機動戦士ガンダムSEED 技術試験隊の受難<一時凍結> 作:アゼル
大西洋連邦首都ワシントンD.C.のとある執務室に二人の人物がいる。一人は金髪の壮年の男性。もう一人は若い眼鏡をかけた女性であった。二人は執務室で書類を片付け終え、会話を始めた。
「それで、南米の反乱はしばらくは収まりそうにないのだね?」
「はい、コープランド議員。南米軍は脱走した切り裂きエドことエドワード・ハレルソンを精神的支柱に立てているために士気も旺盛です。さらに突然の事態でしたので出撃させた一般兵では切り裂きエドには叶わず、後々も初戦の敗北が響いています。また、パナマに配備していたストライクダガーやレイダー、ソードカラミティといったMSが丸ごと奪われたことも士気に影響している模様です」
「そうか。我々も大変だな。ユーラシアはストライクダガーの大量投入までしてアメノミハシラ攻略に失敗し、我々は南米の反乱か。アーヴィングも馬鹿なことをしてくれる」
そう、問題はアーヴィング政権のやらかしたストライクダガーの払い下げだ。ストライクダガーは量産機としてはビームライフルを標準装備した初の量産機と言っても過言でない機体だ。とはいえ戦時量産に過ぎない故に換装機能を持つ105ダガーやダガーLといった正式量産機との交換配備が進んでいた。そして戦時中に大量に製造された機体は途上国へいった。
問題は払い下げた先だ。南米は今でこそ支配下だが戦争開始直後は他国だ。たとえ数日で陥落する程度の国力であると言えど潜在的には敵対意志があるに違いない。そんな場所にビーム兵器を装備した機体を渡してしまえば調子に乗ってこうなることは簡単に推測できたはずだと思わずにはいられない。せめてダガー用の装備であるGAU8M2 52mm機関砲ポッドを増産して実弾兵器装備にデチューンしてから渡せばよかったものをと思うが、これはこれでチャンスだ。
間違いなくこれはアーヴィングの失点だ。次期も大統領を続けることは困難だろう。だが失点を拭わずに終わるのは嫌であろう。まず間違いなく停戦協定までにアーヴィングは指揮下の部隊で鎮圧させようとするだろう。こちらも協定が終わる前に成果を出せば良い結果となる。なによりこちらの作戦が成功させたことになりれば、自陣の力を示せる。そのことを思ってか、側に立つ秘書官は言う。
「しかしこれはチャンスでもあります。協定が決まる前に力を見せつければ議員の出馬なされる次期大統領選にだけでなく、軍部においても影響力を与えることが可能です」
「わかっている。だからこその『キメラ』だ。彼らを以前からアズラエルが組織した部隊だけでなくジャンク屋にも浸透させておいてよかった。これが成功すれば少なくとも軍部の中でも指揮下に置いた部隊は本来の姿に近づくだろう。そうすれば我々が抱いていた目的に至ることができる」
そう言い、近くの知恵の輪を弄り始める。難解な悩み事を抱いた時には何かをいじりたくなる。その時にはこういったものがちょうどいい。
「後は我々が支援した物資で役目を果たしてもらう限りだ。ダガーLを南米鎮圧部隊へ揃わせる代わりに強襲機や水中用機を用意したのだ。南米の主戦場が森林地帯であるが故に陸軍に比べて手持ち無沙汰な海軍と協力しての活躍を期待するとしよう…」
青い空に浮かぶ羽をもった人型の機体がある。ハーピーのような白い機体は両手にレドームを持ちつつ移動している。その機体の名は早期警戒・空中指揮型ディン特殊電子戦仕様。ザフトの空中戦用MSディンに早期警戒・空中指揮航空機の能力を付与した機体だ。その機体はある特定の地域を通常よりも高い位置で飛行すると一目散に飛び去っていく。
ディンが着艦した先は地球軍の艦艇であった。ただし艦板に白と黒の翼をもつ十字架と天秤のエンブレムが塗装された艦艇だ。ディンがその艦艇に着艦すると通信回線が開かれた。
(周囲に異常はあったかね?)
