Muv-Luv 〜赤き翼を持つ者は悲劇を回避せんがため〜   作:すのうぃ

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8話 銀の少女

俺が格納庫の中心で愛を叫んだ翌日の昼前。

 

 

「………どうしよう。」

 

 

総合司令部棟の前で、俺はとある事について、超悩んでいた。

 

唯依を口説いた事ではない。

 

それは、俺がこの世界がマブラヴの世界だと知った時に決め、3年前により一層の決意を固めた事についてだ。

 

 

「…………原作。どうやって介入したら良いんだ………?」

 

そう。

 

実は今日までゴタゴタしててすっかり頭から抜け落ちてたが、今朝方ふと思い出したのだ。

 

原作に介入するに当たり、俺の産まれた黒田家というのは大変都合が良かった。赤の家系ともなると家が武道の道場だったり重要人物とお知り合いになれたりと、様々な利点があった。唯依との会話にあったように、俺は月詠中尉とその従姉妹の月詠大尉とも交流を持ってるし、実は御剣冥夜とも面識はある。

というかアレ生で見ると思った以上に悠陽殿下と瓜二つなんだけど。いくら将軍の双子の妹だって事を隠したいからって『この子は将軍様と似てるけど遠縁なだけで直接的な血の繫がりはないんです』は流石に無理があると俺は思うんだ。

 

閑話休題。

 

とにかく。

俺はそれまでは結構順調だった。

横浜基地にも御剣冥夜親衛隊のお仲間にでも入って行ってやろうとか思ってた。

その為にシミュレーター訓練とか実戦とか頑張りまくったよ。リアルに血反吐吐いたよ。去年なんか一回やり過ぎてドクターストップ出たにも関わらずこっそり抜け出して鍛錬も積んでたけど唯依にバレたよ。そんだけ頑張ったんだよ俺は。

 

その結果がこれだよ!!

 

何で俺アラスカに居るんだよ!!

 

京都から横浜まで500kmだったのが10倍近く距離が空いたよ!!

 

うわぁ。マジでどうしようこれ。

今5月なのに!武ちゃんが来るまであと5ヶ月っきゃないのに!!

 

ん?あれ?

よくよく考えたら武ちゃん、本当に来るのか?

 

今回この世界には『俺という転生者』ってイレギュラーが居るんだ。結局武が来なかったから12月24日を持ちまして第五計画に移りかわりますた、とかあり得なくないから困る。

しかも例え来たとしてもそれがアンリミ武だと、この地球はG弾による『バビロン災害』で確実に終わる。

オルタは武がアンリミ世界での経験と知識と肉体を受け継いだ上、恩師の死を乗り越えたから『あ号標的』と『甲一号目標』をぶっ潰す事が出来たんだ。

 

いや、そんな事は後でいくらでも考えられる。今は武が来る来ない以前に俺が横浜に行く理由がない事の方が重要だ。

 

どうする………?もういっそ第四計画の事を暗に指した暗号でも送るか……?うん、そうしよう。

 

取り敢えず必要なワードは『鏡』『霞』『00ユニット』ってところか。

あ、『トリースタ』ってのも入れたほうが……………。

 

「トリースタ……?なんでしってるの……?」

 

「!?」

 

突然後ろから聞こえた声に驚く。

みると、まだ小さな銀髪の女の子が居た。

いつもより長い思考をしていた所為でまったく気づけなかった。

しかも、今1番知られるとマズイ単語まで聞かれてしまった……!

 

声に出した覚えはなかったんだが、まさか知らない内に声に出てたのか?

 

「ううん?だいじょうぶ。わたし以外にはわからないから。」

 

「………どういう事だ?」

 

少女の言葉に少し警戒する。今のは頭のなかで思っただけの筈だ。だが、そんな俺に彼女は笑顔を浮かべる。

 

「トウヤって、おもしろい色してる。」

 

「色?」

 

どういう事だ?

