Muv-Luv 〜赤き翼を持つ者は悲劇を回避せんがため〜 作:すのうぃ
アルゴス小隊用格納庫。
「あー。書類作成飽きたわー。戦術機乗りてーわー。」
「そんな事言わないのトウヤ。あくまで貴方は計画代理人補佐なんだから。」
「確かにさぁ。そうだけど、俺も衛士だぜ?確かに隊長やってるから書類作成とかやってるけどさ。それでもBETA蹴散らす方が性に合ってるんだよなぁ。」
そこで、俺は今ステラとタリサ相手にぼやいていた。
だってさぁ。ここ最近書類関係の仕事しかしてないんだぜ。あるいは作戦指令室で突っ立ってるか。
ストレスも溜まるよそりゃ。
「そういえば貴方の乗ってる機体って、インペリアルしか乗れない機体なのよね?」
「あぁ。日本帝国斯衛軍の第3世代戦術機【武御雷】だな。唯依と同じだ。」
「でも色が違うじゃんか。アレって何でなんだよ?」
「生まれた家によってランク分けされてるからだよ。上から順番に、将軍家の紫、五摂家の青、五摂家に近い武家の赤、譜代の山吹、一般武家の白、武家以外は黒って感じ………つっても、頭の弱いタリサにはわからねぇか。」
「は、はぁ!?べ、別に分かるし!!」
なら何故そんなに動揺するんだ。
「へぇそうなの。日本の戦術機は近接格闘戦能力が高いらしいけど、やっぱりその機体も格闘戦特化なの?」
「武御雷は、近接武器が10本近く装備されてる上、全身の至るところにブレードエッジが採用されてるんだよ。機体構造も理想の体捌きを実現する為に打ち込みや切り返しの速度を速くする事を目的とした造りになっている。」
それに量産性やら整備性を完全に度外視したからな。全身の摩耗しきった関節パーツを見た整備担当の溜め息を何度見た事か。
「まさに全身凶器ってやつだな……」
そんな事を話しながら三人で格納庫を歩いていると、ハンガーに固定されている、ある日本の戦術機が見えた。
「ん?何だあの機体。見たことねぇぞ?」
「あれか。あの機体は日本製戦術機、97式戦術歩行高等練習機【吹雪】だな。色からして帝国のやつだろう。」
「へぇ。…………あら?そのフブキとかいう機体の前に居るのってユウヤとタカムラ中尉じゃないかしら?」
「あ、本当だ。何喋ってんだろ。」
吹雪の前で何かを喋っている唯依とユウヤ。
ユウヤって日本人嫌いなんだよな?俺を例外として。
そんな奴が堅物少女・唯依と仲良く喋っている筈もなく。
「練習機!?俺にそんな機体に乗れってのか!?」
「そうだ。不知火が組み上がる迄の間、貴様にはこの吹雪に乗って貰う。日本の戦術機には乗った事がないのだろう?いくら米国でエリートと呼ばれていたからといっても、その経歴は向こうだけに通用するモノだ。」
ほら予想通り。
案の定揉めてやがりますよ彼奴ら。
「ちぃッ!」
「不服そうだな、少尉?」
舌打ちをするユウヤを挑発するような目でみる唯依。駄目だろお前もその言葉は。言い過ぎ。
「うわぁー。あれ相当ヤバイじゃんかよ。」
「えぇ。そうねぇ。何で同じ日本人の血が流れてるのにいがみ合ってるのかしら?」
「その日本人ってのが問題でな。」
後ろから聞こえた声の方を見ると、ヴィンセントがそこに立っていた。お前はいつもタイミング良く現れるな。
「そういえば、貴様は日本人とのハーフらしいな、ユウヤ・ブリッジス少尉?」
「ッ!…………、はい。中尉殿。」
「ユウヤは日本人に何か因縁があるみたいでなぁ。トウヤを除いた他の日本人に対して物凄い嫌悪感を持ってんだよ。」
ヴィンセントによる解説をBGMにしながら唯依とユウヤの言い争いを聞く俺たち。
ユウヤが俺限定で大丈夫なのは、本人曰く俺を日本人というカテゴリーに当てはめるのは間違いな様な気がするとの事。
褒められてんのか貶されてんのかわかんね(どちらかというと貶されてる)
「同じ日本人の血が流れる者として言わせて貰おう。………貴様のその舐めきった態度は日本人の面汚しであり、酷く不愉快だ。」
「おー。タカムラ中尉も言うねぇ。的確にユウヤの痛いトコを突いてる。」
ますますヒートアップする2人。これいつも殴り合いになっても不思議じゃねぇぞ。まあそうなっても唯依が勝つだろうが。あいつは体術も出来るからな。一回ブチ切れした彼女に「ばかぁ!!」という可愛らしい罵声と共に腹を殴られた事があったけど、その威力には可愛らしさの欠片もなかった。10分ぐらいその場に倒れてたのを、発見してくれた月詠中尉に介抱してもらったのは良い思いでなんかじゃ決してない。ないったらない。