「特にはありません。センサーに反応があった限りで増援と思わしき中小の艦艇が目標の方面に移動していました。艦のサイズからして十機ほどは増加しているかと」
(そうか。報告御苦労。艦内にて休憩せよ。作戦決行は数日後だ)
「了解しました」
ディンのパイロットと艦の指揮官がそう話している間にも帰還してくる機体がある。そのどれもがステルス性に特化した機体や高度なセンサーを持った自力での飛行が可能な機体だ。中にはザフト内にも存在を知らない者がいるディンレイヴンまでいる。そのどれもが母艦を中心に目標へと近寄っていく艦艇を監視していた。
彼らMSパイロットは大西洋連邦において新しく出来上がった民間軍事会社『クルス』のメンバーだ。それも自力で飛行できるディンを駆っているパイロットはコーディネーターだ。
彼らはプラントに行けず地球にとどまったコーディネーター達だ。民間企業ではどこから情報が漏れるかわからないために危険と考え、ブルーコスモスが突然銃器を持って襲い掛かる危険性の低いだろう軍に所属した者達だ。たとえ『裏切り者のコーディネーター』と後ろ指を指されようとも生きるために軍人として活路を開こうとしたのだ。
プラントの反乱から始まる大戦はプラント側が言うには独立戦争だがもはや完全に別種の争いである。そのためにナチュラル曰く『裏切り者のコーディネーター』の彼らへの扱いは凄惨であった。敵味方を識別するために派手に彩色された鹵獲機に乗せられることもあれば、友軍のはずの味方から敵もろとも砲撃されることもあった。だが、その凄惨な扱いの中であっても生き延びた彼らは優秀な者でもある証明だ。
そしてそんな彼らをキメラ隊が拾った。軍内部の捨て駒部隊。正確には部隊そのものの死亡率も高い部隊のために、ナチュラル用MSの普及により不要になった彼らを処分するには一石二鳥だと考えられたのだろう。これが『クルス』の前身であるキメラ隊にコーディネーターが少なからずいた理由だ。
『クルス』はほとんどがキメラ隊から異動してきた人員で構成されている。だが中にはキメラ隊ではなく他の部隊からの参加者もいる。他の部隊からの参加者―特にコーディネーター―は自身の有用性を見せつけようと躍起だ。
原隊がキメラ隊のために元キメラ隊出身者は過酷な戦場を生き残った猛者で占められている。そのためにキメラ隊の有用でなければ死ぬという暗黙の掟を知っている。有用性を知られているとは言えども『クルス』でもその掟は継続中であると考えられている。対して他の部隊からの出身者は有用か否かを見せつけなければならない。『クルス』は起業したばかりのために見せつける機会は『クルス』が行うミッションでみせねばならない。
今回のミッションは成功すれば支持勢力に莫大な恩恵をもたらす。故に皆が必至であり成果を出そうと奮起している。奮起している彼らの艦隊は徐々に艦船数を増やしている。母艦であるタラワ級や対空直衛を主任務とするデモイン級やアーカンソー級など中小艦艇も増えている。
「それで目標の作戦予定海域への到着はいつになる?」
「数日中です。すでにジャンク屋へギガフロートの返却に関する通告を出していますので、目標海域へ着くまでに望ましい返答がなければ作戦開始です」
司令官の言葉に副官が答える。そう、すでにギガフロートに関する通告は行われた。唯々諾々と従うとは到底思えないが従ってさえくれれば無駄に血を流すことはない。
「だが彼らが素直に従うことはないだろう」
「まず間違いなく衝突すると思われます。ギガフロートは魅力的ですから、仕方がありません。何よりこちらが戦闘を望んでいるのですから」