いや、それ以前に俺は彼女に名前を名乗っていない筈だ。

何だ?何か引っかかる。

 

「うん。色。いまのトウヤはビックリのきいろがつよくでてる。いつもはべつの色なんだけど。」

 

…………成る程ね。そういう事か。

少女の今の言葉で大体解った。

思えば、色んな場面にヒントが散りばめられてたじゃないか。

 

何処かで見たような銀髪。

 

喋った覚えのない事を何故か知っている事。

 

感情を色で表す独特の表現方法。

 

極一部の人間しか知らない『トリースタ』に反応したところ。

 

つまり彼女は。

 

「あ、まだなまえ言ってなかったよね。わたしのなまえは、イーニァ。イーニァ・シェスチナ。よろしくね、トウヤ。」

 

人工ESP発現体だ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

はい。只今私はソ連の管轄区に来ております。わーわー。

 

………いやマズイだろ。

 

あの後何故かやたらとイーニァに懐かれた俺は、彼女に手を引かれてこんなところまで来ていた。

本人曰く

 

「わたしのかぞくを紹介したいの。ミーシャとクリスカを。」

 

との事。

 

え?それって『パパ、このひとがわたしのフィアンセなの。』みたいな事ですか?そんな事した暁には名実共にロリコンになってしまう。そんなの嫌だ。

 

考えてる事を『リーディング』によって読み取ったのか、イーニァは首をフルフルと横に振る。

 

「てか黙ってここまで来たは良いけどさ、ソ連軍でも何でもない部外者がここに居たらダメなんじゃ?下手したら『機密保持の為だ、許せ』とか言って消されちゃうよ?」

 

主に俺がな。

 

「ううん。だいじょうぶ。みんなやさしいひとだから。このまえだって、おとこのひとがわたしをおふろにいれてくれたり、きがえをてつだってくれたりしたの。」

 

え?マジで?

 

「うん。まじで。」

 

……ソ連ってやっぱり危ない施設だわ。イーニァの貞操的な意味で。

隣では「ねぇ、まじ、ってどういういみなの?」とイーニァが可愛らしく首を傾げていたが、俺はこの娘を何とかして保護する事を考えていた。どうせこの変態行為以外にもヤバイプロジェクトとかに組み込んでたりするんだろう。なら保護するのは当たり前。大義は我にありっ!!

 

「われにありー!!」

 

右腕を上に突き出しながらイーニァはか細い声で言った。

うん。決して可愛いからお持ち帰りしたい訳じゃない。ないったらない。

 

だけど問題はどこに預けるかなんだよなぁ。まさか俺の家に連れて行く訳には……………訳には、いきたいけど駄目だ。確実に俺が暗殺とかされそう。

 

うーん。確実にソ連が干渉出来ない、なるべく安全な場所ねぇ。

あーあ。香月博士の居るB19みたいなセキュリティ万全な場所にでも匿ってくれたらなー。

 

…………お?香月博士?

 

 

「やっだあたしったら天才!?」

 

 

思わず件の香月博士みたいなセリフを言ってしまった俺をキョトンとした顔で見るイーニァ。

まぁ例えリーディングしてても俺の今の考えてる事は俺にしか意味分からないだろうからな。

 

つまりはこうだ。

 

香月博士はゲームの中で『社はソ連から引き取った』と言っていた。あの人の事だ。どうせ『全部寄越せよ』とか言ったんだろう。でも、現にイーニァと、多分そのクリスカってのとミーシャもイーニァが『家族』って言ってるって事はESP発現体で間違いないだろう。(※ミーシャはぬいぐるみです。)

そこで、電磁投射砲のコアモジュールの件で帝国の技術廠と彼女はパイプが出来てるだろうから、そこで巌谷中佐伝いに暗号形式で『第三計画の生き残りがいますよ?』と暴露。強制摂取に来るだろうから、そこでついでに俺が第四計画を知っている事を報告。もちろん諜報員ですら知らない事を言って殺されたりしないようにする。そして4人仲良く横浜基地にレッツラGO、という訳だ。

 

「うーん。トウヤのいってること、ながくてよくわかんない。ても、クリスカとミーシャとトウヤがいっしょにいれるなら、それがいい。」

 

何でこんなに俺の好感度が上がってるんだろう。まだ出会って1時間ぐらいなんですけど。

と言うか横浜行くにしても、まずイーニァ以外を説得しないといけないんだよなぁ。

 

「だいじょうぶ。トウヤは、とってもいいひと。わたしたちのことをかんがえてくれてる。きっとやさしいクリスカならわかってくれるよ?」

 

