある音を拾ったヘッドセットに耳を付けながら、ブリッジスがご丁寧に答えを教えてくれる。
「あのアクティブ……!!俺たちが居るのにも構わず発砲しやがったんだ!!」
うそーん。
「あぁ、巌谷中佐。どうやら自分はここで最期を迎えるようです。折角中佐が与えて下さった任務を、達成出来ず申し訳ありません……。母上、父上。勝手に先立つ親不孝な冬夜を、どうかお許し下さい………」
「おい!駄目だろそんな事今言ったら!!完全に死亡フラグじゃねぇかよ!?」
「そうだぞトウヤ!!まだ希望はあるから、諦めんなよ!!」
目を閉じて父上と母上に別れの言葉を呟き諦めムードを漂わせる俺にブリッジスは怒鳴り、ヴィンセントは某有名熱血テニスプレイヤーみたいなことを言ってくる。
だがそんな2人に、自分でも驚くほど落ち着きながら、まるで僧が民衆に説法を説くかの様に話しかける。
「何言ってんだ2人とも。良いか?飛行機にとって命とも言える主翼の片方をやられたんだ。もう、助かる見込みなんてないんだよ。」
「コイツ………ッ!!何て悟り切った目をしてやがるッ!?」
ヴィンセントが何か喚いてるが、もう聞こえない。
すると。
「確かに……そうだよな。フッ。まさか最期の最期で、俺が日本人に諭されるとはな。思いもしなかったぜ。」
「おぉいユウヤ!?お前まで何トウヤにつられちゃってるんですか!?」
「つられてるんじゃねぇ。俺もわかったんだ。ここが俺の死に場所なんだと、さ。」
「輸送機の中が墓場とか嫌過ぎんだろ!!衛士なんだったら管制ユニットこそ俺の棺桶に相応しいぐらいの事は言えよ!!」
どうやらブリッジスまで諦めたらしい。
その表情は、とても穏やかだった。
「大尉。どうやら俺は先入観だけで、あんたの事を判断していたらしい。死が迫ってようやく、あんたの事が分かったぜ。」
「構わんさ。そのお陰で、こんな短い時間だがわかり合うことが出来たんだ。それで良い、ブリッジス………いや、ユウヤ。」
「大尉………。」
ガッチリと固い握手を交わす俺とユウヤ。
「何で今になってお前ら2人はハッピーエンドみてぇな展開になってんだよ!!機長に副機長!!あんたらも何か言ってやってくれ!!」
ヴィンセントは助けを求めて操縦席を見る。が。
「あぁ、メアリー。パパはもう君には会えそうに無い……。済まない、こんな父親で………ッ!!」
「大丈夫です、機長。きっと娘さんは、あなたの事を誇りに思っていますよ。だから、あと我々にできることは彼女をあの世から見守る事です。」
「副機長………。ありがとう………ッ」
「Fuck!!ここに俺の味方はいねぇのか!?」
あっちはあっちでクライマックスを迎えていた。その様子にヴィンセントは頭を抱える。
そんな事をしているうちに、とうとう地面が近づいてくる。
どうやら、別れの時間が来たようだ………。
唯依。XFJ計画を、頼んだぞ……………。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「だぁ!!死ぬかと思った!!」
はい、何とか生還出来ましたよ。
「いや、今までBETAに喰い殺される事を覚悟した事は結構な数あったけど、その時と同じくらいヤバかったわ………」
あの後異変に気が付いた管制塔が、偶然近くで演習中だった小隊に緊急コール。そのまま俺たちを救出しに来てくれた。
で、その救出作業を行ってくれたのが………。
「助かったぞ、アルゴス小隊の諸君………」
そう。今回XFJ計画を進める部隊【アルゴス小隊】所属である二機の【F-15E.ストライク・イーグル】だったのだ。
『いえいえ、当然の事をしたまでですよ。』
「いや、本当に感謝している。………さて、済まないがこの続きは後にしよう。今はやらねばならん事があるからな………」
操縦している女性衛士ーー声で判断ーーに感謝を述べつつ、地面に着地したイーグルの手から飛び降りると、俺はある地点へ向かう。
そこには、地面に墜落する【ACTV.アクティブ・イーグル】の姿があった。
せり出したアクティブの管制ユニットからは、ティーンエイジャーと思われる褐色のちっさい少女が、先に着いていたユウヤの手を振りほどきながら出てきた。
俺は、そんな彼女に音もなく背後から迫る。
少女の丁度真後ろに立つ俺に気付いたヴィンセントはシムラ後ろ後ろ!!と言わんばかりに指差してくるが、目の前のガキンチョは気付かない。
そして。
「覚えてろよ!ちくしょぉぉぉぉおお!!」
「何被害者面してやがる、このチビガキがぁぁぁああ!!」
「ふぎゃっ!?」
空を飛ぶ無傷の【SU-37ub.チェルミナートル】に向かって雄叫びを上げる少女の後頭部に俺は拳骨を振り下ろす。
「いってぇな!!なにすんだお前!?」
突然の衝撃に涙目になりながら、階級章も見ずに少女は批判の言葉を浴びせてくる。
「ほぅ……?貴様、上官に向かってそんな口の利き方をするのか?えぇ? しょ・う・い?」
そんな姿に俺はわざと階級章を見せながら、普段振りかざさない権力を有効活用する。
ユウヤが「階級関係ねぇんじゃなかったのか………?」とか言ってるけど無視する。
「ふむ。どうやら軍人としての基礎がなっていないようだな……。
では、少尉。私に付いてきたまえ。なぁに、処罰を下そうってんじゃない。ただ俺とO☆HA☆NA☆SIするだけだから、安心したまえ。」
「ひぃ!!発音が違う!?」
失敬な。俺の英語は完璧だ。
尚もキャンキャン喚く少尉を肩に担ぎ連れて行く前に、ユウヤ達に今日する予定だった模擬戦は明日に変更になった事を伝える。
「じゃあまた明日とか!!」
「離せッ!!おい!?はーなーせー!!」
ユウヤ達に挨拶をして、俺は少尉を肩に担ぎながら歩いて行く。
「HAHAHA!!レッツ・パァァリィィィイタァアイム!!!」
「うぎゃあああああああ!?」
ーーーーーーーーーーーーーーー
その日の夜。
基地内にて、少女の悲鳴の様な声を聞いた人が居たとか居なかったとか。
わーい。