戦闘への準備を進めていることを考えての発言だ。現に集結しつつある艦艇には水中用MSのディープフォビドゥンやスピアヘッド、スカイグラスパーが多数搭載されている。戦闘が開始されれば空からスピアヘッドなどの戦闘機やMSが襲い掛かり水中からはディープフォビドゥンが襲撃する。さらにはエールパック装備のダガーLやレイダーが強襲し、制圧する段取りだ。
いかにジャンク屋が抵抗しようとも物量でも性能でも勝るこちらに敵うとは考えられない。たとえ傭兵がいようとも制圧できる自信がある。だが問題もある。
「問題は時間です。時間をかけると以前のオーブ解放作戦のように自爆などされては本末転倒です。ジャンク屋ですからギガフロートそのものを分解してくる可能性もあります」
「ふむ・・・。輸送艦に催涙弾などを搭載したブロックがあったはずだ。コントロール室を制圧次第、発射させるとしようかね。攻撃部隊にも連絡はしておきたまえ」
「了解しました」
司令の言葉に通信手が答える。司令はスムーズに行動する通信手を見つつ呟いた。
「何事もなく進行すると良いのだが…」
澄み切った青空の下で航海を続ける艦の中でその呟きは誰に聞かれるでもなく掻き消えていった。
「第1~6航空部隊全機発進せよ。続いて第1~3MS中隊発進。敵陣を超え橋頭堡を確保せよ。オールウェポンズフリー」
ディンを偵察に出していた艦を中心に集結した連邦海軍から戦闘機が次々と発艦していく。多数のスピアヘッドと少数のスカイグラスパーを中心とした航空部隊は一路前方へと飛び去る。さらに遅れるようにザフトから鹵獲したグゥルに乗ったダガーLとディンの部隊が進む。
今回の戦いはあまり連合軍が得意としていた戦い方ではない。これがギガフロートでなければオーブ解放作戦勃発当初のように艦に搭載されているミサイルを一斉射し、敵防衛陣を蹂躙。しかる後にMS隊や戦闘機部隊を投入し敵を制圧するところだ。
だが今回はできる限り無傷で制圧しなければ意味をなさない。人工島であるギガフロートに傷を負わせてしまえば最悪沈んでしまうかもしれないからだ。そのためにジャンク屋が保有しているであろうMS等を撃破して進まねばならない。
「ギガフロートよりMSの発進を確認。AMF-101 ディンです。さらに海中よりUMF-4A グーンが接近中」
「ディンは発艦した航空部隊とMS隊に任せておけ。そしてディープフォビドゥンを出撃させろ。カサブランカ沖の海戦でこちらのほうが有利だということは証明されたんだ。連邦軍の力をジャンク屋に見せてやれ!」
両陣営よりMSが出撃していく。ジャンク屋はナチュラル・コーディネーター関係なく所属しているためにディンといったコーディネーター用MSを発進させた。一方の『クルス』もコーディネーターがいる面が同じだ。だが装備はザフトよりも潤沢だ。
大西洋連邦の支援を受けている『クルス』は装備や機体が充実しており、最新鋭のダガーLをも投入している。一方のジャンク屋は主にザフトと連合軍が争った地域で生まれたジャンクを回収して修理した機体を運用しているために旧式機が多い。さらに言えば本職の軍人と民間人との戦闘ではどうしても軍人に分があった。そのため衝突直後からジャンク屋は押されている。
ジャンク屋側のディンの数は当初二桁存在したが徐々に一桁になろうとしている。そもそも航空機を含めて『クルス』側のほうが機体数が多かったためである。航空機からの支援を受けた『クルス』側の機体に押されたジャンク屋側のディンのパイロットはクソッと悪態をつきながら懸命に操縦していた。
「最悪だっ!こいつら振り切ろうとしても逃がしてくれやしねぇ!」
彼のディンは他の機体よりも後方、つまりはギガフロート寄りの場所を飛行していた。戦闘が始まって形勢が悪いとみるや否や彼は一目散に撤退しようとした。
そもそも彼にはジャンク屋ほどギガフロートを守る強い意思がない。彼は金で雇われた傭兵にすぎないのだ。元ザフト兵という経歴を活かして行動する傭兵だ。