だけど、いくら唯依が強いからといってアレを放っとくのもよろしくないんだけどね。
「はぁ………しゃあないなぁ」
「ん?どこ行くつもりだよトウヤ。」
面倒くさそうに歩き出した俺にタリサが問い掛ける。
それに俺はそちらを見ずに答える。
「ちょっくらお仕事タイム。元々俺はXFJ計画ではなく99式電磁投射砲の方の人間なんだけどな。こっちの計画も可能な限り手伝うように言われてんのだよ。」
言いながらツカツカと唯依達の方へ歩いて行く。
「あんた、本当に俺の経歴をちゃんと見たんだろうな?俺は米国人だ。日本人なんかじゃねぇ。それに練習機にも乗るつもりはねぇからな!!」
「いや、一部を除き篁中尉のいう通りだ。」
「「!?」」
まさか整備兵達を除いて自分達に人が居るなんて思ってなかったんだろう。突然言葉を発した俺に2人は驚いていた。
「ブリッジス少尉。貴様は米国の戦術機と日本の戦術機とでは操縦性に大きな違いがある事を知っているだろう?」
「まぁ……」
「その特性を把握しないまま不知火に乗っても計画が滞るだけだ。だから、吹雪に乗って日本の戦術機に慣れておけ。解ったか?」
「…………あぁ。」
渋々といった様子で頷くユウヤ。
うん。こいつに関してはまぁ大丈夫だろう。
さて、お次はお前だよ唯依。
「篁中尉。」
「……はい。何でしょうか?」
何でしょうかじゃねぇよ。分かれやそんぐらいの事。
「言い過ぎだ。あんな言い方では益々態度が悪くなるに決まっているだろう。」
「……はい。」
「別に私はあの態度を許せ、と言っているのではない。ただもう少し言葉を選べ。解ったか?」
「了解です………」
俺に説教喰らってヘコんだのか、
唯依の表情は暗い。
………あぁ、もう。
こいつにこんな顔なんざして欲しくないのに。
まったく。何で俺は唯依に対してこんなに甘いんだろうか。自分が分からない。
「………俺は、お前が本当は優しい奴なんだって事は十分理解してるつもりだからさ。」
口調を仕事モードではなく、普段のモノに戻しながら唯依の頭の上に手を置く。
「え…………?」
「あー、何だ。無理すんなって事だよ。お前が傷付いてんのを見るの、なんか嫌なんだよ……」
「え、と、冬夜!?」
う、うなぁぁああ!!
何だこれ、何だこれ!!
すっっっげーー恥ずかしい!!
何だよお前が傷付くのが嫌だって!!
痛過ぎにも程があるだろぉー!!
ほら唯依だって真っ赤になってんじゃねぇか!!そりゃ恥ずかしいよね!!だって言ってる本人が悶えてるんだもん!!
畜生!!もういいっ!!なるようになっちまえこのヤロー!!
「だぁーー!!つまり俺は!!沈んだ顔とか無理して相手を罵倒してる姿なんかじゃなくてお前の笑顔とか喜んでる時の顔のが綺麗で可愛いとも思うからそっちの方を見てたいんだよだから無理すんなって事だよ分かったか!?」
「ッ〜〜!!」
俺はバッカか!!
確かになるようになれって思ったから何も考えず喋ったよ?でもよりによって口から出てくるセリフがコレかよ!?口説いてんじゃねぇんだから!!
「わ、私はききき急用がありますのでこれで失礼しまひゅっ!!」
「あ、待って、待ってくれ篁中尉!!中尉!!弁解を、俺に弁解の時間を!!唯依ぃーーーー!!」
必死の懇願も虚しく、唯依は走って格納庫から出て行ってしまった。後には、俺の絶叫だけが響き渡るのだった。
「さ、流石トウヤ。私たちに出来ない事を平然………ではないけど、やってのけるわね。」
「そこに痺れもしねぇし憧れもしねぇけどな。」
「なぁユウヤ。この後どうする?」
「………。吹雪、乗っとくか…」
ーーーーーーーーーーーーーーー
唯依の自室。
「う、うぅぅぅぅぅう!!」
そこには、自分のベッドの枕に顔を押し付けている唯依の姿があった。
『お前の笑顔とか喜んでる時の顔のが綺麗で可愛いとも思うからそっちの方を見てたいんだよだから無理すんなって事だよ分かったか!?』
現在、冬夜が大声で言い放った言葉が脳内で絶賛リピート中であった。
「あ、あんな公衆の面前で………せめて、私と2人っきりの時に言ってくれれば…………って何を私は考えているんだぁーー!?」
あらぬ妄想に、より一層顔の赤みが増した彼女はその日、部屋から出てくる事が無かったそうな。
本当は唯依たんを口説くどころか
ガチ説教してたんですけど、自分でも引くほど
罵倒してたんで急遽内容を変更しました。
だって「粋がるなよ、小娘が。」
とか言っちゃってるんですよ、お前(冬夜)もまだ20歳だろと。