「そうか?イーニァがそう言うなら大丈夫か。」

 

言いながら、イーニァの頭を撫でる俺。身長的に、手が丁度置きやすいんだよな。

 

「ん。ついたよ。このさきをいけば、クリスカたちがいるの。」

 

「よし、じゃあイーニァ。誰にも見つからないようにコッソリ行くぞ。」

 

段ボールでもありゃ完璧なんだけど。

 

「うん。でも、ダンボールはないよ?」

 

「あ、そんなことまで読み取ったのね。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

暫く歩くと、妙な部屋に着いた。

 

簡易的なベッドと、何やら巨大な水槽のような装置。様々な計器類。

うん。まさに『人体を調整する為の施設及び装置』って感じだな。

 

「はい、このこがミーシャ。」

 

「お、そうか。初めまして。今日はイーニァが俺に君を紹介してくれるらしいから…………来たん、だけど…………」

 

そこに居たのは、つぶらな瞳にゲジゲジ眉毛。その手には爪が生えており、全体的に茶色の毛糸で出来たそれは………。

 

「ぬいぐるみじゃんか!?」

 

てっきり『滅びゆく者の為に!!』とか言う人想像してたよ!!あ、それは無いか。

 

『!?誰だっ!!』

 

「あ、やば」

 

そのうえ見つかったか!!

 

どうやら、思わず出してしまった大声を聞かれたらしい。

脳内ではエネミーAみたいな奴がHQに増援を依頼している。

 

いやいやいや、そんな事考えてる余裕なんかねぇよ!!何やってんだよ俺は!?

 

 

「イーニァ、イーニァ!!俺はベッドの下に隠れるから何とかして今の声の人を部屋の外に連れ出してくれ!!頼むっ!!」

 

俺はイーニァの返事も聞かずにベッドの下に滑り込む。それと同時に部屋に、見た目唯依と同い年ぐらいの少女が入ってくる。

 

『あ、クリスカおかえり。』

 

『イーニァ!?さっきここから誰かの声が聞こえたんだけど、知らない?』

 

クリスカ、という事は彼女も人工ESP発現体なんだろう。

だけど即座に銃を抜いてここに入ってきたということは、イーニァの様にはいかないだろう。

なら、出てくる事は諦めた方が良いな。

 

『ううん。知らない。そんなことより、クリスカにみてほしいものがあるの。だからきて?おねがい………』

 

イーニァの こうげき!!

涙目上目遣い!!

 

こうかはばつぐんのようだ!!

 

『う、うん。分かった、分かったから!!そんなに引っ張らないでイーニァ……………』

 

段々と声が聞こえなくなっている。

 

良かった。バレずに済んだ様だ。

 

取り敢えずイーニァに頭の中で感謝の思いを浮かべておく。リーディングで読み取っているかもしれないからな。

 

「さってと…………」

 

ベッドの下から這い出て、大きく伸びをする。案外狭かったよ。

 

「なーんか、イーニァみたいに上手くはいかないっぽいなぁ………」

 

歩きながら考えるのは、もう1人のクリスカとかいう奴の事。

どうやってあの堅そうな奴を説得したら良いのかねぇ。

あれは難易度高そうだぞ…………。

 

「はぁ。俺の人生、中々ハードだなぁ………」

 

外に出て、月を見上げながら呟く俺の他に人影は見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………え?もう月が出てる時間帯なの?

 

え、マズイって。昨日の謝罪を兼ねた唯依と不知火に関しての打ち合わせする予定だったのに。

完全に忘れてたわ。

 

端末を確認すると、あるわあるわ唯依からの『何処にいるのだ?』という旨の連絡。軽く50件は越えてる。

 

「あ、俺終わったわ。」

 

約束の時間から大分経過している。正座しながらのお説教は逃れられないだろうな。

 

「クソぉ………。ここ来てから良い事殆どねぇよぉ…………」

 

物凄い悲壮感に襲われつつ、俺はどんな言い訳をしようか考えながら彼女の部屋に向かうのだった。

 

 

余談だが、部屋の扉が開いた瞬間、俺の腹にいつか食らったあのパンチが炸裂。暫くその場でうずくまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはっ。みつけた」




お気に入りが200ですって。

物凄い嬉しいんですけど。

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