ナチュラル用OS搭載MSの登場までMSを操縦出来るのはほとんどコーディネーターのみ。故にコーディネーターでありMSの操縦を学んだ元ザフト兵という経歴は雇われる時に役立った。しかしナチュラル用MSが出てからは経歴を重視しない連中や競合相手が増え仕事は減った。
今回の仕事は元ザフト兵という経歴を見たジャンク屋に目をかけられ、長期の護衛をしている間に襲撃が起きたために参加しているに過ぎない。敵対した相手が大西洋連邦からの認可が降りた民間軍事会社が相手というのは不安感を出させたが契約上参加せざるをえないがためにいるだけだ。
護衛部隊にはジャンク屋の有志や他の傭兵が参加している。なにより有名なサーペントテールがいるからどんな相手が来たところで生き残れると思っていた。例え敗戦濃厚であろうとサーペントテールに合わせて逃げればいいだけのことだった。
しかし明け渡し通告の数日前にサーペントテールは南米に急行してしまった。まるでサーペントテールが消えたタイミングを見計らったかのように通告が来たと思うのは考えすぎだろうか。その結果、防衛戦力の要としていた存在がいないまま有り合わせの戦力で防衛線を張る必要があった。
そして、すぐにディンによる防衛線は崩壊した。空中戦においてロングレンジで勝るのは戦闘機。近距離での格闘戦で勝るのはMS。ザフト―連合間の戦争でそう結論づけられた事実が重く防衛部隊にのしかかっていた。民間軍事会社側の兵力は主に航空機。スピアヘッドを中心にグゥルに乗ったダガーLとダガーLへの換装補助も兼ねたスカイグラスパー隊。一直線に作戦もなさげに突撃するディンに対し一斉にミサイルを発射。グゥルに搭載されたミサイルすら発射されディンに殺到した。
元が民間人である者が多いせいだろうか。多数の機体がミサイルに気付き避けるが、やったのはそれだけだ。一部の傭兵が駆る機体は手持ちの火器で回避後に迎撃にも成功したがしなかった大多数が一気に被弾し初戦で形勢が決定づけられた。
ジャンク屋側で参戦した傭兵の男はジャンク屋の戦力の予想以上の頼りなさに舌打ちした。戦況は予想以上に不利だ。初っ端のミサイルでジャンク屋の乗るディンはミサイルを避けるだけで迎撃という概念を知らないようだった。持ち合わせの火器で迎撃したのはほとんどが彼と同じ傭兵のみ。予想以上に頼りない側にいると理解した傭兵の男は他の傭兵とともに一目散にギガフロートに戻ろうとした。
だがジャンク屋により張られた綻びだらけの戦線を突破したスピアヘッドがロングレンジからミサイルを放ってくる。いくらMSといえどディンは脆い。大気圏内での飛行を可能とするためにボディの極端な軽量化が図られているために対弾性が低いのだ。現に先程の攻撃で被弾したディンの一部は簡単に撃墜された機体もいる。
彼は咄嗟に空中で翻りMMI-M1001 90mm対空散弾銃を放ち追尾してきたミサイルを破壊する。ミサイルの撃破を確認した直後、彼は機体の胸に装備された6連装多目的ランチャーから空対空ミサイルを放つ。結果など確認しない。今はとにかく離れる必要がある。
ディンに乗りなれている他の傭兵もほとんど同様の行動をとりギガフロートに戻ろうとしている。だがその数は少ない。元々雇っていた傭兵が少なかったのもあるがディンといった飛行可能な機体が少なかったのが原因だ。自らと同様に撤退を試みた近くの二機と臨時の三機編成の小隊を組み戻ることにした。だが、そう簡単に返してくれる連中ではなかった。
二機と合流し全速力で離脱にかかるが、右側にいたディンがビームに撃ち抜かれた。咄嗟に機体を左右に不規則にずらしつつ機体を傾け後方を見やる。目の前に映る画面にはグレーの戦闘機。名をFX-550 スカイグラスパーという機体が猛追してくる。
センサーに映っていた味方のディンは先ほどよりも数を減らしもはや死に体だ。自分が生き残るためにもっともってくれよ!と言いたくなるがそれをぐっと我慢して再度空対空ミサイルを発射する。だが追いつかれるのは時間の問題だろう。最高速度が亜音速に達せず、スピアヘッドの半分以下しかでないディンでは。相手はダガーLのために装備しているのだろう。エールパックを装備し、速力の上がった相手に元より最高速度で劣っているのだから事態は最悪だ。
センサーに注意を向けながら時折小刻みに動いて攻撃をかわしていく。そうしているうちにセンサーに映っていたディン部隊は姿を消した。さらに追撃する敵機にグゥルに乗ったダガーLが増える。
何度も攻撃を回避していく中、左隣を飛行していたディンの翼がダガーの持つライフルから放たれた実弾で損傷する。飛行のための機関をやられ、錐揉みしながら墜落していくディンに追い打ちが襲う。中口径キャノンが何とか体制を直そうとしているディンの足を吹き飛ばす。そして周辺の機体の攻撃がすべてその機体に集まる。その光景はまるで死肉に襲い掛かる禿鷹のように攻撃が一つに集うかのようであった。
彼は横目でそれを見ながら恐怖を感じずにいられない。仲間のディンは海面に到達する前に盛大に爆発し、破片を海に撒き散らした。それは未来の自分の姿。それだけは嫌だった。だからこそ逃げねばならない。戻る中色々なものを目撃した。他のディンが追い立てられる光景や味方の艦艇が敵艦とミサイルの応酬をしていた。既にギガフロートを目視できる距離まで近づいたのだ。あとは高度を下げて着陸さえすればよい距離だが、後方から迫り来るダガーLが足元のグゥルからミサイルを一斉射してくる。
機体を下から上へと斜め上へと滑るように起こしていき接近してくるミサイルを弧を描くように移動しつつ、格闘戦において優位に立てる点を活かして距離が近づいたものから順に右手に持ったMMI-M7S 76mm重突撃機銃をばらまき破壊する。迎撃している間にダガーLが近寄ってきたがミサイルや手持ちの火器が底をついたのか攻撃してこない。
内心安堵したがそれは間違いだった。接近してくるダガーLがグゥルから飛び降る。同時に後方からやってきたスカイグラスパーからシールドとライフルが外れ、ついで機体後部に装備されたエールパックが少し遅れて外れる。そしてそれらの武装が全てダガーLに換装されると新たに装備されたパックの大推力と主翼の空力効果により一気に距離を詰めてきた。
慌てて胸部のミサイルを放ち散弾銃も放つが航空機と違いシールドを持つダガーLはシールドで前面を覆いながらそのままの姿勢でタックルをかましてきた。あまりの勢いに空中での姿勢制御が間に合わずよろめく。それを好機と考えたのかダガーLはさらなる攻撃を行ってきた。
彼は機体の姿勢が崩れて行くのを理解して必死に体勢を直そうとした。長い間傭兵であったためもあるがザフトにいたときの名残から画面で敵機を見やりながらだ。だができることは画面上に映る敵機を睨みつけることしかない。両手でスイッチや操縦桿などの内部機器で必要なものを最小限の行動で押していく中、敵機はぶつかった反動で後退したことを利用して跳び蹴りをかましてくる。ディンは両手が銃器でふさがっているために
防ぐ手段がない。
結果、機体は勢いよくギガフロートに吹き飛ばされる。姿勢が崩れていたこともあるがダガーLの推力の高さを物語る光景だ。画面に映るギガフロートはものすごい速さで巨大化してくるがギガフロートに堕ちる寸前で今も生き残っているスラスターを何とか吹かし、脚からの着陸態勢に入った。
彼にできることはもはやそれだけであった。脚からの着陸は上空からの勢いを殺し、衝撃を少々和らげたが自重に加わった衝撃により両脚はもげるかのようにして胴体から分離。ヘッドスライディングのように機体はメインカメラから叩きつけられた。あまりの衝撃が襲い掛かる。生暖かい液体が左目に入ってくる。血だ。頭を覆うヘルメットが衝撃の中でぶつけた際に割れ、破片で傷を負ったのだ。
片目が血で覆われたが拭いている暇はない。機体状況と周囲を確認して逃げねば!という思いと共に動こうとした次の瞬間、機体に先ほどの比ではない衝撃が襲う。右手を前に伸ばし前かがみになっていたのが悪かったのだろう。前傾姿勢であったがゆえにバランスを簡単に崩し頭から機材にぶつかった。朦朧とする意識の中、彼が最後に見えた光景はメインカメラが移す画面が徐々に乱れていく光景だった。
スカイグラスパーからの支援でエールパックへの換装を遂げたダガーLは眼前の機体をギガフロートに叩きつけた。敵機はなんとか脚から着陸し墜落の衝撃を防いだがもはや死に体だ。こちらもギガフロートへ着陸する。墜落の衝撃で脚部と手持ちの火器を失った敵機の胴体を踏みつけ、片方の足は頭部を押しつぶす。ディンのメインカメラを押し潰したことを確認したダガーLのパイロットは周辺の友軍に向け通信を送る。
「目標へ到達。これより上陸地点周辺の索敵及び橋頭堡の確保に動くぞ」
足裏でディンのメインカメラを踏み潰しつつ言う。後続のダガーL隊も自身と同じように装備を換装して着陸した。
(隊長、踏んでいるそれはいかがいたしますか?)
踏み潰した衝撃のためか、パイロットが意識をなくしたのか全く動かないディンは一見して何も持っておらず胸部の装備しかまともな装備がない状態だ。
「放置する。これはこれで使えなくはないがな。ともかく我々は我々の役目を果たすぞ。他の部隊も動いているしな。そら、敵だ」
前方から新たな敵が来ていることをセンサーが伝える。
メインカメラが写す敵機は約十機。作業用に改修されたのか砲を無くしたザウートや作業用のジンが突撃銃やバズーカを持ち接近してくる。遠距離武装を持たない機体は土建用のハンマーを持って駆け付けている。そして僅かにストライクダガーやアストレイが接近してくるがそちらも突撃銃だ。機体よりも火器の流通を厳正にしているためにビームライフルを所持していないのは助かる限りだ。とは言え頭部のイーゲルシュテルンなどの牽制用の火器を備えているのは他の機体よりも厄介である。
「各機散開せよ。先にダガーとアストレイを潰す。派手に動き役目を果たすぞ」
隊長の号令と共にギガフロートへの上陸を真っ先に成功させた部隊は動き出す。上空からスカイグラスパー隊がミサイルや中口径キャノンで支援攻撃しつつ攻める。
ダガーL隊の内数機が支援を受けつつシールドを構え突撃し、録なシールドも持たないジャンク屋の機体を撃破していく。
ダガーL隊とスカイグラスパー隊の攻撃は派手だ。スカイグラスパーからの攻撃はジャンク屋側の機体に放たれているが直撃弾は少ない。あったとしても脚部を吹き飛ばすだけで完全な撃破をすることはない。手負いを増やすだけだ
ダガーL隊もほとんど同様だ。シールドでメインカメラを吹き飛ばし脚部を損傷させると、その機体を盾代わりに他の敵機に押し出して進行する機体もいる。戦術的に無駄な行為ばかりだが、彼等はその無駄な行為を進んで行い続ける。
「完全な撃破はするなよ、敵機は生かしておけ。生かしておけば救援を望むはずだ。ヤツラはお人良しだから、ほって置けばもっと増えるぞ」
本来であれば速やかに敵機を殲滅するべきだが彼等はしない。まるで敵に注目され、注意が向くことを狙っているかのように。
「戦況はどうなっている?」
「攻撃部隊が敵航空兵力を撃滅。ダガーL隊、スカイグラスパー隊がギガフロートに上陸。上陸地点周辺の索敵及び陽動を行っています」
「ディープフォビドゥン隊、敵水中MSを押しています。ディン隊、スピアヘッド隊、ともに敵艦艇へ攻撃開始。制空権をこちらが取っているうえに友軍艦も攻撃中でしたので敵艦に関しては封殺できるかと」
司令官の言葉に対し矢継ぎ早に返事が返ってくる。戦況を示す画面を見ていた参謀からだ。司令官は傍に控えていた副官とともに参謀達の方へと向きさらに質問する。
「ダガーL隊が上陸したそうだが陽動は上手く行っているかね?」
「ディン特殊電子戦仕様機からのデータではジャンク屋の戦力は上陸したダガーL隊に向かっているようです。まもなく大型輸送機より空挺部隊が上陸地点近くに増援として派遣されます。作戦通りにいくかと思われます」
「そうか」
席に座ったまま司令官が参謀のいる方向に席を向けて戦況を聞き終えると他の者から声が挙がった。
「司令、敵艦隊の内奇妙な動きをする小艦隊がいます」
「何だ?」
「ボズゴロフ級一隻とピートリー級二隻の小艦隊ですが動きが奇妙であるの報告です。スピアヘッド隊、ディン隊の攻撃を他の艦と共に防いでいますがMSも出さず反撃もわざと直撃弾を出していない可能性があるとのことです。他の艦は迅速な対応ができていないために反撃もうまくいかない状態であると結論できましたが、3隻は隠している節があると……」
それを聞き、ジャンク屋にスパイとして入った部隊から情報が入っていたことを思い出した。整備もだが武装に関しても非正規部隊とは思えない状態で停泊していた3隻だ。なにより武装も強化されているが外見を見る限り無駄のない作りになっていたという報告のはずだ。
考えられるのは連合軍内の他の部隊ということ。同士討ちを避けるために適当なところで対応している可能性。あるいは厭戦気分か。そう考え首を左右に振った。後者はないだろう。厭戦気分であれば離脱すれば済む話だ。逃げられないほど弾幕を濃くした覚えはない。一応、念のために聞いてみる。
「敵艦との戦闘だが敵が離脱できないほどに弾幕を張ってはいるわけではないだろうな?」
「それはありません。離脱可能にできるように攻撃中の艦にも指示を出しています。なにより戦闘中に離脱した艦は今もいくらかいますのであれほどの技量であればその気になればいつでも抜けられるはずです」
だとすれば残ることで何らかの利益を持つ者達か。あるいはジャンク屋の精鋭部隊か。だが今の今までMSを出さずにいるかも理解できない。なによりジャンク屋であるならばすでにしっかりと反撃しているはずだ。この状態は正直不気味だ。とはいえ対応を考えねばならない。
「ではその小艦隊への攻撃は続行だが直撃弾は控えろ。敵艦隊への攻撃も封殺に止め、釘づけにする」
「了解。ディン特殊電子戦仕様機より入電。空挺隊、特務隊動きます。各部隊時間差で行動開始」
「相手に気取られぬようしっかりやるよう全部隊に伝えておけ。特務隊で、チェックメイトだ」
旗艦とディン特殊電子戦仕様機が戦況を見据える中、各部隊はそれぞれの役割を演じるために動き続ける。戦闘慣れをしている者たちやギガフロートを守るサーペントテールを欠いたジャンク屋は圧倒的劣勢を強いられ、『クルス』の作戦を知ることはできなかった。
だが、『クルス』側も知らなかった。この場には自分たち以外にもある思惑で動く者たちがいることに…。
感想・批評よろしくお願いします。
GUNDAM SEED DESTINY ASTRAY R/Bが誌面やWEBで連載されているので原作は終わっているのに新しい機体とかが出ていいですね。でもアクタイオンプロジェクト系の機体が増えているから少し構成を変化させねばならないのは何とも…。
VS ASTRAYは入れない予定でしたがアマゾンで買いました。出版社は絶版?みたいですね。ちょっとプロット変更中なので少々更新が遅くなるかもしれないです。